歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の手筋~小林覚氏の場合≫

2025-01-12 18:00:03 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~小林覚氏の場合≫
(2025年1月12日)

【はじめに】


 1月5日(日)は囲碁の日だそうだ。
 その日、日本棋院で「令和7年打ち初め式」を開催されて、You Tubeでその模様が配信されていた。年頭の挨拶をさた武宮陽光理事長が、去年は日本棋院創立百周年に当たっていたが、3つの大きな出来事があったとする。
①一力遼棋聖の世界戦応氏杯優勝(日本としては19年ぶりの悲願)
②上野愛咲美立葵杯の呉清源杯優勝
③ノーベル化学賞受賞者でアルファ碁の開発者であるデミス・ハサビス氏の来院
 巳年生まれの武宮理事長は、ヘビは脱皮を繰り返し、再生と成長というポジティブな意味があることを強調し、101年目の日本棋院の発展を祈願しておられた。
 続いて、昨年、話題になった草彅剛主演の映画「碁盤斬り」の脚本家・加藤正人氏が、祝賀の挨拶をされた。
 その後、棋士の年頭の挨拶があり、新年記念対局として、リレー方式での対局(連碁)が行われた。男女3人ずつ(1人20手)のチームに分かれて、打ち初めが開始され、福岡航太朗竜星が初手天元を打ち、会場を沸かせていた。
 折しも、1月5日(日)のNHK杯は、井山裕太王座と河野臨九段の力戦が繰り広げられていた。

 さて、今回のブログでは、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]
 本日、1月12日(日)の「囲碁フォーカス」においても、小林覚九段が出演されていた。
(小林覚九段は、武宮陽光理事長が就任する前の理事長であった)
 今年2025年は、昭和100年に相当するようで、「私の愛するあの一局」と題して、昭和の思い出深い対局を紹介するという企画であった。小林九段が若き時に薫陶を受けた梶原武雄九段の棋譜から「梶原定石」について解説されていた。梶原九段は「序盤は学問」という信念をお持ちだったようで、捨て石作戦を含む「梶原定石」を用いた対局を小林九段は取り上げておられた。それは、昭和59年の十段戦で、梶原武雄(黒)vs橋本昌二の対局であった。
(小林九段の青年時代の写真も紹介されており、パーマの髪型に“時代”を感じた)
 今回は、その小林覚九段が執筆された「はじめて」シリーズでも、手筋について解説した本を紹介してみたい。
 また、影山利郎氏の『素人と玄人(日本棋院アーカイブ③)』の手筋の解説も付記してみた。手筋の中でも、とりわけウッテガエシについて紹介しておく。

 ところで、「令和7年打ち初め式」の壇上で、芝野虎丸九段も挨拶をされていた。理事長の巳年の話を受けて、去年は自分にとって余りいい1年ではなかったが、ヘビは脱皮を繰り返して成長する生き物だそうで、見習って、去年の記憶を脱ぎ捨てて今年1年頑張りたいという。
 影山利郎氏も、その著作の中で、「脱皮」について言及しておられた。
相当ひどい筋悪の碁を打っている人は、この手筋の章、特に念入りに勉強の要あり。そして、早く筋の悪さから脱皮しなされと。(192頁)

 DAPPY NEW YEAR!(ダッピー・ニュー・イヤー;ダッピー=脱皮ー)が巷間で流行っているとか、いないとか。
 とにかく、私も、今年は囲碁力を養って、脱皮、成長してゆきたい。

【小林覚(こばやし さとる)氏のプロフィール】
・昭和34年、長野で生まれる。
・昭和41年、木谷実九段に入門。昭和49年入段、昭和62年九段。
・昭和55、56年第4、5期留園杯連続優勝。
・昭和57年第13期新鋭戦優勝。
・昭和62年第2期NEC俊英戦優勝。
・平成2年第3期IBM杯優勝。
・平成2年第15から17期まで、三期連続で小林光一碁聖に挑戦。
・平成6年第19期棋聖戦九段戦優勝。
・平成7年第19期棋聖戦七番勝負で趙治勲棋聖に挑戦。四勝二敗で破り、棋聖位を奪取。
・同年第42回NHK杯戦初優勝。同年第20期碁聖位。
・平成8年第5期竜星戦優勝。

※兄弟は四人とも棋士。小林千寿五段、健二六段、隆之準棋士二段、姉弟の末弟。
<著書>
・『初段の壁を破る発想転換法』(棋苑図書ブックス)
・『はじめての基本手筋』(棋苑図書基本双書)
・『はじめての基本定石』(棋苑図書基本双書)
・『はじめての基本死活』(棋苑図書基本双書)



【小林覚『はじめての基本手筋』(棋苑図書)はこちらから】



〇小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]
本書の目次は次のようになっている。
【もくじ】
はじめに
第1章 はじめての手筋は石取り
 1 取れる石は取ろう
 2 シチョウ
 3 ゲタ
 4 オイオトシ
 5 ウッテガエシ

第2章 連絡の形と手筋
 1 連絡した石は強い
 2 連絡の基本の形
 3 連絡の基本手筋

第3章 石を取る基本手筋(34問題)
 基本の積み重ねが大切
 第1題 オイオトシ
 第2題 例の筋
 第3題 ホウリコミの場所
第4題 危地からの生還
 第5題 一刻の猶予なし
 第6題 常用のテクニック
 第7題 一手目が肝心
第8題 弱点だらけ
 第9題 ゲタの基本形
 第10題 カナメを取る
 第11題 連絡に弱点あり
第12題 ヨミ不足だ
 第13題 手筋一発
 第14題 ダメヅマリ
 第15題 オイオトシの好手順
第16題 素直に取る
 第17題 無条件で取れる
 第18題 一手目が勝負
 第19題 本隊のダメをつめる
第20題 黒1は悪手だ
 第21題 手筋の出動
 第22題 カナメを取る筋
 第23題 最後はゲタの筋
第24題 ヨミ不足だ
 第25題 アガキの証明
 第26題 内部の急所攻め
 第27題 一手目が肝心
 第28題 決め手
第29題 有言実行
第30題 基本の積み重ね 
第31題 隅と握手
 第32題 複雑な形
第33題 手筋の出番
 第34題 弱点はダメヅマリ

第4章 腕だめしの基本手筋(32問題)
 一に基本、二に基本
 第35題 連絡の綱わたり
 第36題 獅子身中の虫
 第37題 手筋の証明
第38題 折り込み済み
 第39題 筋ちがい
 第40題 天国と地獄
 第41題 隅の基本手筋
第42題 目がキラリ
 第43題 コウの筋
 第44題 オリキリ活用の筋
 第45題 鋭い手筋の継承
第46題 重大な欠陥
 第47題 オイオトシの筋
 第48題 上級者の仲間?
 第49題 トントン
第50題 好手筋
 第51題 有段の手筋
 第52題 連絡の好手順
 第53題 勝手ヨミだ
第54題 手筋の継承
 第55題 コウ手段あり
 第56題 連絡の基本形
 第57題 オリキリが働く
第58題 巧妙な連絡の形
 第59題 コスミ一発の証明
 第60題 腕しだい
 第61題 ゲタの発見
第62題 深ヨミのゲタ
 第63題 「二の二」の急所
 第64題 ダメヅマリ全開
 第65題 すばらしい手筋
第66題 基本の基本手筋




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに
・第1章 はじめての手筋は石取り 5 ウッテガエシ
・第3章 石を取る基本手筋 第1題 オイオトシ
・第3章 第21題 手筋の出動
・第3章 第26題 内部の急所攻め
・第4章 腕だめしの基本手筋 第35題 連絡の綱わたり
・第4章 第47題 オイオトシの筋
・第4章 第49題 トントン
・第4章 第54題 手筋の継承
・第4章 第59題 コスミ一発の証明
・第4章 第64題 ダメヅマリ全開
・【補足】影山利郎氏による手筋の解説~影山利郎『素人と玄人』より




はじめに


・初段前後の人のための棋書は多いのに、初級や中級の人にふさわしい本が少ない。
 初級や中級の人がどの分野から入っていくのが一番効果的な上達法を考えた。
 布石、定石、手筋、死活などさまざまな領域がある。考えた末、やはり手筋の勉強から入るのが効果的な上達法ではないかという結論に至った。

・その理由は?
 入門後しばらくの間は石取りのおもしろさに取りつかれているから。
 いうまでもなく囲碁は陣地の多少を争うゲームであるが、そのプロセスでは戦いが何度となく起こる。その戦いの本質は石取りともいえるから、石取りに関心を持ち、おもしろがるのは当然といえば当然。

・著者の考えでは、石取りの基本手筋を習熟すればアマ初段だという。
 とすれば、初級や中級の人が早く上達して初段に到達するためには、一番関心の深い石取りの基本の基本手筋を身につけ、「手筋とは何か」をしっかり理解するのが大切。
 石取りの基本手筋を勉強して、「なるほど手筋の威力とはこんなに強力なのか」がわかってくれば、実戦でもだんだん応用できるようになる。

・本書は初級・中級の人が基本の基本手筋を積み重ね、初段の基礎固めとなる手筋を実戦でも使いこなせるようになるのを、主たる目的に構成したという。
(むろん、上級の人が石取りの基本手筋を再認識するのにも役立つはず)
高度な手筋よりも、まずは基本。基本がわかれば骨格が太くなり、より早くより本格的に上達できるから。
 本書は前半で石取りの基本手筋を解説している。また、石を取られないためには、連絡の基本手筋を知っておくと便利だから、その手筋を簡明に説明したという。
 そして、後半は石を取る手筋を問題形式で構成している。

・「石取りの手筋」は手筋の原形。したがって、手筋や石の効率的働きとは何か、を理解する好材料である。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、3頁~4頁)

第1章 はじめての手筋は石取り 5 ウッテガエシ


第1章 はじめての手筋は石取り 5 ウッテガエシ
【第1型・黒番】
・白△六子は黒にべったりくっついている。
※こうした形を「ダメヅマリになっている」などという。
 オイオトシや、これから説明するウッテガエシが成立するのは、こうしたダメヅマリになっているときだけである。
≪棋譜≫ウッテガエシ第1型、52頁

【1図】(常用の手筋)
・黒1のホウリコミがオイオトシに導く常用の手筋。
・白2と取らせて、

【2図】(オイオトシ)
・黒1のオイオトシがヨミ筋。

【3図】(不発)
・黒1のホウリコミはソッポ。
・白2のツギが好手で、オイオトシ不発。

【4図】(白の変化)
・黒1に白aの取りで、白2とツイでくることも考えられる。

【5図】(ウッテガエシ)
・こんどは黒1のウッテガエシの筋にハマっている。
・白2と取ったあとの状態が、白アタリになっている。
したがって、黒からウッテガエシ完了に。

※オイオトシの筋と同じで、相手に取らせるのがウッテガエシに持ち込む手筋
 ウッテガエシの筋にハマると、取ってもアタリの状態になってしまうので、どうしようもなくなる。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、52頁~59頁)

第3章 石を取る基本手筋 第1題 オイオトシ


【第1題 オイオトシ】(黒番)
・黒数子は、隅だけでは生きるスペースがない。
 つぎに黒Aは白B。隅では一眼しか作れない。
・幸い、白はダメヅマリ。オイオトシの常用手筋で、白△を取ることができる。
 一手目が大切!

〇ホウリコミが手筋
【1図】(失敗Ⅰ)
・単純に黒1とアタリしては万事休す。
・白2にツガれて、どうにもならない。黒の取られ確定。

【2図】(失敗Ⅱ)
・オイオトシはホウリコミが常用の手筋になる。
・といっても、黒1はソッポのホウリコミ。
・白2で失敗する。

【3図】(正解)
・黒1が急所のホウリコミ。オイオトシに導く。
・白2と取るほかない。

【4図】(オイオトシ)
・そこで、黒1のアタリが正しいヨミ筋。
・つぎに白aは黒b。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、89頁~90頁)

第21題 手筋の出動

第3章 石を取る基本手筋 第21題 手筋の出動


【第21題 手筋の出動】(黒番)
・白四子と黒二子が攻めあいになっている。
・常識的にはつぎにアタリにされる黒の取られ。
 その常識をひっくり返するためには、手筋の出動しかない。
・みなさんには手筋の次の一手が見えるだろうか。

〇第一線コスミの筋
【1図】(失敗Ⅰ)
・単純にダメを詰めるのは攻めあいの手筋知らずだろう。
・白2のアタリでアウト。

【2図】(失敗Ⅱ)
・また、黒1とサガるのも白2、黒3までセキ。
※黒1が本隊のダメを詰めていないので、セキに持ち込まれたのである。

【3図】(正解)
・黒1の第一線のコスミが攻めあいに勝つ常用のテクニック。
※黒1は実戦でよく使われる基本手筋。

【4図】(一手勝ち)
・つぎに白1は黒2。
・白aと打てないので白1のほかなく、黒2のアタリで一手勝ち。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、129頁~130頁)

第26題 内部の急所攻め

第3章 石を取る基本手筋 第26題 内部の急所攻め


【第26題 内部の急所攻め】(黒番)
・この形を見て「ハハーン、あの筋だな」と気付いた人は初級や中級の域を超えている。
・例の筋とはウッテガエシ。
・一手目、白の内部の急所攻め。

〇ウッテガエシの筋
【1図】(失敗)
・黒1などとアタリしても、白2とツガれ、後続の攻め手に窮してしまう。
・つぎに黒aは白b。白は無傷の生き。

【2図】(正解)
・黒1が黒aとbのウッテガエシの筋を見合いにした急所攻め。

【3図】(ダメヅマリ)
・白は猛烈なダメヅマリ。
・白1と打ちたいのだが、白1はアタリになってしまい、黒2と取られ。
※白1でaも黒b。

【4図】(ウッテガエシ)
・といって、白1は黒2。
※白1で2も黒1のウッテガエシの筋。
※黒2を打たなくても白は二眼ないが、ウッテガエシの証明である。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、139頁~140頁)

第4章 第35題 連絡の綱わたり 2025年1月5日

第4章 腕だめしの基本手筋 第35題 連絡の綱わたり


【第35題 連絡の綱わたり】(黒番)
・腕だめしといっても、基本の手筋ばかり。
・基本の基本さえ本当にわかっていれば、難問はない。
・まずは連絡、ワタリの基本形から。
 黒三子を連絡する綱わたりを問う。

〇コスミが基本
【1図】(失敗)
・黒▲のサガリサガリの真ん中、黒1はワタリの筋ちがいになる。
・白2のツケコシが筋ちがいのとがめかた、好手。

【2図】(ワタリ失敗)
・結局、黒1、白2となり、ワタリ失敗。
※黒1で2は白1と大きく取られるので、黒1は仕方がない。

【3図】(正解)
・黒1、あるいは黒1でaが連絡の基本形。

【4図】(連絡)
・こんどは白2に黒3で連絡。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、159頁~160頁)

第4章 第47題 オイオトシの筋


【第47題 オイオトシの筋】(黒番)
・黒の大石は一眼しかない。しかし、黒▲の一子が働き、オイオトシの筋に持ち込む常用のテクニックがあり、隅の白三子を取ってシノげる。

〇捨て石からオイオトシ
【1図】(失敗)
※オイオトシはホウリコミの捨て石が常用の手筋。
・というわけで、黒1。
・しかし、白2とツガれて、後続手がなくなる。

【2図】(正解)
・黒1と二子にして取らせるがオイオトシに導く第一歩。
・白2のとき、

【3図】(ヨミ筋)
・さらに黒1とホウリコむのがヨミ筋。
・白2に黒3が最善。
・白4の取りなら、黒は手抜きで隅の白がオイオトシ!

【4図】(オイオトシ)
・すなわち、白aと手入れしたとき、黒bと打てばよい。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、183頁~184頁)

第4章 第49題 トントン


【第49題 トントン】(黒番)
・これまた、第1章で解説したオイオトシの筋。
・この形も実戦にしばしばあらわれる。
・一手目が捨て石の筋。あとは一本道。トントンとオイオトシに持ち込む。

〇切り込む筋
【1図】(失敗Ⅰ)
・単純な攻め、黒1は白2と急所をツガれて、万事休す。

【2図】(失敗Ⅱ)
・また黒1も、つぎに白aなら黒2であるが、白2と急所をツイでくるに決まっている。
・さらに黒1でbも白2。
※この形は2のところが攻防の急所なっているのがわかる。

【3図】(正解)
・黒1の切り込みから3のアタリが常用の筋
・白4のとき、

【4図】(オイオトシ)
・黒1でオイオトシ完了。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、187頁~188頁)

第4章 第54題 手筋の継承


【第54題 手筋の継承】(黒番)
・黒1のハネコミは手筋。
・白2と受けさせ、ここでウッテガエシの筋に持ち込もうというのである。
・黒1、白2を継承するウッテガエシの手筋とは?

〇ウッテガエシの筋
【1図】(失敗)
・ウッテガエシの筋が見えない人は黒1とツイでしまいそう。
・黒1は白2のシチョウか、白aのツギか。白2でも白aでも黒の失敗は明白。

【2図】(正解)
・黒1がウッテガエシをふくみにした基本手筋。
・白2のツギのとき、黒aは白bとツガれてしまうから。

【3図】(ウッテガエシ)
・黒1とウッテガエシで取る。
・つぎに白2と取っても、

【4図】(取れる)
・黒1と取れる。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、197頁~198頁)

第4章 第59題 コスミ一発の証明


【第59題 コスミ一発の証明】(黒番)
・こうした形は黒1のコスミが石の筋。
 黒1のコスミ一発で白四子が身動きできなくなっている。
・とはいえ、取ったという証明をしなければいけない。
 白2の抵抗は?
※ウッテガエシの筋でトドメを刺す。

〇ウッテガエシの筋
【1図】(失敗Ⅰ)
・黒1のハネは軽率な打ちかた。
・白2、4が見え見え。逆に、取られてしまう。

【2図】(失敗Ⅱ)
・また、黒1も白2のアテから4。
・この場合は白6、8までで取られ。

【3図】(正解)
・黒1のワリコミが白四子のダメヅマリをつく筋。
※ウッテガエシがヨミ筋。

【4図】(ウッテガエシ)
・ついで、白1、黒2のウッテガエシ。
※黒2でaと打っても白四子を取れるが、黒2の場合はつぎにbと打てる。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、207頁~208頁)

第4章 第64題 ダメヅマリ全開


【第64題 ダメヅマリ全開】(黒番)
・上辺の白は連絡しているように思えるが、見る人が見れば違った判断をする。
・白はダメヅマリだ。
 オイオトシの筋で白石を取り、隅の黒三子を救出できる。
 こう判断する。
・一手目が肝心。白のダメヅマリを全開にする。

〇オイオトシの筋
【1図】(失敗)
・まず、黒1でaは白2で万事休す。
・また、黒1、3も白4。
※白のダメヅマリをとがめていない。黒三子は取られ確定。

【2図】(正解)
・黒1は気付きにくい一手であるが、白のダメヅマリ全開。
・もう白△三子は助からない。
※黒1に白の応手はaかbか。

【3図】(オイオトシ)
・まず、白1は黒2のホウリコミが常用のオイオトシのテクニック。
・白3は黒4まで。

【4図】(同様)
・また、白1は黒2、4である。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、217頁~218頁)

【補足】影山利郎氏による手筋の解説~影山利郎『素人と玄人』より


 影山利郎氏も次の著作において、手筋およびウッテガエシについて解説している。
〇影山利郎『素人と玄人(日本棋院アーカイブ③)』日本棋院、2013年

手筋については、「第10章 手筋」(189頁~242頁)において、次の手筋を取り上げている。
 1ウッテガエシ 2オイオトシ 3グルグルマワシ 4オキ 5ツケ 6石の下
 ここでは、ウッテガエシについての解説を紹介しておこう。
 まず、手筋については、次のように述べている。

・あの人の碁は筋がいい。筋がいい碁だから、近い将来あの人は強くなるにちがいない。
 こんな話はよくきく。筋とは一体何なのだろう。
・手筋とは、碁の手段のうえでの技、とでも申せば当たらずとも遠からず。
 その手筋が良ければ、将来性大いにあり。

・となるとこれは、あだやおろそかにはできないということになる。
(だが、その代表的な基本手筋を御紹介するだけでもかなりのページ数を必要とし、少し丁寧に書きだせば1冊の単行本ぐらい楽に材料は余っている。ここでは限られた余白で、できるかぎり簡潔に、要点重視の影山流にとりまとめていくつもりである。)

【ウッテガエシ(打って返し)】
・「ウッテガエシとは何か」と人問わば、朝日ににおう快手筋かな。
 さよう。すでにして、これは手筋以外のなにものでもない。
 にもかかわらず、少々強くなってくれば、これはもう初歩の術語ぐらいにしか思わず、軽視しがちなものである。
 そこで例によって、この誰でも知っている「ウッテガエシ」の筋の重要性を改めてじゅんじゅんと説こうとするものである。

【1図】
・黒の大ゲイマの構えに白1と三々入りをし、以下黒14までは衆知の一型にすぎない。
・黒14とがっちり白を取りきって黒の外壁は完成する。
・黒14は本手である。
※が、碁によっては、このような本手を打っている暇のないときもあって、黒14でここを手抜きして他の好点にむかう。
 そういうときも間々あるものだ。そのとき、何がおこった?

【2図】
・白1と活動開始は当然。
・黒2、かたちからみて当然とみえる。
 逆に白2を占められる差である。
 この追撃が実は大変な悪手なのだが、対局両者は気付かない。

【3図】
・ほとんどノータイムで白3と一間にトンだが、黒4から黒6となって白さっぱりつまらない。
・いかにお世辞をうまく言えといったって、黒▲の悪手をとがめたなどとは、いえようはずもない。
※もっともっと、ここは「かたちの急所」を深刻にみつめるところだったのである。

【4図】
〇白先でどう打つか考えるとき――
・白aがすぐ目につく人、そういう人は自分の碁、相当ひどい筋悪の碁だと思って間違いない。
(この手筋の章、特に念入りに勉強の要あり。そして、早く筋の悪さから脱皮しなされ。
 筋が悪いなど先天的なもので、不治の病かなんぞのごとくにみられがちだが、そんなことはない。この章をじっくり勉強なさい。)
・ところで、白b、黒a、白cといわゆる団子にシボることをすぐ思いうかべる人、その人は筋が良いのである。だからといって、先をみずにそれを決行すれば――

【5図】
・黒6までとなり、3図と大同小異の結果と相成る。
※時と場合によって、手筋も軽率のそしりをまぬがれない手となるのだ。

【6図】
・白1のコスミツケ、これがウッテガエシの筋をにらんで好手となる。
・しかも、この場合は黒2のツギのとき、第二弾白3の強手が炸裂するとあって、黒たまったものではない。
・この後、黒aなら白bと抵抗し、どのように黒打つとも、黒の一団は取られる悲劇を避けられない。
 もし黒がこの後、活路をきりひらいたとしたら、それは、よほど白がまずいことをやったときだけだ。
・この白1を――

【7図】
・俗悪の白1にかえてみれば、その差のあまりの大きさに驚くばかりであろう。
※この両図を比較して、どこがどう違うかを自ら開眼するまでよくよく検討し、自らの筋の悪さを直していくよう心掛けねばならないのである。

【8図】
〇話を元に戻して――
・白1のとき、黒2とこんなところへナラんで打つ手が、絶対の一手となる。
・“敵の急所は我が急所”
・だが黒2のような手は、何か石の働きに乏しく気のきかない手のように素人はおもう。
※石の働きを求めてやまぬ強い人たちは、できるかぎり石を離して打とうとする。それが急所を見失う因となるようだ。

・黒2で黒a、時にはそれも強手となることあれど、この場合は白2、これで黒窮する。
・黒4以下は周囲の状況如何で、戦いはどうなるか判らないが、とにかく白3までは絶対手順のようだ。
・こういう形態は一にこれにとどまらず、例えば一間高ガカリの定石で――

【9図】
・白1以下黒10までとなるとき、白11が前例と全く同系のもので、これらは一隅の戦いのみならず、中盤侵分の段階でもみられるものだ。
(影山利郎『素人と玄人』日本棋院、2013年、)190頁~194頁)

【10図】(第1問)
・黒先、白△四石を取れますか?
※問題として出せばなんの雑作もないこと。
 容易に正解はだせると思うが、さて実戦でこれが容易かどうか?
 問題ならできても実戦ではできないという人が多いが、それはおかしい。

【11図】(第2問)
・白先、黒を分断して、右方黒数石を取ってください。
(影山利郎『素人と玄人』日本棋院、2013年、)194頁)



≪囲碁の布石~依田紀基氏の場合≫

2024-12-31 18:02:23 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~依田紀基氏の場合≫
(2024年12月31日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも引き続き、囲碁の布石について、次の事典を参考にして考えてみたい。
〇依田紀基『基本布石事典 上(星・小目の部)』日本棋院、2008年[2013年版]
〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年
 依田紀基九段は、「はしがき」において、布石の勉強法について、次のように述べている。
 アマの布石勉強法の一つとして、プロの碁を並べることを勧めている。たとえば、好きなプロの碁を繰り返し並べるのが効果的である。布石の50手までを一つの目安とする。
 本書で取り上げた参考譜は、上・下巻合わせて127例ある。これを繰り返し並べるだけでも、布石の力がつくことを確信している。

 この「はしがき」の言葉により、なるべく参考譜を紹介してみた。
(以前のブログでも【補足】として紹介したものも含まれることをお断りしておく)

【依田紀基(よだ・のりもと)氏のプロフィール】
・1966年、北海道に生まれる。
 小学校5年生で棋士を目指し上京、安藤武夫七段門下となる。
・1980年、入段。
 1983年、第8期棋聖戦四段戦と新人王戦に優勝。
・1984年、18歳で名人リーグ入りし、最年少記録となる。
・1987年、七段、1990年八段、1993年九段。
・1995年、大竹英雄九段を破り十段位を獲得。
・1996年、小林覚九段を破り棋聖を獲得。98年まで3連覇。
・2000年、趙治勲九段を破り名人位を獲得、04年まで4連覇。
<著書>
・ベストセラーになった『依田ノート すぐに役立つ上達理論』(講談社)
 『依田紀基 私の布石構想』(誠文堂新光社)などがある。



【依田紀基『基本布石事典 上』(日本棋院)はこちらから】






〇依田紀基『基本布石事典 上(星・小目の部)』日本棋院、2008年[2013年版]
【上巻目次】
第1章 星・小目平行   第1型~第41型
第2章 星・小目タスキ他 第1型~第10型

〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年
【下巻目次】
第1章 星(平行・タスキ)  第1型~第16型
第2章 小目(平行・タスキ) 第1型~第35型
第3章 目外し・高目他    第1型~第10型






さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はしがき
〇依田紀基『基本布石事典 上(星・小目の部)』日本棋院、2008年[2013年版]
・星・小目平行 第8型
・星・小目平行 第20型 参考譜
・星・小目平行 第23型
・星・小目平行 第23型 中国流(1)参考譜 依田紀基vs山田規三生
・星・小目平行 第27型中国流(5)
・星・小目平行 第31型 参考譜 結城聡vs片岡聡

〇依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年
・星・二連星 参考譜 武宮正樹vs大竹英雄
・星・タスキ星 参考譜 高尾紳路vs大竹英雄
・小目タスキ 参考譜 加藤正夫vs山田規三生
・小目タスキ 参考譜 張栩vs淡路修三
・小目・向かい小目 参考譜 山田拓自vs三村智保
・小目・向かい小目 参考譜 趙治勲vs小林覚
・小目・向かい小目 参考譜 加藤正夫vs羽根直樹
・小目・向かい小目 参考譜 依田紀基vs三村智保
・小目・向かい小目 参考譜 依田紀基vs高尾紳路
・小目・向かい小目 参考譜 結城聡vs小林覚
・第3章 目外し 第5型
・第3章 天元 第10型
・第3章 天元 第10型 参考譜 山下敬吾vs林海峰






はしがき


〇上巻のはしがき
・「基本布石事典」は、昭和50年代に林海峰名誉天元の編纂によって刊行されたが、この度、30年ぶりに21世紀版を届けることになった。
・この30年間、最も変革したのは布石の分野であろう。
 その要因は、コミにある。
 コミが4目半から5目半になり、現在は6目半の時代になっている。
 コミが多くなれば、黒はそのため積極的に、時には激しくならざるを得ない。
 そうしたことから、黒の布石は、より積極的にと変わってきている。
さらに、碁の国際化に伴って、韓国、中国で過激なほど布石の研究が進んでおり、その影響もある。
・布石に対する心構えは、大きいところから打つことにある。
 とはいえ、プロは布石で少しでも遅れをとると、後の戦いに大きく影響してくる。
 しかし、アマの場合はそこまで深刻になる必要はないが、布石を有利に運ぶことは、中盤を有利な戦いに導き、ひいては勝利への道に繋げていくことができる。

・アマの布石勉強法の一つとして、プロの碁を並べることを、著者は勧めている。
 たとえば、好きなプロの碁を繰り返し並べるのが効果的である。
 布石の50手までを一つの目安とする。
 本書で取り上げた参考譜は、上・下巻合わせて127例ある。これを繰り返し並べるだけでも、布石の力がつくことを確信している。

・上巻では、黒の「星と小目」の組み合わせでまとめてある。
 星のスピードと厚みに、小目の実利と戦闘力の組み合わせは、「中国流」をはじめ現在、最も多く打たれている布石である。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、3頁~4頁)

〇下巻のはしがき
・布石は日進月歩を続けていて、プロの世界では、次から次へ過激な手法も生まれている。
 プロは、常に1目でも半目でも得をすることを心掛けているため、布石から激しくなることが多々ある。
 しかし、そのような布石をアマの人に求めることは無理であるし、意味のないことである。
・そのような観点から、本書では、最新の過激な布石は極力避け、アマが実戦で活用できる実用的な布石に重点を置いたという。

・下巻では、黒の「星」「小目」「その他」の布石を取り上げている。
・第1章の「星」は、二つの考え方がある。
 宇宙流といわれる武宮正樹九段のように、二連星から三連星に発展させ、大模様の碁に持っていく考え方。模様の碁に持って行くには、星は最も有効である。
 次に、呉清源先生のように、隅を星の一手で済ませ、足早に辺に展開する考え方で、スピード重視の星である。
・ただし、三々が空いているので、当然ながら地の甘さは否めない。
 したがって、厚みと実利のバランスを考慮に入れることが肝要である。

・第2章の「小目」は、昭和年代に多用されていたが、当時に比べ近年は出番がやや少なくなってきている。
 小目は実利に就きやすく、また戦闘力もあり、変化が多い布石になる公算が高い。
 したがって、特に局面にマッチした定石選択、局面の展開を広く考えるのが、要諦である。

・第3章の「目外し、高目」の布石は、現在は特殊な布石といえる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、3頁~4頁)


星・小目平行 第8型


【総譜】(1-46)
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、90頁~97頁)

星・小目平行 参考譜第20型


【補足】小林覚氏の実戦譜(vs武宮正樹)~依田紀基『基本布石事典 上』より
【参考譜】(1-54)小林覚vs武宮正樹
【1999年】第26期天元戦本戦
 白 九段 武宮正樹
 黒 九段 小林覚

【参考譜】(1-54)
・黒3から5のミニミニ中国流に対し、白6大ゲイマとシマって、黒の出方をうかがうのは冷静な打ち方。譜の白6はミニ中国流を回避した。
・黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。
※黒は5から7とフトコロを広く構えるのが、ミニミニ中国流の特長である。
・白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。
・黒31に白32は気合の反発。

【1図】(ミニ中国流)
〇白6の大ゲイマで、
・白1の割り打ちなら、黒2のカカリで白3の受けと換わり、ミニ中国流に戻る。
・黒2はaのツメも有力である。

【2図】(おもしろ味なし)
〇黒7のケイマは、黒5のヒラキに連携したものである。これで、
・黒1の一間ジマリは手堅いが、白2と割り打たれはおもしろ味がない。

【3図】(白、働き)
〇白10のコスミは、三連星を働かせようというもの。黒17で、
・先に黒1、3のツケヒくと、白5とツギ、黒5、7には白aとツガず、8のコスミにまわる。
※これは白働きである。

【4図】(黒、重い)
〇黒31に白32は気合の反発。これでAは、黒47ツケにまわられる。黒47で、
・黒1のカカリは、白2以下黒7まで実戦よりも、黒は重い。

【5図】(白、サバキ)黒9ツグ
〇黒53コスミで、
・黒1のトビは、白2ツケ以下サバかれる。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、218頁~219頁)

星・小目平行 第23型


・黒1の星と3の小目の構えから5と辺にヒラくのを「中国流」という。
※星と小目の石を一手で連係させるもので、戦闘力の強い布石である。
・なお黒5でAの「高中国流」もある。
・中国流に白6のカカリはオーソドックス。
・譜の黒9と下辺からカカったのは、中国流を働かすもので、白は10とおとなしく受けた。

≪総譜≫(1-40)
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、240頁~246頁)

星・小目平行 第23型 中国流(1)参考譜 依田紀基vs山田規三生


【参考譜第23型2】依田紀基vs山田規三生(250頁)
第23型2【参考譜】(1-47)依田紀基vs山田規三生
【1998年】第23期棋聖戦最高棋士決定戦
 白 王座 山田規三生
 黒 碁聖 依田紀基

・黒の中国流に白6からカカったので、黒は9、11と下辺を盛り上げた。
・白12のカカリに黒13のケイマ。
・黒13のケイマに白14、16とツケヒいた。
・白18のヒラキに黒19のトビが形である。
・黒29のカカリ。
・白30に黒31、白32を決めて、黒33が手順である。
・黒43に白44、46はやむを得ない。

【1図】(コスミ)
〇白12のカカリに黒13のケイマでは、
・黒1のコスミも有力で、白に根拠を与えない打ち方である。
・白2、4以下、黒11まで相場である。

【2図】(白、変化)
〇黒13のケイマに白14、16とツケヒいたが、白14では、
・白1のツケ一本から3、5と変化するのもあり、黒は6から8が正しい応手である。
・白9以下黒12となれば、黒十分のワカレであろう。

【3図】(黒、破綻)
〇黒6で、
・黒1とカカえるのは失策である。
・白2の切りから4と出られると、黒破綻する。

【4図】(一策)
〇白18のヒラキに黒19のトビが形であるが、
・黒1とブツカり、3とトンで、右辺を盛り上げるのも一策である。
・しかし、白を安定させる嫌いもあり、譜の運びとは一長一短。

【5図】(黒、外回り)
〇黒29のカカリでは、
・黒1のカカリから3とハサみ、以下黒11と外回りで行くのも考えられるが、白2の受けで4と変化される可能性もある。

【6図】(白、苦境)
〇黒43に白44、46はやむを得ない。44で、
・白1と逃げを急ぐと、黒2以下8で白苦境に陥ることになる。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、250頁~251頁)

星・小目平行 第27型中国流(5)


・黒の中国流に、白も2、4から6の高い中国流で抵抗する。
※双方、中国流の構えだと、模様の対峙となることが多い。
・黒7のカカリから9と構えた。
・黒13でAなら、白13、黒Bで模様の張り合いとなる。
・白14では、

≪譜1≫(1-14)
【3図】(白、ケイマ)
・白1もあり、黒2、4以下6まで穏やか。
また、
【4図】(白、ツケヒキ)
・白1のツケなら、黒は2から4が形である。
・黒4ではaは、白bと受けられ、黒重い。
・黒2では、
【5図】(黒、有力)
・黒2のヒキも有力で、6までが形。
・次にaと、譜1のAが見合いである。

≪譜2≫(14-36)
・白14のコスミには、黒も15のコスミが普通である。
・黒15以下19のトビまでは、常識的な運びである。
・白は右下20のカカリが絶対で、逆に黒20の一間ジマリを許しては、右辺から下辺一帯の黒模様が強大となる。
・黒21以下25までは定形であるが、25では、

【10図】(白、サバキ)
・黒1、3の急襲もあるが、白は4、6が筋で、白8、10とシボって、12までサバキ形である。
・黒31で白32が手筋で、

【11図】(根拠を失う)
・単に白1とツグのは、黒2のコスミが絶好で、白は根拠を失う。

≪譜3≫(37-45)
・右下隅が一段落すると右上と左下の隅が大きくなる。
・黒は37と打ち込んだ。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、284頁~289頁)

星・小目平行 第31型 参考譜 結城聡vs片岡聡


〇結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 上』より
【2001年】第26期碁聖戦本戦
 白 九段 片岡聡
 黒 九段 結城聡
【参考譜】(1-48)
・黒5の高いカカリもよく打たれる。
・白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方。
・白12から14のケイマが攻めの形である。
・黒13のコスミは常識的である。通常は譜の13である
・白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなる。
・白28はよい見当である。
・白30は形。

【1図】(バランス悪し)
〇白6のツケに黒7、9から11のシマリは働いた打ち方である。これで、
・定石どおり黒1とヒラくのは、たとえば白2以下6となると、黒のバランスがよくない。

【2図】(白、重い)
〇白12から14のケイマが攻めの形であり、12で、
・白1の割り打ちは、黒2のツメがぴったりで、白3以下7となるが、白の形はいかにも重い。

【3図】(黒、外勢)
〇黒13のコスミは常識的であるが、
・黒が外回りに徹するなら、黒1のカケも一策である。
・白2のハネに黒3のツギが手厚いが、甘さは否めない。

【4図】(方向が逆)
〇白14に黒15とツメ、白16のボウシから戦いとなるが、白22で、
・白1とトブのは石の方向が逆で、黒2、4から6と攻められる。

【5図】(難しい戦い)
〇白28はよい見当であり、
・白1とまともにカカるのは、黒2以下6と攻められ難しい戦いとなる。

【6図】(味消し)
〇白30は形。これで、
・白1のカカリは、黒2とシマられ味消し。
※また、後に黒aからgとからまれる恐れがある。
(依田紀基『基本布石事典 上』日本棋院、2008年[2013年版]、328頁~329頁)



ここから『基本布石事典 下』
〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年

星・二連星 参考譜 武宮正樹vs大竹英雄


②1993年 武宮正樹-大竹英雄(126頁)
第14型 【参考譜】(1-72)
1993年 第49期本因坊戦予選決勝
白十段 大竹英雄
黒九段 武宮正樹

・左下隅、白4と高目に打ったのは、黒の二連星を意識して、位を高く保つためである。
・黒9の大ゲイマは、二連星と呼応して、スケールを大きく持っていく。
・黒13のコスミは、三連星を働かせている。
・白は14と三々に入った。
・黒15のオサエ。
・黒17のカケに白18、20の出切りは気合いである。
・白は譜の18以下22ノビて黒模様を消す拠点にしている。
・黒21のトビは形である。
・白30のマガリトビに黒31は冷静。

【1図】(黒、調子づく)
〇白は14と三々に入ったが、これで、
・白1のケイマは、黒2、4と調子づかせることになる。
・続いて、白aとカカるが、黒の谷はかなり深くなってくる。

【2図】(一つの形)
〇黒15のオサエでは、
・黒1から3にはずすのも一つの形。
・白8、10に、黒はaにツガず、他に転じることになる。

【3図】(戦わず)
〇黒17のカケに白18、20の出切りは気合いであるが、
・ここは戦わずに白1とハイ、黒2ノビとなる打ち方もある。

【4図】(筋違い)
〇黒21のトビは形であるが、
・黒1のノビは筋違い。
・白2のノビから4にトバれると、戦いの主導権は白のものになる。

【5図】(黒、破綻)
〇白30のマガリトビに黒31は冷静。これで、
・黒1以下5の切りは無謀で、白6のワリコミから白aかbで黒破綻する。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、126頁~127頁)

星・タスキ星 参考譜 高尾紳路vs大竹英雄


【補足】高尾紳路氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
<星・タスキ星>【参考譜】
②1999年 高尾紳路-大竹英雄(146頁)
第16型 【参考譜】(1-53)
1999年 第25期天元戦本戦
白九段 大竹英雄
黒六段 高尾紳路

・白8のカカリに黒9とハサみ、以下白18まで、先手を取って、黒19とツメた。
・黒19に白は手を抜いた。
・黒23のカケは工夫した手である。
・白30の押し。
・白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。

【1図】(下辺も大場)
〇黒19とツメたが、これでは、
・黒1のヒラキも大場である。
・白2のカカリに黒3以下白8まで先手を取って、待望の黒9にツメる。これもあろう。
・手順中、白2でaと守れば、黒4のシマリが絶好である。

【2図】(打ちにくい)
〇黒19に白は手を抜いたが、これで、
・白1、3と守れば、手堅い。
・しかし、黒2の立ちで、左辺が理想形になり、白は打ちにくい。

【3図】(黒、今ひとつ)
〇黒23のカケは工夫した手である。これでは、
・黒1のコスミツケが手筋であるが、この場合は、白2から6のコスミまで、黒、今ひとつであろう。

【4図】(黒、十分)
〇白30の押しで、
・白1とシマるのは、黒2から4のトビが調子よくなる。
・譜の黒23と相まって、黒十分である。

【5図】(黒、つらい)
〇白30に、黒31、33のハネノビは欠かせない。これで、
・黒1にカカるのは、白2から4のトビが好点で、黒5と守るのでは、つらい。
・黒7に続いて、白は譜のAトビで好調になる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、146頁~147頁)

小目タスキ 参考譜 加藤正夫vs山田規三生


【補足】山田規三生氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
<小目タスキ>【参考譜】
②1999年 加藤正夫-山田規三生 (298頁)
第18型 【参考譜】
1999年 第47期王座戦本戦
白七段 山田規三生
黒九段 加藤正夫

【参考譜】(1-56)
≪棋譜≫298頁、参考譜


・白10のカケに黒11、13と出切り、白14のツケ以下18までは、代表的な定石。
・黒19のカカリに、白は手を抜いて、20のカカリから22とヒラいた。
・黒21のシマリでは、下記のような変化もある。
・黒27以下37は常套の封鎖手段。

※依田氏は、黒21のシマリについて、次のようなサバキの変化図を示している。
≪棋譜≫299頁、2図


【2図】(サバキ・1)
・前図の黒21のシマリで、黒1のハサミなら、白2のツケがサバキの筋。
・黒3に白4以下10となる。
・続いて、黒aと押し、白b、黒cなら自然。

≪棋譜≫299頁、3図


【3図】(サバキ・2)~ツケ切り
・前図の黒3で黒1のハネは、白2の切り以下の定石に戻り、これも白サバキ。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、298頁~299頁)

小目タスキ 参考譜 張栩vs淡路修三


⑧2003年 張栩-淡路修三 (350頁)
第24型 【参考譜1】
2003年 第28期棋聖戦リーグ
白九段 淡路修三
黒本因坊 張栩

【参考譜】(1-64)
・黒7のヒキは、白8に手を抜く作戦で、黒9のカカリを急いだ。
・白10のハサミに黒11のケイマは、趣向である。
※白12の受けでは、

【1図】(右辺を重視)
・白1のケイマから3と右辺を重視するのもある。
・黒4のシマリに白5以下9と隅を守り、黒10から12と左辺に展開し、これもあったろう。

※譜の白12に受ければ、黒13のカケから19のケイマが手厚い。
 白20に、黒21と下辺に展開したが、
【2図】(シマリ)
・黒1のシマリも好点である。
・白2のヒラキから4の守りが自然な流れであるが、黒からはaのノゾキのねらいが有力になってくる。

※手順中、黒3では、
【3図】(一長一短)
・黒1とツケて上辺に侵入するのもある。
・白2以下黒7に白8とヒラいて、前図にくらべ、一長一短である。

※黒21に白22のハイ以下28までは定形で、白の実利に黒は外勢を築く。
 白24のハネコミは肝要で、

【4図】(大模様出現)
・白1と左辺に向かうと、黒2のオサエが先手になり、4のシマリで下辺一帯に大模様が出現する。

※黒は29から31と一路広くヒラき、いっぱいにがんばった。
 この隙を衝いて、白32でAに打ち込むのは、黒B以下Fのトビとなり、右方の黒の勢力が働いてくる。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、350頁~351頁)

小目・向かい小目 参考譜 山田拓自vs三村智保


②2001年 山田拓自-三村智保 (370頁)
第26型 【参考譜】(1-61)
2001年 第26期棋聖戦リーグ
白九段 三村智保
黒六段 山田拓自

・白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。
・黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。
・白12と三連星を布いた。
・白14に黒15の三々入り以下、19までは定石である。
・白20のケイマは柔らかい手である。
(通常は、白(16, 十四)、黒(18, 十四)で手を抜く)
・白22は形。
・黒23と下辺からのカカリは正しい。

【1図】(黒、無理気味)
〇白10は軽い手で、勢力の碁を目指している。これに対しすぐ、
・黒1と切るのは性急過ぎで、白2、4から6とカケツがれる。
・黒7以下の戦いは無理気味である。

【2図】(黒、先手)
〇黒は11と受けたが、これでは下辺を黒34と割るのもある。続いて、
・白1のトビサガリには、黒2から4のハイを決めて、先手を取るのも、一策である。

【3図】(上辺に備える)
〇白12と三連星を布いたが、これでは、
・白1とヒラくのもある。
・黒2の割り打ちに、白3とツゲば、上辺は一人前の形。
・黒4のヒラキ以下8まで、これもあるだろう。

【4図】(がんばり過ぎ)
〇白22は形だが、これで、
・白1のオサエはがんばり過ぎで、黒2を決めて、4、6以下10と抵抗されると、白地はガラガラになる。

【5図】(黒、重複)
〇黒23と下辺からのカカリは正しく、
・黒1からカカるのは、白2、4とツケノビられ、黒7のヒラキが上方の低位の黒▲(3, 七)とコリ形になり、黒はおもしろくない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、370頁~371頁)

小目・向かい小目 参考譜 趙治勲vs小林覚


【補足】小林覚氏の実戦譜(vs趙治勲)~依田紀基『基本布石事典 下』より
第28型 【参考譜1】
1995年 第19期棋聖戦第5局
白九段 小林覚
黒九段 趙治勲

第28型 【参考譜1】(1-59)
・白は6のカカリから8、10と手厚く運んだが、8では手を抜いてAとヒラき、黒9、白10、黒Bに白Cと足早に展開するのも一策。
・白12のハサミに、黒13、15と下辺を割って足早の運び。
・白16と備えたのは手厚い。
・黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものである。
・譜の黒39のカカリを急ぐ。
・白40の大ゲイマに、黒41と入った。
・黒41と入れば、43以下生きはあるものの、周囲の黒が手薄くなってくる。

【1図】(これも一局)
〇白16と備えたのは手厚いが、
・白1のヒラキも好点である。
・しかし、黒2以下の動き出しも大きく、以下黒12まで、これも一局である。

【2図】(穏健路線)
〇黒17に、白18は不利を承知で打ち込んだものであるが、これは、
・白1のボウシくらいなら穏健路線で、黒2に白3が好形であった。

【3図】(黒、名調子)
・上辺にさわらず白1と右辺に向かうと、黒2のトビが絶好点になる。
・白3に、黒4、6と自然に左辺を囲って名調子となる。

【4図】(効果が薄い)
〇黒37、白38のとき、
・すぐ黒1、3とハミ出すのは、白4のハネ一本から6の大場にまわられ、黒つまらない。
・ここは、譜の黒39のカカリを急ぐ。

【5図】(立派なヒラキ)
・黒1のヒラキも立派。
・白2、4と隅を守られるのを嫌ったのであろうが、黒5で不満ない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、390頁~391頁)

小目・向かい小目 参考譜 加藤正夫vs羽根直樹


⑥1998年 加藤正夫-羽根直樹 (392頁)
第28型 【参考譜2】
1998年 第46期王座戦本戦
白七段 羽根直樹
黒九段 加藤正夫

【参考譜】(1-53)黒21コウ取る 白24コウ取る

【1図】
【2図】
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、392頁~393頁)

小目・向かい小目 参考譜 依田紀基vs三村智保


【補足】三村智保氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典』より
<小目・向かい小目>【参考譜】
⑨2004年 依田紀基-三村智保 (416頁)
第31型 【参考譜1】(1-58)
2004年 第59期本因坊戦プレーオフ
白九段 三村智保
黒名人 依田紀基

・隅をシマらずにすぐ5とカカリ、白6のハサミに黒11と実利に就いた。
・白14のオサエ。
・黒17のコスミに、白18から20のワタリは欠かせない。
・白18で右上にカカると、黒(2, 十四)、白(1, 十四)、黒(2, 十二)の動き出しが厳しく、逆に白が攻められかねない。
・黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。
・白28のハサミ。
・白38、48のツケハネは筋である。

【1図】(一子が遊ぶ)
〇白14のオサエで、
・白1のオサエから5と下辺に構えるのは、黒先手で6のシマリにまわる。
※白は白△の一子が遊んでおり、不十分である。

【2図】(白、遅れ気味)
〇黒23から25に白は手を抜いて、25にヒラいた。これでは、
・白1から3が定形であるが、この場合、黒4から6と大場にまわられ、白は遅れ気味である。

【3図】(白、厚い)
〇ただし、2図の黒4で、
・黒1に受けると、白2以下6まで中央が厚くなり、絶好の8に展開される。
※また、白2ではaのカケもありそうだ。

【4図】(定形だが―)
〇白28のハサミで、
・白1のコスミツケ以下5までは定形だが、黒から6または黒a、白b、黒cと圧迫される可能性がある。

【5図】(白模様消える)
〇白38、48のツケハネは筋であるが、38で、
・白1と止め3と広げるのは、黒4以下10で簡単に白模様を消される。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、416頁~417頁)

小目・向かい小目 参考譜 依田紀基vs高尾紳路


⑩2007年 依田紀基-高尾紳路 (418頁)
第31型 【参考譜2】
2007年 依田紀基-高尾紳路 (418頁)
2007年 第62期本因坊戦第4局
白本因坊 高尾紳路
黒九段 依田紀基

【参考譜】(1-70)
・黒5のカカリ一本から7と高くシマッった。
・白8から10と割ったのは、黒9の両ジマリを許しても、ゆっくり打つ作戦である。
※黒11とカドを衝いたが、

【1図】(大場へ先行)
・黒1から3、5と大場へ先行するのもある。
・白2は根拠を確かめる好点である。
・譜の白12の押しで、Aと間隙を衝くのは、黒12、白B、黒Cと突き抜かれて、白よくない。
・白14に黒15、17以下、サバキに出たが、15でDのツメも好点であり、白15のシマリに黒28と動き出すのもある。
・黒23は、白24と封鎖されても、黒27まで先手で生きにつく作戦である。
・黒29のカカリは苦心の一手。
※これで、

【2図】(壁に近寄る)
・黒1の割り打ちは、白2からツメられ、黒3のヒラキが白の壁に近寄り過ぎる嫌いがある。
・後に、白a、黒b、白cの封鎖が厳しい。
※白30のツメで、

【3図】(黒の注文)
・白1のコスミは穏やかであるが、黒2、4と好点にヒラいて、これは黒の注文である。
※黒33、35のツケハネに白36のツギでは、

【4図】(黒の踏み込み)
・白1のノビが自然であるが、3に黒4の踏み込みを嫌ったものか。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、418頁~419頁)

小目・向かい小目 参考譜 結城聡vs小林覚


結城聡氏の実戦譜~依田紀基『基本布石事典 下』より
<小目・向かい小目>【参考譜】
⑪2006年 結城聡-小林覚(426頁)
【第32型 参考譜】(1-76)
・白6のヒラキに黒7とカカリ。
・白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手。
・黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。
・黒13のケイマではハサミもありそう。
・黒19のトビに、白20のトビは省けない。
・黒21のボウシに、白22、24以下、脱出を図り、中盤の戦いに入った。

【1図】(模様を拡大)
〇白6のヒラキに黒7とカカったが、
・黒1とツメ、白2なら黒3、5とケイマで模様を拡大していくのもある。
・続いて、白aは黒bで理想形になるので、白bのボウシから消すことになろう。

【2図】(サバキの筋)
〇白10のカカリに、黒11のコスミは根拠を与えない、力強い手である。これでは、
・黒のケイマが定石であるが、白のカカリから実戦と同じように黒11となったとき、白12、14のツケ切りでサバく余地が生じる。

【3図】(利かし)
〇譜の白12のカカリでは、
・白1の肩ツキも目につく。
・かりに、黒2と受け、白3以下8となれば大変な利かしで、白9にカカって十分である。

【4図】(白の強行手段)
〇しかし、黒2では、
・黒2のコスミツケから4と切る強行手段がある。
・白5以下抵抗しても、黒10となっては白苦しい。
※黒13のケイマではAのハサミもありそうだが、白Bとかわされ、黒Cに白D、黒16、白Eと展開されて、おもしろくない。

【5図】(つらい封鎖)
〇黒19のトビに、白20のトビは省けない。これで、
・白1の逃げを急ぐと、黒2から4と封鎖され、これは白はつらい。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、426頁~427頁)

第3章 目外し 第5型(480頁~)
2譜 7図(ツメ方)ツケ切り  8図(白模様拡大) カケ+ツケ

第3章 目外し 第5型


第3章 目外し 第5型
【テーマ図 1譜(1-15)】
【テーマ図 2譜(16-22)】
・右上隅が一段落し、白は16とシマッた。
※黒21の理由は8図で解説

【7図】(ツメ方)
〇白は18とツメたが、これでは、
・白1と左方からツメるのもあるが、これには黒2とヒラく。
・白3のシマリに黒4と守って、強固な構えになる。
※白3で、aの打ち込みには、黒3、白b、黒cのツケ切りがあり、黒のサバキは容易である。

【8図】(白模様拡大)
〇白18のツメには、黒19以下21のトビが定形であるが、21で、
・黒1、3と左辺へ先着すると、白4から6のツケが強手になる。
・黒は7以下11と運ぶよりなく、白12のノビまで右方一帯の白模様が拡大する。
※よって、譜の黒21は欠かせない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、480頁~483頁)

第3章 天元 第10型


【1~3譜(1-49)】

【1譜】(1-14)初手、天元
・黒1の天元は、コミ碁の現代ではほとんど見られないが、勢力主体の変化に富む布石である。
・白2、4の二連星に、黒は高目と目外しで威圧する。
・白6は変則なカカリ。
・白6に、黒のケイマ。
・黒11のコスミに、白12の三間ビラキは手堅い。
・黒13の天王山は逃がせず、逆に白13を許してはいけない。
・白14のカカリ。

【2譜】(14-24)白、模様を荒らす
・白14には、黒15のコスミが形。
※この布石は、双方ともに天元の石を常に意識していなければならない。
 ちょっとした不注意から、一気に形勢が傾く恐れがある。
・黒15に白16とはずしたのが臨機の一手。
・譜の白16とくれば、黒17以下21のツギまでは一本道である。
・白は、隅の一子を捨てて、かわりに22まで所帯を持った。
※黒はこの代償として右上隅から上辺にかけて、模様の構築に資することになる。
 天元の布石は、黒は単に一カ所の模様にこだわらないで、柔軟な考えが必要である。
・黒23とカカって、碁を広く持っていくところ。
・黒23には白24と割る。

【3譜】(24-49)黒は戦い歓迎
・白24の割り打ちは、ゆっくりした碁に持っていく工夫の一手である。
※戦いは黒の望むところであり、天元の石が働いてくる。
・白24に、黒は25と左方からツメた。
・白は26以下34まで、所帯を持った。
※白は弱い石をつくらないことが、天元を働かせない要諦である。
・黒35で両ガカリ。
・黒35には、白は36から38とオサえることができ、白46までで一段落。
・黒47から49と構えた。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、516頁~521頁)


第3章 天元 第10型 参考譜 山下敬吾vs林海峰


【2000年】第26期天元戦本戦
 白 九段 林海峰
 黒 六段 山下敬吾

山下敬吾vs林海峰
【参考譜】(1-64)
※コミ碁の現代、初手天元の碁はほとんど見られず、本局は珍しい。
・白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道である。
・黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。
※11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。
・黒13に白14の切りから戦いに突入した。
・黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。
・黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。

【1図】(天元をぼかす)
〇白6のカカリに黒7のカケは、天元を活かす道であり、これで、
・黒1、3のツケヒキは、白4、6と軽く展開され天元の一子がボケてくる。

【2図】(シメツケ)
〇黒11のブツカリから13のオサエは非常手段。11で14のツギは、白(14、二)で甘いとみた。白12で、
・白1のノビは、黒2、4の切りサガリから、6のオサエでシメツけられ、よくない。

【3図】(白のねらい筋)
〇黒13に白14の切りから戦いに突入したが、白18では、
・白1のカドがねらいの筋で、黒2にサガると、白3から5となって、黒ツブレ。

【4図】(白、空振り)
〇3図の黒2では、
・黒1のハネ一本が手筋で、
・白2に黒3以下7となれば、白のねらいは空振りに終わる。

【5図】(黒、甘い)
〇黒21以下白24に、黒25から27のケイマが形である。これで、
・黒1のトビは、白2以下黒7となり、黒▲の高目が甘くなる。
※また、白が厚くなり、天元の石も威力を失ってくる。

【6図】(天元働かず)
〇黒は51以下53、55と忙しく立ちまわる。55で、
・黒1、3と下辺に展開するのは、白4を利かされ下辺はまとまるが、肝心の天元が働かない。
(依田紀基『基本布石事典 下』日本棋院、2008年、522頁~523頁)



≪囲碁の布石~林海峰氏の場合≫

2024-12-30 18:00:05 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~林海峰氏の場合≫
(2024年12月30日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも引き続き、囲碁の布石について、次の事典を参考にして考えてみたい。
〇林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]
 この布石事典の特徴は、「はしがき」にも述べてあるように、布石の歴史的変遷についても、述べている点にあるだろう。
 例えば、昭和期の布石の変遷について、次のように記す。
 布石でいうなら、大正から昭和かけての旧布石法が昭和8年秋の布石革命によって新しく生まれかわり、やがて新旧布石統合時代を経て、昭和30年の第二の新布石時代を迎える。
 そのあとに実利主義に徹した力戦志向の布石時代が続いたかと思うと、今度は中国流や二連星、三連星による勢力尊重の新しい波がひろがり、第三の新布石期が誕生する。
 そして、その時流の動きを正確にとらえることも、本書の重大な任務であったという。
 また、多くの実戦参考譜を用意し、その局に応じて同種型の変化、応用を示した点も、この事典の特徴である。
(本事典は大部で多岐にわたるため、網羅的に紹介することはせず、私の個人的な興味でテーマを選ばさせていただいたことを、お断りしておく)



【林海峰『基本布石事典(上)』(日本棋院)はこちらから】


〇林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]
【目次】
第1部 二連星・三連星
第2部 タスキ型
第3部 星・小目
第4部 中国流
第5部 特殊戦法




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はしがき
・星打ちと連星
・二連星
・昭和期の布石の変遷について
・三連星
・タスキ星の意義
・中国流
・特殊戦法としての天元






はしがき


・碁の打着点は、きわめて流動的なものである。
 布石は、一局の構成の基本となるものであるが、碁の個性的な本質がそのまま現れて、流動的な内容をもっている。
・中盤の手どころや死活と違って、布石にはいく通りもの行き方があり、それがそれなりにみんな正しい。それを統一し、画一されたメニューにおさめることは、至難なわざに属する。
・本書は、布石のすべてを網羅し、分類したものではないという。
 布石のおおよその類型を整理し、その代表的なタイプと思われる局に解説を附したものである。とくに意を用いたのは、その類型をより明確にするために、多くの実戦参考譜を用意し、その局に応じて同種型の変化、応用を示したことである。
 対局にあたった棋士の創意と苦心、そして歳月をかけた体験と努力がわかるだろうし、これによって布石の事典としての価値が高まるとする。
・本書は星の第一着手を基本として、型を分類した。
 上巻を「星」、下巻を「小目」と大別した。
 これによって、第一着が星である二連星とか中国流は上巻、そして小目を三つ組合わせる秀策流は下巻を見れば、それぞれの章項におさまっているという形にした。
 星、小目以外の第一着手では、天元、辺や隅の高い初手(5ノ十、大高目や5ノ五など)は上巻に、そして目外し、高目、三々などは下巻に、収録した。

・布石にしても定石にしても、序盤の碁の打ち方は、実に流動的である。
 ここ半世紀の歴史を調べただけでも、その変遷の激しさ、移りかわりの早さは驚愕に価する。
 布石でいうなら、大正から昭和かけての旧布石法が昭和8年秋の布石革命によって新しく生まれかわり、やがて新旧布石統合時代を経て、昭和30年の第二の新布石時代を迎える。
 そのあとに実利主義に徹した力戦志向の布石時代が続いたかと思うと、今度は中国流や二連星、三連星による勢力尊重の新しい波がひろがり、第三の新布石期が誕生する。
(その時流の動きを正確にとらえることも、本書の重大な任務であったという。)
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、3頁~4頁)

星打ちと連星


・星打ちの発展の歴史は、白番の創意、工夫に発し、白の布石の発展とともに歩んだといってよい。黒の第一着を星に打つことが一般化したのは、時代が下ってからである。
 星を誰が初めに打ち出したかは定かでない。現存の遺譜によれば、丈和の対局に見られるものが古い例の代表と思われるという。
(【参考譜1】文政4年(1821) 白本因坊丈和(名人、12世) 黒井上安節)
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、16頁)

二連星


〇二連星 第1局
 秋季大手合 昭和14年
  白 七段 木谷実
  黒 六段 林有太郎 中押勝
・昭和十年台、すでに新布石旋風もおさまり、新旧布石の統合時代に打たれた二連星の局である。
 先番の林が星をふたつ打ち、新布石提唱者の木谷が碁風の変化を表して、白2、4の向かい小目に布陣している。
※二連星対策として呉清源が愛用し白の布石法として定着したのが、この向かい小目であった。
・黒5と高ガカリして、白6のツケに黒7、9とナダレていくのは、まさに現代的な手法である。
・白10のツギが木谷流。
・黒11とノビられ、多少利かされの気味はあるが、ナダレの大型定石によって碁が決まりがちになることを避け、堅実を旨とした手である。
・白12、14のハイは、保留して単に16とトブのもあり、黒を厚くしない意味でそう打つケースが多い。
・黒17のケイマは絶好点。
≪棋譜≫1譜(1-18)二連星 林vs木谷、20頁
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、20頁~21頁)

昭和期の布石の変遷について


 著者の林海峰氏は、昭和期の布石の変遷について、次のように述べている。

●新布石革命
①昭和8年秋、新布石革命
 新布石時代の木谷実と呉清源の星打ちに関する考え方の差
②昭和30年前後の第二の新布石時代
③昭和50年前後の第三の新布石全盛期(中国流や二、三連星)
※20年周期で布石の変遷は興味深い。

【①昭和8年秋、新布石革命】
・昭和8年秋、新布石革命は燎原の火のごとく燃え盛り、囲碁界を席捲した。
 主唱者は木谷実と呉清源である。
 その三連星ないし星打ちが中心となって、高目、大高目、5ノ五、三々などの特殊戦法による中原志向が、旧来の布石法の価値観と鋭く対立、これをひっくりかえそうとした。
・旧手法は、第三線が主体の考え方なので、これを否定するためにはどうしても石の位置が高くなり、中央が主戦場となる。
・黒1、3、5の星の三連打は、位を高く保ち、勢力を誇示するのに絶好の拠点となった。
・三連星主唱者の木谷実が、前田陳爾の黒の三連星に対して、白の三連星で向かっていった。

【新布石時代の木谷実と呉清源の星打ちに関する考え方の差】
・新布石時代の木谷と呉の星打ちに関する考え方の差について指摘しておく。
 両棋士は昭和8年夏、信州地獄谷で新法について意見を交換したのは事実であるが、それではそれを三連星とか5ノ五で打ってみようという具体的な問題まで提起したわけではなかったようだ。
・木谷は、石の働きを三連星による勢力拡張で表現しようとしたし、呉の星や三々に対する考え方は一手で隅を打つという経済性にあり、必ずしも三連星にこだわっていなかった。
 前者は位高く中央に勢力を盛り上げようとし、後者は布石の速度に重点をおき、両者の間には微妙な差があった。

【②昭和30年前後の第二の新布石時代】
【③昭和50年前後の第三の新布石全盛期(中国流や二、三連星)】
・昭和ひと桁の新布石法は、やがて新旧布石統合時代を経て、昭和30年前後の第二の新布石時代を生み、またそれが50年前後の中国流や二、三連星を中心とする第三の新布石全盛期につながる。
・20年周期で布石の変遷があったのは興味深い。



・三連星主唱者の木谷実が、前田陳爾の黒の三連星に対して、白の三連星で向かっていった。
【木谷実vs前田陳爾】
昭和11年 春季大手合 
 黒六段 前田陳爾(15目勝)
 白七段 木谷実

・新法の提唱者は、自ら編み出した新法にも苦しまねばならなかった。
・黒7に対して、白8の天元が苦心の一着である。

<二間の消し>
・白10の二間トビが左右同型の消し方で、この時代の面白い手法である。
※独得の研究であり、その研究のバックがなければ打てない手といえる。
 高いところから、黒の三連星を中心とする勢力を、大きく消しているのが特徴である。
・黒11と一間にカカリ、白12の二間に、黒13と二間に応じた。
※このあたりのかけ引きが興深い。

<白あまかった>
・白18のマゲが問題のあるところ。
・黒19の打ち込みが機敏。
・白20とこのほうからオサエたので、黒21以下楽に隅から辺を荒らすことができた。
・下辺に転じ、白32のツケが痛烈であった。
※黒33のノビで34にハネれば、むろん白33に切ってくる。
・その戦いを不利とみて、黒は33にノビた。
※コミのない碁だから、白は相当頑張らねば追いつかない。
 黒37までかなり強引な封鎖の仕方であるが、黒も下辺が大きくまとまり、この結果に不満はないであろう、とする。
 白の難局といっていいと評する。

<黒好調>
・黒39と左下隅にツケたのが、いいタイミングであった。
・白40のオサエに、黒47までハネサガリ、活形を得た。
※木谷実「白48では、「い」(13,四)と打ち込むなどはどうであったか」
 48と中央をかこっても、黒49と受けられて、白は地で対抗できない局面となっている。
 左辺の白模様はかなり大きそうに見えるが、あちこちにキズがあって、よほど能率よくまとめないと、60目にするのは容易でない。
・白50とここへなぐり込んでいったのは、この局面ではやむを得ないであろうという。
・黒は鷹揚に51と封鎖し、白52と隅にかわっていった。

<林海峰氏のコメント>
・本局は序盤の白の左上隅の打ち方に、問題があったようである。
・黒に唯々と隅を侵略されては地が足りそうもなく、下辺のツケ以降目いっぱいに左辺を模様化しようとしたが、これも成功しなかった。
・現状で黒の優勢は動かしがたい。

【変化図】
【変化図(80頁の7図)】
・白52で、1とスベるのは、黒2以下7まで、いじめを食う形がつらい。
・8のケイマで右辺がかなりまとまりそうであり、白堪えられそうもない。
・このあと、黒は中央を荒らすチャンスをつかみ、「ろ」、白「は」、黒「に」、白「ほ」、黒「へ」と白の唯一の宝庫になだれ込んでいった。
※この黒もとても取れるような石ではなく、ここを侵略されては白の苦戦は明らかであるという。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、74頁~81頁、127頁)

タスキ星の意義


・星打ちの発展のおおまかなことは、第1部の冒頭で示したが、タスキ星となると二連星や三連星とはまた違った視点からとらえなければならぬだろう。
・やはり星打ちは白の布石創意から発したという類例に従って、タスキ星も白番によって打たれ出したもののようである。
 勢力というよりも、スピードに重点をおいた布石法とみるほうが当たっていよう。
・タスキ星や二連星に限らず、星打ちは黒の小目を主体とした堅実な布石に対して、これを突きくずそうという白の意欲的な打ち方であるといっていい。
 とくに秀策流の小目一、三、五の布石に対して、効果があったようである。
 白の第二手目の星から右上隅の小目の黒にカカった場合、星の白が小目でないので、勢力発展方向が一方に限定されず、両辺に対して自在なものの考え方のできる点が特色である。そこに白の幅広い活動が約束される。
 布石に策を用いねばならぬ白としては、そこに妙味を見出さねばならぬのである。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、124頁~125頁)

【タスキ星】第1局
 第10期本因坊戦挑戦手合第4局 昭和30年
  中押勝 白 本因坊 高川秀格
      黒 九段  島村利博

・黒1、3のタスキ星は、足早な布石法である。
 二連星、三連星が勢力を重んじた打ち方であるのに対して、タスキ星は位を失わず、スピードを旨とした打ち方であり、これを愛用する棋士は少なくない。
・白は2、4の小目によって、黒のタスキに対応している。
・黒5のカカリに、白は6とシマった。
 この手はこの隅を打つか、あるいは5の一子をハサむか、ふた通りあるところ。
 大ゲイマのシマリは趣向である。
・ここで黒は7と、下辺を三間にヒラいた。
・白8の二間が、実に渋いヒラキだった。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、128頁~129頁)

第4部 中国流


・本書では、黒が第五手目を辺の第三線に打つ形を中国流、そして第四線の高い位置に打つものを新中国流という表現に統一したという。
(五手目の高い中国流は中国流を発展是正した意味をこめて、修正中国流ともいわれているが、ここでは新中国流で通したそうだ)

・中国流の布石法は、本来、日本で生れたものである。
 それが中国に渡り、中国から逆輸入されて、この名がある。
 ここでは中国流を生むに至った背景と、それに共通する布石法が従来から日本にあったことを述べて、この部の導入としたいという。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、308頁)

・中国流布石は、昭和30年台(表記ママ)に安永一を中心とするアマチュア強豪の間で研究され、打たれていた。
 そして、安永が中国に渡り、中国選手にこの打ち方を紹介、当地でその技法が検討され、黒の5の手が第三線の低い中国流として日本に逆にもどってきた。
 また、昭和41年に訪中した島村俊広がこの布石法の感化を受け、ひと頃、島村流の名でプロ碁界を悩ませたのは、衆知のところである。
・日本の囲碁界で中国流が流行し、これを実戦に用いる棋士が多くなったのは、昭和40年台の後半から50年台にかけてである。
 武宮正樹にみられる大模様作戦が二、三連星の星打ちを基調としたのに対応し、中国流と新中国流が爆発的な人気を呼び、これら勢力重視と中央志向の風潮は、第三期の新布石時代再現の様相さえ呈するに至った。
・ある時期の加藤正夫は黒番のすべてを新中国流に徹し、抜群の成績とともにこの技法の発展に寄与した。
・中国流がこれだけ囲碁界に人気を得た原因として、一時期実利主義に走った全体的な傾向に対する批判と従来の布石を立体的な視点でとらえ、これに流動性を与えようとする時代的な要求があったことを、あげねばならぬだろう。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、310頁~311頁)

【参考譜6】梶原武雄vs陳祖徳
【日中交流対局】昭和40年
 白 八段 梶原武雄
 黒    陳祖徳

※中国選手が日本との交流の中でもち来った最初の頃の中国流。
 受けて立つ梶原は、かねてよりこの手法の研究家であり、この技を得意とした陳との顔合せが興深い。
・白28は、黒が次に39と受け、白37、黒a、白bのノビを期待したが、黒29の反撃がきびしかった。以下、白38までは勢い。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、310頁)

中国流 第1局


林海峰vs梶原武雄
【第10期名人戦リーグ】昭和45年
 中押勝 白 本因坊 林海峰
     黒 九段  梶原武雄
≪棋譜≫(1-54)1譜~7譜

【1譜】(1-13)下辺の大場
※梶原は、中国流出発当初から、この布石の研究家であり、その実戦体験は少なくない。
・黒1、3と星と小目の組合せから、5と左上の小目にカカっていった。
・いきなり五手目の中国流でなく、白6、8とツケ引いたところで、黒9と、このかまえについたものである。
・白は10と、下辺の大場を急いだ。
※黒が左上隅を手抜きしたのだから、当然、白(4, 六)と切ることが考えられる。
・黒11とここへ手がもどって、白12、黒13の定石ができあがる。
※白10、12と右方に石が向いたので、黒の中国流は後年にみられるような大模様化は望めなくなった。

【2譜】(14-18)軽くカカる
・白14のツメは、次に白(3, 八)の打ち込みをみて、まずこの一手であろう。
※黒からここをカカられるとの差は、きわめて大きい。
・ここで、黒は、15と一間にかまえた。
※14までの布石は、これより先、関山利夫との対局でも全く同型を経験したことがあるが、その碁では、15は(14, 四)とこのほうに一間に打たれた。
※黒15は、1時間近い長考の手だった。

・黒が上を守ったので、白は右下にカカるのは当然である。
※16と二間に、逃げ足早くカカった。
・そして、17のケイマに、白18と単純に一間にトビ、策をろうさなかった。

【3譜】(19-22)切りちがえた
・白の一間トビに、黒19のトビも、この一手である。
※敵の急所は味方の急所で、双方ともこの点は譲れない。
※さて、白からは常に三々のツケがねらいであるが、19のトビをまってそれを実行した。
 放置して、黒から21とコスんで攻められては、白が浮きあがってしまう。
・白20とツケた。
※この際、白の一間トビが隅の戦いにどの程度参加し、それがどの程度の利をもたらすか問題のところであり、またバックにある19の黒の一間トビの存在も注目せねばならない。
※中国流は、布石構造が立体的であるだけに、こういう戦いがむずかしくなる傾向がある。

・黒21のハネダシは、まず当然である。
・黒21とハネダし、白22と切って、以下のっぴきならぬ戦いに発展する。

【4譜】(23-24)ふた通りのアテ
・ここで、黒は、単純に切った白一子をカカエることはしなかった。
 23とアテ、白24のサガリとかわった。
※このあたりが、この部分戦のポイントである。
※ただし、局後の検討で、23では24のほうからアテる手のあることがわかった。
 この隅のアテにはふた通りの打ち方があり、黒も変化図にかなり食指が動いたようだ。
・なお、黒23のアテに、白24のサガリはやむを得ない。

【5譜】(24-34)カケツいでふんばる
・白24とこちらへサガらせた以上、黒25のアテから29のツギまでは一本道。
・白も30とここを切って、抵抗するよりない。
・29は、ここをツグ一手。
・白は30と切り、ラッパにカケツぐよりない。
※格好は悪いが、これが唯一のシノギ筋である。
・黒はここで33にアテ、白34のツギとかわってから、行動を起こしたが、変化のひとつとして、こうアテない打ち方も考えられた。

【6譜】(35-45)せり合い
・アテとツギの交換をしてしまったので、黒35、37の出切りには、白38、40とここを出ていきやすい形となった。
・ここで、黒41と下をハネるのが手筋で、次に43のツギをみている。
※41で(18, 十八)とオサエ、白43に抜かせて、隅の活きを考えるようでは、落第。
・白42の出は余儀ない。
・隅の二子を取られ、白44とハダカで逃げ出したのはつらいが、このくらいのことはやむを得ない。
※元来、ここは黒が二手先着して、その勢力圏であり、そこへあとから入っていったのだから、多少の苦しさは覚悟しなければならない。
 それが中国流布石に手をつける場合の心得である。
 あまりひどい目に合わずに逃げ出すことができれば、それでよしとしなければならない。
※白は44までのハダカの石が下辺の星下の一子と握手したのが、この場合の救いである。

・さて、ここで黒は45と中央をコスんだ。
※右下隅の攻合がどうなるか心配のところであるが、それには次譜の絶妙手を用意しており、これは梶原武雄らしい読みであった。
 が、外に利きの残るのがいやである。
※著者なら、手堅く黒(18, 十八)とカカエているという。

【7譜】(45-54)せり合いの碁
・黒が右下隅を放置して、45と打ったのは、白46のマガリに対して、黒47とサガる巧筋をみていたからである。
 これをほかの打ち方では手になってしまう。
・このあと、白48、50に黒51と強打を打ち、白54についで、黒(10, 十三)、白(9, 十四)と反撥して、大戦争になった。
※せり合いに終始した碁であり、中国流の戦闘的性格が表面に出た一局ともいえよう。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、312頁~325頁)

第5部 特殊戦法 天元


・特殊戦法といえば、天元をはじめ第一着手を辺に打ったり、隅の大高目や5ノ五等に配したりと、そういう種類の打ち方の総称である。その多様性はいうまでもない。
・昭和ひと桁の新布石革命前後の久保松勝喜代の天元打ちは、その熱心な研究と共に有名である。大手合の黒番で天元を打ち続け、同じ関西の棋士陣営に大きな影響を与えた。
・すでに、天元は、寛文10年(1670)の道策・算哲の御城碁で打たれているなど、歴史は古いが、地のあまさとその勢力活用法に問題があって、技術的な発達をみていなかった。
 中原を志向する新しい試みとして、脚光を浴びるようになったのは、昭和に入ってからであり、今も有力な序盤の技法として、研究の対象になり得るものである。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、458頁)

天元 第1局


・昭和初年の新布石は、中央重視の傾向を極端に示し、当然の成り行きとして天元を志向するものも多く出て、その代表的な打ち手は関西出身の雄、久保松勝喜代だった。
 
【小野田千代太郎vs久保松勝喜代】
【秋季大手合】昭和9年
    白 六段 小野田千代太郎
七目勝 黒 六段 久保松勝喜代
≪棋譜≫1-58

【1譜】(1-19)中央志向
・黒1の天元から、3、5とこのふたつの星を占めたのは、正しい布石設計であり、白ももうひとつ黒に右辺の星を占められると、模様が深くなるので、6と割っていくところ。
・ただし、この6の位置は当時の三連星対策としてよく用いられた手であり、星下より一路ずらしているところがミソである。
・黒7、9と上下の星を占めたとき、白10とカカる。
※10で15とトブことも考えたという対局者の感想があるが、これは天元の一子を意識した発言であろう。
・黒11とツケて、さっそく一戦に及んだのは、力戦を好む久保松勝喜代らしい。

【2譜】(20-35)抜くのが主旨
・黒にアテられて、白もおめおめとツイではおられない。
・20とツケ以下27としたのが、巧みなコウ材つくりだった。
※小野田は、“鬼田”とも称された剛腕の持ち主。
・右上隅のコウダテを利して、28とさっそくコウを仕掛けたあたり、その力強い芸風がよく表れている。

【3譜】(36-58)黒攻勢
・白が左下隅を一本利いてくれたので、黒は楽になった。
・むろん白36のコウダテは受けず、黒37から39とハネてふりかわった。
・黒43のハネがきつく、49にノゾいて、いじめられた。
・白54以下、ここに小世帯をもとうとするが、まだ完全ではなく、寄りがもどそうな局勢である。
※序盤から激しい戦闘となった一局である。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、458頁~465頁)

・鈴木越雄は、中原志向の人。
 梶原の外まわり、武宮の大模様、白江のアポロ流とはひと味違った、中央の厚みで打つ碁だったという(474頁)
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、474頁)

≪囲碁の布石~片岡聡氏の場合≫

2024-12-29 18:00:03 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~片岡聡氏の場合≫
(2024年12月29日)

【はじめに】


 今回のブログでも引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にしながら考えてみたい。
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]
 「はしがき」にもあるように、序盤は中・終盤にくらべ、比較的自由である。ただし、比較的自由な序盤でも、それなりの制約がある。その制約を無視すれば、いきなり形勢を損なうことになる。本書では、その制約にスポットを当ててみたという。
 タイトルにもあるように、その局面で「これだけはいけない」という手を強調して論を進めている。なぜいけないのかを解説することで、序盤に対する基本的心構えを述べたという。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、3頁)

【片岡聡氏のプロフィール】
・昭和33年、千葉県生まれ。榊原章二九段門下。
・昭和42年院生。昭和47年に入段、昭和63年に九段昇段。
・昭和52年、53年留園杯連続優勝。
・昭和54年、初のタイトル戦に挑戦するも加藤正夫天元に敗退。
・昭和57年新人王戦優勝。同年、第8期天元戦に加藤天元を破り、初タイトルを獲得。
・平成2年鶴聖戦優勝。
・平成10年早碁選手権戦優勝。
※本因坊リーグ11回、名人戦リーグ6回出場。棋道賞2回。



【片岡聡『布石 これだけはいけない』(フローラル出版)はこちらから】







〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]


本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はしがき
第1章 序盤を乗り切るコツ
 序盤は「自由」か?
 どう打っても一局
 着手決定のプロセス
 大局を見誤るな
 構想をたのしむ。ただし―
 どこにでもある落とし穴
 これだけはいけない

第2章 狙いを秘める
 仕掛けのタイミング<研究局①>
  出切って戦う 三方ガラミ
 防御は攻めに通ず<研究局②>
  遠慮のカカリ 堂々のカカリ
 厚みを意識する<研究局③>
  中国流布石概要 勢力を活かす 気分は攻め 踏み込む

第3章 石の効率と働き
 攻守を兼備<研究局④>
  着意の継承 攻めも狙う
 八方をにらむ<研究局⑤>
  光る中央の一歩 狙いの決行
 緩急をつける<研究局⑥>
  常識的対応 打ち込んでこそ
 厚みには敬意を<研究局⑦>
  ワリ打ち 浅く消す
 続・厚みには敬意を<研究局⑧>
  限界の大ゲイマ 

第4章 石の方向と流れ
 目的意識を持つ<研究局⑨>
  相手の注文は? 大きく攻める
 大所を逃がすな<研究局⑩>
  第一級の大場 模様のスケール
 本手の威力<研究局⑪>
  一手で厚みに
 気合いというもの<研究局⑫>
  手抜きを咎める
 手順も有力な武器<研究局⑬>
  厚みと呼応 「いま」だから



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はしがき
・第1章 着手決定のプロセス
・第1章 これだけはいけない
・第3章 「石の効率と働き」の「緩急をつける<研究局6>」
・第4章 「石の方向の流れ」の「気合というもの<研究局12>」




はしがき


・みなさんは布石は好きですか?
 碁の面白さは、なんといっても中盤の戦いである、という人も少なくないだろう。しかり、布石もそれなりに楽しいもの。
・序盤は中・終盤にくらべ、比較的自由である。
 「答」が出しやすい中・終盤に対し、序盤は「答」の得にくい分野。
 ああ打っても一局、こう打っても一局と、打つ人の価値判断によって「答」がまちまちになる場合が少なくない。その点が、よりいっそう布石を面白くしている。
・ただし、比較的自由な序盤でも、それなりの制約がある。
 その制約を無視すれば、いきなり形勢を損なうことになるだろう。
・本書では、その制約にスポットを当ててみたという。
 タイトルにもあるように、その局面で「これだけはいけない」という手を強調してみたようだ。なぜいけないのかを解説することで、序盤に対する基本的心構えを述べたという。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、3頁)

第1章 着手決定のプロセス


・みなさんは局面局面で、どのように打つ手を決めているだろうか。
 着手はおよそ、次のプロセスを経て決まる。
①大局を見る
 碁盤全体をながめる。
②構想を立てる
 立てた構想を実現するための、
③戦略、戦術を考える
 戦略が定まったら、その戦略にふさわしい
④着手を選ぶ
・おおむねこのような「手順」で着手は決定されているはず。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、12頁)

第1章 これだけはいけない


・大局(急場)を見誤れば形勢を損なう。
 大局を正しくとらえても、あとの構想に無理があれば、やはり形勢を損なう。
 大局を正しく見、立派な構想を持ったとしても、着点を誤れば同様。
・「序盤は比較的自由」「どう打っても一局という場面も少なくない」。実際、そうした場面もある。しかし、「これだけはいけない」という手も存在する。
 本書では、その点をとくに強調している。
 「これだけはいけない」という手と、その理由を示すことが、序盤感覚に磨きをかけることになる、と信ずるから。

【12図】
・著者(黒番)の実戦。
・白は1と浅くカカって来た。
・著者は黒2とケイマで応じ、白3と入らせて、黒4とコスミツケ。


【13図】
・12図の白1に対し、「これだけはいけない」という手は、13図、黒1の受け。
➡これこそ白の注文。
・白はすかさず2とツケてくるだろう。
・黒3、白4となったでき上がり図を見てほしい。
※下辺の白は立派な構え。
 黒▲はほとんど活力を失っている。
 なおかつ、白にはaのツケが残っている。白aとツケられると、黒は低位を強いられる。

(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、20頁~21頁)

第3章 「石の効率と働き」の「緩急をつける<研究局6>


「第3章 石の効率と働き」の「緩急をつける<研究局6>」(118頁~131頁)において、苑田勇一氏との実戦譜が載っている。

【研究局6】
 黒 片岡聡
 白 苑田勇一

≪棋譜≫118頁、片岡VS苑田


【第1譜】(1—19)あっさり
・白10のハサミまでは、黒白立場は違うが、研究局3とまったく同じ進行。
・著者は両ガカリではなく、あっさりと三々にフリカワる黒11を選んだ。
※「どう打っても一局」の場面

【第2譜】(20)細分化狙い
・白は20のカカリ。
※白(14, 三)でなく、こちら側のカカリは、局面細分化の狙いがある。
 局面を細分化して、コミに物を言わせようという手法。
(白(14, 三)との善悪はいえない)
※著書では、ここをテーマ局面としている。
➡白のカカリを迎え、きわめて常識的な応接でよい。
 中国流のこの部分にカカえられたときは、対応は決まったようなもの
・定法通り、黒21とコスミツケて、黒23と受けておく。
(黒21は白(18, 四)の拒否に他ならない)
・白24とヒラかせても、黒(17, 十一)の存在で寸のつまった二間ビラキ。
※白22と立たせてはいるが、まだまだ攻めの狙える石。
 攻めが狙えるということを言い換えれば、黒の右下一帯が地になりやすいともいえる。
※なお、黒23と受けておけば、碁の推移によっては、黒(6, 二)も有力な狙いになる。

【第3譜】(21—26)狙い含み
・白24に黒25のトビ。
※これでは右下一帯の完全な守りには、なっていない。
 ただし、白に圧力をかける手には、なっている。
※加えて、右下を一手で守り切る適当な手が見当たらない。 
 それなら、いっそうのこと黒25とトンで、二間ビラキの白への攻めと、ある狙いをテンビンにかける。
※黒25に白は白26と打って、二間ビラキを補強した。
 ここでテーマ場面としている。黒25と打ったからには、ただ右下を守る気にはなれない。
➡黒25とトンだ手には、複合的な狙いがあった。
 ひとつは、白の二間ビラキへの攻め。そして、もうひとつは、黒27への打ち込み。
※白が白26と二間ビラキを強化したので、黒27ともうひとつの狙いを決行するのは、必然の帰結。
※黒25は、以上の狙いだけでなく、場合によっては、右下を丸々地にする手に化ける可能性もある。
➡このように、狙いが複合的な手ほど、効率がいいといえる。

【第4譜】(27—31)地になる
・白28に黒29、白30に黒31は、ともに大事な手。
※黒が利かされたと見るのは、誤り。
 こう受けて、「自動的に」右下が固まった、地になったと見るべきである。
 これも、黒27で白6を攻めに出た効果。
※攻めは「押して引く」「引いてまた押す」という緩急が大切。
 攻めっぱなしで、あとに何も残らない、という攻めであってはならない。
 黒29、31と「引い」たお陰で、右下が強化され、そこそこの黒地がついている。

【第5譜】(32—39)25目確定
・白は34のコスミツケでワタリを防ぎ、白36から逆襲に転じた。
※今度は黒が黒27をサバく番であるが、生きた碁とは、こういうもの。
※この間、黒は右下に約25目の地を確定させている。
 白が一子を強化するために、それだけの資本を投下したということ。
 サバキに回るのは、やむを得ない。

【第6譜】(40—53)治まる
・黒41から45まで、下辺で世帯を構えることができた。
※左下の白は、まだ確定地とはいえない。
 ただし、手をつけていくためには、黒一団の強化も必要。
・それが、黒47のハネから黒49、そして53。
※これは黒一団の単なる強化だけでなく、上辺の白をも意識している。
 中央が強くなれば、黒(6, 二)や黒(6, 五)が狙いやすくなる。
※単一の働きしかしない手というのは、そうそうない。
 要はその働きを、打ち手が認識しているかどうかである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、118頁~131頁)

第4章 「石の方向の流れの「気合というもの<研究局12>」


・「第4章 石の方向の流れ」の「気合というもの<研究局12>」(196頁~205頁)において、中野寛也氏との実戦譜が載っている。
【研究局12】
 黒 片岡聡
 白 中野寛也
・タスキ小目から、ひと隅を黒5とシマリ。
・白は両三々から白6のカカリ。
・黒7で打つ手はいくらでもあるが、このカカリは一種の工夫。
・白8のカケから12までは、こちらの注文の拒否。
※注文通り打って悪いというのではなく、拒否したい気分になった、ということ。
 また、こちらの趣向に対し、趣向し返したいという反発もあったかもしれないという。
・黒13に当然ながら、白も14と反発してきた。
・黒15、17は必然。
・白18のアテを利かされても、この形は隅の白がまだ生きていないのが、黒の自慢。
・白20、22で間に合わせ、やむなく白は24のスベリ。
・黒25とトンで、少なくとも黒互角以上の戦い。

※白12の次の一手をテーマ図としている。
 実戦は、手抜きを咎める黒13と打った。
 打つ場所は、下辺、それも右下隅しか考えられない場面。
 黒7に手を抜いた白の趣向に対し、それを咎めるには、黒13に限る、と著者は解説している。

≪棋譜≫196頁、片岡VS中野


〇変化図として、参考となる図を紹介しておこう。
≪棋譜≫201頁、3図

【3図】(これだけはいけない)
※黒13で、黒1と打つのは、いけない。
 下辺から目をそらすのだけは、いけない。
・黒1、3は大場ではあっても、完全なソッポ。
・白4と受けられると、最初の黒の趣向、三角印の黒が悪手になってしまう。

≪棋譜≫203頁、7図

【7図】(シチョウ)
※黒13で黒1のケイマでも、いけない。
・白2に黒3とオサえられなければ、黒不満。
・しかし、白4と切られて困る。
・黒5、7で黒aのとき、見合えればいいのだが、白8とワタられ、黒aのシチョウが成立しない。

≪棋譜≫203頁、8図

【8図】(白やれる戦い)
・ということで、白のツケ切りに対しては、黒1とノビ、戦っていかざるを得ない。
・しかし、隅の白はすでに生きており、白4にノビられては、実戦とくらべても、黒の苦しい戦い。

≪棋譜≫205頁、10図

【10図】(手筋だが…)黒6コウ取る(1の右)
・実戦の白18でこの白1のカカエのとき、黒2の切り返しは、ひとつの手筋。
・しかし、このケースでは、白5と切られて、黒が持て余す。
※捨てるには、三角印の黒は大きい。
 手筋も、時と場所をわきまえるべきである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、196頁~205頁)

≪囲碁の布石~石田芳夫氏の場合≫

2024-12-28 19:00:06 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~石田芳夫氏の場合≫
(2024年12月28日投稿)
 

【はじめに】


今回も引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年
 著者の石田芳夫九段は、プロフィールにあるように、正確な目算とヨセから「コンピューター」のニックネームがある有名な棋士である。
 そして、多くの俊英のプロ棋士を輩出した木谷実門下である。武宮正樹氏、加藤正夫氏と共に「木谷門の三羽烏」といわれた。
 本書の構成は、先に紹介した大竹英雄九段の布石の本と似ていなくもない。
 さらに実戦型に即して、詳しく棋譜解説をされている点が特徴的である。

【石田芳夫氏のプロフィール】
・1948年生まれ、愛知県出身。木谷実九段門下。
・1971年に22歳の当時史上最年少で本因坊となって秀芳と号し、本因坊5連覇により名誉称号を名乗る。
・正確な目算とヨセから「コンピューター」のニックネームがある。



【石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』はこちらから】



〇石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はしがき
第1章 小目の布石
 第1型 現代の花形布石
 第2型 手堅い布石
 第3型 秀策流の布石(1)
 第4型 秀策流の布石(2)
 第5型 向い小目(1)
 第6型 向い小目(2)
 第7型 タスキ小目の布石
 第8型 総ジマリ(1)
 第9型 総ジマリ(2)
 第10型 総ガカリの布石
 第11型 シマリの布石

第2章 小目と星の布石
 第12型 足早やの布石
 第13型 黒、大模様の布石
 第14型 辺が勝負の布石
 第15型 黒、四隅を取る
 第16型 辺を重視の布石
 第17型 中国流の布石(1)
 第18型 中国流の布石(2)
 第19型 中国流の布石(3)

第3章 星の布石
 第20型 三連星の布石(1)
 第21型 三連星の布石(2)
 第22型 二連星の布石(1)
 第23型 二連星の布石(2)
 第24型 タスキ星の布石

第4章 特殊な布石
 第25型 直接掛かる布石
 第26型 小目対峙の布石
 第27型 目外しの布石
 第28型 三々の布石

布石のテスト1~25




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・第1章 小目の布石 第1型 現代の花形布石
・第1章 小目の布石 第3型 秀策流の布石(1)
・第2章 小目と星の布石
・第2章 小目と星の布石 第12型 足早やの布石
・第2章 小目と星の布石 第17型 中国流の布石(1)
・第3章 星の布石
・第3章 星の布石 第20型 三連星の布石(1)
・第4章 特殊な布
・第4章 特殊な布石  第25型 直接掛かる布石






第1章 小目の布石 第1型 現代の花形布石


【第1型 現代の花形布石】
≪棋譜≫(1-41)

<第1譜>(1-18)無難なスタート
・黒1、3の小目対白2、4の構えは、最も現代的な布陣といってよいだろう。
・黒5のシマリは、黒として当然の態度で、白も6のカカリはごく普通。
・黒7、9のツケヒキに白10が絶対。
・白12で右下が一段落したので、黒は13のカカリが最大。
・白14の二間高バサミから白18までは誰でも知っている定石であるが、ここまでは現代花形布石の一型といえる。

<第2譜>(18-21)大きなツメ
・左上を先手で切り上げた黒は、19のツメが最大。
(しかも、黒19のツメは半先手の意味がある。というのは、黒19とつめられると、白は20のトビが余儀ない)
・白20の辛抱はほぼ仕方ない。
※これで右上、右下、左上がほぼ形がついた。
 残るは左下の白三々。
・黒のカカリはいろいろあるところだが、黒21とかかるのがこの形では一般的。

<第3譜>(21-26)「この一手」
・黒21のカカリに対し、白の応手は22の一間が一番力強いだろう。
・黒23の二間ビラキは「この一手」。
・白24の一間トビも「この一手」。
・黒25のツメは沈着な好手。

<第4譜>(26-41)中原が「勝負」
・白26のトビは厚い手。
※こう打っておくと、左辺の黒二子が無言の威圧を受けている。
・黒27のツケは彼我の要点。
・白28のヒキは戦いの常識だろう。
・黒29となれば、白30のマゲは絶対。
※このマゲは単に黒の模様が広がるのを防いでいるだけでなく、秘かにキリをねらっている。
 この白30のように着手は一つの目的だけでなく、二つ三つとたくさんの目的を持っている方が優ることは言うまでもない。
・黒33は白のキリに備えつつ、右上の黒地の補強にも一役買っている。
 これで右上は一段落し、白の次の目的は右辺一帯を中心とした模様の盛り上げ。
・白34の二間はいい見当で、黒35の受けも仕方ないが、次の白36が作戦の分れ道だろう。
・白36以下40と思い切って押し、中原が勝負の碁。

【本型のポイント】
・黒が実利をがっちり取り、これに対して白が右辺を中心にした模様で対抗した。
・模様の打ち方はお互いにむずかしいのであるが、第4譜の白26、黒27、白30、34など学ぶべき手法である。
(石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年、15頁~21頁)

【第3型 秀策流の布石(1)】


【第3型 秀策流の布石(1)】
≪棋譜≫(1-44)

<第1譜>(1-8)現代的なハサミ
・黒1、3の小目に対してすぐ白4と掛かるのは、黒にシマリを許さないという態度。
・これに対して黒は5と左下隅を占め、これが昔からある「秀策流1、3、5の布石」。
・白は再び右下に6と掛かるが、このカカリでは、高いカカリもよく見られる。
・次の黒7の二間高バサミに現代の臭いがする。
※コミのある現代では、こうやって積極的にやってゆくが、コミのない昔の打碁には、黒のコスミがよく見られた。
・ここで白はすぐ4の一子を動き出すのが普通であるが、白8と変化をもたせたのは、白として一つの作戦。

<第2譜>(8-17)手筋の応酬
・白8の作戦というのは、黒のコスミツケを打ちにくくしていること。
・黒9のツケは当然の一手。
・白は10とのび込んで、様子を見る。
・黒11のオサエは気合いというもので、黒13のツギでは白11とはい込まれて、気合い負け。
・白12は筋。
・黒13のツギは仕方ないだろう。
・白も14、16とおとなしく応じる。
・黒17の打込みは衆目の集まる好点。

<第3譜>(17-27)大場の打合い
・白18はつらい屈服だが、仕方ない。ここは白も威張れないところ。
・黒19と高く締まりたい気分。
※なぜなら、左上、右上、右辺すべての白が低いので、黒19の一間が光ってくる。
・白20のヒラキ、黒21の肩ツキと大場の打合い。
・白24のマゲは理由のある手。普通はケイマ。

<第4譜>(27-44)双方順調
・白28と下辺に割打ったのも、注文を含んだ手。
・黒は29とつけ、忙しく打っていく。
・白はともかく30のノビを打たなければならない。
※急いで32とひらくと、黒30と押さえられてしまう。
・黒は33と隅を押さえたが、これは仕方ないだろう。
・黒に33と押えられれば、白も34と補うのは当然だろう。
・黒35から39とつめ、黒41と好調の足どりであるが、白も42とひらいてゆっくりしたペースである。

【本型のポイント】
・「秀策流」の布石は、昔から不変の布石として息づいている。
・しかし最近比較的みられないのは、白がコミを意識して、避けているから。
・本型、下辺の打ち方に、白はいろいろと工夫がいる。
(石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年、33頁~39頁)

第2章 小目と星の布石


【小目と星の布石】
・小目と星を組み合わせた布石は、比較的最近打ち出されたもの。
 この布石の大きな特長は、小目の実利性と星の勢力性を巧みに組み合わせたもの。
 これならば、実利に走り過ぎることもないし、逆に勢力過剰で地にあまくなるという心配もない。
・本章で取り扱ったものは8型であるが、この8つを頭に入れておけば、「小目と星の布石」は一応無難にこなすことができるといってよい。
・また、この布石の最近の大きな特色は、「中国流」の開発。
 中国流はシマリを省略して、スピードで自己の勢力圏を築いてしまうというもの。
 本場の中国の人が好んで使うところから名付けられたが、本章でも3つの型を選んでみた。
(なお、タスキ型は省略した)
(石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年、122頁)

第2章 小目と星の布石 第12型 足早やの布石


【第12型 足早やの布石】
≪棋譜≫(1-47)

 第12型 足早やの布石
<第1譜>(1-13)ポピュラー型
・黒1の小目と黒3の星のコンビネーションは、最近プロの対局でもよく見られる。
※小目と星の組み合わせは、小目の実利と星の勢力によって、バランスを保とうという考え。
・黒5と締れば、白6の割り打ちはほぼ絶対。
※同点へ黒に打たれると、黒の構えがいかにもよくなってしまう。
・なお、白6ではA(17, 九)と割り打つこともあるが、そのときは左下に白の勢力(たとえば白4、8の小ゲイマジマリ)があるとき。
・黒7の一間高ガカリから黒13のヒラキまでは、おなじみの定石。

<第2譜>(13-18)一本道の進行
・黒13とひらいたとき、白14のツメは絶対。
・白14は次に白A(3, 十二)の打込みをねらっていることは言うまでもない。
・黒15のツメはこれが正しい。
・白16の二間ビラキは本手。一路進めて三間にひらくのは、一手戻るので得にならない。
・黒17の大ゲイマも本手。
・白18の走りも当然だろう。
※今度黒E(17, 十五)とこすまれると、右辺の二子が苦しくなる。

<第3譜>(18-28)三々の荒し方
・白18のスベリに対し、常識的には黒A(17, 十七)と受けるのだろうが、この局面ではこれは小さい。
・いま一番急がれるのは、黒19のカカリ。黒19は積極的な打ち方で、白も20のハサミが積極的なよい手。
・白20とはさまれれば、黒は21と三々へ入る一手。
・白22のオサエに黒は23、25とはねつぐ感じ。
・黒27とケイマすれば、白は28の備えが省けない。

<第4譜>(28-34)文句のない大場
・黒29のツメは文句のない大場。
・白30のツケ以下は定石。
・白30、32のツケヒキには黒33が正着。
※黒33は将来B(18, 十五)のツケ味ねらっている。
・白34のコスミツケは厚い手。
・黒が29へきているので、白34は相場。

<第5譜>(34-46)ツケノビの効用
・白34は本手。
・白40の守りに、黒41、43のツケノビが好手。
※このツケノビは右上の拡大は言うまでもない。もろもろの味を有効に防ごうというのが、黒41、43のツケノビ。またこのツケノビが白の左上の模様拡大を阻止していることは、いまさら言うまでもない。
・白は44から白46とついだが、これは本手。

<第6譜>(46-47)いい勝負
・白が46と一手入れてくれたのだから、黒も47と一手備える。
※もうこれからあとは、中盤の戦いとみてよい。
※右上の黒地が大きそうだが、丸々地にはならないだろうから、結構好勝負と思われる。

【本型のポイント】
・小目と星の組合せは、言葉を変えれば実利と勢力の組合せ。
・従って、全局的なバランスが大切となってくる。
 本局でいえば、上辺19のカカリから三々に入ったタイミングを学んでほしい。
(石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年、123頁~132頁)

第2章 小目と星の布石 第17型 中国流の布石(1)


【第17型 中国流の布石(1)】
≪棋譜≫(1-46)

<第1譜>(1-9)スピード豊か
・黒1、3から5と辺に構えるのは、俗に「中国流」と呼ばれている。
※黒の趣旨は、スピードで勝負しようというもの。
・白6のシマリ、黒7、白8とお互いに大場へ先行しているように、この布石は模様の碁に発展する可能性が比較的多い。
・黒9と大ゲイマに掛かるのは常識。

<第2譜>(9-16)模様への対策
・黒9のカカリ。
・白10のケイマは当然であるが、ここで黒11ととんだのが目に引く手。
・黒11と白12を交換するのは通常惜しい打ち方であるが、このような模様の碁では許される打ち方といってよいだろう。
 もうひとつ、黒は左辺へ打ち込む可能性があまりないことも、黒11と打った理由。
・黒13のヒラキに白14のカカリは絶対の一手。
 白は右下に掛かるか、右上へ掛かるかの二者択一であるが、この模様では右下が優先する。
・相手の模様の中へ飛び込むときは、軽く打つのが肝要。白14の一間高ガカリの方が軽い。
・白16とつけたのも、軽くゆく方針。

<第3譜>(16-26)白、トビトビ
・白16とつけられれば、黒17のハネから19のノビは当然。
・白20のマゲから22ととんだのは、ごく常識的な打ち方。
・白は22と打つことによって、黒の大模様を適度に消すというのが、普通の考え方。
・黒23の受けは仕方ないだろう。
・白24ととんだのも、大勢上のがせない。
・白24ととべば、黒25の受けは相場。
※黒が25と受けて、右方は一段落。
・白は26のツメが最大となる。

<第4譜>(26-42)囲い合い
・黒27、29のツケヒキは無駄のないところ。
・白は28から30が正しい受け方。
・黒が31と守れば、白も32と守ったのは仕方ないだろう。
※白32と守ると左辺の白地は十九路ぶっ通しで大きそうだが、白はいわば一カ地。
 対する黒は下辺と右上一帯に大きな地を持っているので、いい勝負と見られる。
・黒33のツケは様子を聞いたもの。
・白34のオサエから38のヌキまでは定石で、黒は39とつけるのがねらい。
・黒39のツケは、大局上の要点。
 黒がここへ打たないでいると、白から41のトビが好点で、左上一帯がグーンと盛り上がってくる。
・白40のハネは当然であるが、黒41のノビも肝要。

<第5譜>(42-46)互角の形勢
・白42のノビから44のツギは仕方がない。
・白44のツギは足が遅そうだが、白44とつげば、黒も45の備えが省けない。
・つづいて白は黒からのデギリに備えて、46のケイマ。これで互角の形勢だろう。

【本型のポイント】
・中国流の布石から生じる典型的な大模様の碁。
・大模様というのは、心もち黒が打ちやすいようであるが、ひとつ判断を誤ると、取り返しのつかないことになりかねない。
(石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年、177頁~184頁)

第3章 星の布石


・星の布石は、いうまでもなく勢力を前面に打ち出した布石。
 しかも星というのは、高目などに比べ、地の点でも、まるっきりあまいということもない。
・もうひとつの大きな特色は、星の定石というのは、小目その他に比べ、複雑さがない。
 初級者が置碁から離れて、互先の碁を打つ場合も、星の布石は手っとり早いと言える。
・最近の専門棋士の布石傾向としても、星の布石は激増している
 勢力とスピードでコミを吹っ飛ばしてしまおうというのであろう。
・星の布石は、二連星とタスキ星の二つに分類される。
 二連星は三連へ発展できるように、勢力一本ヤリの布石といえるし、タスキ星は臨機応変の器用さがある。
 スペースの関係でタスキ星の布石は1型しか紹介できなかったが、二連星と三連星を重点的に勉強してほしい。
(石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年、212頁)

第3章 星の布石 第20型 三連星の布石(1)


【第20型 三連星の布石(1)】
≪棋譜≫(1-42)

<第1譜>(1-8)三連星
・黒1、3と二隅の星を占めるのを二連星という。
 もちろん地よりも勢力に重点を置いた打ち方。
・つづいて黒5と辺の星を占めるのを三連星といい、スピードのある打ち方。

<第2譜>(9-23)絶対の肩つき
・黒9のカカリに白10と掛かり返したのは、策のあるところ。
※白10でA(4, 十四)と受けていれば普通であるが、すると黒12と構えられるのがすばらしい。右辺の三連星と呼応して、黒の理想形となる。
・黒11とおとなしく受けた。
(黒11のような受けは、おおむね悪い手にはならない)
・白12のハサミは当然だろう。
・黒13の三々入りでは、21またはA(4, 十四)などとハサミ返す定石もあるが、互先の碁では黒13と入るのが実利の大。
・白14の遮断から21まではおなじみの定石。
・ここで白は22が省けない。白22は本手の守り。
・白が下辺を守れば、黒は左上に向う一手であるが、23と肩をつくのが絶対だろう。

<第3譜>(23-31)三々の肩つき
・黒23の肩つき。
・黒23の肩つきに対し、白はハイ方が二通りあるが、通常は「自分の強い方へはえ」と記憶しておくと便利だろう。従って、白24のハイは当然。
・黒25のノビに対して、白26と曲げたのが好手。
・白28のノビに黒29は形。
・白30ととんで一段落。
・黒31では右下のシマリもあるが、石の流れからいくと31だろう。

<第4譜>(31-42)きびしい打込み
・黒31と上方をしまれば、白32の三々は絶対。
・黒は33のオサエから35と打つのがコツ。
・黒39、白40の交換はこんなもの。
※黒は下辺に打込む碁ではないから、白40と受けさせても惜しくはない。
・つづいて黒41の打込みが作戦の岐路。
※黒41の打込みは、先に31と締った手を働かす意図も含んでいる。

<第5譜>(41-53)打込みをめぐって
・黒41の打込みに対し白42のツケは「この一手」といってよい。
・白42のツケに対し、黒43と割込んだのはきびしい手。
・白44、46の受けは仕方ない。
・白46のヒキに対して黒47とはったのは仕方ない。
※ここは戦いを起すところではなく、黒47以下51までガメツク地をかすって53と渡ってしまう。黒かなりの戦果であろう。

<第6譜>(53-55)白のねらい
※前譜黒41の打込みから本譜53のワタリまでは、比較的常識的なワカレ。
・黒53のワタリに白54の守りは省けない。
※しかし白54の守りは、ただ自己の補強ではなく、ねらいを秘めている。
・黒55は本手。

【本型のポイント】
・第6譜のあとは、左上黒四子の去就が注目されるが、黒は上辺で稼いだのだから、少々の損失は覚悟しなければならないだろう。
・本型から学んでほしいことは、右辺の黒模様に対する考え方である。
(石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年、213頁~222頁)

第4章 特殊な布石


・「特殊な布石」と分類したが、内容的には前3章以外の布石というもの。
・第25型の「直接掛かる布石」というのは、アマチュアの人には少々むずかしいかもしれない。しかし逆に考えれば、むずかしいだけにおもしろいわけである。
 何もむずかしいのは、こちらだけではなく、お互いさまなのであるから。
・特殊な布石とはいっても、布石の理屈は他の布石とまったく同じこと。
 形にとらわれず、石の理屈を理解することが大切。
(石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年、270頁)

第4章 特殊な布石  第25型 直接掛かる布石



【第25型 直接掛かる布石】
≪棋譜≫(1-40)

<第1譜>(1-2)一間高ガカリ
・「特殊な布石」の最初は、黒1の小目に白2と直接掛かるもの。
・白2の一間高ガカリだと、黒は手を抜いてあき隅を占めるというよりは、何らかの挨拶をするというのが普通。
※なお、こういった碁だと、アマチュアの場合は平素の知識外の戦いになるので、本当に力のある人が有利ということが言えるだろう。

<第2譜>(1-18)左上隅が大きい
・黒3、5のツケヒキから7まではおなじみの定石だが、ここで白はA(9, 三)と打つのでは策に乏しい。
・このヒラキを省く意味で、白8と左上隅を占めるのが大切な考え方。
・白10の小目は正着。
・黒11のカカリに白12と一間にはさんで忙しく打ったのには理由がある。
(白12などの忙しいハサミだと、黒も手を抜いているわけにはいかない)
・黒13とケイマしたのにもわけがある。
・白14のケイマはこの一手。
・黒はなるべく上方にさわらず、15、17と左方にもたれていく。
・勢い白は18と曲げることになる。思いがけないところで戦いとなった。

<第3譜>(18-27)カカリを急ぐ
・黒19、21のハネノビは必然。
・黒が手厚く19、21とはねのびれば、白22の守りは仕方ないところ。
・黒23のハサミツケは手筋。
・白24とかわしたのは、味わいのあるところ。
・白24と受ければ黒25は絶対。これで黒は白をへこませた格好になったが、白も26とひらいて不満ないだろう。
・白26のヒラキは絶対で、もし他へ転じると黒C(3, 十三)とつめられて、全体の白が攻められることになってしまう。
・白26のカカリに対し、黒27と右下に掛かったのは、大きな手。

<第4譜>(26-32)白、両ニラミ
・黒27の小ゲイマガカリは「この一手」。
・また白28のコスミは、次に下辺のヒラキと30のカケを見合いにしている。
・黒は29とひらいた。
・白30のカケは、28とこすんだときからの予定の行動。
・黒31のトビに対し、白32と左下の三々へ入ったのは、大きな手。

<第5譜>(32-38)出口を止める
・白32の打込みを迎えて、黒はどちらから押さえるのが正着だろうか。33と34両方の打ち方があるが、正しいのは黒33。
・黒33と押さえれば、白34のワタリから36のツギまでは一本道。
・黒は37と押さえたが、ここはのがしてはならない点。
・白38のツメは大場。

<第6譜>(38-40)黒、不満なし
・白が38のツメで辛抱したのだから、黒は39のトビで不満はない。
・白40のケイマは、本型の白の基本方針である、「いなし」を継承している。

【本型のポイント】
・こういった布石は、あまり見かけないだけにむずかしい意味がある。
・従って、左上隅の打ち方、左下隅の打ち方などにおける石の理屈を十分理解していないと打てない。
(石田芳夫『実戦に役立つ互先の布石 応用編』産報出版、1982年、271頁~280頁)