歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の攻めについて≫

2024-08-04 18:00:21 | 囲碁の話
≪囲碁の攻めについて≫
(2024年8月4日投稿)

【はじめに】


 前回までのブログでは、「勝負師の教え」と題して、次の著作を参考にした。
〇中山典之『囲碁の世界』岩波新書、1986年[1999年版]
〇藤沢秀行『勝負と芸―わが囲碁の道』岩波新書、1990年
〇羽生善治『直感力』PHP新書、2012年
〇井山裕太『勝ちきる頭脳』幻冬舎文庫、2018年
〇張栩『勝利は10%から積み上げる』朝日新聞出版、2010年
 勝負師と呼ばれるプロ棋士たちは、どのような姿勢で囲碁や将棋に取り組んでいるかが垣間見れたのではないだろうか。一流のプロ棋士たちは、勝負において「直感」や「経験」の大切さを強調していた。また、定石に対して、どのように捉えているのかなども参考になったことであろう。
 
 ただ、テーマがいささか抽象的なところがあり、今一つ焦点が定まらなかったのも事実である。
そこで、今回以降のブログでは、もう少し具体的に、囲碁の攻めについて考えてみたい。
 囲碁の攻めについて、真っ先に浮かぶのは、モタレ攻め、カラミ攻め、切りやハサミなどの戦術や戦略である。
 囲碁の攻めに関する著作を読んでみると、それだけには留まらない。
そこで、次のような著作を参照しながら、考えてみたい。

〇石倉昇『NHK囲碁シリーズ 石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]
〇マイケル・レドモンド『NHK囲碁シリーズ 攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
〇山田規三生『NHK囲碁シリーズ 山田規三生の超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]
〇中野寛也『NHK囲碁シリーズ 戦いの“碁力”』NHK出版、2011年
〇苑田勇一『NHK囲碁シリーズ 苑田勇一流基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]
〇牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]
〇新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]

<お断り>
※各書のです・ます調の文体を改めたことをお断りしておく。

 詳しくは、次回以降のブログで紹介することとして、今回は、各書の骨子・要点を紹介しておく。



〇石倉昇
【攻めの5か条】
①相手の根拠を奪う
②むやみにツケない
③自分の用心……自分の弱い石から動く
④モタレ攻め
⑤攻めながら得をする
(石倉昇『石倉流攻めとサバキの法則』日本放送出版協会、2005年[2007年版]、105頁)

〇マイケル・レドモンド
【攻めの基本と守りの基本】
<ポイント>
●攻めの基本
①相手を分断する
 相手の石が連結して地を作ったり、大きな一団になったり安定すると、攻めが効かない場合が多い。
②閉じ込める 
 眼形のない石が孤立したら、中央などに逃げようとするだろう。
脱出を事前に防いで、狭い所に閉じ込めることができれば、攻めは成功したといえる。

●守りの基本
①連絡する
 石は連絡すると強くなる。
 また、三線や四線で連絡すると地ができる。
②中央に出る
 辺の連絡が断たれると、中央へ向かう競り合いが始まる。
 一歩でも先に頭を出したほうが優位に立つ。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、9頁)

〇山田規三生
4章 モタレ攻めの極意
・ねらいを定めた石を直接追いかけたり、攻めたりしても逃げられるだけで、何も得るものがなかった、なんてことはよくある。
 ここでは「からめ手」から攻める高等技術、「モタレ攻め」を伝授するという。
攻撃を厳しく成果あるものにする。
(山田規三生『超攻撃法』日本放送出版協会、2007年[2008年版]、147頁)

〇中野寛也
●切って厳しく攻めよ
・戦いの好きな人なら、誰でも興味を持つのが、「切り」
 しかし、その切りにも、切って良い時と悪い時がある。
・たとえば、
①シチョウ関係の見極めは大切。
 もちろん、切った石がシチョウで取られるようではいけない。
②また、味方の連絡がしっかりできていないような状況でも、切ってはいけない。

・テーマ図1で取り上げた両ノゾキは、実戦では相手の石を切断する時に使うケースが多い。
 このような場面はすでに接近戦になっているので、決断力とともに、ある程度先を読む力が必要。

※切って仕掛けていく時には、自分の石の連絡はできているかなど、細心の注意をはらって決行しなければならない。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、26頁)

〇苑田勇一
第1章 「生きている石」の近くは小さい
・この章では、碁の考え方、戦略をわかりやすく解説している。
・最も意識してほしいのは、石の効率であるという。
⇒石の効率を簡単に表現したものが、次の大切な考え方。
●「生きている石の近くは小さい」
●「生きていない石の近くは大きい」
この点、実例をあげて説明している。

3章 攻めず守らず
・石を取ること、攻めることが好き、という人は多いだろう。
 しかし、石を取ることと、攻めることは全く別のことだと著者はいう。
・攻めるとは、むしろ「追いかけて逃がすこと」なのだとする。
 得をする攻めを心がけて、石の方向を見極めてほしい。

4章 「サバキ」「競り合い」「幅」
●サバキはナナメ
・石の強弱は、石数を数えればある程度わかる。
 石数の差が3つ以上あるときに、弱いほうの立場はサバくことになる。
・サバくコツは、ツケて、石を斜めに使うことである。
 反対に強い立場のほうは、石をタテヨコに使う。

●「競り合い」はお互いに生きていない石が接触したときにでき、碁の骨格が決まるので、理解しておくのは、大変大事である。
(苑田勇一『苑田勇一流基本戦略』日本放送出版協会、2001年[2004年版]、7頁、87頁、157頁)

〇牛窪義高
<置碁はとくに速攻が肝要>
・結局、碁というものは、守ろうとしても守りきれるものではない、といえる。
 なぜなら、ある局部を完全に守ろうとすれば、三手も四手もかかるし、そのたびに後手を引いたのでは、他方面で弱石を作って、守勢に陥り、あげくのはてに、三手、四手と費やした確定地にも悪影響が及ぶからである。
 このような悲劇的光景を、よく見かける。
・要は、着手の優先権を、第一番に「攻め」に置くこと。
 これに尽きる。
 上手との力の差、技術の差がある置碁において、このことはとくに大切。
 上手にいったん攻勢に立たれると、下手側はシノギに難渋し、まずその碁は勝ち目がないと知るべき。
 次に、守りに偏した手の欠点および攻める手のメリットについて、列挙しておく。
<守りに偏した手の欠点>
①一手では守りきれないので、手段の余地を残す、ないし、味が悪い。
②完全に守るためには、手数を要するので、一手あたりの価値は存外小さい。
③相手に手を渡す(=守ると後手を引く)

<攻める手のメリット>
 その裏返しとして、攻める手のメリットをまとめると、次のようになる。
①攻撃することによって自然にできた地は、味が良く、手段の余地を残さないことが多い。
②相手に迫っていれば、守る手自体、不要となることもある。きわめて効率が良い。
③攻めているかぎり、先手を堅持できるので(主導権)、相手の作戦の幅を狭くできる。

〇有名な実戦訓<攻撃は最大の防御なり>。これはまさに真実。
 “色即是空”をもじれば、“攻即是守”。囲碁戦略の一番の要諦は、ここにあるという。

・攻めと守りに関して、次のようなことも重要。
 アマチュアの人は一般に、攻めるときはムキになり、なにがなんでも取ってしまおうといった、非常に無理な打ち方をすることが多い。その大きな原因は、「先に守る」ことにある。
・守る手というのは、当然、得な手に違いない。
 その得な手を先に打ち、それから攻めて、なおかつ得を収めようとすると、敵石を取ってしまうような大戦果をあげないと、攻めの効果が出ないということになりがち。
 そうではなく、守りを省略して先に攻め、その効果は、攻める調子で自陣が固まる程度でいいと、このぐらいの小欲で処するほうが本筋であり、成功率も高いといえる。
(牛窪義高『碁は戦略』マイナビ、2009年[2013年版]、79頁~82頁)

〇新垣武
・著者は、一間とケイマで攻めることを勧めている。
・置き石は多いほど攻めに持ち込むのが容易であるが、五子局ぐらいからはハサミ、打ち込みという互先実戦でも役立つ打ち方をしないと勝てない。
・従って、実戦例は四、五子局を中心として、互先にも通じる一間とケイマによる攻めの基本を、解説するように努めたという。
・本書を通じて、「石を攻めて取る喜び」を味わってほしいとする。
(新垣武『攻めは我にあり』日本棋院、2000年[2001年版]、まえがき、3頁~4頁)