歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の布石~三村智保氏の場合≫

2024-11-17 18:00:11 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~三村智保氏の場合≫
(2024年11月17日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも、囲碁の布石について、次の著作を参考にしながら考えてみたい。
〇三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年
 三村智保氏の布石の本でも、布石の大切な原則ないしポイントとして、弱い石を作らないこと、弱い石から動くことを指摘している。そして、石の強弱を考えることは、一段落の判断をする際にも必要だと主張している。このことを集中的に説いているのは、目次を見てもわかるように、「第4章 弱い石から動く」である。

 また、三村九段のこの布石の本を通読して、一番勉強になった点は、次の点であった。
・布石の原則を示す格言に、1にアキ隅、2にシマリなどと言うが、実は「石を封鎖されないこと」というのが、アキ隅よりもさらに布石の基本中の基本と言ってもいい。
石が死ななくても、封鎖されることは悪いこと。
 これを実感できるようになるためには、ある程度強くなる必要がある。
・しかし、多少不安があっても、中央に出ることの効果ははっきりと実感できなかったとしても、そこは我慢して相手に封鎖されないように、中央へ出る習慣をつけてほしい。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、124頁)

 このテーマに関連して、【補足】してみた。
・【補足】進出の手筋~山下敬吾『新版 基本手筋事典』より
・【補足】進出と脱出の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 上』より
 なお、三村九段の実戦譜も調べてみたので、参考にしてもらいたい。
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs山田拓自)~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs依田紀基)~依田紀基『基本布石事典』より


【三村智保氏のプロフィール】
・昭和44年7月4日生。北九州市出身。田岡敬一氏に師事。藤沢秀行名誉棋聖門下。
・昭和61年入段、平成12年九段。
・昭和62年棋聖戦二段戦優勝。
・平成6年第19期新人王戦優勝。平成7年第20期新人王戦2連覇。
・平成8年棋聖戦七段戦優勝。
・平成11年第29回新鋭トーナメント優勝。
・平成15年第50回NHK杯優勝。第15期テレビ囲碁アジア選手権準優勝。
・平成16年第23期NECカップ準優勝。第59期本因坊戦挑戦者決定戦進出。
・昭和63年棋道賞「新人賞」受賞。
・平成13年「勝率第一位賞」受賞。
・平成18年通算600勝達成。
※「市川こども道場」主催。


【三村智保『三村流布石の虎の巻』マイナビはこちらから】



〇三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
まえがき
序章 布石には2種類ある
 広い所から打つ
 攻めの布石・シノギの布石
 2種類の布石

第1章 主導権を握る「攻め」の布石
 攻めの布石  テーマ図1~2
 白番の布石  テーマ図3
 相手の三連星 テーマ図4~5

第2章 正しい距離感
 正しい距離感とは
 テーマ図1~10

第3章 勝負を分ける「石の封鎖」
 石の封鎖の重要性
 テーマ図1~10

第4章 弱い石から動く
 弱い石から動くとは?
 テーマ図1~11

第5章 一段落に気をつける
 一段落に気をつける
 テーマ図1~6




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・まえがき
・広いところから打つ
・攻めの布石・シノギの布石
・三連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
・二連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
・中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
・第2章 正しい距離感
・第2章 正しい距離感 テーマ図7~星へのカカリについて
・第2章 正しい距離感 テーマ図9
・第3章 勝負を分ける「石の封鎖」
・第3章 勝負を分ける「石の封鎖」テーマ図10
・第4章 弱い石から動く
・第4章 弱い石から動く テーマ図1
・第4章 弱い石から動く テーマ図2
・第4章 弱い石から動く テーマ図3
・第5章 一段落に気をつける
・第5章 一段落に気をつける テーマ図6
・【補足】進出の手筋~山下敬吾『新版 基本手筋事典』より
・【補足】進出と脱出の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 上』より
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs山田拓自)~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】三村智保氏の実戦譜(vs依田紀基)~依田紀基『基本布石事典』より





まえがき


・布石は、碁でいちばん自由で楽しい部分である。
 初手を天元から打っても良いし、辺から打っても、別に悪くなるとは言い切れない。
 好きに打って良い。
・プロの布石や定石にあまりとらわれず、自分なりの作戦を楽しんで欲しいと、著者はいう。
 ただ、初級の人から「どう考えたらよいのか、何をしたらよいのか分からない」と途方にくれた声をよく聞く。 
(確かに自由すぎるのも困りもの)
・本書では、布石の基本の考え方に加え、著者のお勧めの作戦も示している。
 一手一手の意味を正確に分かろうとするよりも、流れを感じてほしいという。
 繰り返し手順を見ていると、だんだんコツがつかめてくる。

・布石は動くものである。
 自分が今ここに打って、相手がこうきて……こんな感じになったらいいな、と想像しながら打つことが大事だという。
➡楽しみながら打てば、上達も早くなる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、3頁)

広いところから打つ


・布石のはじめは空き隅から打ち始める。
(江戸時代の頃からもその原則は変わっていない)
⇒やはり、空き隅がもっとも「効率がよい」と思われているから。
【参考図:星・小目・三々・目外し・高目】
A:星、B:小目、C:三々、D:目外し、E:高目

※すべてが三線から五線の間に入っている。
⇒これは、布石そのものの原理である
<参考>
・二線の石は地が小さいだけではなく、封鎖されやすく死にやすいというマイナスがある。
・なお、一線に打つのは論外。
 一線は地がまったく増えない上に、根拠もない。
 布石における一線は最悪。

三々:三線~五線にかけてが効率がよく地を作るエリア 
   もっとも堅実に隅のエリアを確定地にする打ち方
星 :三々よりも風船をふくらませたようなイメージ
   効率よく地を作れる可能性がある半面、破裂する危険性もある
高目や目外し:少し辺に向けて力を入れる打ち方
   よく打たれている基本の打ち方であるが、難解な定石になることも多く、使いこなすには、ある程度の知識が必要
(本書では、定石の細かい話はしないので、高目や目外しの詳しい解説については他書に譲るという)
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、8頁~13頁)

攻めの布石・シノギの布石


【攻めの布石・シノギの布石】
・布石は、まず空き隅に打つ。
 その後が問題である。基盤があまりにも広くて迷ってしまう。
・迷うのは、基盤が広いからだけではない。
 「隅の次は辺に、辺の次は中央に、とにかく広いところを順番に打っていけばいい」という布石の原則はある。
 ただ、この原則が、布石の100%を表してはいない。
・布石には、「広げる」と「固める」という二つの要素がある
⇒広げることは、攻めの布石につながる
 固めることは、シノギの布石につながる
(この二つの要素が複雑にからみ合うため、「布石の必勝法」を作ることができない)

三連星:「広げる」という布石の原則に従えば、三連星が有力。つまり「攻め」の布石。
小目の布石:小目に打つと、「固める」打ち方になり、「シノギ」の布石。そして、お互いが堅い布石を選ぶと、細かいヨセの碁になる。

<まとめ>2種類の布石
①「攻め」の布石
風船をふくらませるかのように、自分のエリアをどんどん広げて相手が入ってくるのを待ち、その石を攻めて主導権を握る。
②「シノギ」の布石
まずはしっかりと自分の構えを固めて、後から相手の模様に打ち込んで荒らし、地でリードを奪うことを目的とする。

※どちらの布石を選ぶかは、「棋風」と言われる好みの問題。
・相手との兼ね合いがあるので、お互いに模様を広げ合って、大乱戦になるような碁もあれば、お互いに堅く打って細かいヨセ勝負になる碁もある。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、14頁~20頁)

三連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石


【攻めの布石】
・布石の総合力を上げるには、いろいろな本を読み、実戦を積んで棋力を高めるより他はない。
〇本書では、まず「攻め」の布石に絞って話すという。
・著者自身が攻めの棋風だということもあるが、アマチュアの人にとっては、特に「攻め」のほうが有利だと考えている。
 なぜなら、「うまくシノぐ」というのは、ある程度強くないと、できないことだから。
・実際、著者もシノギがうまいとは言えないそうだ。
 張栩さんや山田規三生さんなどは、シノギがうまいという。
 ただ、彼らと著者の間でも、布石における碁盤の見え方、判断力などは違っている。
※皆さんは、まずは「攻め」の布石をマスターすることを著者は勧めている。
 特に「黒番の攻め」から力をつけていくのがいいだろうとする。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、24頁)

【テーマ図1】三連星
・攻めの布石は、相手よりも大きく模様を広げて、先に入らせることがポイント。
・模様を広げやすい黒1~5の三連星は、やはり有力。

【1図】(黒が広くなる)
・普通に模様を広げ合えば、先に打つ黒のほうが有利。
・黒15までとなると入りにくいので、白はもっと早く入らなければいけない。

【2図】(先に攻める)
・アマの碁では、前図の白10くらいで、白1と入りそう。
・「白1と先に入らせて、黒2、4と攻める」。これが攻めの布石の基本思想。
【7~10図】
【7図】(手抜きには?)
・ところで、黒1の攻めに白2と先に守られたらどうするのか?

【8図】(封鎖は大成功)
・黒3と封鎖すれば、黒がいい。
※別に白3子を取れなくてもいい。封鎖するだけで、布石としては大成功。

【9図】(死にやすくなる)
※封鎖される最大のデメリットは、石が死にやすくなること。
 仮に白が生きても黒は悪くないが、死んでしまえば白は敗勢。

【10図】(白死)
・たとえば、少しでもまずいシノギを打ってしまうと、簡単に白死となってしまう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、24頁~29頁)

二連星~第1章 主導権を握る「攻め」の布石


【白番の布石】
・「模様を広げ、相手に入らせて先に攻める」。この布石の意図と効果は、三連星の場合で分かってもらえたと思う。アマの人にはお勧めの布石であるが、ひとつ問題がある。白番のときにどうするか?ということである。
・黒番だったら「攻めの布石」を実践しやすいが、白番の場合は「ゆっくりした布石にして、コミを生かす」という命題がある。
・白番での「攻めの布石」の話は、ここまでの「黒番の攻めの布石」との矛盾が生じてしまうが、白番を持たずに碁を打ち続けるわけにもいかない。
〇まず「白番の攻める布石とは、相手に攻められないための布石である」ということを覚えておいてほしい。
・黒が堅い布石を選んでくれば攻めることもできるが、黒が攻める布石を選んできたら、攻められない布石を目指すことが、白番の心得である。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、41頁)

【テーマ図3】二連星
・白番は、相手の模様に入って攻められる布石になりやすいので、まずはスピードに優れた二連星がお勧め。
【1~3図】
【1図】(一例)
・次に黒5のシマリは、よくある布石。
※黒がやや堅い布石を選んでくれれば、白はスピードで追いつくことができる。

【2図】(三連星へ)
・黒5と一呼吸入れてくれたら、白6と三連星に発展させる。
※この布石なら、模様の大きさで対抗できるから。

【3図】(白の風船)
・続いて白14までとなれば、黒番のときと同じように、「相手よりも大きく広げて、入ってくるのを待つ」という攻めの布石にできる。

【4~6図】

【4図】(先に攻める)
・左下の白模様に黒1と先に入ってくれば、作戦は成功。
・白は2、4と先に攻めることができた。

【5図】(左右を固める)
・続いて黒5から15までは一例であるが、黒を攻めながら下辺と天元の白をつなげることと、左辺の白地を固めることがポイント。

【6図】(楽に入れる)
・白は中央のラインを連絡して、中央に勢力を作ることによって、右辺や上辺にa~cなどと打ち込んでも、楽に戦えるようになった。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、41頁~44頁)

【相手の三連星】
・前テーマのように、黒が多少地を固める布石を選んでくれれば、白でも攻めの布石に持ち込むことはできる。
・しかし、最大の問題は、相手が黒番で、三連星の構えから模様をどんどん広げて、「攻めの布石」を目指してきた場合である。
・碁が黒から先に打つゲームである以上、黒に本気でどんどん模様を広げられると、白はどうしても模様の大きさで対抗することはできない。
 白番では「できるだけ黒模様の拡大を制限し、模様に入っていくにしても浅く入って、厳しく攻められないようにする」くらいのことを目標にするのが相場。
・あまり早い段階で入っていくと、黒に厳しく攻められる。
 相手の模様に入ることをぎりぎりまで我慢することがコツ。
 慣れてくれば、相手のちょっとした隙をとらえて、黒模様の広がりをおさえこんでしまうこともできるようになるだろう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、46頁)

【テーマ図4】【1図】三連星は危険
・黒1、3、5と三連星を打ってきたときに、白6と同じく三連星で対抗するのは危険。
・続いて、黒17までは一例であるが、いつかは黒模様の中に入って攻められることになる。
・テーマ図の白6の三連星はそういう布石なのである。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、46頁~47頁)

中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石


中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石
【テーマ図5:★黒の中国流】
・それではもう一つ。
 攻めの布石として、アマにも大人気の中国流を見てみよう。
 黒1、3、5が中国流の構え[白番]

【1図:星からカカリ】
●中国流の場合も、上辺や下辺への発展性を止めるのが、攻められない布石のコツ。
・白6と、上辺から星のほうへカカる。

【2図:天元は怖くない】
・続いて黒9、11と下辺を広げてきたら、白12と構える。
※中国流のときは、黒13と天元に構える手は、あまり打たれないから、という。

【3図:三線の石】
※中国流は、三連星と違って、地でもバランスを取るため、三角印の黒の石(16, 十七)(17, 十一)が二つも三線にある。
⇒三連星ほど模様拡大には向いていない。

【4図:黒甘い】
☆プロでシノギのうまい人なら、白1のカカリから簡単に荒らしてしまうそうだ。
⇒黒の構えは甘い。

【5図:どんどん逃げる】
・続いて黒1のコスミなら白2から8までが一例という。
※こういうところは深く入らずに、どんどん逃げるのがコツ。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、64頁~66頁)

【11図:構えるのが普通】
・中国流の場合は、2図の黒13と天元に広げず、黒1と構えるのが普通。
・そこで、白2と打てば、白のほうが大きく広げることができる。

【12図:工夫して打つ】
※三角印の白(天元)は、慣れてきたら a~cなどと工夫して打つことができるという。
<注意>
・白 d~ fなどと深く入るのは攻められる。

【13図:穏やかな布石】
・2図の黒9で、黒1、3と左辺を割ってくれば、白4、6と下辺を打つ。
※黒模様の拡大をおさえ、穏やかな布石にできる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、69頁~70頁)

第2章 正しい距離感


〇正しい距離感とは
・布石は幅の広い分野なので、ここまでの内容は、一つの考え方と、それに伴う打ち方をいくつか紹介したにすぎない。
 ただ、アマの高段者になるまでは、「攻めの布石」一本槍で実戦をこなすことが、多くの人にとって棋力向上の近道であると思う。
・さて、本章からは、アマの碁を題材にして、どのような布石でも役に立つ、布石の基本を話していきたい。
・まずは、石の距離感を意識して、布石を打つことを心がけよう。
 碁は石の効率を競うゲームであるという考え方がある。
 自分の強い石に近づきすぎると、効率が悪くなるし、相手の強い石に近づくとその石が弱くなってしまい、やはり石の働きが乏しくなる。
・定石だからと何気なく打っている手にも、考え抜かれた石の距離感があるものである。
 それをあらためて感じてみよう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、72頁)

第2章 正しい距離感~星へのカカリについて


【テーマ図7:星へのカカリ】
・白4の星に黒5とカカった。
☆星に対するカカリへの応手を見てみよう(白番)

【1図:両ガカリは厳しい】
・仮に白1と手を抜くと、黒2の両ガカリが厳しい手。
※三角印の黒(3, 十四)とカカられた三角印の白(4, 十六、つまり左下の星)は、見た目よりもかなり弱い。

【2図:根拠を奪われる】
・そこで、白2と中央に出るのが普通だが、黒3と三々に入られて、簡単に根拠を奪われる。
⇒これが星の弱点である。

【3図:ツケノビは難解】
・なお、白2、4のツケノビで中央に出ることもできる。
・しかし、黒3や7と左右を打たれる。
※難解な変化になる可能性も秘めている。

【4図:カカリには受ける】
※そこで、黒1の星へのカカリには、何か応じるのが普通。
⇒①白aやbの受け
 ②白cなどのハサミ
 ③白dのコスミツケなど

【5図:星へのカカリは近い】
※三角印の黒(3, 十四)と白(4, 十六)の距離は近い関係で、四角印の白(3, 五)と黒(4, 三)よりも切実。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、96頁~99頁)

前第2章へ移動せよ

第2章 正しい距離感 テーマ図9


【テーマ図9】
・白1とカカってきた場面である。
・下辺と右辺の距離感をどのように判断し、どう応じるか?(黒番)

【1図:左下の黒石の5子の強さがポイント】
・下辺の距離感は、左下の黒石(三角印の黒石)の強さがポイント。
※それらの黒石が強いと思えば下辺は狭く、弱いと思えば下辺は広いと判断できる。

以下、3つの場合について検討してみる。
①受け
②コスミツケ
③ハサミ⇒×三々、⇒〇両ガカリ

【2図:受けは甘い】
・黒1の受けはやや甘い。
・白2、4と治まられると、三角印の黒(8, 十四)のケイマが働きの乏しい手になってしまう。

【3図:コスミツケは強さの問題】
・左下の黒石5子(三角印の黒石)がとても強い石なら、黒1のコスミツケである。
・しかし、白4に続いて白を一方的に攻められるほど、三角印の黒石が強いかどうかは疑問。

【4図:ハサミは有力】
・そこで実戦の黒1のハサミは有力。
※さて、白にも応手の選択がある。
 三角印の白(14, 十七)を捨てるにしても、a(17, 十七)とb(16, 十四)の2種類がある。

【5図:白の三々の応手】
・白1の三々なら、白9までとなる。
・このとき黒10と広げられると、三角印の黒(8, 十四)と呼応して下辺がいい模様になる。

【6図:参考~狙いがない】
・白は本来、三角印の白(14, 十七)を利用して、a(14, 十八)やb(10, 十七)の味を狙いたい。
⇒ところが、この局面では、ちょっと実現できそうにない。

【7図:白の両ガカリが好手】
・4図に続いて、白1の両ガカリが好手。
・黒2のツケから白7までが定石。
※下辺の黒は固まるが、5図のような模様の広がりはない。

☆左下の黒の形が変わった場合、右下隅の白の三々入りが有力になり、味が残る。
【参考図:白の三々入りで味が残る】
・本図の配石の場合、白1の三々も有力。
・テーマ図ほどは左下の黒が強くないので、白9までの定石のあとに、a(14, 十八)や
 b(10, 十七)の味が残る。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、114頁~118頁)

第3章 勝負を分ける「石の封鎖」


〇石の封鎖の重要性
・石を封鎖されないように打つことは、碁を覚えた人が最初に教わる大切な基本である。
・封鎖されることの最大のデメリットは、石が死にやすくなってしまうこと。
 死活の力に自信があって、シノギを読み切っていればいいかというと、そうでもない。
 下手な生き方をして相手を固めてしまうと、やはり形勢を大きく損じてしまう。

・シノギを読み切り、かつ封鎖されるマイナスをすべて判断した上で手を抜いて封鎖を許すなら、かまわない。
 しかし、そんな判断ができればプロ級であるし、そもそもそんな場面はめったにない。

・布石の原則を示す格言に、1にアキ隅、2にシマリなどと言うが、実は「石を封鎖されないこと」というのは、アキ隅よりもさらに布石の基本中の基本と言ってもいい、大切なことである。
(プロはときどき、布石でアキ隅を1カ所残したまま、激しく戦うような碁を打っていることがある。これはまさに、アキ隅よりも石を封鎖されないようにすることを優先している証明である)

・級位者の人は、簡単に中央に出ることができる石でも、わざわざ隅や辺にこもって根拠を作ろうとすることがある。
 石がはっきり二眼を持って生きると「安心」する気持ちはわかる。しかし、序盤から何手もかけ、周囲の相手を固めて小さな地を作ることで、高い安心料を払ってしまっている。
・石が死ななくても、封鎖されることは悪いこと。
 これを実感できるようになるためには、ある程度強くなる必要がある。
・しかし、多少不安があっても、中央に出ることの効果ははっきりと実感できなかったとしても、そこは我慢して相手に封鎖されないように、中央へ出る習慣をつけてほしい。
 すぐに石を封鎖されないことの大切さを実感できるだろう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、124頁)

第3章 勝負を分ける「石の封鎖」テーマ図10


【テーマ図10】
☆黒1から白8までは、一時期よく打たれた布石だったそうだ。
 白の二間ビラキを圧迫するのも封鎖に似ている。

【1図:二間ビラキに対して】
・テーマ図に続いて、白12まで進行したとする。
 ここで黒はどこに目を向けるか?
※右辺の白の二間ビラキがポイント。

【2図:圧迫する】
・二間ビラキには、黒1、3と圧迫して攻めるのが好手。
・白8までの受けが普通である。
・しかし、黒9で上辺の黒模様は雄大。

【3図:白は一間トビが立派な手】
・したがって、1図の白12では、本図白1とトブのが立派な手。
※これも、封鎖を避けて中央に進出する、基本と同じ意味の手であるいう。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、157頁~158頁)

第4章 弱い石から動く


☆弱い石から動く、とは?
・弱い石から動くということも、布石における重要なテーマ
※弱い石から動くということ以前に、弱い石をできるだけ作らないようにすることが理想的。
⇒「大場より急場」という格言もそのことを示している。
・しかし、模様の広げ合いなどで遅れを取り、相手の模様に入っていかなければならない場合など、仕方なく弱い石を作ってしまうことがある。
 また、互角の競り合いの中でも、石の強弱というのは、絶え間なく変化する。
∴常に自分のどの石が弱いかを気にかけ、弱い石から動くことを心がけておくことが大切。
(そうすれば、自然に自分の弱い石が補強されることになり、相手に厳しく攻められて主導権を奪われることが少なくなる)

<ポイント>
〇布石の大切な原則、ポイント
①弱い石を作らないこと、弱い石から動くこと
※石の強弱を考えることは、一段落の判断をする際にも必要。
②「捨ててしまえば、弱い石ではない」ということ
※弱い石を捨てられないから逃げるわけで、逃げるから攻められる
・取られたら形勢を損じる石(要石)なら逃げるよりないが、捨てても構わない石を逃げて弱い石を作るのは無駄。
・たしかに石を取られるのはくやしいが、ずっと攻められて苦しい思いをし続ける。
 あちこちで損を重ねるくらいなら、早いうちに捨ててしまうのも一策。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、160頁)

第4章 弱い石から動く テーマ図1


【テーマ図1:競り合いの判断】
☆左下で競り合いが始まっている。
 黒はどのように戦うべきであろうか?

【1図:実戦の進行】
・実戦は黒1と打ち、白2、黒3となった。
 はたして、この進行は正しいのだろうか? どのように判断するか?

【2図:三角印の黒石と白石が弱い石】
※前図の黒1、白2は疑問手。
・序盤で競り合いが始まったときは、弱い石を補強するように打つのが基本。
 弱い石は、三角印の黒石と白石。

【3図:ますます弱くなる】
・1図の黒1では、本図黒1のほうがまだまし。
※いずれにせよ、方向が逆。
・白2とトバれて、三角印の黒石がますます弱くなる。

【4図:続き~手がかかる】
・黒は3、5と逃げなければならない。
・白4、6と中央や右下の好点を占めながら、白に攻勢に立たれてしまう。

【5図:弱い石から動く】
※三角印の黒石が黒の弱い石である。
 だから、テーマ図の場面では、弱い石から動く。
・黒1が正解。(こちらから左辺の白を攻める)

【6図:ケイマの理由】
・前図の黒1とケイマにした理由は、次のようになる。
・本図黒1のトビでは、白2の両ノゾキがあるから。
※左下の黒が弱いので、この進行は黒が怖い。

【7図:ケイマなら断点一つでいい形】
・黒1のケイマなら、白2から6と切られても断点が一つしかないので、黒7、9といい形で作ることができる。
⇒これなら黒も戦える。

【8図:白は逃げるくらい】
・黒1には、白2と逃げるくらい。
※1図の黒1と白2がともに不自然な手であることを、感じてほしいという。

【9図:状況が変わる】
※さて、三角印の白石がきたことで強弱関係が少し変わり、三角印の黒石が弱くなった。
⇒次に、白a(4, 六)あたりに打ち込まれると、苦しくなりそう。
 だから、黒はそこに打ち、左辺と左上隅を連絡させて補強することになる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、161頁~166頁)

第4章 弱い石から動く テーマ図2


「第4章 弱い石から動く」
【テーマ図2:どちらが弱いか?】
☆ここで一つクイズ。
 左上隅の三角印の黒(4, 三)と左下隅の三角印の白(4, 十六)では、どちらのほうが弱いのだろうか?

【1図:星は根拠がなくなりやすい】
・三角印の白(4, 十六)の星は、黒1の両ガカリに対して封鎖を避けて白2と中央に出たときに、黒3の三々で簡単に根拠を奪われてしまう。

【2図:小目は根拠を作りやすい】
・ところが、三角印の黒(4, 三)の小目は白1とハサまれても、黒2、4と中央に進出したあと、黒8などと根拠が作りやすい。

【3図:カカられた星】
※したがって、黒1とカカられた三角印の白(4, 十六)のほうが弱い状態。
⇒黒1にはaやbの受け、c周辺のハサミなどで何か応対をするのが基本。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、167頁~168頁)

第4章 弱い石から動く テーマ図3


【テーマ図3:白はどう打つか?】
・黒1と打ったところ。
・白は少し大変そうだが、どのように打つか?(白番)

【1図:強弱判断】
・三角印の白石(3, 五)はすでにハサまれているが、四角印の白(4, 十六、つまり左下隅の星)はまだ中央と下辺の二方向が空いている。
・また、三角印の黒石(4, 三、つまり左上隅の小目)は1子であるが、四角印の黒(3, 九)(3, 十四)は一応2子が連係している。

【2図:どちらも弱い】
※左上は黒も白も比較的弱いところ。
・弱いほうから動くという基本に従い、白1が急場。
・黒2なら白3と備えて、封鎖を避ける。

【3図:穏やかな進行に】
・黒も左上がまだ強くはないので、続いて黒4なら普通。
・白5、黒6とお互いに弱点を守れば、穏やかな布石になる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、169頁~170頁)


弱い石から動くにしても、小さく眼を作るのはできるだけ避けるべきである。
次のような配石で考えてみよう。
【テーマ図6:白はどちらが好手か?】(白番)
・白1から黒12までと進行した場合、続いて白はA(16, 十三)とB(15, 十九)のどちらが好手か?

【1図:封鎖を避ける基本に反する】
・実戦は白1と打った。
※弱い石から動いてはいるが、この白1は、封鎖を避ける基本に反している。

【2図:中央を打つのがよい】
※弱い石から動くにしても、小さく眼を作るのはできるだけ避けるべきである。
⇒白1と広いほうに打ち、封鎖されにくい形を作るべきであった。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、176頁~177頁)

第5章 一段落に気をつける


・アマチュアにとっては、「攻めの布石」一本槍で実戦をこなすことが棋力向上の近道でああろうという。(序章や第1章参照)
 しかし、本当の力をつけるためには、総合的にいろいろな知識を身につけ、判断力を磨いていく必要がある。
・第5章では、「一段落の判断」について解説している。
 このことは、技術だけではなく、心構えの問題という面もある。
 アマチュアが布石で遅れを取る原因のほとんどは、この「一段落の判断」ができないことにあるらしい。
 一か所を打ちはじめると、いつまでもそこから離れることができず、相手の手についていって、小さいところを打ち続けてしまう。

☆それでは、何をもって一段落したと判断すれば、いいのだろうか?
(毎局ごとに違う形が出てくるのだから、暗記しようとしても意味がない)
⇒三村智保氏によれば、一段落の基準となる「お互いに弱いところや攻められる石がない状態」を見分ける考え方を身につける必要があるとする。
 つまり、自分の石が攻められず、相手の石を攻めることもできなくなったと思えば、そこから目を離す。これが大切であるそうだ。

・アマチュアは、「いつ手を抜いていいかわからない」人が多い。
 たしかに相手がどこに打ってくるかわからないし、何か自分の見落としがあるのではないかという不安もあるだろう。
 けれど、自分が「もう一段落した」と思ったら、他の場所に大きいところを探す習慣をつけるようにするとよいと、アドバイスしている。
(その結果、実際はまだ一段落していなくて、攻められたり、大きなキズを作ったりしても、それは経験だと割り切る。何となく、いつまでも同じところを打ち続けていても、上達にはつながらない)
第5章では、対局中の心がけについても言及している。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、204頁)

第5章 一段落に気をつける テーマ図6


【テーマ図6】
・上辺も一段落していなかったが、黒1と忙しく打った。
・黒11までの進行に疑問はあるだろうか?

【1図】(ここまでは)
・黒1は左上を打てば普通だが、忙しく打つ趣向だろう。
・黒3、5は弱い石を動いているし、白6は根拠の要点。

【2図】(第一の疑問)
・ここで、黒7のハイと白8のオサエとなったが、この二つは両方とも疑問手。
※気がついただろうか?

【3図】(弱さの比較)
・相対的な問題で、左下の白△よりも左上の黒▲のほうが弱い石。
※白△は急に激しく攻められる心配がない。ここが白のチャンスだった。

【10図】(白14は?)
・黒1では、すぐに黒5など左上に回るべきだった。
・また黒3と決めたのも悪手。
・白6から12までは形であるが、白14はどう思うだろうか?

【11図】(黒▲は生きている石)
・この局面をよく見ると、黒▲と白△は生きている石なので、左上は一段落。
・そして、黒■と白□には、まだ根拠がない。

【第12~13図】
・10図の白14では、白1、3と先に左下隅の攻めに回るチャンスだった。
・白7とボウシして、白は主導権を握る。
・続いて、黒8と打てば根拠を確保できるが、黒8は狭く、白7と黒8の交換なら、白は満足。
・左辺は軽く見て、白9に回る。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、229頁~235頁)

【補足】進出の手筋~山下敬吾『新版 基本手筋事典』より


第2部 守りの手筋
15進出する
・進出の手筋は、封鎖の手筋に対応するもので、封鎖を避けて外に進出するにはさまざまな形がある。
・常識的には、封鎖は避けたいもの。
 とくに眼のない石、あるいは眼形に不安のある場合、進出が絶対条件である。
・しかし、進出は守りだけでなく、相手への攻めや模様化阻止など、実際は多方面な目的を秘めているものである。
・ここでは進出の基本的な形、考え方を述べておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、416頁)
【1図】(コスミ)
・実戦に頻繁に現われる両ガカリ定石。
・白1と封鎖されては窮屈だから、黒1と進出するのが、もっとも簡明で手堅い。
・黒aやbの進出法もあるが、いずれにしろ、白を裂いて、左右の白の攻めをみるのも目的のひとつ。

【2図】(大ゲイマ)
・黒1の大ゲイマがスマートで、働いた進出の形である。
・ちなみに一間から大ゲイマに打つこの形は「馬の顔」と呼ばれ、好形の見本とされる。
・ちなみに、黒aは「猫の顔」、bは「犬の顔」、cは「キリンの顔」
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、416頁)

<ポイント>
・大ゲイマ=「馬の顔」好形の見本
 コスミ=「猫の顔」、ケイマ=「犬の顔」、大々ゲイマ=「キリンの顔」

【第1型】
・黒二子は放っておくと、封鎖されて危険。
・では、どう進出するかだが、手筋の力でスマートな進出を果たしたいところ。

【1図】(失敗)
・黒1のアテから3のカケツギは、典型的な俗筋である。
・白4のノビ、黒5と出ていくよりない。
※白は左右とも厚い形。
※これは「車のあと押し」で、このあと白aがきびしいから、さらに黒a、白b、黒cが必要。

【2図】(正解)
・黒1のツケが進出の手筋。
・白2、4ならおだやかで、黒5とハネて、一段落。
※双方とも治まって不満はないだろう。
※なお、白4では5と追及する手もある。
黒はaやbをみて、cからむずかしい戦いとなる。

【3図】(変化)
・黒1に白2のノビなら、黒3のアテから5、7と頭を出すのが、手筋。
・白8の切りに黒9と備えて、不満のない形。
※なお、黒3のアテではaにオサエ込む手もある。
 右辺重視の手段で、険しい戦いとなろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、418頁)

【補足】進出と脱出の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 上』より


第2部 守りの手筋 序文
【進出の手筋】
・中央に進出する手じたいには利はないが、相手からの攻めを未然に防ぐとともに、挟撃あるいは圧迫、封鎖の基礎となる。
・見過ごされやすいが、重要な目的を帯びており、適切な進出の形は、以後の戦いに大きく寄与するだろう。
・ただし、進出するか根拠を求めるか、あるいは封鎖を許しても他方面に向かうか、部分だけでの判断は不可能である。
・進出しても、ダメを打った手となるケースに、最も注意しなければならない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、285頁)

【脱出の手筋】
・脱出の手筋は進出の手筋とよく似ているが、包囲されかけた石がより危険な状態にあり、より高度の技術をもってしなければ、中央進出が不可能だ、というあたりに選別の基準を置いた。
・いくつか脱出の筋があるばあいは、最も相手に打撃を与える形でなければならないし、周囲の状況によっては、脱出しても大きく攻められるばあいもあろう。
 脱出するか否かは全局的判断を待つよりない。
・例によって、基礎的脱出の形を紹介してみよう。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、308頁)

【進出の手筋~ハサミツケ】
・二点を見合いにして、急所に先行する手筋の応用。
・黒のダメヅマリを拡大するねらいを秘めている。

【原図】(白番)

【1図】(無気力)
・白1、3と下をハエば無事だし先手だが、これではまったく黒の思い通りの進行である。
・白aのトビダシが残るていどのことでは進出形といえないし、白bとオサえて、ダメヅマリをねらう手も枝葉末節だろう。
※といって、白1でcのキリは乱暴。黒2で苦しい。

【2図】(白1、手筋)
・白1のハサミツケ、3のワタリと2のキリを見合いにする。
・黒2、白3とワタれば、黒▲、白3の交換がダメヅマリの悪手となり、将来、黒aとツメて、3のオキをねらうような手を消しているのである。
※前図とは比較にならぬ白の好形だ。

【3図】(無理な抵抗)
・黒が抵抗するなら、2のサガリだが、白3のキリから5のツギがキキ、今度こそ白9のオサエがダメヅマリを衝いて、きびしい。
※白1で単に3のキリは黒1とヒカれて、5、7というキキが生じないため、白9のオサエに威力がなく、無理な戦いになってしまうのだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、306頁)

【補足】三村智保氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より


<小目・向かい小目>【参考譜】
②2001年 山田拓自-三村智保 (370頁)
第26型 【参考譜】(1-61)
2001年 第26期棋聖戦リーグ
白九段 三村智保
黒六段 山田拓自

・白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。
・黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。
・白12と三連星を布いた。
・白14に黒15の三々入り以下、19までは定石である。
・白20のケイマは柔らかい手である。
(通常は、白(16, 十四)、黒(18, 十四)で手を抜く)
・白22は形。
・黒23と下辺からのカカリは正しい。

【1図】(黒、無理気味)
〇白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。これに対しすぐ、
・黒1と切るのは性急過ぎで、白2、4から6とカケツがれる。
・黒7以下の戦いは無理気味である。

【2図】(黒、先手)
〇黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。続いて、
・白1のトビサガリには、黒2から4のハイを決めて、先手を取るのも、一策である。

【3図】(上辺に備える)
〇白12と三連星を布いたが、これでは、
・白1とヒラくのもある。
・黒2の割り打ちに、白3とツゲば、上辺は一人前の形。
・黒4のヒラキ以下8まで、これもあるだろう。

【4図】(がんばり過ぎ)
〇白22は形だが、これで、
・白1のオサエはがんばり過ぎで、黒2を決めて、4、6以下10と抵抗されると、白地はガラガラになる。

【5図】(黒、重複)
〇黒23と下辺からのカカリは正しく、
・黒1からカカるのは、白2、4とツケノビられ、黒7のヒラキが上方の低位の黒▲(3, 七)とコリ形になり、黒はおもしろくない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、370頁~371頁)

【補足】三村智保氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より


<小目・向かい小目>【参考譜】
⑨2004年 依田紀基-三村智保 (416頁)
第31型 【参考譜1】(1-58)
2004年 第59期本因坊戦プレーオフ
白九段 三村智保
黒名人 依田紀基

・隅をシマらずにすぐ5とカカリ、白6のハサミに黒11と実利に就いた。
・白14のオサエ。
・黒17のコスミに、白18から20のワタリは欠かせない。
・白18で右上にカカると、黒(2, 十四)、白(1, 十四)、黒(2, 十二)の動き出しが厳しく、逆に白が攻められかねない。
・黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。
・白28のハサミ。
・白38、48のツケハネは筋である。

【1図】(一子が遊ぶ)
〇白14のオサエで、
・白1のオサエから5と下辺に構えるのは、黒先手で6のシマリにまわる。
※白は白△の一子が遊んでおり、不十分である。

【2図】(白、遅れ気味)
〇黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。これでは、
・白1から3が定形であるが、この場合、黒4から6と大場にまわられ、白は遅れ気味である。

【3図】(白、厚い)
〇ただし、2図の黒4で、
・黒1に受けると、白2以下6まで中央が厚くなり、絶好の8に展開される。
※また、白2ではaのカケもありそうだ。

【4図】(定形だが―)
〇白28のハサミで、
・白1のコスミツケ以下5までは定形だが、黒から6または黒a、白b、黒cと圧迫される可能性がある。

【5図】(白模様消える)
〇白38、48のツケハネは筋であるが、38で、
・白1と止め3と広げるのは、黒4以下10で簡単に白模様を消される。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、416頁~417頁)


≪囲碁の布石~高尾紳路氏の場合≫

2024-11-10 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~高尾紳路氏の場合≫
(2024年11月10日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇高尾紳路『囲碁 布石入門 初級から初段まで』成美堂出版、2013年
高尾紳路氏によれば、布石は、家造りにたとえれば土台の段階で、碁では重要な分野であるとする。
 布石は、「1、隅の先着。2、隅のシマリとカカリ。3、辺へのヒラキ。4、中央への展開」という順番に打ち進められていくのが、ふつうである。この順番のうち、辺へのヒラキが布石を理解する鍵を握る。したがって、ヒラキとは何かが分かれば、布石の大筋をつかんだことになるという。
ヒラキは目的によって、陣地拡大と根拠確保の二つに大別される。
 二間ビラキが、最小限の根拠を確保するヒラキの基本。ただし、二子が中央に向かって並んでいる場合は、三間が正しいヒラキかたとなる(二立三析)。
 大筋の方向を決める目のつけどころは、すでに打っている石の状態、つまり石の強弱である。すなわち、石の強弱が生命線であるという。
 こうした大筋の方向に基づいて、以下、内容をまとめてみたい。
 あわせて、私が管見した範囲内で、高尾紳路氏の実戦譜を【補足】として追加しておいた。

【高尾紳路氏のプロフィール】
・昭和51年、千葉県に生まれる。師は藤沢秀行名誉棋聖。
・平成3年、入段。平成17年、九段。
・平成12年、第9期竜星戦優勝。
・平成16年、第13期竜星戦優勝。
・平成17年、第60期本因坊に。以後、3連覇。
・平成18年、第31期名人に。史上6人目の名人本因坊。
・平成20年、第46期十段。
・平成22年、第3回大和証券杯グランドチャンピオン。



【高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版はこちらから】

囲碁 高尾紳路の布石入門 初級から初段まで



本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はじめに
あなたの布石理解度チェック表
第1章 ●十九路盤でもとまどわない
     布石の基本的な考え方
第2章 〇右に打つか左に打つか二択問題
     方向感覚を磨く60問
第3章 ●大筋の方向を全局問題で考える
     布石の基本23問
第4章 〇自分の石は弱いか強いか
     序盤攻防の筋と形30問
第5章 ●悪手を発見する問題
     どの手が悪いか12問




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに
・第1章 布石の基本的な考え方
・<本書の構成>
・第2章 方向感覚を磨く【問題55】
・第2章 方向感覚を磨く【問題59】
・第3章 布石の基本【問題13】
・第3章 布石の基本【問題14】
・第3章 布石の基本【問題15】
・第3章 布石の基本【問題20】
・第3章 布石の基本【問題21】
・第4章 序盤攻防の筋と形 【問題17】
・第5章 どの手が悪いか 【問題2】

・【補足】布石 二間トビ~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より
・【補足】高尾紳路氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
・【補足】高尾紳路氏の実戦譜~高尾紳路『一局の基本 歴代名人編』より




はじめに


・初級の人は、入門時に使う九路盤から十九路盤に変わった途端、その広さにとまどって、迷子になったような気分になり、どこに打てばよいか分からなくなってしまう。
 それは、中級、上級と進級しても同じようなものである。
・なぜ、どこに打てば良いかが分からなくなるかと言えば、布石の場合は、死活や手筋の分野と違って、明確な正答が出にくい分野だからである。
・布石は、家造りにたとえれば土台の段階で、碁では重要な分野である。
 そこで、どこに注意すれば布石の大筋がつかめるか、実戦に臨んで応用できるようになるためには、どこがポイントかに心掛けて、構成したという。
・本書では、大筋の方向を間違えないための目の付け所はどこかに絞り、細かいことは省き、中盤の戦いにおいても応用がきき、勝率のアップにつながるような基本的な考え方が身につくように心掛けたそうだ。
(それは、初段以上になっても、十分通用する布石の考え方であるとする)
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、3頁)
各章のまとめ開始2024年11月4日

第1章 ●十九路盤でもまどわない
     布石の基本的な考え方

第1章 布石の基本的な考え方


<布石の基本>
①ヒラキが布石理解の基本
・本書では、初級から上級までの人が初段になっても通用し、指針となる布石の基本的な考え方が身につくことを目標に構成した。
(むろん、初段や二段の人も布石の基本を確認するという意味で役立つはず)
・布石は、「1、隅の先着。2、隅のシマリとカカリ。3、辺へのヒラキ。4、中央への展開」という順番に打ち進められていくのが、ふつうである。
※この順番のうち、辺へのヒラキが布石を理解する鍵を握る。
 したがって、ヒラキとは何かが分かれば、布石の大筋をつかんだことになる。
・ヒラキは目的によって、陣地拡大と根拠確保の二つに大別される。

②根拠確保のヒラキ
・二間ビラキすることで、最小限の陣地を確保することができる。
(相手の強い場所においては、二間ビラキが基本。一間ビラキは狭く、三間ビラキすると、打ち込まれて、応手に困る)
・根拠確保のヒラキの基本を応用したのが、相手の陣地拡大を防ぐ割り打ちという布石のテクニック。
(相手に接近されても、二間ビラキできる地点に打つのが、割り打ちの基本)

③二間ビラキと三間ビラキ
・陣地拡大と根拠確保のヒラキは、目指す目的がまったくちがう。
 二つのうち、根拠確保のヒラキが布石理解の急所。
・二間ビラキが、最小限の根拠を確保するヒラキの基本。
※ただし、ヒラキの基本は形によって変わる。
 二子が中央に向かって並んでいる場合は、三間が正しいヒラキかたとなる。
 例えば、ツケ引き定石の場合。

【3図、4図】
・黒1から5まではツケ引き定石。
・白2、4が中央に向かって並んでいるので、白6の三間がヒラキの基本。
※こうした形の場合、白6でaの二間ビラキは基本に反する打ち方となる。


④根拠の要点を見逃すな
・序盤の布石の段階でも中盤に入っても、「根拠の要点を見逃さない」ことが大切。
・陣地を拡大するヒラキは、大場と呼ばれる。根拠の要点は、急場と呼ばれる。
・二立三析の場合は、三間ビラキがほぼ絶対の一手で、「大場より急場」の囲碁格言にしたがうのが正しい打ち方。

⑤大筋の方向をまちがえるな
・布石だけに限らないが、すでに打った石を生かすためには、大筋の方向をまちがえないことが大切。
(先に説明した「根拠の要点を見逃すな」などは、その一つ。)
・大筋の方向を決める目のつけどころは、すでに打っている石の状態。石の強弱。

<本書の構成>
・第2章以降は、問題形式で構成した。
 まず、第2章では、初級や中級の人が大筋の方向感覚を磨くのにふさわしい問題を選んだ。第2章では、盤上の半分を使い、大筋の方向に焦点を絞って、出題した。
・第3章では、全局における、大筋の方向を考えてもらう。
※ただし、第2章とちがい、第3章では、布石の基本をつかむため、多角的に出題した。
・第4章では、互いの石が接触した筋と形に関する問題を出題した。
・最終章の第5章は、これまでマスターしてきた布石の基本や、筋と形に関する応用問題である。出題図に数手示し、どの手が悪いかをさがしてもらう。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、7頁~36頁)

第2章 方向感覚を磨く【問題55】


【問題55】白石の強弱を判定 初段レベル
黒の番

〇強い石に近寄るな
【正解図】大ゲイマが形
※右下隅の白石は強い一団。接近しても、狙いがない。
・そこで、黒1と大ゲイマにヒラくのが、好判断。

【失敗図】接近は無謀
・黒1と接近するのは、無謀な打ち方。
・白2と逆襲されて、黒が困る。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、93頁~94頁)

第2章 方向感覚を磨く【問題59】


【問題59】石の強弱が生命線 初段レベル
黒の番
〇右下が急場

【正解図】黒1、3は先手
※右下の白石や黒石はまだ完全に生きていない一団。
・だから、黒1、3と生きるのが良く、白4が省けない。

【失敗図】黒1は白石に響かない
・黒1は下辺の白三子に響かず、白2、4の後、aに白石がくると、白bの狙いが脅威となる。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、97頁~98頁)

第3章 布石の基本【問題13】


【問題13】永遠の課題 1級レベル
白の番
・黒1とカカってきた局面。
・こうした場合、白Aとハサむか、Bと受けるかは、永遠のテーマ。
・互いの配石によって変わるが、次の一手は、ハサミと受けのどちらだろうか。

〇ハサミが好判断

【失敗図】黒2が絶好になる
・白1がなぜ悪手になるかと言えば、黒2のハサミを絶好にさせてしまうから。
・黒2によって、白△の根拠を奪われるため、白3と逃げ出さざるを得なくなる。
・すると、黒4とケイマされて、白不満の戦い。

【正解図】白△が目のつけどころ
・次の一手を決める目のつけどころは、白△である。
・白△を生かすためには、白1やaのハサミが良く、黒2の三々なら、白3のほうから、押さえる。
・後は、黒4から10までの進行となり、左辺一帯の白が好形になり、白に不満がない。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、127頁~128頁)

第3章 布石の基本【問題14】


【問題14】大場より急場 初段レベル
白の番
・前ページの正解図に続く局面。
・左辺に関しては、白Aの白勢力の拡大や白Bのコスミが考えられる。
ほかに白Cも大場。
・迷った時は、「大場より急場」の格言が役に立つ。

〇攻防の要点を見逃すな
【正解図】根拠を脅かすのが好判断
・白1がなぜ良い手になるかと言えば、黒五子の根拠を脅かしているから。
※白1は、黒五子の根拠を奪いながら、左辺の白の陣地を固める攻防の要点。

【正解図・続】白1は大場より急場
※主要な囲碁格言の一つに、「大場より急場」がある。
 単なる大場以外に根拠に関する急場がある場合は、根拠を奪ったり、根拠を確保したりするほうが、大切であることを教えてくれる囲碁格言。
・ここは白1がそれで、黒は2と根拠を確かめるくらいのもの。
・次に、白は二通りの打ち方があり、一策は白3の大場先着。

【失敗図1】黒2が絶好点
・白1がなぜ悪いかと言えば、黒2と根拠を確保しながら、左辺の白陣に食い込まれるから。

【失敗図2】白1、3は格言違反
・白1がなぜ悪いかと言えば、「大場より急場」の格言に違反しているから。
・白1の大場先着は、黒2に石の調子で、白3の大場に連打する打ち方。
・しかし、黒4と攻防の要点に先着されて、白の失敗布石。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、129頁~132頁)


第3章 布石の基本【問題15】


【問題15】天王山を見逃すな 初段レベル
黒の番
≪棋譜≫
棋譜再生
・この布石は、右上一帯の黒の大模様と左下一帯の白の大模様がにらみあっている。
こんな布陣では「天王山を見逃すな」が大切である。とすれば、黒はどこが最善か?

⇒・黒1とカケる一手である。
 ・黒1がなぜ最善になるかと言えば、右上一帯の大模様を広げながら、左下一帯の白模様のスケールを制限しているからである。
 〇黒1は、互いの大模様の消長に関する天王山である。
 ・黒は1、3を決めてから、5と大模様にシンを入れるのが好手順である。黒不満のない展開。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、133頁~134頁)

第3章 布石の基本【問題20】


【問題20】アマ有段者の実戦 初段レベル
黒の番
・根拠を確保した石は強く、根拠のない石は弱いので、相手に攻められることになる。
・アマ有段者の実戦である。
・黒AとBのどちらが良いだろうか。

〇弱い石を作るな
【失敗図】黒が棒石の弱石になる
・黒1がなぜ悪い手かと言えば、白2のコスミツケから4、6と攻め態勢を整えられて、黒石は根拠のない弱い石になってしまうからである。
※黒1は大場に打っていても、「弱い石を作るな」の鉄則に違反している。
 逆の見方をすれば、白2以下が相手の石を弱石にする好手となる。

【正解図】根拠確保が大切
・というわけで、黒1、3が根拠確保の良い手。
※また、白6で7は、黒6である。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、145頁~146頁)

第3章 布石の基本【問題21】


第3章 問題21 右下の白勢力がポイント 初段レベル
【問題21】右下の白勢力がポイント 初段レベル
黒の番
・この布石は右下一帯に広がる白勢力が目のつけどころ。
 この白勢力が目一杯に働かないように、心掛けるべきである。
 黒A、B、Cのどれが良いだろうか。

【失敗図1】(白模様は理想的な構え)
・黒1がなぜ悪いかと言えば、白2のカケが絶好点になるから。
※通常の布石では、黒1あたりが辺に展開する大場となる。
・しかし、この布石は右下一帯に白の強力な勢力があるため、白2、4とカケられると、下辺一帯が谷の深い理想的な大模様になり、白石が目一杯に働いてくる。
 相手の白石が存分に働くようになっては、黒の失敗布石。
【失敗図2】(黒最悪の展開)
・黒1がなぜ悪いかという理由も同じ。
・白2、4とカケられて、右下の白勢力が働き、下辺一帯の大模様の谷が深くなる。
※厳密に言えば、本図の黒1から5までは最悪の展開。
 黒▲から5までの黒四子がすべて第三線に片寄って位が低く、いわゆるコリ形になってしまうから。

【変化図】(白勢力が参戦する)
・といって、白△のカケに黒1、3の出切りは無理。
・一例を示せば、白2から8までの手順が予想され、こんどは右下の白勢力が戦いに参加してくるから。
※失敗図1や失敗図2は、この布石の目のつけどころである右下の白勢力を見ていない打ち方。

【正解図】(コスミが絶好点)
・この布石は黒1のコスミが絶好点。
・次に黒aを狙うのが好判断となる。
【正解図・続】(黒1、3と打ち黒成功)
・黒1がなぜ良い手かと言えば、白勢力の働きを制限しているから。
・この布石は黒1の一手で、白2の大場なら黒3とカケて、黒に何の不満もない展開だろう。
・こうなっては、右下一帯の白勢力が働かなくなり、白4には黒5かaである。
※いずれにしても、黒1、3と布石の要点を連打して、黒好調の運び。
 逆に言えば、黒3のカケを食らっては、白不満。
【変化図】(一局の布石)
・黒1には、黒aを防ぎながら、下辺を拡大する白2も大きく、黒は3かbに打ち、互いに言い分のある一局の布石。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、147頁~150頁)

第4章 序盤攻防の筋と形 問題17


【問題17】強弱を見極める 1級レベル
白の番
・下辺の打ち方が焦点になっている。
・とすれば、白AやBなどが考えられる。
・どちらを選ぶかは、下辺一帯が白の強い場所か弱い場所かの判断によって、決まる。

〇下辺一帯は黒の強い場所
【失敗図】分断されては白が悪い
・白1がなぜ悪手かと言えば、黒2と分断されて、一方的に攻め立てられるから。
・白△と白1、3の両方の石に根拠がなく、黒4と黒地を固めながら攻められて、黒に主導権を奪われてしまう。
※白が窮地にはまったのは、下辺一帯の強弱判断をまちがえたため。

【正解図】下辺一帯は黒の石数が多い
※強弱判断の目安は、黒と白の石数を比べれば判明する。
・下辺一帯は黒の石数がきわめて多い場所であるから、白1かa、bなどが正着。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、191頁~192頁)

第5章 どの手が悪いか 問題2


「第5章 
【問題2】敵を強くする俗筋 1級レベル
≪棋譜≫
棋譜再生
悪手さがし
☆右辺の黒陣に、白△がなぐり込んできた。
ここで、黒1、3とツケ引いて5とコスんだ。
黒1から5までの手順のうち、どの手が敵を強くする俗筋だろうか?

〇弱い石にツケるな
【失敗】黒11は白石を強くする俗筋
≪棋譜≫
棋譜再生
☆黒1のツケがなぜ悪いか?
⇒白2の押さえから4とツガれて、白石を強くしているからである。
右辺一帯は黒石が5個あり、かなり強い場所。
・そこに入ってきた白△は弱い石にもかかわらず、黒1とツケると白2、4とツイで、強い石になる。
※黒1、3は白石を強化する典型的な俗筋である。囲碁格言にも「弱い石にツケるな」とある。
・続いて、右辺の白三子が強くなったため、白6、8のハネツギが隅を確保しながら、黒三子の根拠をなくして、攻める好手となる。
・黒9に白10などと飛ばれて、黒不満の展開である。
⇒これでは弱かった白石が威張っている。

【正解】黒1、3が最善の攻め
≪棋譜≫
棋譜再生
・なぐり込んだ白△は弱い石。
となれば、ここは黒1と飛んで黒三子を強化しながら追撃するのが良い。
・白2に黒3と攻めることができれば満点。
・白4の逃げに黒5とボウシして、黒石を強化しながら、白6に黒7とボウシ攻めして、好調の戦い。
・続いて、白8の逃げに黒9の三々などが打てればプロ級だという。
・白10には黒11、13と隅に食い込み、黒15と白陣を荒らす。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、223頁~225頁)



【補足】布石 二間トビ~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より


拡大の手筋 トビ


・拡大の手筋は、石が接触しているばあい、圧迫の手筋と連動する。
 多少の重複は恐れず、基礎的な形から説明しよう。
・布石の古典的順序からいえば、一アキ隅、二シマリ(カカリ)、三ヒラキ、四ツメ、
五トビの五番目。
 たがいに地と根拠を確かめ合ってから、自分の勢力圏を拡大することになる。
 現実の碁では、その順序も崩れることが多いし、また、立体的な現代布石では、ヒラキよりトビが優先するばあいがないでもない。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、57頁)

拡大の手筋 二間トビ【参考譜11】


【二間トビ】
・拡大の構想は部分的なモヨウにとどまらず、全局的観点から発しなければならない。
・部分の形より、全局のバランスが優先する。

【参考譜11】
第1期名人戦 リーグ戦
 白 山部俊郎
 黒 藤沢秀行

・黒1と二間にトンで、下辺のモヨウを拡大しながら、全局的な厚みを築く。
・aのボウシなどを含んで、中央も大きくなりそうだ。
・黒1でbは部分に偏している。

【参考図】(以後の攻防)
・白1のウチコミは、いまが時期。
・黒は2とツメて隅の地を固めながら、白を追い出す攻めだ。
・白3には黒4とカブせて、aとツケるモタレの攻めをねらう。
・白5、7と黒にも弱点を作り、11、15と形作りに大わらわ。
・黒16は眼形の弾力を奪う手筋であり、黒18、20とワタッて、一方的な攻勢を約束した。
※地合いでもすでに釣り合っており、いまだに残る白への攻め味と、中央に形成されかけている漠然とした地モヨウ分が、黒のリードと見られる。
※あえて大きく広げ、相手からのウチコミを誘う拡大の構想も、ときには有力である。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、70頁)

【補足】高尾紳路氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より


 高尾紳路氏の実戦譜から、次の文献を参考に、布石の例について紹介しておこう。
〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年

<星・タスキ星>【参考譜】
②1999年 高尾紳路-大竹英雄(146頁)
第16型 【参考譜】(1-53)
1999年 第25期天元戦本戦
白九段 大竹英雄
黒六段 高尾紳路

・白8のカカリに黒9とハサみ、以下白18まで、先手を取って、黒19とツメた。
・黒19に白は手を抜いた。
・黒23のカケは工夫した手である。
・白30の押し。
・白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。

【1図】(下辺も大場)
〇黒19とツメたが、これでは、
・黒1のヒラキも大場である。
・白2のカカリに黒3以下白8まで先手を取って、待望の黒9にツメる。これもあろう。
・手順中、白2でaと守れば、黒4のシマリが絶好である。

【2図】(打ちにくい)
〇黒19に白は手を抜いたが、これで、
・白1、3と守れば、手堅い。
・しかし、黒2の立ちで、左辺が理想形になり、白は打ちにくい。

【3図】(黒、今ひとつ)
〇黒23のカケは工夫した手である。これでは、
・黒1のコスミツケが手筋であるが、この場合は、白2から6のコスミまで、黒、今ひとつであろう。

【4図】(黒、十分)
〇白30の押しで、
・白1とシマるのは、黒2から4のトビが調子よくなる。
・譜の黒23と相まって、黒十分である。

【5図】(黒、つらい)
〇白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。これで、
・黒1にカカるのは、白2から4のトビが好点で、黒5と守るのでは、つらい。
・黒7に続いて、白は譜のAトビで好調になる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、146頁~147頁)

【補足】高尾紳路氏の実戦譜~高尾紳路『一局の基本 歴代名人編』より


・2017年8月30日~31日
 第42期名人戦挑戦手合 第1局
 黒番 井山裕太 棋聖
 白番 高尾紳路 名人
 総手数271手完 白半目勝ち
 

第1局 第42期名人戦挑戦手合 第1局 高尾紳路名人VS先番井山裕太


1~100手まで
☆本局で学んでほしいポイントは、「捨て石」
・石を捨てた引き替えに、大模様を張って勝負する流れを味わってほしいという。
・相手の弱点をよく見ることも重要。(10頁)

<布石に関連して>
・右上の小目から、黒は小ゲイマにシマリ。シマリは主に第三線か第四線に打たれる。
・左上の白6は一間ガカリ。小目からのシマリやカカリは大きいので、優先されることが多い。
・黒7の下ツケに、白8とぶつかっていった。ナダレという打ち方。
・黒は連絡するので、9は絶対。
・白16とハサミに、黒17と三々入り。

<高尾氏の感想>
・井山さんは弱点がない。そしてとくに読みの幅が広く深い。その点がほかの棋士より優れている。
・一方向に深く読む人はいるが、独創的でいろいろなことが読めるのが、ほかの棋士が真似できないところだろう。
・序盤は悪くない立ち上がりだと思ったという。
・ただ、黒97と切りから眼形を脅かされる筋を見落としていた。
・白64のときに、気がついていなければいけなかったそうだ。

<一局を終えての高尾氏の感想>
・打っていて、井山さんの充実ぶりを感じた。
 本局は勝ったが、その後4連敗。名人位を奪い返される。
 実力が足りなかった。
 井山さんはこのシリーズを勝って、2度目の七冠独占を果たし、その功績で国民栄誉賞を受賞。井山さんと名人戦という大きな舞台で、3年連続で打てたのは幸せだったという。
(高尾紳路監修『一局の基本 歴代名人編』池田書店、2018年、10頁~29頁、123頁、126頁)

高尾紳路の他の著作
【高尾紳路『布石から中盤入門』はこちらから】


≪囲碁の布石~白石勇一氏の場合≫

2024-11-03 18:00:04 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~白石勇一氏の場合≫
(2024年11月3日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、囲碁の布石について、次の著作を参考に考えてみたい。
〇白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年
 布石の基本的な考え方が、第1章、第2章、第4章に述べてある。
 そして、目次にもあるように、「第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)」三連星、中国流、星とシマリの布石が主なテーマとなる。
 それぞれの布石の特徴としては、次のように言われている。
〇三連星~四線を中心に、スピード最優先で大きく構えることを目指す作戦
〇中国流~高低のバランスを取り、足元を固めながら勢力圏を広げていく作戦
〇星とシマリの布石~じっくり腰を落ち着けて、相手の出方を見ながら打ち方を決めるような作戦
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、144頁)

 ただ、三連星については、若干のコメントを書き加えておく。
 三連星は、かつて武宮正樹氏の“宇宙流”として、一世を風靡するほど流行した。
 現在、三連星の布石は、プロ棋士やアマ高段者の間では、打たれない。その理由の一つには、攻略法(三連星破り)が研究されたことがあろう。
 例えば、次のようなYou Tubeのサイトを見れば、そのことがわかる。
〇囲碁学校(小松英樹九段)
 「小松流 碁の勝ち方 ゆるまず打つ!(3)」(2017年1月30日付)
〇rido channel
「3連星が打たれなくなった理由【布石理論】」(2020年2月7日付)
〇プロ棋士 柳澤理志の囲碁教室
「三連星対策シリーズ1 白の大模様返し作戦!」(2020年4月27日付)
※なお、三連星の可能性については、次のようなYou Tubeのサイトもある。
〇将碁チャンネル(山田規三生九段)
「おすすめのAI流三連星1」(2024年5月4日付)



【白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版はこちらから】

やさしく語る 布石の原則 (囲碁人ブックス)




〇白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年

本書の目次は次のようになっている。
【目次】
まえがき
序章 本書の内容と活用法
第1章 勢力圏を意識する
第2章 勢力圏争いに勝つ
第3章 確認問題①
第4章 勢力圏への入り方
第5章 確認問題②
第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)
第7章 実力テスト
第8章 知識編
<コラム>




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・白石勇一氏のプロフィール
・本書の内容
・第1章 勢力圏を意識する
・第2章 勢力圏争いに勝つ
・第2章 テーマ図3
・第3章 確認問題①
・第3章 第7問~三連星の布石
・第4章 勢力圏への入り方
・第4章 テーマ図1
・第5章 確認問題②
・第5章 第4問
・第5章 第6問
・第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)
・第6章 三連星
・第6章 中国流
・第6章 星とシマリの布石
・第7章 第3問~中国流
・第8章 知識編
【ヒラキとツメ】【二間ビラキ】【二間ビラキもどき】【割り打ち】
・第8章 知識編
定石や定型~【テーマ図5】:大々ゲイマへの打ち込み
・【補足】布石 削減の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より







白石勇一氏のプロフィール


白石勇一六段
昭和59年生まれ。神奈川県出身。岩田一九段門下。
平成17年入段。平成27年六段。
「白石勇一の囲碁日記」 http://blog.goo.ne.jp/igoshiraishi

本書の内容


「序章 本書の内容と活用法」
<本書の内容>
白石勇一氏の前作『やさしく語る 碁の本質』では、中盤戦、つまりお互いの石がぶつかり、弱い石ができてからの考え方、打ち方がテーマであった。
中盤戦は地を気にせず、石の強弱を第一に考えて打てばよいと主張している。
自分の弱い石は守り、相手の弱い石を攻めることの重要性、またその方法について解説していた。

一方、本書は、その前の段階、布石がテーマである。
布石を上手く打つことができれば、自分に弱い石ができなかったり、相手の弱い石を作ることにもつながる。そうなれば、中盤戦も有利に戦うことができる。
布石は中盤戦のための大事な準備区間であるという。

第1章では、勢力圏という概念について説明している。それを理解すれば、布石で何を目指すべきなのか、イメージが掴める。
第2章、第4章では、局面によってどういう打ち方をすればよいのか、その指針となる「原則」について説明している。
そして、第3章、第5章は確認問題である。第2章、第4章で学んだことを、しっかりと身に付けてほしい。
第6章は布石紹介である。アマ同士の対局でよく打たれる布石と、その特徴を紹介している。
第7章には、それまでの内容の総まとめとして、実力テストがある。どれだけ本書の内容を理解し、身に付いているかを確認することができる。
第8章は知識編である。覚えておくと役に立つ形や定石などを収録してある。
(本書の内容を理解するために役立つものも多いので、最初に第8章から読んでもよいようだ)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、11頁)

第1章 勢力圏を意識する


①勢力圏を意識して打つ。
【布石は勢力圏争い】
・中盤戦では、地よりも石の強弱が大切。
 布石(序盤)でも、石の強弱が最も大切。
 しかし、碁が始まったばかりの段階では、お互いに弱い石がないことが多い。
・そこで、「勢力圏」という概念が出てくる。
 石は打った場所そのものだけではなく、周辺に影響力を及ぼす。そして、味方の石の影響力が及ぶ範囲を勢力圏と呼ぶ。
➡いかに相手より広い勢力圏を確保するか、これが布石の基本。
・勢力圏にも、強弱がある。
 勢力圏の強弱は、石の強弱によって変わる。
 弱い勢力圏は、相手に消されたり、奪われたりしやすい。
 だから、布石では、勢力圏を広げることはもちろん、固めることもまた重要。
(弱くなりそうな石を守る、と言い換えてもよい)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、14頁~15頁)

【勢力圏の及ぶ範囲】
〇どこまでを勢力圏と見るべきか?
➡勢力圏の及ぶ範囲は、辺方向に向かっては、4路先まで。
・相手がこの範囲内に入ってくれば、攻めのチャンス。
・4路というのは、絶対的な基準ではないが、目安にはなる。
・例えば、黒に背後から迫られても、二間にヒラければ、ある程度ゆとりがあり、急な攻めは受けにくい。
・二間ビラキは、辺で安定したい時の基本の形。
(布石では非常に重要なので、ぜひ覚えておこう)

【勢力圏をつなげる】
・勢力圏同士をつなげると、より強く、大きな勢力圏ができる。
➡それが育っていくと、「模様」へ、そして最終的には、大きな地になる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、16頁~17頁)

②相手の勢力圏も意識する。
・自分の勢力圏を大きく広げることは大事だが、相手がいることを忘れてはいけない。
 相手も勢力圏争いに勝とうとしているのだから、隙あらばこちらの勢力圏を破壊しようと狙っている。だから、相手の妨害を警戒しながら、ほどよい間合いで勢力圏を広げていく。
・また、相手の勢力圏が大きくなりそうであれば、逆にこちらから妨害しにいった方がいいこともある。碁盤全体を見て、勢力圏争いに勝つ方法を考える。
・一般に、ヒラキは五間までとされている。(あくまで目安だが)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、19頁)

③その他
【三線と四線の違い】
・辺にヒラく時は、三線か四線が基本。
(五線にヒラいてはいけないわけではないが、足元をすくわれやすく、活用はやや難しい。本書では扱わない)
・それでは、三線と四線は、どちらがよいのか?
 これはプロにとっても永遠の課題で、多くの場面で明確な答えは出ていないそうだ。
 
〇ただ、両者には大きな違いがある。
・三線の方が、打ち込みに強い。
・四線は打ち込みに弱く、三線はボウシ、肩ツキが弱点といえる。
・大雑把にいえば、四線は模様を張ることや攻めを好む人、三線は確実性を好む人に向いている。

※布石は、まず三線、四線から占めていくのが基本。
 また、そこから五線や六線など、中央へ進出していく手ももちろん有効だが、二線の手は基本的に好ましくない。二線は根拠を確保する時、奪う時だけ。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、24頁~26頁)

第2章 勢力圏争いに勝つ


【原則を意識して打つ】
・本章では、勢力圏争いに勝つ方法として、次の3つを原則とする。
①「広い所から打つ」
②「弱い石の周りは大きい」
③「模様の接点を逃さない」
➡これらを意識して打つことで、勢力圏を効率よく広げることができる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、30頁)

第2章 テーマ図3


【第2章 テーマ図3黒番】
・広い所に打つというのは見た目に分かりやすいが、それだけではいい布石は打てない。
・まだ、13手目なので、正解を逃したからといって、大きく形勢を損なうという場面ではない。しかし、いい流れで布石を展開できるかどうかの分岐点にはなるだろう。

【勢力圏争いの原則 弱い石の周りは大きい】
・前作のメインテーマだった「石の強弱」がここで登場する。
・布石は石がまったく置かれていない所からスタートすることもあり、まずは「広い所から打つ」という原則を最初に説明した。
・だが、より重要なのが、この「弱い石の周りは大きい」という原則。
・格言にも、「大場より急場」とある。

【1図】(正解)根拠の要点
・右辺白は二間ビラキして、一息ついたが、まだ強い石にはなっていない。
・そこで、黒1と根拠を脅かす手が好手になる。
※これは、自身の守りを兼ねており、後に白aなどと詰め寄られた時も安心。
 つまり一石二鳥の好手。
・攻めを避けて、白2と守れば、黒3とさらにプレッシャーをかけながら、勢力圏を広げて、好調。
・黒5まで、黒の勢力圏の方が広くなった。
※相手に守りの手を打たせることで、勢力圏争いを有利に展開できる。

※4図黒1は広い所だが、白2と根拠の要点に打たれては、チャンスを逃している。
 一方、左辺では黒9と守らされている。こちらは黒が有利な戦場ではない。
 やはり、1図のように、明快にリードを築きたい。

【2図】(正解変化)勢力圏争いで優位に
・白が右辺を守らなければ、一例として黒2以下の攻め方がある。
・自然と外側に黒石が増え、黒12となって、巨大な勢力圏が出現した。

【3図】(正解変化・その後)黒有利な戦い
・もちろん、2図の後、白1などと侵入する余地はある。
※しかし、取ることはできなくても、厳しい攻めでポイントを挙げられる。

【4図】(失敗)広い所だが
・黒1が悪手というわけではない。
・しかし、調子よく上下を固めてから、悠々と白10と打ち込み、白の流れがよい。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、40頁~42頁)

第3章 確認問題①


【実戦に向けての練習】
・本章では練習問題を用意した。
 より実戦に近い形で考えることができるだろう。
①「広い所から打つ」
②「弱い石の周りは大きい」
③「模様の接点を逃さない」
➡この3つの考え方に基づいて、選んでもらえばいいが、考え方の手順としては、以下のようになる。
①碁盤全体を見渡して、お互いの弱い石、弱くなりそうな石を探す。
②あればその周辺を打ち、無さそうなら…
③広い所、模様の接点を探す
※ちなみに、石の強弱を見極める力は、死活の力に大きく左右される。
 大体このぐらいのスペースがあれば生き、このスペースは危ない、という感覚を身に付けておくが大事。
(囲碁の勉強法として、詰碁が重要と言われるのは、それが理由)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、58頁)

第3章 第7問~三連星の布石


【第3章 第7問黒番】
・これまでに培ってきた感覚を生かして、ぜひ正解してほしい。
・さて、局面は双方が三連星の布石で対峙したところ。
 勢力圏争いで優位に立つには、黒A~Cのどれがよいだろうか。

【1図】(正解)模様の接点
・黒1が正解。
・白2なら黒3以下、目一杯に広げ、勢力圏争いは明らかに黒有利。
※白がどこに入って来ても、大きな地が残るだろう。

【2図】(正解変化)黒有利な戦い
・白2の反撃を恐れる必要はない。
※黒の勢力圏なので、有利に戦える。
 右辺白が苦しいし、上辺黒aなども狙える。

【3図】(次善)模様の接点を逃す
・黒1ものびのびした手であるが、何と言っても、白2が絶好点。
・白8までは一例であるが、白模様が大きく盛り上がった。

【4図】(失敗)狭い所を囲う
・黒1、3のような打ち方はいけない。
※下辺は狭く、これから盛り上がる余地も小さい所。
・白6まで、右辺黒の勢力が泣く。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、75頁~77頁)

第4章 勢力圏への入り方


【相手の方が勢力圏が広い時】
・時には相手の勢力圏に入っていくことも必要。
だが、相手の勢力圏での戦いは、危険を伴う。
 入っていったものの、厳しく攻められて形勢が悪化してしまった、というのはよくある。
・そうならないためには、どうすればよいか?
 ➡読みの力をつける、戦いの手筋を学ぶ、といったことはもちろん大切。
 ただ、不利な状況で始まった戦いは、どんなに頑張っても、上手くいかないことも多い。
〇一番大切なことは、入っていく前に状況をしっかり把握し、適切な入り方を選ぶこと。

〇相手の勢力圏へ入る際に従うべき3つの原則
①相手の弱い所に打ち込む
②苦しい打ち込みより浅い消し
③苦しい逃げ出しより楽な捨て石
※棋力が多少違うぐらいでは、読みの力に大きな差があることは少ない。
 戦いの結果を大きく左右するのは、スタート地点である。そこで正しい考え方ができれば、自然といい結果がついてくる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、80頁)

第4章 テーマ図1白番


【第4章 テーマ図1白番】
・お互いに勢力圏を広げ合う布石になっている。
・形勢は開いておらず、このまま大きさ比べを続けるのも一局。
・ただ、そういった展開に自信が持てない人も多いだろう。その場合は、黒模様に入っていくことを考えたいところ。
・どう打ち込めば、苦しい戦いを避けられるだろうか。

【勢力圏への入り方・原則①相手の弱い所に打ち込む】
・相手の勢力圏に打ち込めば、当然弱い石を作ることになる。
 では、その石が厳しく攻められないためには、どうすればいいのだろうか。
➡そこで重要になるのが、「相手の弱い所に打ち込む」という原則。

・石を攻める際には、自分の石が弱くならないことが重要。
 無理な攻め方をして、逆に自分の石が取られてしまった、ということは経験されていることだろう。
 これを逆の立場で考えると、「相手の石を弱くしておけば、自分の石は厳しく攻められない」ということになる。
 そこで、相手の根拠の無い石や、連絡が不完全な石を狙って、打ち込んでいくのである。

【1図】(正解)黒の弱い石を狙う
・左下黒は、左辺白の勢力圏に入っている石。
・そこを狙って白1と打ち込む。
※これは四線の構えの弱点を突いており、次に白aで根拠を奪う手を見ている。
・すると、黒も黒4、6といった手で、自分の石を守らなければいけない。
※そこを一緒になって逃げていけば、急な攻めを食わずに済むし、場合によっては反撃も狙える。

【2図】(正解変化①)黒の弱い石を狙う
・黒2のボウシに対しては、白3が黒の弱点を突く手。
・黒4の受けを待って、白5とヒラけば、悠々と根拠を持つことができた。

【3図】(正解変化②)楽に治まる
・黒2、4などと打てば、左下黒は安泰であるが、その間に白も形を作ることができる。
※単騎で侵入したことを考えれば、大成功。

【4図】(失敗①)強い所に打ち込む
・白1と打ち込むのは、失敗。
・黒6まで、左下の黒が強くなってしまった。
※後は白が一方的に攻められるだけであろう。

【5図】(失敗②)黒に響かない
・また、白1と高く打ち込むのも、いまひとつ。
※黒の根拠を脅かしていないから。自分の根拠も作りにくく、かえって苦労する。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、81頁~84頁)

第5章 確認問題②


【実戦で正しく判断するために】
・第4章の内容はおもに次の点にあった。
〇肩ツキとボウシの違い
〇石を捨てるサバキ

※白石勇一氏が最も伝えたいことは、布石でも石の強弱が一番大事であるということ。
・相手の石を弱くできる場面はチャンスである。
・逆に自分の石が弱くなったり、いじめられたりすることは避けなければならない。

☆さて、第5章は確認問題である。
 第4章で学んだことを実戦に生かせるよう、練習しよう。

【実戦での考え方】
①相手に弱点があれば、そこを狙って打ち込む
②弱点が無ければ、消しを考える
③(圧倒的に不利な状況で戦いが始まってしまった場合には)苦しい逃げ出しより楽な捨て石
※①②の考え方ができていない人が多い。それは大きな失点につながる。
 だから、この考え方が実戦でできるようになるまで、しっかりと身に付けよう。
・捨て石を苦手にしている人は、捨てることを思い付かないから、戦いが苦しく感じた時に、自然と石を捨てる発想が浮かぶようになれば、碁は格段に変わるという。

・捨て石での注意点としては、石数が増えていくと、だんだん捨てにくくなっていくということである。
だから、戦うか捨てるかは、なるべく早い段階で決断するように心がけよう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、108頁)

第5章 確認問題②~第4問 白番


【第4問 白番】荒らしの手筋
・ここからは、プロ同士の対局を題材にしている。
レベルが違うとはいえ、考えるべきことは、そう変わりない。
・本局は、水間俊文七段との対局で、著者の白番。
・白20は黒a(15, 六)のカケから勢力を築かれることを嫌ったもの。
・さて、問題は黒21とトバれた場面。
☆左辺黒が大きくなりそうだが、どう邪魔しにいくか?

【1図】(正解)ボウシで消す
・黒石が多いので、白1とボウシで消した。
・黒2と受けてくれれば、白3と引き上げて、満足。
※黒地は隅や辺だけに限定されている。

【2図】(正解その後)後の狙い
・左上の黒地が大きく見えるが、後に白1、3の狙いがある。
※中国流、ミニ中国流などではよく出て来る形である。

【3図】(続・正解その後)
・黒1とカカえるぐらいであるが、白12までと生きることができた。
※こういう荒らしの手筋を知っていると、布石を無理せず打てるという。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、121頁~123頁)

第5章 確認問題②~第6問 白番


【第6問 白番】
〇藤沢里菜初段(当時)との対局で、著者の黒番。
・右上は最近の定石。白は右上で大きく治まったが、その代わり黒は右辺に勢力を得た。
・このまま放置すると、右下のシマリを中心に巨大な黒模様ができそう。
・白はどう邪魔しにいくべきだろうか?
 選択肢は多いが、惑わされてはいけない。


【1図】(正解)安全に消す
※右下一帯は黒に弱みが無いので、深入りしてはいけない。
・白1の肩ツキが正解。
※安全に黒模様の巨大化を防いだ。

【2図】(失敗①)深入り
・白1と入っていくところではない。
・黒8まで一例であるが、白がいかにも窮屈。
➡これでは生きても、よくない。

【3図】(失敗②)方向違い
※消す発想はよいが、右辺は黒石が最も多い所。
※そちらに入っていっては、肩ツキといえども、反撃されて苦しくなる。

【4図】(失敗③)無謀な打ち込み
・だから、白1の方の打ち込みなどは、最悪の結果を招く。
・黒4まで、もはや命の問題になっている。
➡万が一生きたとしても、ダメ。

【5図】(別解①)ボウシも正解
・他の手としては、白1なども考えられる。
※やはり安全に消す意味で、右下は少し大きくなる代わりに、aの打ち込みが残る。

【6図】(別解②)攻めを狙う打ち込み
・また、黒▲の攻めを狙う白1の打ち込みも、いい発想。
・ただ、黒4とトバれると、右下一帯が大きくなることを嫌い、実戦は1図だった。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、129頁~132頁)

第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)


「第6章 布石紹介」において、代表的な3つの布石を紹介している。
〇三連星
〇中国流
〇星とシマリの布石

・どんな布石作戦にも共通するのは、「大きさ比べに勝つ」ということであると、白石勇一氏は強調している。
そこを目指すための道筋は様々である。
〇三連星~四線を中心に、スピード最優先で大きく構えることを目指す作戦
〇中国流~高低のバランスを取り、足元を固めながら勢力圏を広げていく作戦
〇星とシマリの布石~じっくり腰を落ち着けて、相手の出方を見ながら打ち方を決めるような作戦
※その他、とにかく確定地を取っておき、後から模様の中に入っていって勝負、といった布石法もある。

・まず、勢力圏を広げる際には、入られても困らないように気を使っていることが大切である。
・基本的にはヒラキは五間幅までが無難とされている(応用で六間にヒラくこともあるが)
・また、相手の勢力圏の近くの石は、しっかりと守ること
(これは打っているとつい忘れがちだが、非常に重要)
☆布石の手順を丸暗記するのではなく、こういった考え方を身に付けてほしいという。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、143頁~144頁)

第6章 三連星①


【三連星①のテーマ図】
≪棋譜≫(145頁)
・黒1、3、5が三連星である。
⇒三連星と言えば、武宮正樹九段が有名である。
 三連星から豪快な模様を張る「宇宙流」は一世を風靡した。
※足早に勢力圏を広げ、入って来た白を攻めるのが基本パターンである。
※模様や攻めの碁が好きな方には、おすすめの戦法。
(地を気にしてしまうと、上手くいかない)

【1図:中央へ勢力圏を広げよ】
≪棋譜≫(146頁の1図)
※隅や辺を地にすることにはこだわらず、どんどん勢力圏を広げていく。
 また、辺へのヒラキ方は黒7など、なるべく高く構える。
※中央へ勢力圏を広げることを意識せよ。
【2図:勢力圏内での戦いは大歓迎】
≪棋譜≫(146頁の2図)
・白8は黒a(16, 六)と受けさせ、黒の勢力圏を小さくする狙いである。
・これに対しては、黒9などとハサむのがおすすめ。
※黒の勢力圏なので、戦いは大歓迎。
【3図:三々に入って来た石を閉じ込める定石】
≪棋譜≫(147頁の3図)
・ハサミには白10と三々に入れば無難。
・黒25まで長い手順になるが、これはぜひ覚えよ。
※三々に入って来た石を閉じ込める定石は、必ず必要になると、白石勇一氏は強調している。
【4図:模様の接点を逃すな】
≪棋譜≫(147頁の4図)
・白26に対しては黒27と、模様の接点を逃さず打つこと。
※このように大きく構え、白が中に入って来たら攻める作戦。
 a(10, 十八)のスソアキは当面気にしてはいけない。
【5図:変化図】
☆4図黒27で地を気にして黒1と打ったりすると、せっかくのスピードを失ってしまう。
・白20となって、白の方がのびのびした姿になる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、145頁~148頁)

第6章 三連星②


【三連星②のテーマ図】

☆黒の三連星に対し、白も三連星で対抗して来ることもある。
 この場合、黒がやるべきことは変わらない。とにかく大きさ比べに勝つことである。
(黒番であれば、思い切り広げている限りは大丈夫)

【1図:模様の張り合いの展開】
≪棋譜≫(152頁の1図)
・このような模様の張り合いの展開もある。
⇒こういう時は、黒9のような模様の接点を逃さないように。
(白に打たれると、白模様の方が大きくなりかねない)
【2図:急所を逃すな】
≪棋譜≫(152頁の2図)
・黒13は下辺の星(10, 十六)が狙われないように守る手である。
 同時に模様の谷を深くしてもいる。
・黒15は模様の接点である。
※こういう碁では逃がせない急所なので、迷わず打とう。
【3図:根拠を奪う常套手段】
≪棋譜≫(153頁の3図)
・黒模様が大きくなったので、白16と入りたくなるが、そこですかさず、黒17、19が根拠を奪う常套手段。
・黒23まで、白は非常に窮屈な姿になっている。
【4図:理想的な展開~サガリがよい攻め方】
≪棋譜≫(153頁の4図)
・白24、26と守れば、すかさず黒27のサガリがよい攻め方。
⇒白の根拠を奪いながら、a(17, 十七)の三々入りを無くしている。
※白を攻めている間に、自動的に黒地が増える、理想的な展開である。
【5図:変化図~三連星の趣旨に反した展開】
≪棋譜≫(154頁の5図)
☆1図黒9で本図黒1などもいい所であるが、白2がいかにも絶好点である。
⇒この後、黒a(6, 三)やb(3, 六)と入らされる展開は、嬉しいものではない。
 三連星の趣旨に反している。

【6図:変化図~スケールの小さい構えに】
≪棋譜≫(154頁の6図)

☆また、2図黒15で本図黒1と急に地を気にしてしまうのも、いけない。
⇒白2、4となると、いっぺんにスケールの小さい構えになってしまう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、151頁~154頁)



第6章 中国流①


【中国流①のテーマ図】
≪棋譜≫(155頁)
※中国流は三連星と同じく、足早に勢力圏を広げて白の侵入を待ち構える打ち方である。
 三線に石が二つある分、三連星に比べるとやや腰を落とした打ち方と言える。
※中央へ勢力圏を広げるスピードでは劣るが、隅や辺に侵入して来る手に対しては強い。
☆四線ばかりだと足元が気になる方には、こちらがおすすめ。

【1図:中国流の打ち方】
≪棋譜≫(156頁の1図)
※右辺を3手で済ませ、どんどん他へ勢力圏を広げていく。
・隙間が空いているので、白a(17, 六)やb(16, 十五)に入る余地はある。
⇒しかし、黒はそれを待ち構えている。
【2図:黒は下辺に展開して、白の侵入を待ち構える】
≪棋譜≫(156頁の2図)
・白6、8など、外側から黒の勢力圏を制限するのが、白の正しい態度である。
※その代わり、黒は下辺に展開して、白a(16, 十五)やb(11, 十七)の侵入を待ち構えることになる。
【3図:その後の展開①~一つの定石】
≪棋譜≫(157頁の3図)
・白1なら黒2から攻める。
・白17までは一つの定石であるが、黒は下辺、右辺が自然に固まる。
※先手も取れるので、黒18などに回り好調。
【4図:その後の展開②~右下を拡大する展開】
≪棋譜≫(157頁の4図)
・白1なら黒2から攻める。
・黒12までは一例であるが、白を攻めながら自然と右下を拡大する展開になれば、理想的である。
※このように、中国流も攻めを意識した布石なのである。

【5図:変化図①~白は右辺に入っても、根拠の無い石に】
≪棋譜≫(158頁の5図)
・1図の後、白1と入っても白7までしかヒラけず、根拠の無い石になってしまう。
・黒10までは一例であるが、白を攻めている間に、周囲の黒がどんどん強くなっていく。
【6図:変化図②~黒の嬉しい展開】
≪棋譜≫(158頁の6図)
・また、六間幅なので、白1と入りたくなるが、これも罠である。
※白は狭い所を何手も打たされることになり、黒は外側に石が増えていくので、嬉しい展開である。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、155頁~158頁)

第6章 中国流②


【中国流②のテーマ図】
≪棋譜≫(159頁)
・今度は白が変化して、白6から下辺に展開して来た。
⇒それなら、黒は上辺へ展開するのが自然な進行というものである。
☆一例として黒11までと構えた後の展開を考えてみよう。

第6章 布石紹介(星とシマリの布石)


第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)
【星とシマリの布石】
【テーマ図】
・シマリはまず一隅を確保し、拠点にする打ち方。
➡種類、向きなどは色々とあるが、いずれもただ地を稼ぐ手ではない。 
・滅多なことでは死なない2子なので、周囲にできる勢力圏も強力。
 これを意識して打とう。
※三連星や中国流に比べると、足は遅いが、隙の無い打ち方ができる長所がある。

【1図】
※小目からのシマリの特徴として、2手で隅を確保できている点が挙げられる。
※周囲に相手の石が来たとしても、危なくなる可能性は低く、安心して打つことができる。
【2図】
・白6と外側からカカると、黒も9、11と対抗して、模様の張り合いになりやすい。
・黒13でシマリを中心にしたしっかりとした模様ができ、これは黒にとって理想的な展開。
【3図】
・その後、白1と打ち込んで来た場合を考えてみよう。
※シマリがしっかりしているので、右側を心配する必要がない。
・黒6まで、どんどん攻めて好調。
【4図】
・右辺に白1と入るのも窮屈。
・黒10までは一例であるが、右辺や下辺の黒がどんどん固まっていく。
※白はただ逃げるだけになってしまうので、これも黒好調。
【5図】(変化図)
・2図白6で右辺に割り打ちする手もある。
・これに対しては、黒2から上辺を大きく構えるのが、一つの行き方。
・白3に石が来ても、既にシマっているので、大丈夫。
【6図】(変化図)
・白1に黒2と割り打つなどもよい。
※お互いに大きな模様ができない、じっくりした展開。
 相手の出方を見ながら、好みの打ち方を選べるのも、この布石の利点。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、163頁~166頁)

第7章 第3問~中国流


【第7章 第3問】
・鈴木嘉倫七段との対局で、著者の黒番。
・特に重要なのは、なぜ白14や白20の肩ツキを打ったかということ。
・これらの手で、右辺や上辺に打ち込む手の是非も考えてみてほしい。
・なお、スペースの都合上、解説していないが、黒19は上下の白を分断して、右辺白への攻めを狙いながら、下辺白の勢力圏の広がりを制限している。非常に重要な一着。

【1図】(実戦黒1~9)
・黒の中国流に対し、白6、8と下辺に勢力圏を広げて、対抗した。
・黒9は、上辺に勢力圏を広げつつ、右辺への侵入に備えている。
【2図】(実戦白10~黒13)
・白10も同様の意味で、左下の勢力圏を固めて、対抗した。
・黒11、13と広げられ、右辺から上辺にかけて、大きな黒模様ができそうだが…。
【3図】(実戦白14~白20)
・そこで白14の肩ツキから、消しに出た。
➡黒地を辺に限定すれば、十分という考え方。
・黒19にさらに白20と肩ツキしたのも、同様。
【4図】(変化図①)
・実戦白14で、本図白1のように入るのは、黒が待ち構えている所。
※周囲が黒石ばかりなので、一方的に攻められて、形勢を損なう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、179頁~182頁)

第8章 知識編


・本書の最終章は、知識編。
 前半は前作と同様、囲碁用語の説明。
 言葉は知っていても、意外と本当の意味や役割の理解が不完全の人も多い。
・後半は、定石や定型の中で、これを覚えておくと、必ず役に立つ、というものを詳しく解説している。
 俗に「定石を覚えて2目弱くなり」などという。 
 その真意は、定石の意味を理解せず、手順だけを丸暗記していると、状況に合わせない定石を平気で打って失敗してしまう、といったところ。
 それは一理あり、定石は打てば得点が入るような万能なものではない。
 正しい使い方を知らないのであれば、状況をしっかり見て判断し、自分の頭で考えた手を打った方がずっとよい。
※ただし、そうは言っても、知らなければなかなか打てない手もある。
 そして、その手を逃したばかりに形が崩れ、どうにもならなくなってしまうようなこともある。

・死活が絡んでいる場合は、さらに深刻。
 定石を知らなかったばかりに石が死んでしまったという経験は、覚えがあるのではないだろうか。
 また、気が付いていないだけで、大損をしているケースもよくある。
 例えば、生きている石に手を入れたり、逆に取れている石にさらに手をかけてしまうケースである。
(それは、場合によっては1手パス同然になってしまう)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、198頁)

囲碁用語


・囲碁用語については、次の用語を解説している。
【ヒラキとツメ】
【二間ビラキ】
【二間ビラキもどき】
【割り打ち】


【ヒラキとツメ】
・ヒラキとは、隅や辺の石から、辺に向かって展開する手の事を指す。
 通常は三線か四線である。
 目的は勢力圏を広げること、または弱い石を守ることである。
・ツメは相手の石に詰め寄り、ヒラキを妨害する手。
 目的は、主に攻めを狙うことであるが、相手の勢力圏を狭めたり、自分の勢力を広げる目的でも打たれる。
※また、多くの場合、ツメは自分の石からのヒラキにもなっている。ヒラキながらのツメということで、ヒラキヅメとも呼ばれる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、199頁)

【二間ビラキ】
・二間ビラキの強みは、非常に切られにくいこと。
 その強みを生かし、主に石を補強する際に使われる。
・図は上辺、右辺、下辺が三線、左辺が四線の二間ビラキ。
 中央は、ヒラキではなく二間トビ。
・試しに、白1から中央の二間トビを切りにいってみよう。
 ちょっと強引だが、一応白5までと切ることができた。
・では、上辺で同じように切りにいくとどうなるだろうか?
 黒6まで、逆に白が取られてしまった。
➡これが二間ビラキの強み
※四線の二間ビラキの場合は多少手段の余地は生じるが、やはり切るのは大変。

〇ただ、実際には、辺で安定する際には、三線の二間ビラキが基本。
 というのは、四線に足元に隙があるからである。
 白aにスベられると、簡単に根拠を奪われてしまう。
 一応、三線の二間ビラキに対して、bやcと足元から侵入することも不可能ではないが、離れた手なのでリスクもある。
・よって、三線の二間ビラキは多用されるのだが、2手だけで生きているわけではない。
 下辺のように、両側に詰め寄られている時は、気をつけよう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、200頁)

【二間ビラキもどき】
・右上白1のハイコミを打たれ、右上黒が心配。
・そんな時は、右辺にヒラいておく必要があるが、白石にくっつける黒2は進みすぎで、黒aが正着。
※この黒2のような手を、著者は「二間ビラキもどき」と呼んでいる。
 二間ビラキと違って俗筋の代表であるが、残念ながらアマの人には大人気(笑)

・この後の進行を左上に示しておこう。
・白2のオサエに黒3と打ちたくなるが、白4と「2目の頭」をハネられてしまった。
※黒はダメヅマリで不自由な形になっている。
・この後、白10までは代表的な進行だが、黒石が内側に引きこもり、外の白はすっかり強くなってしまった。
※この二間ビラキもどきが悪いと理解しておくと、他の場面でも役に立つ。

〇右下を見てほしい。
黒▲のは隅の星からの五間ビラキであり、多用されるが、何故ここまでヒラけるのかを考えてみよう。
・白1のカカリに対して、黒2、4は攻めの常套手段。
・この後、白は二間ビラキができない。
 白bと打つのは「もどき」であり、よくないことはこれまでの図から明らか。
※つまり、白は根拠の確保が難しく、弱い石を作る結果になるのである。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、201頁)
【割り打ち】
・相手の勢力圏を分断するため、真ん中付近に打つ手を割り打ちと呼ぶ。
・なぜ真ん中かと言えば、次にどちらかの方向にヒラいて、根拠を確保できるから。
・カカリなどに比べると、急な戦いになりにくいという特徴がある。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、202頁)

定石や定型


【定石や定型】
・テーマ図1コスミツケへの三々・①
・テーマ図2コスミツケへの三々・②
・テーマ図3コスミツケへの三々・③
・テーマ図4ハイコミからの置き
・テーマ図5大々ゲイマへの打ち込み
・テーマ図6三々に入った石の閉じ込め方
・テーマ図7三々ツケからの攻防

【テーマ図5:大々ゲイマへの打ち込み】
≪棋譜≫(214頁のテーマ図5)
・白△の大々ゲイマの構えは、三間なので打ち込みが狙える。
・黒1と打ち込み、白2に黒3の割り込みがポイント。
※シチョウ関係があるので、あらかじめ確認してから、決行しよう。

【1図:通常の形】
・白1のオサえれば、穏やか。
・黒6まで白の根拠を奪い、aと切る狙いも残った。
※黒としては、満足できるワカレ。
【2図:白1の成立はシチョウ関係次第】
・白1と切れば、黒2と逃げる一手。
※この後、シチョウ関係が問題になる。
【3図:シチョウその1】
・まず、白1と取る手。
・これには黒2~6とシチョウに抱え、この石を取れるかどうかが問題になる。
・シチョウが悪くて逃げ出されてしまうと、黒バラバラでいけない。
【4図:シチョウその2】
・もう一つは、白1とつなぐ手。
・すると黒2とアテ、これもシチョウ。
※3図とは方向が違うので、注意。
 打ち込む前に、両方のシチョウ関係を確認しておこう。
【5図:黒失敗】
・白1のツケに黒2と打ってしまうのは、よくある失敗。
・白3と切られて、ダメヅマリになり、苦しくなる。要注意。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、214頁~215頁)

【テーマ図6:三々に入った石の閉じ込め方】
≪棋譜≫(216頁のテーマ図6)
☆三々に入って来た石への対応は、定石の中でも非常に重要。
⇒間違えると、いっぺんに形が崩れてしまうこともある。
 特に次の一手は、絶対に逃してはいけない。
【1図:絶対の一手~ノビ】
≪棋譜≫(216頁の1図)
・黒1のノビが絶対の一手。
※これはハサミが黒(8, 十七)以外のどこにあっても、あるいは何もない場合でも同じ。
 自分の2目の頭であり、相手の2目の頭も狙う、形の急所なのである。
・白2と守れば穏やかで、黒3と止めて、定石完成。
【2図:内→外の手順で切る】
≪棋譜≫(216頁の2図)
・白1の押しが少し難しい手。
・これには黒3から切りを2つ入れるのがポイント。
【3図:目的達成】
≪棋譜≫(217頁の3図)
・白1を待って黒2とハネれば、白a(7, 十五、つまり黒2の右)とハネられなくなっている。
・白3と1目取るぐらいなので、黒6まで閉じ込めることができた。
※ハサミの位置が変わっても、大抵は同じ打ち方で閉じ込めることができる。
【4図:切る順番が大事】
≪棋譜≫(217頁の4図)
・2図で切る順番を間違えて、黒1は、白2と取られて失敗。
※白は、1目ポン抜いて厚くなり、黒(8, 十七)の存在がかすんでしまった。
【5図:急所を逃す】
≪棋譜≫(217頁の5図)
※もし1図黒1のノビを逃してしまうと、どう打ってもよくならない。
・白4に切りが入り、黒の外勢は崩壊するだろう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、216頁~217頁)

【補足】布石 削減の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より


削減の手筋


・拡大と逆の立場にあるのが削減。
 相手のモヨウ拡大を未然に防ぐのがその目的である。
 双方のモヨウが接しているときは、削減の手段が拡大の手段を兼ねることも多い。
・単騎で敵のモヨウに乗り込むばあいには、主として第三線のヒラキに対する圧迫手段となる。
 早期にキメては相手を固めただけとなるし、時期が遅れては逆襲の恐れが生じる。
・削減の基本的パターンは限られており、むしろ応手に変化が多い。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、72頁)

【1図】(カタツキ)
・白1がカタツキ、最も深い削減手段である。
・黒2、4が基本の受けで、白の足もとをさらって将来の攻めを見込む。
※黒モヨウの谷がごく深ければ、白1にaなどと攻められて、危険。
※左方にも黒モヨウが広がっていれば、黒4でbとオサれて、つらい。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、72頁)

カタツキ


【カタツキ 黒番 原図】
・黒の形は厚みともいいきれず、白からヨリツかれては、上辺が盛り上がる。
・機先を制して、上辺を消す急所はどこか。

【1図】(ボウシ)
・黒1のボウシなどでは、白2と受けられて、上辺がぴったりの構えになる。
・白aとオサれては、まだけっこううるさい。
・といって、黒aのオシは損がさきだし、黒bは白1で苦しい戦い。

【2図】(黒1、急所)
・aのオシを含みに、黒1とカタにカケて、上辺を第三線の地に限定してしまう。
・白2、4と出て来ても、これで行き止まり。
・黒13とキッて、この厚みは相当なものだろう。


【3図】(伝家の宝刀)
・前図白6で1とツイだときにかぎり、黒4のオシから6と打つのである。
※黒8ののち、白aなら黒bとオサえてよく、白bなら黒aのタタキを打つ。
※白1は黒に調子を与えるだけだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、78頁)


≪囲碁の布石について プロローグ≫

2024-10-27 18:00:06 | 囲碁の話
≪囲碁の布石について プロローグ≫
(2024年10月27日投稿)

【はじめに】


 布石は、家造りにたとえれば土台の段階で、碁では重要な分野である。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、3頁)
三村智保九段によれば、布石には、「広げる」と「固める」という二つの要素があるとされるという。
⇒広げることは、攻めの布石につながる
 固めることは、シノギの布石につながる
(この二つの要素が複雑にからみ合うため、「布石の必勝法」を作ることができない)

三連星:「広げる」という布石の原則に従えば、三連星が有力。つまり「攻め」の布石。
小目の布石:小目に打つと、「固める」打ち方になり、「シノギ」の布石。そして、お互いが堅い布石を選ぶと、細かいヨセの碁になる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、14頁~20頁)

 布石は、碁でいちばん自由な分野であるが、自由すぎるので、アマチュアにはかえって難しい分野でもある。
 今回から、囲碁の布石について、次の著作を参考にしながら、考えてゆきたい。
 まずは、初回ということで、プロローグ的に、主な著作の概略を紹介しておく。

〇白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年
〇三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年
〇高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年
〇瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年
〇山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]
〇大竹英雄『大竹英雄の基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]
〇小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年
〇趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]
〇林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]
〇依田紀基『基本布石事典 上(星・小目の部)』日本棋院、2008年[2013年版]
〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年



【白石勇一『やさしく語る 布石の原則』(マイナビ出版)はこちらから】

さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・白石勇一『やさしく語る 布石の原則』の「まえがき」と本書の内容
・高尾紳路『囲碁 布石入門』の「はじめに」
・三村智保『三村流布石の虎の巻』の「まえがき」
・広いところから打つ~三村智保『三村流布石の虎の巻』より
・攻めの布石・シノギの布石~三村智保『三村流布石の虎の巻』より
・一段落に気をつける~三村智保『三村流布石の虎の巻』より
・星の定石について~趙治勲『布石と定石』より
・昭和期の布石の変遷について~林海峰『基本布石事典(上)』より




白石勇一『やさしく語る 布石の原則』の「まえがき」と本書の内容


・白石勇一氏の前作『やさしく語る 碁の本質』では、中盤戦、つまりお互いの石がぶつかり、弱い石ができてからの考え方、打ち方がテーマであった。
中盤戦は地を気にせず、石の強弱を第一に考えて打てばよいと主張している。
自分の弱い石は守り、相手の弱い石を攻めることの重要性、またその方法について解説していた。

・一方、本書は、その前の段階、布石がテーマである。
布石を上手く打つことができれば、自分に弱い石ができなかったり、相手の弱い石を作ることにもつながる。そうなれば、中盤戦も有利に戦うことができる。
布石は中盤戦のための大事な準備区間であるという。

・第1章では、勢力圏という概念について説明している。それを理解すれば、布石で何を目指すべきなのか、イメージが掴める。
・第2章、第4章では、局面によってどういう打ち方をすればよいのか、その指針となる「原則」について説明している。
・そして、第3章、第5章は確認問題である。第2章、第4章で学んだことを、しっかりと身に付けてほしい。
・第6章は布石紹介である。アマ同士の対局でよく打たれる布石と、その特徴を紹介している。
・第7章には、それまでの内容の総まとめとして、実力テストがある。どれだけ本書の内容を理解し、身に付いているかを確認することができる。
・第8章は知識編である。覚えておくと役に立つ形や定石などを収録してある。
(本書の内容を理解するために役立つものも多いので、最初に第8章から読んでもよいようだ)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、2~3頁、11頁)

高尾紳路『囲碁 布石入門』の「はじめに」


・初級の人は、入門時に使う九路盤から十九路盤に変わった途端、その広さにとまどって、迷子になったような気分になり、どこに打てばよいか分からなくなってしまう。
 それは、中級、上級と進級しても同じようなものである。
・なぜ、どこに打てば良いかが分からなくなるかと言えば、布石の場合は、死活や手筋の分野と違って、明確な正答が出にくい分野だからである。
・布石は、家造りにたとえれば土台の段階で、碁では重要な分野である。
 そこで、どこに注意すれば布石の大筋がつかめるか、実戦に臨んで応用できるようになるためには、どこがポイントかに心掛けて、構成したという。
・本書では、大筋の方向を間違えないための目の付け所はどこかに絞り、細かいことは省き、中盤の戦いにおいても応用がきき、勝率のアップにつながるような基本的な考え方が身につくように心掛けたそうだ。
(それは、初段以上になっても、十分通用する布石の考え方であるとする)
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、3頁)

三村智保『三村流布石の虎の巻』の「まえがき」


・布石は、碁でいちばん自由で楽しい分野である。
 初手を天元から打っても良いし、辺から打っても、別に悪くなるとは言い切れない。
 好きに打って良い。
・プロの布石や定石にあまりとらわれずに、自分なりの作戦を楽しんで欲しいと、著者はいう。
 ただ、初級の人から「どう考えたらよいのか、何をしたらよいのか分からない」と途方にくれた声をよく聞く。 
(確かに自由すぎるのも困りもの)
・本書では、布石の基本の考え方に加え、著者のお勧めの作戦も示している。
 一手一手の意味を正確に分かろうとするよりも、流れを感じてほしいという。
 繰り返し手順を見ていると、だんだんコツがつかめてくる。
・布石は動くものである。
 自分が今ここに打って、相手がこうきて……こんな感じになったらいいな、と想像しながら打つことが大事だという。
➡楽しみながら打てば、上達も早くなる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、3頁)

広いところから打つ~三村智保『三村流布石の虎の巻』より


・布石のはじめは空き隅から打ち始める。
(江戸時代の頃からもその原則は変わっていない)
⇒やはり、空き隅がもっとも「効率がよい」と思われているから。

【参考図:星・小目・三々・目外し・高目】
≪棋譜≫(8頁の1図)

A:星、B:小目、C:三々、D:目外し、E:高目

※すべてが三線から五線の間に入っている。
⇒これは、布石そのものの原理である
<参考>
・二線の石は地が小さいだけではなく、封鎖されやすく死にやすいというマイナスがある。
・なお、一線に打つのは論外。
 一線は地がまったく増えない上に、根拠もない。
 布石における一線は最悪。

三々:三線~五線にかけてが効率がよく地を作るエリア 
   もっとも堅実に隅のエリアを確定地にする打ち方
星 :三々よりも風船をふくらませたようなイメージ
   効率よく地を作れる可能性がある半面、破裂する危険性もある
高目や目外し:少し辺に向けて力を入れる打ち方
   よく打たれている基本の打ち方であるが、難解な定石になることも多く、使いこなすには、ある程度の知識が必要
(本書では、定石の細かい話はしないので、高目や目外しの詳しい解説については他書に譲るという)
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、8頁~13頁)

攻めの布石・シノギの布石~三村智保『三村流布石の虎の巻』より


【攻めの布石・シノギの布石】
・布石は、まず空き隅に打つ。
 その後が問題である。基盤があまりにも広くて迷ってしまう。
・迷うのは、基盤が広いからだけではない。
 「隅の次は辺に、辺の次は中央に、とにかく広いところを順番に打っていけばいい」という布石の原則はある。
 ただ、この原則が、布石の100%を表してはいない。
・布石には、「広げる」と「固める」という二つの要素がある
⇒広げることは、攻めの布石につながる
 固めることは、シノギの布石につながる
(この二つの要素が複雑にからみ合うため、「布石の必勝法」を作ることができない)

三連星:「広げる」という布石の原則に従えば、三連星が有力。つまり「攻め」の布石。
小目の布石:小目に打つと、「固める」打ち方になり、「シノギ」の布石。そして、お互いが堅い布石を選ぶと、細かいヨセの碁になる。

<まとめ>2種類の布石
①「攻め」の布石
風船をふくらませるかのように、自分のエリアをどんどん広げて相手が入ってくるのを待ち、その石を攻めて主導権を握る。
②「シノギ」の布石
まずはしっかりと自分の構えを固めて、後から相手の模様に打ち込んで荒らし、地でリードを奪うことを目的とする。

※どちらの布石を選ぶかは、「棋風」と言われる好みの問題。
・相手との兼ね合いがあるので、お互いに模様を広げ合って、大乱戦になるような碁もあれば、お互いに堅く打って細かいヨセ勝負になる碁もある。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、14頁~20頁)

【具体例】
【三連星の大きな模様】
≪棋譜≫(21頁の2図)

・白1の受けから黒2とヒラく。
➡大きな模様を作ることができる

【ハサミの場合】
≪棋譜≫(21頁の3図)

・ただし、白は1とハサんでくる可能性もある
※ここで黒の応手によっては、布石の方向が変わる
中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石

第5章 一段落に気をつける~三村智保『三村流布石の虎の巻』より


・アマチュアにとっては、「攻めの布石」一本槍で実戦をこなすことが棋力向上の近道でああろうという。(序章や第1章参照)
 しかし、本当の力をつけるためには、総合的にいろいろな知識を身につけ、判断力を磨いていく必要がある。
・第5章では、「一段落の判断」について解説している。
 このことは、技術だけではなく、心構えの問題という面もある。
 アマチュアが布石で遅れを取る原因のほとんどは、この「一段落の判断」ができないことにあるらしい。
 一か所を打ちはじめると、いつでもそこから離れることができず、相手の手についていって、小さいところを打ち続けてしまう。

☆それでは、何をもって一段落したと判断すれば、いいのだろうか?
(毎局ごとに違う形が出てくるのだから、暗記しようとしても意味がない)
⇒三村智保氏によれば、一段落の基準となる「お互いに弱いところや攻められる石がない状態」を見分ける考え方を身につける必要があるとする。
 つまり、自分の石が攻められず、相手の石を攻めることもできなくなったと思えば、そこから目を離す。これが大切であるそうだ。

・アマチュアは、「いつ手を抜いていいかわからない」人が多い。
 たしかに相手がどこに打ってくるかわからないし、何か自分の見落としがあるのではないかという不安もあるだろう。
 けれど、自分が「もう一段落した」と思ったら、他の場所に大きいところを探す習慣をつけるようにするとよいと、アドバイスしている。
(その結果、実際はまだ一段落していなくて、攻められたり、大きなキズを作ったりしても、それは経験だと割り切る。何となく、いつまでも同じところを打ち続けていても、上達にはつながらない)
第5章では、対局中の心がけについても言及している。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、204頁)

星の定石について~趙治勲『布石と定石』より


趙治勲氏は、「私の選んだ星の定石」で、次のようなことを述べている。
古今の高手に受け継がれ、教えられた定石は、約2万もあると言われている。もちろん、全部覚えることなどは無理。しかし、基本的な定石をマスターすることは、それほど大変なことではない。

大切なことは、定石の手順を暗記することではない。
石の流れを読み取り、“定石の成り立ち・心”を知ることである。一手ずつ確かめながら勉強してほしいという。

星の性格


盤端から4の四に位置している星は、次に示すような性格を持っている。
①三々が空いているため地になりにくい。
②中央への戦いには有利。
③星からバランスよくヒラけば、大模様が完成する。
④もともとが守りより、攻め指向で、相手の石を“高い位”から攻撃して効果をあげる。
⑤定石の型が、わりあい簡明である。
⑥置碁では、星を上手に生かして打てば、勝てるが、そうでない場合、相手にアマされることがたびたびである。
⑦互先では、星から三連星、タスキ星、中国流と、各種の布石展開が見込まれ、もし黒番と仮定すれば、ほとんど相手にじゃまされずに構えることができる。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、164頁~165頁)

昭和期の布石の変遷について ~林海峰『基本布石事典(上)』より


●新布石革命
①昭和8年秋、新布石革命
 新布石時代の木谷実と呉清源の星打ちに関する考え方の差
②昭和30年前後の第二の新布石時代
③昭和50年前後の第三の新布石全盛期(中国流や二、三連星)
※20年周期で布石の変遷は興味深い。

①昭和8年秋、新布石革命
・昭和8年秋、新布石革命は燎原の火のごとく燃え盛り、囲碁界を席捲した。
 主唱者は木谷実と呉清源である。
 その三連星ないし星打ちが中心となって、高目、大高目、5ノ五、三々などの特殊戦法による中原志向が、旧来の布石法の価値観と鋭く対立、これをひっくりかえそうとした。
・旧手法は、第三線が主体の考え方なので、これを否定するためにはどうしても石の位置が高くなり、中央が主戦場となる。
・黒1、3、5の星の三連星は、位を高く保ち、勢力を誇示するのに絶好の拠点となった。
・三連星主唱者の木谷実が、前田陳爾の黒の三連星に対して、白の三連星で向かっていった。
 新布石時代の木谷実と呉清源の星打ちに関する考え方の差

≪棋譜≫
【木谷実vs前田陳爾】
昭和11年 春季大手合 
 黒六段 前田陳爾(15目勝)
 白七段 木谷実


②昭和30年前後の第二の新布石時代
③昭和50年前後の第三の新布石全盛期(中国流や二、三連星)
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、3頁~4頁、74頁~81頁、127頁)

〇中国流
・本書では、黒が第五手目を辺の第三線に打つ形を中国流、そして第四線の高い位置に打つものを新中国流という表現に統一したという。
(五手目の高い中国流は中国流を発展是正した意味をこめて、修正中国流ともいわれているが、ここでは新中国流で通したそうだ)

・中国流の布石法は、本来、日本で生まれたものである。
 それが中国に渡り、中国から逆輸入されて、この名がある。
 ここでは中国流を生むに至った背景と、それに共通する布石法が従来から日本にあったことを述べて、この部の導入としたいという。

・中国流布石は、昭和30年台(表記ママ)に安永一を中心とするアマチュア強豪の間で研究され、打たれていた。
 そして、安永が中国に渡り、中国選手にこの打ち方を紹介、当地でその技法が検討され、黒の5の手が第三線の低い中国流として日本に逆にもどってきた。
 また、昭和41年に訪中した島村俊広がこの布石法の感化を受け、ひと頃、島村流の名でプロ碁界を悩ませたのは、衆知のところである。
・日本の囲碁界で中国流が流行し、これを実戦に用いる棋士が多くなったのは、昭和40年台の後半から50年台にかけてである。
 武宮正樹にみられる大模様作戦が二、三連星の星打ちを基調としたのに対応し、中国流と新中国流が爆発的な人気を呼び、これら勢力重視と中央志向の風潮は、第三期の新布石時代再現の様相さえ呈するに至った。
・ある時期の加藤正夫は黒番のすべてを新中国流に徹し、抜群の成績とともにこの技法の発展に寄与した。
・中国流がこれだけ囲碁界に人気を得た原因として、一時期実利主義に走った全体的な傾向に対する批判と従来の布石を立体的な視点でとらえ、これに流動性を与えようとする時代的な要求があったことを、あげねばならぬだろう。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、308頁、310頁)

〇特殊戦法としての天元
・特殊戦法といえば、天元をはじめ第一着手を辺に打ったり、隅の大高目や5ノ五等に配したりと、そういう種類の打ち方の総称である。その多様性はいうまでもない。
・昭和ひと桁の新布石革命前後の久保松勝喜代の天元打ちは、その熱心な研究と共に有名である。大手合の黒番で天元を打ち続け、同じ関西の棋士陣営に大きな影響を与えた。
・すでに、天元は、寛文10年(1670)の道策・算哲の御城碁で打たれているなど、歴史は古いが、地のあまさとその勢力活用法に問題があって、技術的な発達をみていなかった。
 中原を志向する新しい試みとして、脚光を浴びるようになったのは、昭和に入ってからであり、今も有力な序盤の技法として、研究の対象になり得るものである。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、458頁)




≪囲碁用語と英語~おもにYou Tubeおよびレドモンド九段の著作より≫

2024-10-20 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁用語と英語~おもにYou Tubeおよびレドモンド九段の著作より≫

【はじめに】


 今回のブログでは、「囲碁用語と英語」と題して、英語の囲碁用語について考えてみたい。
 以前のブログで、マイケル・レドモンド九段の次の著作を紹介したことがあった。
〇マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
 その際に、次のようなことを記した。

パリ五輪でバッハ会長は、いみじくも、次のように語り、選手たちをたたえた。 
「五輪は平和を作ることができないのは分かっている。だが、五輪は平和の文化を創り、世界をインスパイアすることができる」と。
 さて、スポーツの祭典であるオリンピックのみならず、囲碁という文化も、「平和の文化を創り、世界をインスパイアすることができる」のではないかと思っている。
 例えば、呉清源氏は、1928年、瀬越憲作氏らの尽力により、14歳で来日し、川端康成とも親交があり、『名人』の中でも、“天恵の象徴”と表現されている。そして、木谷実氏とともに、新布石時代を築いた(平本弥星『囲碁の知・入門編』30頁~31頁)。また、呉清源—林海峰—張栩という、法灯ならぬ“碁灯”を継承する(張栩『勝利は10%から積み上げる』18頁、60頁、99頁)。
 また、原爆下の対局で知られる、島根出身の岩本薫氏は、戦後、アメリカなどに囲碁の海外普及に後半生を捧げた(平本弥星『囲碁の知・入門編』36頁~38頁)。
 このように、囲碁文化の歴史は、平和および国際性と密接に関連している。

 マイケル・レドモンド氏は、奇しくも、4年後の2028年に開催されるロサンゼルスと同じ、カリフォルニア州出身のプロ棋士である(サンタバーバラ)。日本では数少ないアメリカ出身のプロ棋士である。妻は中国囲碁協会の牛嫻嫻三段、牛栄子四段は姪である。10歳の頃に物理学者の父親に教えられて、囲碁を始めたという。その後の活躍は、プロフィールにある通りである。

【マイケル・レドモンド氏のプロフィール】
・1963(昭和38)年5月生まれ。米国カリフォルニア州出身。大枝雄介九段門下。
・1977年院生。1981年入段。1985年五段。2000年九段。
・1985年留園杯優勝。1992年新人王戦準優勝。1993年棋聖戦七段戦準優勝。

 さて、このレドモンド九段の著作において、目次を見てもわかるように、
〇<コラム>世界の人と碁を打とう!(用語編)
〇<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)
 そこには、英語の囲碁用語について、記してある。このことが今回のブログのテーマを考えてみるきっかけとなった。
 レドモンド九段の著作のみならず、You Tubeやネットのブログ記事などを調べてみた結果を今回、まとめてみた。

<ダメ、ダメヅマリ、カケツギの英語の囲碁用語について>
・英語の囲碁用語について調べているうちに、ダメ(駄目)の意味を考え直す機会となった。
 日常用語の駄目と違って、囲碁用語としてのダメには、呼吸点(「ウィキペディア」にも記述あり)、活路(高川秀格・名誉本因坊の説)といった意味がある。
 ダメの英訳のlibertyは、日本語の日常用語の「駄目」より、意味合いないしニュアンスとしては、呼吸点、活路に近いのではないか?
 ダメヅマリは、英語でshortage of liberties(直訳すれば、自由の不足、欠如)である。
 ダメの意味の一つが、呼吸点、活路であることを知っていれば、ダメヅマリとは、shortage of liberties(shortage=short+-age(状態))だから、次のような連想が働く。
 自由の不足➡呼吸点ないし活路の不足➡息苦しい状態、活きづらい状態
と考えれば、ある程度、しっくりと納得できるのではないか?
(これは私の“勝手読み”なので、ご注意を)



【マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』(日本放送出版協会)はこちらから】





マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
【目次】
1章 攻めは分断から
 攻めの考え方①
 攻めの考え方②
 中央での戦い
 閉じ込める
 封鎖を避ける 
<コラム>世界の人と碁を打とう!(用語編)

2章 両ガカリ対策
 両ガカリ対策
 戦いはまず頭を出して
 閉じ込めて主導権を握る

3章 ハサミで戦おう
 積極的なハサミ
 弱点をねらう
 戦いはスピード
 全局を視野に
 ボウシの威力
 まず封鎖
 閉じ込めれば大模様Ⅰ
 閉じ込めれば大模様Ⅱ
<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)
 
4章 見合いと振り替わり
 オサえる方向に注意
 カカっていこう
 小目に挑戦
 囲わせて勝つ
 切る・切られる
 見合いをみつけよう
 簡単! 高目と目外し




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・英語の囲碁用語~ レドモンド『攻め・守りの基本』より
・英語の囲碁用語(レドモンド九段の解説)~Hatena Blogより
・Nihon Kiin Go Channel for overseas
・【囲碁】Techniques of Capturing Race by Tsuruyama Atsushi 8P
➡眼あり眼なし、大ナカ小ナカ、タヌキの腹つづみの問題
・【補足】タヌキの腹つづみの問題~山下敬吾『基本手筋事典』より

・You TubeチャンネルNYIG-Go~Stephanie Yin
【雑感】石の形と手筋と動物名







碁は世界語


・平本弥星氏は、「碁は世界語」と題して、次のようなことを述べている。
 国や文化の違いを超えた人々の交流が爆発的に増加し、その勢いはますます加速している。碁は言語や宗教の壁を越えて、世界中に広まりつつある。

・平成12年(2000)は、次の点で、囲碁が内外メディアで話題になり注目されたという。
①学生時代に碁をよく打ったというビル・ゲイツの立教大学でのスピーチ
②米国出身の棋士マイケル・レドモンド(1963-)が九段に昇段したこと
※日本棋院には、当時3名の欧米出身現役棋士がいたという。
タラヌ・カタリン四段(ルーマニア、1973-)
ハンス・ピーチ四段(ドイツ、1968-)

・世界チャンピオンを決める個人戦は、昭和63年(1988)の第1回世界選手権戦・富士通杯が最初。
(富士通杯には、日中韓のほか、中華台北、欧州、北米、南米の代表(アマも含む)が参加)
・1992年に韓国で、1999年には中国で、世界戦が誕生。
・近年は、世界戦で韓国選手の活躍が目立ち、韓国では、4人に1人が碁に関心をもっているそうだ。
・欧州では、毎夏に数百人の選手が参加して、ヨーロッパ・ゴ・コングレスが開催され、イタリアに在住する若手女流棋士、重野由紀二段(日本棋院)は、囲碁普及に情熱を傾けている。
・日本棋院と提携のパンダネットやWWGOは日本語で対局できる。
・ゴ学は日本語と碁だけの平本氏も、ハンド・トーク(手談)しているという。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、240頁)

2024年9月26日投稿後、英語入力エクセルにて

英語の囲碁用語~ レドモンド『攻め・守りの基本』より


1章 攻めは分断から
<コラム>世界の人と碁を打とう!(用語編)16頁、58頁

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、16頁、58頁)

マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
世界の人と碁を打とう!(用語編)16頁、58頁
世界の人と碁を打とう!(用語編)

手 move
アタリ atari ※チェスでの王手「check」という人も見かけるが、正しくない
一間トビ one space jump
星 Star Point
天元 Center Point ※「テンゲン」で通じることもある
小目 3-4 Point ※「Point」は星以外の隅の手の表現にも使われる
ツギ connection
連絡する connect
カタツギ solid connection
カケツギ diagonal connection ※中国由来のtiger's mouth
ケイマ knight's move ※チェスのknight(桂馬)の動きという意味
大ゲイマ large knight's move
サルスベリ monkey jump
地 territory
目(モク) point(s)
見合い interchangeable alternatives
振り替わり exchange または trade
シマリ corner enclosure
一間(二)シマリ one(two) spacecorner
enclosure
小(大)ゲイマシマリ small(large) knight's
cornerenclosure
手順 the order of moves
正しい手順 the correct order of moves
コウ ko
ヨセコウ an indirect ko
布石 Opening または Opening moves
中国流の布石 The Chinese opening
中盤 middle game
終盤 endgame
早碁 lightning Go


3章 ハサミで戦おう
<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)164頁
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、164頁)

<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)164頁

碁を打ちましょう
友達に気楽に呼びかけるなら
Let's play Go!
少し丁寧で上品に誘うなら
Shall we play Go?
 
どのくらいお打ちになりますか?
How strong are you?
私は3級(段)です。
I am 3kyu(dan).
※ちなみに欧米の段級はたいへん辛いので、ご用心。
地域にもよるが、日本の段級よりも、2~3段厳しいことが多い。
 
どんな手合いですか?
What is the handicap?
互先で打ちましょうか?
Shall we play even?
 
それはいい手ですね。
That is a good move.
 
終わりですね?
Are we finished?
数えましょうか?
Shall we count?
 
【結果の確認】
黒の五目半勝ちです。
Black wins by five and a half points.
※「白」なら「white」
 
※秒読みは、second reading であるが、もっと広い意味で over time という
言葉を使うこともある。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、164頁)

英語の囲碁用語(レドモンド九段の解説)~Hatena Blogより


・レドモンド九段が英語の囲碁用語について、解説したブログがある。
 すなわち、
〇Hatena Blog
独男の雑記帳「囲碁英語~2023年7月碁聖戦配信から」(2023年11月17日付)
がそれである。
 その内容を紹介しながら、英語の囲碁用語について考えてみたい。合わせて、その用語を使った例文をあげておく。

・2023年7月に行われた棋戦解説で、レドモンド九段が英語の囲碁用語を紹介していたので、記録しておきたいという。
・2023年7月15日、金沢市で開催された第48期碁聖戦第2局、井山碁聖vs一力棋聖
・佐田篤史七段がYou Tube解説、そこに大盤解説のレドモンド九段が訪れた。
 対局解説と並行して、佐田七段がレドモンド九段に囲碁用語を英語でどう呼ぶかを質問して場をつないでいったそうだ。

・<英語囲碁用語集>には、次のようなものがある。
 囲碁用語英訳集――囲碁のパンダネット
 British Go Journal―Glossary Of Go Terms /Brtitish Go Association
Japanese Go Terms at Sensei’s Library

<動画の中で紹介された用語>(2:13:45あたりから、2:27:16あたりまで)
・ツケ:attachment tsukeでも大体通用する。
・ハネ:hane 適当な英語がなく、英訳されず使われた。
・ツギ:connection
・カタツギ:solid connection
・カケツギ:カケツギ(掛け継ぎ)の直訳で hanging connection。
 ※中国ではカケツギは「虎の口」と呼ばれ、最近は中国語由来の tiger’s mouthが使われてきている。
・シチョウ:ladder(はしご)
・ゲタ:net(暴れようとする石を網で捕らえるイメージ)
・両アタリ:double atari
・ヌキ:take(つまり、特別な用語というより単に石を「取る」意味)
・手筋:チェスにならって、tacticsと呼ばれることがあるが、「筋のよさ」の意味合いがtacticsでは出ず、ぴったり「手筋」の訳語になっていない。昔の強い人は日本語を使って tesujiと言ったそうだ。
・コウ:ko
・一手寄せコウ:one-step approach ko
・セキ:seki
※ネットを調べれば用語集などは見つるだろうが、ここではこの動画の中で紹介された用語ということで記録しておくという。
 レドモンド九段のわかりやすい説明と、佐田七段の素直な質問と反応がよかったと記す。



〇ダイアナ・ガーネット(Diana Garnet)さんによる囲碁の例文

・Igo is a territory game.
囲碁は陣地取りゲームです。
・Run away with kosumi or a one point jump.
 逃げるときはコスミや一間トビです。
・Approach with the Knight’s Move.
 攻めるときはケイマです。
・You capture stones by surrounding them.
 石は囲むと取れます。
・Achieve stability with a two-point jump.
 二間ビラキで安定させよう。
・Attack weak stones with a pincer move.
 弱い石はハサんで攻めよう。
・Be careful not to extend too far!
 ヒラキ過ぎには注意しよう!
・Let’s use the Cap Block.
 ボウシで封鎖しましょう。
・Use standard joseki moves.
 定石を使ってみよう。
・Analyze the strengths and weaknesses of the stones.
 石の強弱を判断しよう。
・Secure the corner for your own.
 隅で実利を確保しよう。
・The battle starts with the framework.
 模様の碁で戦います。
・Be aware of triangles in your framework.
 模様は三角形を意識しましょう。
・Restrict your opponent’s framework.
 相手の模様を制限しよう。
・Stop them from coming out into the center.
 中央へ出るのを止めよう。
・Aime for your opponent’s weak points!
 相手の弱点を狙おう!
・Be careful of how much and the direction of extensions.
 広さや向きに注意しよう。
・The shoulder hit is super effective.
 肩ツキは効果的です。
・Invade enemy territory with a shoulder hit or cap.
 肩ツキやボウシで侵入しよう。
・Drive them away with a diagonal attachment.
 コスミツケで追い出そう。
・Rebuke overreaching attacks.
 深入りをとがめる。
・Stop an escape with a cap.
 ボウシで出口を止めよう。
・Block a two space extension.
 二間ビラキを封鎖しよう。
・Look for the weakness of the Knight’s Move.
 ケイマの弱点を探そう。
・Reinforce areas with dense clusters.
 厚みを作ってみよう。
・Fuseki once you’ve played the two star points.
 二連星からの布石
・Keep your three consecutive star points alive.
 三連星を生かしましょう。

You Tubeより


Nihon Kiin Go Channel for overseas


・Nihon Kiin Go Channel for overseasは、日本棋院が海外の囲碁ファンに向けたサイトである。

This“Nihon Kiin Go Channel for
overseas”will provide mainly overseas
go players with various online contents
with regards to the Japanese Go
professionals and its Go art and culture
including the following contents;
 Pro Lectures
 Pros Free Talks
 Live pro Game Commentary

〇Nihon Kiin 100th Year Anniversary photographs
(2024/07/02)
The Nihon Kiin was founded in July
1924. This video shows that Nihon
Kiin’s path and steps and history for
its 100 years throughout the photos.

【囲碁】Techniques of Capturing Race by Tsuruyama Atsushi 8P


Techniques of Capturing Race 
by Tsuruyama Atsushi 8P
(2021/09/02)
※This video is sponsored by INAF
(Iwamoto North America Foundation for Go)
約30分弱

攻め合いの手筋を紹介
とくに眼あり眼なし、大ナカ小ナカ、狸の腹鼓について解説
19秒~3分あたり

眼あり眼なしの問題



Black to play
First, I would like to talk about
“Meari-Menashi” (“One eye”versus
“No eye” capturing race)
which is a useful knowledge and
technique of a capturing race.

The number of Black liberty is 4.
On the other hand, White has 5 liberties
and white currently looks like
an advantage in the capturing race.

If Black simply starts filling the
White liberty,
White gives Atari and captures Black.

However, actually there is a way
that Black can win this capturing race!

What is a key is to make an eye, first.
If you make an eye, White can’t fill
the inside common (shared) liberty
(17-3 point).

Because if White at 6 tries filling the
liberty, white obviously gets captured.

Therefore, White can’t fill the inside liberty…
On the other hand, Black can fill
the inside liberty to capture
the white stones.
In this position,
after the move 5, White actually
has already been captured
and wins this capturing race!

Why it happened?
If Black makes an eye, the inside
common (shared) liberty goes to
and is added to Black’s liberties
so in the end White needs to fill up
all inside common liberties,
which is really not favorable for
White in the capturing race.

Like this, if you make an eye in the
capturing race,
you can have a clear advantage
over your opponent who has no eye
because your opponent has to fill
the inside liberty and you have a chance
to win a capturing race.
This is the useful technique (theory)
of “Meari-Menashi” which you should
remember!

<ポイント>
・眼あり眼なしの攻め合いの場合、眼のある石のほうが攻め合いはひじょうに有利であるが、かならずしも勝てるとはかぎらない。ダメの数、すなわち活路の多少によって負けるときもある、ということ。
(高川秀格『碁の学び方』金園社、1985年、120頁)

大ナカ小ナカについて 13:17~15:44あたり
【囲碁】
Techniques of Capturing Race 
by Tsuruyama Atsushi 8P
(2021/09/02)

大ナカ小ナカの問題



 The next topic is Ohnaka-Konaka
(i.e. Big Eye vs Smaller Eye)

This is also a useful technique
to win a capturing race.

In Ohnaka-Konaka,
both group have one eye.

White has only one point eye
and Black has also an eye
but it’s 4 point (space) eye shape
which means bigger Nakade.

Ohnaka-Konaka means a bigger Nakade
has an advantage in the capturing race.

Let’s see if it is true.

Let me fill the liberties…

I’d like to tell you an important point here.
Black can capture the white stones
but if you immediately capture them, …
It becomes Seki.

Let me go back.
In last variation, I showed you
Black captured the white three stones
but it is important not to capture them
immediately.

Instead of capturing three stones, Black
should fill the outside white liberty, first.

And if you do, White can’t win the race.
If White does Tenuki (i.e. play away),
Black also can Tenuki.

This is because White can’t fill
the inside common liberty.

If White fills up the liberty, Black just
fills the outside White liberty and
White can’t do anything and the White
has already been captured.

In the Ohnaka-Konaka sitiuation[sic],
Black can fill the inside common
liberty to win the race.

I’d also like to tell you the point of
Ohnaka-Konaka.
Only if there is a common (shared)
liberty, you can use this technique
of Ohnaka-Konaka.
Like the same manner of Meari-Menashi,
without an inside common liberty,
it means nothing.

Please remember this important point.

15:38
まとめとして、26分~28分あたりで、
In this video, I talked about the
Meari-Menashi (One eye vs No eye) and
Ohnaka-Konaka (Big eye vs Smaller eye).

If you have an eye and your opponent has
no eye with more inside shared liberties or
if you have a bigger eye with more inside
shared liberties, you have a clear advantage
of winning a capturing race.

The most important point on both
Meari-Menashi and Ohnaka-Konaka is to
have inside shared liberty.
Please remember this key point.

I hope you can master and use
the techniques that I taught
in your actual game.

See you next time!

Nihon Kiin Go Channel for overseas
Sponsored by
Iwamoto North America Foundation for Go
Produced by
Nihon Kiin
Cooperated by
American Go Association

22分 タヌキの腹つづみ Tanukino Harazutumi[sic]:Belly Drum Tesuji
恩田烈彦九段も、腹ヅツミ
山下、手筋、182頁
藤沢、手筋下、第2部セメアイの手筋「手を縮める手筋」ナラビ、150頁

タヌキの腹つづみの問題



Tanukino Harazutumi[sic]:Belly Drum Tesuji

Let’s move on to the next problem!

It looks like Black can win if Black blocks.
However, if White make another Hane,
White can win this capturing race
because it is not 2 liberties but 3.

Let me fill the liberties to check
if White can win.

This shape of both side Hanes (right and left)
increases one liberty of White so it becomes
three from two liberties for White.
That’s how White can win it.

But, Black could find a brilliant move.
In this case, the 14-1 is the vital point.

If White connects, Black blocks and
White Hanes.

Black can give Atari and then
Black is able to win this capturing race.

However, you should be careful with
the White another Hane move.

If Black blocks immediately,
in the end black is captured and
can’t win the race.

In this case, another placement of
the move 3 (15-1) is the Tesuji which is
hardly noticeable.


If White connects, Black blocks at 5 and
just fill the white liberties step by step.

And Black is able to win.

Even if White fills the outside Black liberty,
Black captures the White stones.

Only if Black plays the 1st line placements
against each White Hanes, Black is able to
win this capturing race.

This Tesuji move is named as
“Tanuki-no-Harazutsumi”[sic] in Japanese.

If you have not seen it, you may hardly
find and play this Tesuji.

In one of my games, I actually forget
this Tesuji move and my opponent played
it and lost the game.

So I would highly recommend
you remember this Tesuji.

25:20

【補足】タヌキの腹つづみの問題~山下敬吾『基本手筋事典』より


・タヌキの腹つづみの問題は、次の『基本手筋事典』にも解説がある。
①藤沢秀行『基本手筋事典 下巻』第2部セメアイの手筋「手を縮める手筋」ナラビ、150頁
②山下敬吾『基本手筋事典』182頁
ここでは、山下敬吾『基本手筋事典』にあるタヌキの腹つづみの問題を紹介しておこう。

手数を縮める:第15型


【第15型】(黒番)
・黒は三手ではっきりしているが、白の方は何手なのか、わかりにくい。
・とにかく三手以内で、取る工夫をしなければならない。

【1図】(失敗)
・黒1のオサエは白2のハネが利くと、手数が一手延びる。
・格言の「両バネ一手延び」のとおり、三手になり、白4とダメをつめられて、黒の一手負けになる。
※黒1ではもう少し踏み込みがほしいところ。

【2図】(失敗)
・黒1のアテから白2のツギに、黒3と二段バネする手がある。
・白は4と切るしかなく、黒5と弾けばコウになる。
※しかし、無条件で取る手があるのだから、コウでは失敗。
※なお黒1ではaでもコウ。

【3図】(正解)
・黒1のオキが手数を縮める手筋である。
・白2のハネには黒3のナラビが関連する手筋で、白はどうしても手が延びない。
➡黒一手勝ち。
※この黒1、3は「タヌキの腹つづみ」と呼ばれる手筋である。

(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、182頁)

You TubeチャンネルNYIG-Go~Stephanie Yin


Stephanie Yin

You Tubeチャンネル
NYIG-Go
Introduction to Go ―Rules Part 2
(2019/10/19)(約7分)

Stephanie Yin brings you part 2 of the
essential rules of go during the game,
including the objective, liberty, and
atari and capture.

3分~5分あたり
LIBERTY: AN EMPTY POINT ADJACENT TO
A SINGLE STONE OR A GROUP OF STONES

5分~7分あたり
ATARI: A STONE OR A GROUP OF STONES
THAT ONLY HAS ONE LIBERTY

ダメ:liberty
ダメヅマリ:shortage of liberties

Takemiya video :Best Selection of
Cosmic (v.s. Cho Chikun 9p)
(2022/11/25)



Takemiya vs Cho Chikun, 1988

Takemiya 9p gives you commentary of his game
which was played in 1988 with Cho Chikun,
Judan title holders (as of 1988).
It’s one of the best of three games to decide
the challenger of the 13th Kisei title match.

You played Sanrensei (3 star-points)!
Intentionally, I played it.
So in the game, Black played Kakari to the bottom right corner.
Then, White played Kakari to the upper right corner.
It’s one of most popular joseki.(※右上隅のツケヒキ定石)
In stead of Sanrensei, playing Kakari to the upper right
corner is more common opening.
At that time, in my feeling, this exchange would be
slightly better for White.
If White played Kakari to the upper right instead of Sanrensei,
Black would play in bottom side.
At that time, I thought this exchange was slightly profitable for White.
Of course, it has an advantage and disadvantage, though.
Then, Black played 3-3.
Here, White has two options.
In this situation, this direction must be correct, because …

白の三連星(白6で三連星)

白の宇宙流(白68まで)

藤沢秀行先生のコメント(黒37について)8:42~9:20
This variation was one of examples from the commentary
of Fujisawa Shuko (Honorary Kisei).
He commented it should be better for black to play like this.
I agree that it’s also playable.
(武宮正樹九段もこれも一局という。)

中央に白の模様
≪棋譜≫ 白86まで(18:03)


Now looks like White gets huge center moyo which becomes territory
while Black gets territory in corners and sides.
After that, complicated end game would start soon…
I believe you were satisfied with this cosmic game?
Yes, I was quite happy with it.

Simple Baduk, Sensei Slaying! Kitani Minoru Massacres Go Seigen’s Dragon!


〇Simple Baduk
Sensei Slaying! Kitani Minoru
Massacres Go Seigen’s Dragon!
(2023/09/08)
・木谷実vs呉清源の棋譜を、Simple BadukさんがYou Tubeで英語で解説している。

【英文内容の補足】
※木谷実(1909-1975)
・鈴木為次郎に入門。大正13年(1924)入段。
 昭和8年(1933)呉清源とともに「新布石」を打ち始める。
 最高位2期(1957、58)ほか。本因坊に3度挑戦し敗れる。
弟子を多数育成。木谷一門の総段位は500段位を超える。
・現代の布石は星に打つ碁が多いが、江戸時代から昭和初期までの布石は、小目が主であった。その固定観念を打破したのが、木谷実と呉清源であった。
 新布石は一世を風靡し、『新布石』(1934年)がベストセラーになった。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、27頁、30頁~31頁)

This is a Kifu-Spread of a go game
between Minoru Kitani and Seigen Go.

Go Seigen and his best friend Kitani
Minoru revolutionized Go in the 1930s
by pioneering the radical “Shin Fuseki”
together. Their daring new fuseki
theories upened tradition with
provocative openings.

Despite their contrasting legacies,
with Kitani as a master teacher and
Go as an innovator, the two shared a
bond. When Go faced controversies
and nationalism in Japan, Kitani
supported him.

While Kitani nurtured individual talents
through teaching, Go Seigen’s
groundbreaking innovations
fundamentally transformed modern
Go globally. Together, the two friends
and rivals left enduring marks on Go’s
future.

≪棋譜≫黒147手まで

〇Simple Baduk Takemiya’s CRAZY Generosity


〇Simple Baduk
Takemiya’s CRAZY Generosity
Backfires! Gives All Territories,
Annihilates Iwata With “Cosmic
Style”
(2023/09/30) 約13分

・武宮正樹vs岩田達明の棋譜を、Simple BadukさんがYou Tubeで英語で解説している。

Takemiya Masaki vs. Iwata Tatsuaki –
Go legends face off in an unbelievable
match. Takemiya shockingly gives
Iwata every territory, but still crushes
him with signature “Cosmic Style”. See
how Takemiya’s insane generosity
backfires as he annihilates his
opponent. Masterful Go moves let
Takemiya effortlessly outplay Iwata
despite gifting him huge areas of the
board. An unforgettable match that
shows why Takemiya is considered a
genius of the “Cosmic Style”. Don’t
miss this jaw-dropping Go match
between two Hall of Fame players at
the top of their game. Epic creativity,
strategy, and generosity are on full
display.

<注意>
(cf.)
3分、4分、5分、8分 tiger’s mouth=カケツギ

とくに9分あたり “Cosmic Style”.
左上 コウ 10~11分 settle Ko fights
岩田達明
≪棋譜≫黒129手まで

【補足】モンキージャンプについて


・モンキージャンプとは、用語欄にもあったように、ヨセのサルスベリのことである。
 この英語のことに言及した本としては、次のものがある。
〇久保秀行『新・早わかり ヨセ小事典』日本棋院、1999年[2015年版]

・また、英語のYou Tubeサイトとしては、次のものが有用であろう。
〇Go Magic,
The Monkey Jump: Endgame Technique, 2023-12-29. (約13分)
※興味のある方は、ご覧いただきたい。

〇久保秀行『新・早わかり ヨセ小事典』日本棋院、1999年[2015年版]の問題を紹介しておく。
<第3章 ●ヨセの基本的手筋>
【第53型】損なく、味良く
●サルスベリ(1)
・「百日紅」と書くサルスベリは、碁では一線の大ゲイマスベリのこと。
・その止め方は形によって変化。
【参考図】
・黒1では止まらず損。
【1図】(正解手筋その1)
・黒1のコスミツケは最も簡明な手筋。
・白2の戻りに黒3のオサエ以下、黒7までが双方の正しい応酬。
【2図】(正解手筋その2)
・黒1もお勧めの捨て石手筋。
・白2以下、黒9までの進行は、1図と損得なし。
※又黒1で3から打っても同じ。
※白6で7と打てば、数目の得であるが後手。
【3図】(弱気)
・黒1は良く見かける応手であるが、弱気。
・白2と進まれ、正解より悪い結果に。
・ただ、黒9の手抜きの可能性あり、白2は保留。
(久保秀行『新・早わかり ヨセ小事典』日本棋院、1999年[2015年版]、203頁~204頁)

<第3章 ●ヨセの基本的手筋>
【第54型】捨て石一子で
●サルスベリ(2)
・英語でモンキージャンプと呼ぶこの形、なるほど猿もすべる?
・前型とは配石に違いあり。

【参考図】
・前型正解に似た黒1は損。
【1図】(正解手筋その1)
・止め方は3通りあるが、お勧めは黒1のコスミ。
・白2に黒3の捨て石のオサエが連係の手筋で、黒9まで味良く止めることができる。
【2図】(正解手筋その2)
・黒1でも、1図と同理の手筋。
・ただ、白2で隅に化けられるような配石の場合も考えられ、1図の方が心配なし。
【3図】(要注意)
・黒1でも条件が良ければ、前2図と同じ結果になるが、場合によっては、白2以下と変化され、大事件に発展する可能性もあり、要注意。
(久保秀行『新・早わかり ヨセ小事典』日本棋院、1999年[2015年版]、205頁~206頁)
 
【補足】英訳囲碁用語について、次のブログが参考となる。
〇いごすけや(囲碁インストラクターの佐藤洋佑氏)
「【囲碁を英語で言うと?】実戦で役立つ英訳囲碁用語も紹介!」(2024年)
・「英語圏に囲碁を広めよう」と思った日本棋院が、代表的な囲碁用語を英語にしたという。
・囲碁普及に熱心に活動なさっている白江治彦(しらえはるひこ)先生などが中心になって、英訳を決めていったようだ。
例えば、布石は「Opening」、ゲタは「Net」、欠け眼は「False eye」(偽物の眼)、
 観音開きは「Butterfly formation」、サルスベリは「Monkey jump」

〇このサルスベリについて、いごすけや(佐藤洋佑氏)は次のような興味深いことを記している。
・サル「スベリ」なのに、「slide」ではなく「jump」だそうです。
 理由は分かりませんと、いごすけやさんはいう。
・そもそも、囲碁のサルスベリはサルが滑っているのではなく、「百日紅(サルスベリ)の木」からきています。
(ただ、百日紅は、樹木がツルツルでサルも滑り落ちることから「サルスベリ」と言われているので同じことかもしれません)
・一線に大ゲイマにスベった形が、百日紅の木の形に似ているような気がすることから、サルスベリとなったらしいです。
(百日紅の木は曲がって成長していく傾向がある)と、いごすけやさんはコメントしている。
・また、犬の顔は「Face of dog」!?
 「犬の顔」とは、一間トビにケイマでトライアングルを作っている形、つながりの良い好形のことをさす。
➡「犬の顔」には英訳が無いようだという。全部の囲碁用語を英語にしたわけではなく、特に代表的なものだけを英訳したようだ。
 ということで、「犬の顔」は普通に「Face of dog」でしょうかという。
(そもそも「犬の顔」は正式な囲碁用語なのでしょうかと、コメントしている)

☆そのほか、次のようなYou Tubeなどを参考のこと。
〇三村囲碁ちゃんねる(三村智保九段)
「囲碁用語マスター Lv4「イヌの顔」」(2019年12月9日付)
※4つの動物の顔 ネコの顔、イヌの顔、ウマの顔、キリンの顔について説明
〇ネット藤澤塾
「【囲碁講座#36】動物手筋[竹下凌矢初段]」(2021年5月15日付)
※馬の顔、亀の甲、鶴の巣ごもり、イタチの腹ヅケ、狸の腹鼓などを解説。

【補足】駄目(ダメ)について


【補足】駄目(ダメ)について
①日刊新周南のコラム・エッセイ:小野慎吾「囲碁由来の用語①」(2021年03月10日付)
②いごまとめ「囲碁用語 駄目(だめ)」(2017年02月25日付)
③Amebaブログ:政光順二「ダメ(駄目)の意味・用法」(2009年10月20日付)

①「日刊新周南」のコラム・エッセイの小野慎吾「囲碁由来の用語①」にて、駄目(ダメ)について、次のように述べている。
・実は囲碁から来ている日常用語が多くある。
 日常でも頻繁によく聞く「駄目(ダメ)」は囲碁から来ている。
・囲碁は黒石、白石を交互に打ち、「陣地」を作っていき、どちらがより多く「陣地」を作れるかで、勝敗が決まるゲームである。
・「駄目(ダメ)」の意味は、石を打っても陣地が増えない地点を言う。
➡日常用語としては、「効果がない・役に立たない」といった意味である。

②いごまとめ(初段を目指す人向けの囲碁サイト)
・囲碁用語の駄目(だめ)について、次のようにまとめている。
〇駄目の意味:その1
・まず、「手数」と似たような意味で使われる。
 例えば、図で黒2子は白に囲まれていて、あと少しでとられる。
 この状況は「駄目が2つ空いている」とか「黒を殺すまでの手数は2つ」のように表現される。
 
〇駄目の意味:その24
・次に、盤面上どちらの陣地にもならない箇所という意味もある。
・双方に利益がない地点なので対局中は打たないが、終局を確認しあってから、互いに「駄目をつめる」という作業が行われる。
・例えば、図。
 このような形で終局をむかえたが、(7, 六)G4の地点は白黒どちらの陣地にもならなかった地点。
 ➡これを「駄目」という。

〇駄目の元々の意味
・「駄目」は本来「役に立たない」というような意味。
 役に立たない➡価値がない➡無意味なこと➡してはいけない、だめだ
※結局、禁止の意味で広く一般的に使われるようになったと考えられる。
 
③Amebaブログ:政光順二「ダメ(駄目)の意味・用法」
・囲碁におけるダメについて、次のような意味・用法があるという。
〇石の呼吸点
・英語では、liberty
 黒4子のダメは×の9個
 
〇黒も白も地にならない地点
 英語では、neutral point

〇ほとんど価値のない地点
・下図のような局面で×あたりに打つと、「ダメを打ちましたね」と言われます。
 
・これは、前図のダメの親戚ですね。
・英語だと、point(地点)やmove(着手)の前に、useless とかinvalidとかineffectiveとか付けるんですかね?

と、いくつかの意味、使い方があります。
「ダメをつめちゃダメ」ですが、英語混じりにすると、「libertyをつめるのはbad」ですね。
・囲碁用語としてのダメには直接badという意味はなく、「無価値」➡「悪い」という転用でしょうね。
(そんなことをしてもダメ➡そんなことをしたらダメ)

高川秀格・名誉本因坊の説明~ダメ=活路


〇石の取り方と逃げ方
・碁は、対局者(白と黒)は盤上のいかなる点へ着手してもよいが、活路のない点へ打つことはできない。
 しかし相手の石を打ちあげるときは、活路のない点へ打つことができる。
 これが碁のルールの根本原則。
・活路とは石の隣接点のことである。
 これは石の上下左右、たてとよこ、の点であって、ななめの点は関係ない。
 このことは、とくに注意を要する。

【1図】

・たてよこの方向に対して生命力を持っていると見てよいだろう。
 この生命力は、味方の石と接触すれば同化してひとつの石になる。これが石の成長である。
 しかし、この生命力が敵に全部奪われたとき、石は死ぬ。
 そして盤上からただちに取りのぞかれてしまう。
・碁盤のいちばん隅と、いちばん端と、それ以外の点にある石の活路はどうだろうか。
 隅の石の活路は2個、盤端は3個、それ以外はどの点にあっても活路は4個である。
 活路の多い石ほど強く、活路の少ない石ほど弱い。
・【1図】で見たように、一子の石の活路は4個である。
 活路が4個あるということは、一子の石を取るのに4手かかる、4個の石が必要だということである。
 
〇ダメとは活路のこと
【13図】
・白が黒の外側の活路を奪う(このことを白が周りを囲む、または外側のダメを詰める、ともいう。ダメとは活路のことである)と、次に白aと打って黒三子を取れる。
(高川秀格『碁の学び方』金園社、1985年、42頁~43頁、67頁)

〇攻め合い セキ
・「攻め合い」とは、生きていない石同士が取るか取られるか戦うことである。
・いままでの例から見ると、手数の多いほうが勝ち、手数の少ないほうが負ける、手数が同じなら、さきに打ったほうが勝つ、という結論がでた。
・もちろん、これはほんとうの手数のことをいっている。
【35図】
・この白も黒も、手数はともに四手であるから、この攻め合いは先着したほうが勝ち。
【36図】
〇このような形を考えてみよう。
※外がわの白と黒はべつにして、内がわの白と黒はどちらも生きていない石同士で、どちらも外がわの味方に連絡できない。
・これは明らかに、白五子と黒五子が攻め合っている状態。
【37図】

・この白と黒は手数はどちらも六手で同じだから、いままでの例から想像すれば、さきに打ったほうが勝つはず。
・そこで、まず黒1から打ってダメを詰めて行く。
・白も2とダメを詰める。
・黒3白4、黒5白6、黒7白8と、ここまでダメを詰め合って、さてこのあとはどうなるのか。
【38図】
・この形は、白も黒もどちらもダメは二つしかない。
・白も黒も活路は二個。
※しかし、いままでの例と違うところは、どちらも二つのダメを共有していること。
※白の二つのダメは同時に黒の二つの活路であり、
 黒の二つのダメは同時に白の二つの活路である。
・こういう場合、どちらも手を出しにくい。
 手を出したほうが、ひどいめにあうからである。
・黒が一つ白のダメを詰めることは、同時に自分のダメを詰めて、アタリにすることになる。白のがわも、同じ。
・どちらも相手を取りにいけない。どちらも取られる心配はない。
➡この状態が「セキ」である。

〇囲碁規約はセキを次のように規定している。
第三十二条 対局者双方の一連の石がともに眼がなく、又は眼一個であって双方いずれから着手しても、相手方の石を取り上げることができない形となっているものを「セキ」という。
2 「セキ」となっている石は、双方とも活とみなす。
【41図】
・これは白黒ともに眼が一個あるが、どちらからも手が出せない状態。
・aの点が白と黒の共有の活路で、この点へ打てば、打ったほうが相手に打ちあげられてしまう。
・この白と黒は終局のとき双方生きている石と見なされるが、このセキの眼は、どちらも地としては認められない。
・白も黒も地としてはゼロ、一目の地ではない。
(高川秀格『碁の学び方』金園社、1985年、111頁~114頁)

【雑感】石の形と手筋と動物名


 今回、囲碁用語には動物名のついた手筋等があることがわかった。
 藤沢秀行氏、山下敬吾氏、依田紀基氏の事典などにも、「馬の顔」「犬の顔」「猫の顔」「キリンの顔」といった動物名が登場する。
 ただ、中国で「カケツギ」に相当する「虎の口」だけは見えない。
 やはり、そこには、日本と中国に生息する動物がどれほど身近であるかによって用語もおのずと異なるのであろう。
 例えば、虎について調べてみると、虎はアジアに広く分布している。生息地は中国北部やロシアの亜寒帯、インドやベトナム、マレーシア、インドネシアの熱帯から亜熱帯に及ぶ。しかし、日本には野生の虎は生息していないそうだ。
(古代の日本には、野性の虎は生息していなかったから、虎皮を中国や朝鮮半島から輸入していたと考えられている。日本の動物園で虎が見られるようになったのは、1887年[明治20年]のことで、イタリアのサーカスが連れてきた虎が出産した子どもを、上野動物園がヒグマと交換してからだとされている。)
 一般に野生の虎を脅かす原因は大きく3つある。森林破壊、密猟、違法取引。日本に虎がいない理由として、虎は移動しながら獲物を獲るため、広大な土地がないと生きていくことができない点があるらしい。日本は島国で、陸橋が存在しないため、虎が移入することはなかった。
 ただ、日本画に虎が多く描かれたようだ。十二支の中でもトラの絵は龍と並んでダントツに多く残されている。トラは力の象徴であり、龍と対で描かれることも多い(この虎と龍の組み合わせはいかにも中国的であるが)。勇猛なトラにちなんで、男の子が生まれたときに「強くたくましく成長するように」という願いが込められた。

 おっと言い忘れていました?! 日本にも強い虎がいる!
 芝野虎丸九段です。
(2024年の第49期名人戦で一力棋聖に敗れて無冠になってしまったが、是非とも復位してほしい)
(ご存じのように、兄龍之介さんも三段のプロ棋士。名の由来は祖母が芥川龍之介のファンだったからとか。兄が龍なら、弟は虎だろう。虎が厳しいので、丸を合わせて柔らかくしたとか? 虎丸さんのご両親は、京大法学部出身、姉と妹も東大の大学院、東大生らしいので、“最強一家”)

【補足】陰陽五行説と四神について
・陰陽五行説では、中央に黄色、北方に黒、東方に青、西方に白、南方に赤というように、五色を割り当てた。中国の伝説上の神獣である四神(東:青龍、西:白虎、南:朱雀、北:玄武)の信仰は五行説の影響を受けながら、中国の戦国時代ごろに成立したと考えられている。
 五行の色と四季を合わせて、青春、朱夏、白秋、玄冬といった言葉が生まれた。
(その後、四神の信仰は、古代の朝鮮や日本にも伝わった)
・この陰陽五行説と言葉との関係を踏まえると、青春時代の青春、高松塚古墳の壁画で有名な玄武や白虎、平城京・平安京の朱雀門の朱雀、幕末の会津藩が組織した白虎隊の白虎、はたまた、詩人の北原白秋の雅号が秋の白秋にちなんだものであることが想起されよう。

ところで、次の辞典により、虎、猿、狸にまつわることわざを調べてみたが、やはり東西の風土と文化の違いがことわざには如実に反映されていることがわかろう。
〇池田彌三郎、ドナルド・キーン『日英故事ことわざ辞典』朝日新聞社、1982年

<虎のことわざ>
〇虎穴に入らずんば虎子を得ず
=The best fish swim near the bottom.(最上の魚は深い所にいる)
=Nothing ventured, nothing gained.(冒険なくしては、何も手に入れられない)
=Ask and have.<Matt.>(求めよ、さらば与えられん)
=The more danger the more honour.(危険が大きければ、栄誉もそれだけ大きい)
[英訳] You cannot catch a tiger’s cub unless you enter the den.
[類似]金は危ない所にある(P.174)

〇虎に翼⇒鬼に金棒(P.279)
=The more Moors, the better victory.(これ以上のムーア人が加担すれば、勝利は確実だ)
=Hercules with the distaff.(ヘラクレスに糸巻竿)
[英訳]The devil armed with a huge iron club (to boot.)

〇虎の威をかる狐
=To act like an ass in a lion’s skin.<Aesop>(ライオンの皮をかぶっていばるロバ)
[英訳]A fox who has borrowed authority from a tiger.
(A small man who acts overbearingly with the support of an influential person.)

〇虎は死して皮を留め人は死して名を残す
=He has not lived that lives not after death.(死後、人々の心に残るような生き方をせよ)
=They die well that live well.(すばらしい生き方をした者はその死に方もすばらしい)
[英訳]After death the tiger leaves the skin behind; man his name.

<猿のことわざ>
〇猿も木から落ちる
=Even Homer sometimes nods.(ホーマーも、時にはへまをする)
[英訳]Even a monkey sometimes falls from the tree.
[類似]権者にも失念(P.82)/弘法にも筆の誤まり(P.196)/千慮の一失(P.312)

<狸のことわざ>
〇捕らぬ狸の皮算用
=To count one’s chickens before they are hatched.(ひよこがかえる前から、それを数え出す)
=To sell the bear’s <lion’s> skin before one has caught the bear <lion>.
(熊<獅子>を捕らえぬ前に皮を売る)
=Gut no fish till you get them.(魚を獲るまでは、魚のはらわたをとるな)
[英訳]To estimate the value of the skin of a raccoon before catching one.

(池田彌三郎、ドナルド・キーン『日英故事ことわざ辞典』朝日新聞社、1982年、202頁、279頁、306頁、365頁~366頁)