歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の布石~趙治勲氏の場合≫

2024-12-26 19:00:06 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~趙治勲氏の場合≫
(2024年12月26日)

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年
 プロフィールにもあるように、著者の趙治勲氏も、木谷実九段門下である。
 その後の活躍や名著の『ひと目の詰碁』などの著作は余りにも有名であろう。
 本書は、「はじめに」にもあるように、テーマ図を出し、その解説を読んでいくうちに、自然と一局全体の流れをつかみ取るよう、構成されている。そして、テーマ図は、ほとんど著者の実戦から取材した、言わば“生きた碁”である点に特徴がある。
 中でも、「互先の布石」は、著者の実戦(第5期名人戦挑戦手合第5局。著者の白番で、相手は大竹英雄氏)を取り上げたもので、圧巻である。

【趙治勲(ちょう・ちくん)氏のプロフィール】
・昭和31年7月23日生まれ。ソウル市出身。
・昭和37年来日。木谷実九段に入門。
・昭和43年入段。昭和56年九段。
・(本書執筆当時)棋聖、名人の2大タイトルを保持していた。
※読みの鋭い自在な棋風。



【趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』(日東書院)はこちらから】


本書の目次は次のようになっている。
【もくじ】
Ⅰ やさしい布石の考え方
 1石の能率
 ※隅の価値
 ※隅への先着・その手段
 ※隅からの発展とその方向
 ※戦いの原理
 ※布石の三原則
 ■布石三原則のまとめ

2 隅から辺へ
 ※ヒラキの目的と性質
 ■二間ビラキ
 ■三間ビラキ
 ■四間以上のヒラキ
 ■ヒラキの法則

 ※ヒラキのランク(順位)
 ■大場のヒラキを逃さない
 ■高低のバランスを考える
 ■厚みの考え方

3 互先の布石
 ■第1譜
 ■第2譜
 ■第3譜
 ■第4譜
 ■第5譜

4 中国流の布石
 1図(中国流1、3、5の布陣)

Ⅱ 私の選んだ星の定石
 “星”の定石を覚えよう
 ※星は力なり(その性格)
 1、三々が空いているため、地になりにくい
 2、中央への戦いには有利
 3、星からバランスよくヒラけば、大模様が完成する
 4、もともと守りより、攻め指向で、相手の石を“高い位”から攻撃して効果をあげる
 5、定石の型がわりあい簡明である
 6、アマされないように打つ
 7、相手にじゃまされない布石の展開

 ※星の基本定石ベスト10
 ◇第1型・一間トビ
 ◇第2型・小ゲイマ受け
 ◇第3型・ツケノビ
 ◇第4型・ツケオサエ
 ◇第5型・大ゲイマ受け(1)
 ◇第6型・大ゲイマ受け(2)
 ◇第7型・一間バサミ
 ◇第8型・二間高バサミ
 ◇第9型・三間バサミ
 ◇10型・三手抜き





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに
・Ⅰ やさしい布石の考え方 1石の能率
・布石の三原則
・秀策流の布石
・ヒラキの性格
・ヒラキの法則
 二間ビラキについて 三間ビラキについて 実戦の二間ビラキについて
・辺の大場の打ち方
・中国流の大きな特徴
・中国流を封じるには
・星の定石について
・星の性格
・互先の布石~著者の実戦
・星の基本定石 ベスト10






はじめに


・本書は、先に刊行された『趙治勲の囲碁・初歩の初歩』の姉妹篇である。
 入門からスタートして、碁のおもしろさが分かりかけた人に、布石と定石の基本的な考え方を教えるという。
・平凡で分かりやすいテーマ図を出し、その解説を読んでいくうちに、自然と一局全体の流れをつかみ取るよう、構成されている。
・さて、上達に欠かせない布石と定石の勉強であるが、ただ暗記するように対してしまっては、これほど無味乾燥としたものもない。
・テーマ図は、ほとんど著者の実戦から取材した、言わば“生きた碁”である。
 その一手の価値や性格をひもときながら、記憶という発想を捨てて読んでほしいという。
 そして、くり返されたパターンを出来るかぎり、実戦でためしてほしい。
(きっとあなたの心に通う何かを得られるはずだとする)
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、3頁)

Ⅰ やさしい布石の考え方 1石の能率


・碁は、いつの場合にも第1手目は隅から打たれる。
 中央からという例もあるが、ひと昔前の趣向で、現在ではほとんど考えられない。
 なぜ中央からでなく、隅から打つかといえば、石の効率がはっきりちがうから。
 中央の一手より、隅の一手の方が、はるかにわかりやすく、実質的で数段にすぐれている。
勝つためには、一手の石が十分働かなくてはならない。
・それと、碁は究極的には、地の多い方が勝ちである。
 布石に始まって、中盤からヨセというコースをたどり、結果がでる。
 しかし途中で、どちらか一方の大石が死んだり、また形勢が大差になったときには、投了という結果になる。
 言いかえると、碁は戦いである。
 その戦いに向けて、しっかりした構想と作戦をたて、布陣するのが布石である。
・布石の第一目標はつまり、味方が戦うに十分の基盤を確立することである。
 そのためにも、できるかぎり、石の能率を高めるべく、一手一手を大切に打つことから始まる。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、8頁)

【隅の価値】
【1図】(石数の比較)
・隅の有利性を1図で見る。
・テーマ図としてはよく出てくる形。
 3つの図ともに、黒地は12目。
 ただし、石数(手数)がそれぞれちがう。
・上は辺の12目で、石数は10。
 中央の12目は、石数14。
 そして左下隅の石数は7で、同様12目。
・このように、地についてのみ調べると、最少の石数で12目の地を取れる隅の有利性ははっきりする。
※隅の次に辺で、一番効率の悪いのが中央ということになるだろう。

(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、9頁)

布石の三原則


布石の三原則
①アキ隅
②シマリ、またはカカリ
③辺の展開

【実戦の中の三原則】
≪棋譜≫(36頁の1図)
棋譜再生
・黒1から白4までは原則1:アキ隅の先着
・黒5、白6は次のカカリ、シマリの項目にあたる。
・黒7から13までは、左上隅の定石変化。
・一段落したところで、白14とシマリに向かっている。
・そこで、黒15以下19までと、辺への展開が見られる。

※布石の三原則に従って、石が自然に流れていって、黒19からいよいよ戦いへと進行する。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、36頁~37頁)

秀策流の布石


【秀策流の布石】
≪棋譜≫(35頁の21図)
棋譜再生
・黒が1、3、5と三隅の小目を先着する。「一、三、五の布石」とも呼ばれる。
・現代でも広く愛用され、白4、6とカカリを許す戦法である。

本因坊秀策の編み出した布石である。
先番無敗、御城碁19連勝、耳赤の一手などで、秀策はあまりにも有名である。
秀策は碁聖と言われ、白6のカカリに黒7のコスミを“秀策のコスミ”と命名している。

入門した秀策の天才を見た丈和は、「百五十年来の逸物、わが門風これより大いに上る」と感嘆したそうだ。
その秀策も文久2年(1862)、江戸に大流行したコレラに感染して、33歳の若さで夭逝してしまった。

※現在では、上図で、黒7のコスミで、a(12, 四)の二間高バサミが普通である。
 また、黒5の小目が、高目、三々、星などであれば、それはもう秀策流とは言えなくなる。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、35頁)

ヒラキの性格


辺への発展(布石三原則の第三項)について、みていこう。
隅の争奪戦が一段落すれば、次は辺の発展である。布石三原則では、ヒラキとなる。

ヒラキとは、やさしく言えば、辺を利用して地を持ち、根拠を固める手段である。

【二間ビラキ】
≪棋譜≫(42頁の15図)
棋譜再生
・黒1、3が二間ビラキ。
 地の大きさから見ると、隅より半減する。
 しかし、黒1、3の二手で、辺にガッチリ根拠を持っていることが大きい。
 (地の大きさは四目、実戦では眼ふたつくらい)

【実戦でみる二間ビラキ】
≪棋譜≫(43頁の18図)
棋譜再生
・黒15、17の二間ビラキは、白の地の拡大をふせぎ、小さいながらも、しっかりと根拠を持っているように見える。

ここで、ヒラキの性格を列記している。
①ヒラキは二つの石から成り立つ。
②地と根拠を持ち、容易に死ぬことはない。
③敵の攻撃を緩和し、ヒラいた方向からさらに発展の要素を含む。
④ヒラくことによって、敵の腹中で小さいながらも、生きにつくことが可能。
⑤布石の初期段階では、ヒラくことによって味方の勢力を飛躍的に増大させる。
⑥第三線、四線を基調とする。

ヒラキは、析、拓という字が昔用いられていた。
領土を設定するような意味であったろうと推測されている。
また、“二立三析(にりつさんせき)”あるいは“三立四析”などという言葉は、格言として生きている。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、42頁~43頁)

ヒラキの法則


どのような場合に、どうヒラいたらいいか?
この点について、ヒラキの法則をまとめている。
①ヒラキは狭いほど連絡が密である。
②広いヒラキは相手の打ち込みがある。
③連絡を断たれては困るケースでは、堅実に二間ビラキする。
④布石の初期段階では、大場といわれる模様の中心点に、積極的に打つ。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、65頁)

二間ビラキについて


【二間ビラキ】
≪棋譜≫(53頁の1図)
棋譜再生
〇第三線上の二間ビラキは、守りのヒラキで、ヒラキとしては最も基本的な形である。
・二間の幅は強くて、白a(13, 三)、b(12, 三)とは切りにくい。

【二間ビラキ(大ゲイマビラキ)】
≪棋譜≫(54頁の3図)
棋譜再生
☆三線と四線の組み合わせの二間ビラキ(大ゲイマビラキ)は見た目、少し弱い形である。
 しかし、連絡はしっかりしていて、なかなか白からうまい攻め口は見つからない。

【白からの攻め:やれない作戦で白が損】
≪棋譜≫(54頁の4図)
棋譜再生
・中から、白1、3ともぐりこむことはできる。
 しかし、ほとんどと言っていいほど、白はやれない作戦である。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、53頁~54頁)

三間ビラキについて


【三間ビラキ】
≪棋譜≫(54頁の2図)
棋譜再生
〇二間ビラキと、四間以上の中間のヒラキが、三間ビラキである。
・このヒラキは、白から白a(13, 三)の打ち込みがある。しかし、白a(13, 三)に打たれても、さほど困ることは少ないと言える。
・普通、三間ビラキから黒1とさらに守るのは、石が重い。
 黒1と打つなら、二間ビラキがいい。

【白の打ち込みへの対策:上ツケ⇒黒のワタリ】
≪棋譜≫(55頁の4図)
棋譜再生
・白1の打ち込みが弱点である。
☆黒はここに白に打たれることを、はじめから予想している。
 もちろん、十分な対策が用意されてもいる。
⇒白1に、黒2と頭にツケるのが、その第一弾。
・白3、5とカカえさせ、黒2の一目を抜かせる。
・黒6でワタれた。

【白の打ち込みへの対策:下ツケ】
≪棋譜≫(55頁の5図)
棋譜再生
・一方、黒1と下にツケる手段もある。
・白2のハネ出しから、黒3、5と打つ。
・白4、6とカカえさせ、白を第二線以下に追いやり、味方の黒は、5、7と背中を厚くした。

※直接、白a(14, 四)と切る手段がない限り、黒、かなり有力である。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、54頁~55頁)

実戦の二間ビラキについて


【実戦で見る二間ビラキ】
≪棋譜≫(57頁の11図)
棋譜再生
・白12、18。白14、20と、低い二間ビラキ、高い二間ビラキの両方が実戦にあらわれている。
⇒白12と18は、攻めと模様の拡大を兼ねた二間ビラキ、白14と20は、守り主体の二間といえる。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、57頁)

実戦の三間ビラキについて


【実戦の三間ビラキ】
≪棋譜≫(58頁の13図)
棋譜再生
〇右下隅は、小目のツケヒキ定石である。
・白10のカケツギから白12までとヒラくのが定石である。

※白12はこの一点に限られる。
 三間ビラキが恐いからといって、白a(17, 十、つまり左辺中央の星の下)と二間にヒラいては、黒からb(17, 八)のツメがきびしい。白は大不満。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、58頁)

辺の大場の打ち方


辺の大場の打ち方 は、次の3通りに分類できる。
①上、下の隅を味方(黒)が先に占有している場合
②片方の隅に、相手(白)がいるときの打ち方
③上、下の隅ともに相手(白)が先着しているとき~例えば、ワリ打ち

②の場合の実戦例
【右辺の白のヒラキに注目】
≪棋譜≫(81頁の7図)
棋譜再生
☆見どころは右辺。
・黒1の星に、白8と小ゲイマにカカリ、12と二間にヒラいた。
・この白12のヒラキに注文してほしい。

【黒の攻め:肩ツキ】
≪棋譜≫(81頁の8図)
棋譜再生
・白のヒラキ(17, 九)に、黒1、3と肩ツキするのが、こうした場合の黒の攻めである。
・白としては、2と一本這って、それから4、6とマゲノビすること。
<注意>
・白4で、白A(17, 十一)、黒B(16, 十三)と、第三線を這っては、白がよくない。
※布石では、一方に偏在するのが効率悪い打ち方である。
上図のように、中央に出る構想が働いている。

【白が低位で、黒に中央の勢力を奪われる例】
≪棋譜≫(85頁の4図)
棋譜再生
☆白(17, 九)の二間ビラキには、黒の攻めとして、黒1の肩ツキから3と押す手段が普通である。
・しかし、この図の変化は、白がいけない。
 このように低位を這っては、中央の勢力を黒に奪われる。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、80頁~81頁、85頁)

中国流の大きな特徴


・“中国流”の布石は、中国の選手が打ち始めたので、中国流布石と言われるが、もともとの本家は、日本である。
 著者もこの布石を愛用しているという。
 右辺に並ぶ配石を見ると、三連星と似ているが、性格はだいぶ異なる。
・未来性、スピードを持ち合わせたバランスのいい型なので、“秀策流”“三連星”とともに、歴史に残っていくと思う。

【1図】(中国流1、3、5の布陣)
・一方を小目。そして中央星わきに5とヒラいている。これが中国流の原型。
※黒5でaと高く打つのもある。
 黒5でaと高く打てば、それは高い“中国流”と呼ばれる。
※高い中国流は、藤沢秀行先生の編み出した手法。
※ちなみに、本来の中国流の創始者は、棋界の長老で、大久保彦左衛門的存在の安永一氏(アマ七段)と聞いている。

・なぜここで、中国流の布石あえて出したかと言えば、みなさんが互先で打つとき、「今日はどんな布石の型で始めようか」と、悩まないための指針としてである。
 また、もうひとつの意味では、現在流行の布石だけに、相手もこう構えてくることがある。そのための対策も含む。
 とにかく、互先の場合では、自分の得意なパターンで打ち進めるのが一番。
・まず自分の愛用の布石を持ち、それをある程度くり返し打ってから、別のパターンを覚えていく方法がいい。
 たとえ弱くとも、布石に確固とした自分なりの経験と自信がなくては、相手を圧倒できないと思う。ここでは、中国流布石の精神と石の流れについて検討していこう。

≪棋譜≫(139頁の2図)
【2図】
☆布石の三原則からすると、四隅の交換が終わったのちは、カカリである。
 しかし、中央星わきに5とヒラいた黒石(17, 十一)は原則と少しちがうが、これが中国流の大きな特徴である。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、138頁~139頁)

〇中国流に対して、白の方もカカリ方では、いろいろ工夫するようになった。
 はじめのうちは、中国流の小目の方に先にカカっていたが、最近では星にカカる。

【14図】(普通の打ち方)
・白6とカカって、10と二間にヒラく手法。
・白8、10はこれに限らないが、数多く見られる布石なので、覚えておいてよさそう。
・同じカカるにしても―

【15図】(白苦しい)
・白1とこちらに入るのは、さすがに苦しそう。
・黒2のコスミツケから黒6の一間トビまでとなり、白の不利は明らか。

【16図】(実戦例・1)
〇14図の応用ということで、実戦例をふたつ取り上げてみよう。
・白6とカカリ、以下10となった。
・分岐点は、黒11のカカリに対する白の応手。
※16図では、白12のハサミ。

【17図】(実戦例・2)
・今度は、黒11に白12と一間トビして受けた実戦。
※両図とも、12の一手の違いで、右下隅の白のカカリの時機が異なり、流れも変化に富み、おもしろい。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、146頁)

中国流を封じるには


相手に中国流に構えられては困るという人は、すぐ白4とカカるしか手はなさそうだ。
すると、黒A(16, 十二)の二間高バサミが待っている。
二間高バサミは攻撃的なハサミである。

【中国流を封じるには:白4のカカリ】
≪棋譜≫(162頁の50図)
棋譜再生
次に、黒2の二間高バサミは、別名“妖刀”と言われ、変化の多い形である。
・白3、5と一番平凡に受けても、局勢が早くも戦いの方向にむかう。
・妖刀を知らないと、白1のカカリは打ちづらい。

【二間高バサミ=“妖刀”】
≪棋譜≫(162頁の51図)
棋譜再生
白がA(16, 十五)と一間にカカるのがいやなら、低くカカる手段(17, 十五)も考えられる(小ゲイマガカリ)
しかし、黒2と先に攻撃を受けて、この二間高バサミ定石の変化を知らずには打てない。

【白が低くカカる小ゲイマガカリの場合】
≪棋譜≫(163頁の52図)
棋譜再生

また一方、遠くから白1(17, 十四)とカカるのは、どうか?
⇒これは白の迫力不足。
・黒2とアキ隅に回られていけない。
※白1は場合のカカリで、応用がむずかしいそうだ。

【参考図:遠くからカカる場合】
≪棋譜≫(163頁の53図)
棋譜再生
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、162頁~163頁)

星の定石について


趙治勲氏は、「私の選んだ星の定石」で、次のようなことを述べている。
古今の高手に受け継がれ、教えられた定石は、約2万もあると言われている。もちろん、全部覚えることなどは無理。しかし、基本的な定石をマスターすることは、それほど大変なことではない。
大切なことは、定石の手順を暗記することではない。
石の流れを読み取り、“定石の成り立ち・心”を知ることである。一手ずつ確かめながら勉強してほしいという。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、164頁)

星の性格


盤端から4の四に位置している星は、次に示すような性格を持っている。
①三々が空いているため地になりにくい。
②中央への戦いには有利。
③星からバランスよくヒラけば、大模様が完成する。
④もともとが守りより、攻め指向で、相手の石を“高い位”から攻撃して効果をあげる。
⑤定石の型が、わりあい簡明である。
⑥置碁では、星を上手に生かして打てば、勝てるが、そうでない場合、相手にアマされることがたびたびである。
⑦互先では、星から三連星、タスキ星、中国流と、各種の布石展開が見込まれ、もし黒番と仮定すれば、ほとんど相手にじゃまされずに構えることができる。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、164頁~165頁)

3 互先の布石~著者の実戦


・布石の各部の大筋をつかんだところで、実戦の流れを追ってみることにしよう。
・布石―戦いの布陣ということを基本に並べてほしい。
・バランスを大切にし、小さい手(ヨセの手など)は打たない。それと、戦いを逃げない。
 以上を注意しながら、著者の実戦をテーマにして勉強しよう。

【総譜】(1-50)
・取り上げた碁は、第5期名人戦挑戦手合第5局。
 著者の白番、相手は大竹英雄氏。
  先番 名人 大竹英雄―八段 趙治勲
  コミ・五目半

 それまで著者の2勝1敗1無勝負、この第5局が文字通り天王山となった。
※布石にポイントをあてているため、中盤以降の変化と解説は省く。
 結果は、192手で著者の中押し勝ちとなった。
 これで王手をかけた著者は、念願の名人のタイトルを手中にした。

(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、107頁)
【第1譜】(1—10)
・この碁は、著者(白番)の両三々。
 三々の布石が好きな棋士はあまり多くない。坂田栄男先生などは愛用された時もあったが、どちらかといえば、気分をかえてみたいという発想が多いようだ。
・三々は、ごらんのように、位が低いため、相手に上から圧迫されやすいと言える。
 地にはいささか得だけど、中の碁、つまり模様には若干の不安がある。
・白6はワリ打ち。
・白8で二間ビラキ。
・黒9で左辺の大場へ。
・白10で下辺の大場へ。

【第2譜】(11—20)
・このあたりでもまだ、布石の序盤段階。
どちらも、味方につごうよくなるよう、配石を考えて打っている。
が、なかなか、自分の思い通りに打たせてはくれない。
・ここらの駆け引きは、大変むずかしく、技量が近づき、互角の力量になるにつれて、勝負の接点も、微妙なものとなっていく。
・プロの大成について、ある棋士が、おもしろいことを言っていた。
「手段の強さとか碁の技術的なことは、プロであれば、大差ない。決定するのは、不断の勉強と人間的なスケールの大きさ、物事の考え方など、内面からくるもので開く」
 著者も同感だという。

・黒11は下辺のツメ。
・白12は一間トビ。
・黒13は打ち込み。

【第3譜】(21—30)
・布石は、ただ大場の打ち合いに終始しないということが、第2譜の流れでも分かる。
ただ、まんぜんと打っていたのでは、なかなか勝てない。
・攻めがきたら、それを逃げず、真向から立ち迎う姿勢が大切。
 「大場より急場」という格言がある。 
 格言通り、急場では力一杯、相手の構想に対処してほしい。
 局面の動きにつれて、絶対の一手も刻々と変化していく。

【第4譜】(31—40)
・布石もだいぶおしつまってきた。
 布石の終了段階から、石の流れ、双方の攻防を見ていこう。
・全体的にこのあたりまで双方の棋風とその実際を見ると、やはり、大竹英雄先生の足早やな大局観に明るい棋風がよく出ていると思う。
 著者はと言えば、三々に打った手前、その顔をつぶさないよう、手厚く打ち進めているつもりだが…。
・いずれにしても、勝敗はこれからという息の長い碁の様相。

【第5譜】(41—50)
・布石時代は、前譜で終了した。
 ここから、いよいよ戦いに入るわけであるが、布石で少し走った黒、一歩控えてチャンス到来を待った白との、激しい力比べが始まる。
・進点はあくまで、布石であるが、両者の戦いぶりをもう少しながめてほしい。
 左辺中央に取り残された黒を攻めに行ったところから続く。
 ちょっとむずかしいかもしれないが、双方の攻防を並べて味わってほしい。

・黒41のコスミ。
・黒49のトビツケ。
・白50のモタレ戦法。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、107頁~137頁)

星の基本定石 ベスト10


星の基本定石 ベスト10
◆第1型 一間トビ
◆第2型 小ゲイマ受け
◆第3型 ツケノビ
◆第4型 ツケオサエ
◆第5型 大ゲイマ受け(1)
◆第6型 大ゲイマ受け(2)
◆第7型 一間バサミ
◆第8型 二間高バサミ
◆第9型 三間高バサミ
◆第10型 三手抜き
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、183頁~222頁)

◆第8型 二間高バサミ


【第8型 二間高バサミのテーマ図】
≪棋譜≫(212頁のテーマ図)
棋譜再生

【白2の両ガカリの場合の定石】
≪棋譜≫(212頁の1図、2図)
棋譜再生
☆黒1と二間高バサミすれば、白2の両ガカリが多い。
 他には、白2でAの三々、Bの一間トビ(14三)、Cのハザマ(12五)も考えられる。

・白2の両ガカリには、黒3のツケがいい手である。白4と一本ハネて、6の三々入りは、黒7以下9までが定石。

※白2の両ガカリでなく、一路高い白(16六)も考えられる。その場合でも、黒3とツケるのが簡明である。
※両ガカリの場合は、ほとんどといっていいほど、黒3のツケが有力となるようだ。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、212頁~213頁)











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