歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の手筋について プロローグ≫

2025-01-05 18:00:03 | 漢字について
≪囲碁の手筋について プロローグ≫
(2025年1月5日投稿)

【はじめに】


 今年のブログ記事の予定として、囲碁の手筋や死活に関する記事を投稿してみたいと記した。そして、次のような手筋に関する参考文献を掲げておいた。
 次回から、それぞれの本を紹介していくにあたり、今回はまず「手筋」とは何かについて述べ、プロローグとしたい。

<手筋>
〇小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]
〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年
〇結城聡『囲碁 結城聡の手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年
〇大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法―意外な急所がどんどんわかる』誠文堂新光社、2014年
〇白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年
〇工藤紀夫『初段合格の手筋150題』日本棋院、2001年[2008年版]
〇依田紀基『囲碁 サバキの最強手筋 初段・二段・三段』成美堂出版、2004年
〇原幸子編『新・早わかり 手筋小事典 目で覚える戦いのコツ』日本棋院、1993年[2019年版]
〇溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』毎日コミュニケーションズ、2009年
〇藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]
〇藤沢秀行『基本手筋事典 下(序盤・終盤の部)』日本棋院、1978年
〇山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年

 さて、囲碁の手筋とは何かと問われた場合、その答えは著者によってまちまちである。
 それは、おそらく読者の棋力によって、著者がいろいろと工夫して表現しておられるからであろう。
 例えば、事典によれば、囲碁の手筋とは、最も効率よく石を働かせた着手をいう
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、3頁)
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、3頁)
 また、藤沢秀行氏によれば、「手筋は全碁人の財産であり、囲碁の美学の根源をなすものであろう。とはいえ、手筋は両刃の剣であり、誤れば我が身を傷付ける恐れなしとしない。
 この「最も効率よく石を働かせた着手」という手筋の意味は、囲碁を極められたプロ棋士が、上級者もしくは有段者向けに定義されたものであろう。
(上級者以上でなければ、囲碁で「石の効率」など考えないのではなかろうか)
 もっと分かりやすい定義としては、小林覚九段が初級や中級の人に向けて書かれた『はじめての基本手筋』の「はじめに」において登場する。囲碁のどの分野から入っていくのが一番効果的な上達法を考えた場合、布石、定石、手筋、死活などさまざまな領域がある。そして、やはり手筋の勉強から入るのが効果的な上達法ではないかという結論に至った。
その理由は入門後しばらくの間は石取りのおもしろさに取りつかれているからだとする。囲碁は陣地の多少を争うゲームであるが、そのプロセスでは戦いが何度となく起こる。その戦いの本質は石取りともいえるから、石取りに関心を持ち、おもしろがるのは当然といえば当然。石取りの基本手筋を習熟すればアマ初段だという。
 とすれば、初級や中級の人が早く上達して初段に到達するためには、一番関心の深い石取りの基本の基本手筋を身につけ、「手筋とは何か」をしっかり理解するのが大切であるという。
 また、加藤正夫九段によれば、筋というのは「関係」のことであり、その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現すると簡明に説明されている。
 その他、手筋の意味について、プロローグとして、まとめてみたので、参考にして頂ければと思う。



【小林覚『はじめての基本手筋』(棋苑図書)はこちらから】

さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・小林覚『はじめての基本手筋』の「はじめに」
・加藤正夫『明快・基本手筋』の「はじめに」
・白江治彦『手筋・ヘボ筋』の「はじめに」
・溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』の「序章 利き筋とは」
・藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』の「はしがき」
・山下敬吾『新版 基本手筋事典』の「はしがき」




小林覚『はじめての基本手筋』の「はじめに」


・初段前後の人のための棋書は多いのに、初級や中級の人にふさわしい本が少ない。
 初級や中級の人がどの分野から入っていくのが一番効果的な上達法を考えた。
 布石、定石、手筋、死活などさまざまな領域がある。考えた末、やはり手筋の勉強から入るのが効果的な上達法ではないかという結論に至った。

・その理由は?
 入門後しばらくの間は石取りのおもしろさに取りつかれているから。
 いうまでもなく囲碁は陣地の多少を争うゲームであるが、そのプロセスでは戦いが何度となく起こる。その戦いの本質は石取りともいえるから、石取りに関心を持ち、おもしろがるのは当然といえば当然。

・著者の考えでは、石取りの基本手筋を習熟すればアマ初段だという。
 とすれば、初級や中級の人が早く上達して初段に到達するためには、一番関心の深い石取りの基本の基本手筋を身につけ、「手筋とは何か」をしっかり理解するのが大切。
 石取りの基本手筋を勉強して、「なるほど手筋の威力とはこんなに強力なのか」がわかってくれば、実戦でもだんだん応用できるようになる。

・本書は初級・中級の人が基本の基本手筋を積み重ね、初段の基礎固めとなる手筋を実戦でも使いこなせるようになるのを、主たる目的に構成したという。
(むろん、上級の人が石取りの基本手筋を再認識するのにも役立つはず)
高度な手筋よりも、まずは基本。基本がわかれば骨格が太くなり、より早くより本格的に上達できるから。
 本書は前半で石取りの基本手筋を解説している。また、石を取られないためには、連絡の基本手筋を知っておくと便利だから、その手筋を簡明に説明したという。
 そして、後半は石を取る手筋を問題形式で構成している。

・「石取りの手筋」は手筋の原形。したがって、手筋や石の効率的働きとは何か、を理解する好材料である。
(小林覚『はじめての基本手筋』棋苑図書、1997年[1998年版]、3頁~4頁)

加藤正夫『明快・基本手筋』の「はじめに」


・碁を覚えて、ようやくその面白さがわかってきた頃、筋とか手筋という言葉を耳にするようになる。
 「筋がいい」とか「筋が悪い」などと批評され、筋とはどういうものか気になりはじめる。
 そうした読者のためにまとめたのが、本書であるという。
・では、筋とか手筋とはなにか?
 著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
 碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
 ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。
・その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。
 つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する。
・ところが、同じ手になるにしても、ごく当たりまえの手段では手筋とはいわない。
 意外性が強調される手段にかぎられるのが特徴である。
(だから、本とか実戦で、はじめて手筋に接したとき、おそらく読者の多くは驚きと感動を受けるだろう。そして、碁の奥深さは倍加するはず。)
・碁の腕を磨くには、定石の勉強をはじめ、戦い(攻め、守り、模様の形成、厚みの生かし方等)の仕方など、いろいろとやることが多いもの。
(それはそれで上達するためには欠かせない勉強である)
・しかし、それらの中に、つねに手筋が顔をのぞかせてくる。
 だから、手筋を学ぶことによって、他の分野の勉強も比較的容易に理解できるようになる。
・本書では、まずどういう手筋があるか、基本的な型を76型収録した。
 そして、その手筋がどういう状況で生ずるか、そのプロセスにもふれ、納得できるようにまとめてみたという。
(これらは手筋へのいわばスターとラインに過ぎない。本書が碁への理解を深め、上達の手助けになってくれることを願う)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、2頁~3頁)

白江治彦『手筋・ヘボ筋』の「はじめに」


・一局は平均250手ほどかかる。
 正しい着手もあれば凡手もある。
 正しい着手は手筋、凡手はヘボ筋である
(ヘボ筋は俗筋ともいい、はたらきの少ない着手のことである。イモ筋、筋違い、無筋とも言われる)
・手筋の中でも接近戦になるものを「形」といい、石がぶつかり合えば「筋」となる。
※故瀬越憲作九段は、筋と形の違いを「筋は攻撃、形は守りの正しい打ち方を指す」と表現した。
(ただ、サバキやシノギの手筋など、攻撃より防御の雰囲気のものもあり、いちがいにいえない部分もあるが、わかりやすい区別である)

〇ところで、接近戦でもっとも効果の高い着手である手筋の効用は、多目的ホールのようなもので、何にでも使われるすぐれものであると、白江氏はいう。
・攻め合い、死活、遮断、連絡、封じ込め、封じ込め回避、荒らし、シボリ、愚形に導きコリ形にさせる。
・また、オイオトシ、ウッテガエシ、ゆるみシチョウなど捨て石を駆使した華麗な展開も可能。
(捨て石を使った手筋は、相手地の中への元手なしのもの、リスクなしで攻め合いに勝ったり、地の得をはかったりするものも多くある)
・しかし、手筋のそばには多くのヘボ筋があり、注意が必要。
(ヘボ筋とは、満点のはたらきをしていない減点着手、さらに打たない方が良いマイナス着手まである)
 ヘボ筋の罪は、攻め合いに負け、死活に失敗、ヨセの損など序盤戦から終盤戦まで延々と続く。
※本書では、それぞれの形で、手筋とヘボ筋の違いを鮮明にあらわしたという。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、2頁~3頁)

溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』の「序章 利き筋とは」


・利き筋とは、簡単にいえば弱点のこと。
 相手の弱点を利用して、得をはかるのは当然の碁の戦法。
 その弱点である利き筋をうまく使うことができれば、勝負所で優位に立て、勝ちに直接結びつけることができる。
 利き筋を利用するには、いくつかコツがある。

①「利き」は必要になったら打つ
・とりあえずアテておこう、と思うことは多くないだろうか。
 この「とりあえず」をやめよう。
・利き筋は受けないと相手が困るところ。
 決めてしまうと、選択肢が減るので、手段の幅が狭まり、それは条件の悪化を意味する。   
 とくに2つ以上の可能性があるとき、例えばアテる方向が2カ所ある場合などは、むやみに打たないように気をつけてほしい。
・利き筋は、決めないもの、だいたい先に打たなければいいと思っていていいだろう。
 最も効果的になるまで、打つのはがまん。

②「利き」を生かすも殺すも手順しだい
・利きが複数あるとき、どこから決めていくかは、かなり重要な問題。
 手順ひとつで、うまくいくものも、いかなくなる。
・利き筋をもっとも生かすための手順を発見するには、やはり慣れが必要。
 本書では、問題形式でかなりの数の利き筋の活用を体験できる。

③理想を実現へ
・「ここに石があったら取れるのに」「ここに石があれば生きるのに」
 そんな思いになることは、実戦でもよくあるはず。 
 そんな理想をかなえてくれるのが、利き筋。
※利き筋は、「ここに石があればなあ」という思いから考えるのが、見つけるコツでもある。

・この願いを「利き筋」を使って実現するのである。
 利き筋を最大限に活用すれば、相手に「理想の場所に受けさせる」ことができる。
(溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』毎日コミュニケーションズ、2009年、8頁~9頁)

藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』の「はしがき」


・手筋とは、最も効率よく石を働かせた着手をいう。
 これを大前提として目的別に分類し、布石からヨセまで、碁の打ちかたの基本を集成したのが本書である。
・従来、単に「手筋」といえば、接触戦の戦闘技術を指し、攻めの急所の「筋」と守りの急所の「形」を総称したものとして、理解されていた。
 しかし、他に「死活の手筋」「ヨセの手筋」等、さまざまな用法があるなかで、「手筋」の定義がややあいまいになっていたことも事実だ。また、あまりに雑多な領域にわたるため、系統的な分類はわずかに形による二、三の例が数えられるだけであった。
・ここでは、手筋の領域をさらに広げるとともに、着手の目的による分類を試みている。
 いわば、悪手以外はすべて手筋であるとする観点に立ち、そして、悪手かどうかはつねに全局的目的から判定されなければならないからである。
(もちろん、本書の分類には数々の疑点があり、重複もあるのだが、なんのために手筋を打つか、という根本的な問題には、答えを出したつもりである)

・手筋は全碁人の財産であり、囲碁の美学の根源をなすものであろう。
 とはいえ、手筋は両刃の剣であり、誤れば我が身を傷付ける恐れなしとしない。
(手筋に幻想を抱くことは禁物としても、これを無視し、未発掘の状態に置いては、囲碁の真に目をそむけ、囲碁の善に背を向け、囲碁の美を汚すことになる)

・本書は上巻に従来の「戦いの手筋」を置き、下巻には「布石、セメアイ、死活、ヨセ」の手筋をまとめた。
(上巻はさらに「攻めの手筋」と「守りの手筋」に二大別し、それぞれ着意別11項目に分類してある)
・「手筋読本」にも「実力養成問題集」にも用いられるように編集したつもりである。
 著者の真意は、これらを通じて、碁の深奥に通じる道を発見していただきたいということである。
(構成にあたっては、古来からの手筋書の多くを参考にしたし、読者に見やすい形を選ぶため定石変化からの抜粋も少なくないという)
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、3頁~4頁)