【遊月100物語 その11】小樽龍宮神社
スピリチュアル好きな鞠子に連れられて神社を巡った。
「ここは女神様がいるから女性性が強いのよ」と最初に紹介された。
確かに優しい雰囲気はあったが、ぴんとこなかった。
次に行った神社は女神様と男性の神様がいると言っていた。
やっぱりぴんとこなかった。
ただ最初の神社の方が優しい雰囲気だったし、2番目の神社は誰でも受け入れてくれそうな感じがした。
「ここは女神様がいるから女性性が強いのよ」と最初に紹介された。
確かに優しい雰囲気はあったが、ぴんとこなかった。
次に行った神社は女神様と男性の神様がいると言っていた。
やっぱりぴんとこなかった。
ただ最初の神社の方が優しい雰囲気だったし、2番目の神社は誰でも受け入れてくれそうな感じがした。
最後に行った神社は、龍宮神社だった。
鞠子に言われる前に「ここは男性性が強いんでしょ」と口にした。
「よくわかったね、ここはほとんど男性の神様がいらして、勝負運が強くなると言われているの。もともとは海の神様で海上安全を願って祀られていたんだけどね」
鞠子の説明を聞きながら、その通りだと思った。
ここは男性性が強い。雰囲気が男らしいのだ。建物の雰囲気や御神木のフォルムががっちりしている。
鞠子に言われる前に「ここは男性性が強いんでしょ」と口にした。
「よくわかったね、ここはほとんど男性の神様がいらして、勝負運が強くなると言われているの。もともとは海の神様で海上安全を願って祀られていたんだけどね」
鞠子の説明を聞きながら、その通りだと思った。
ここは男性性が強い。雰囲気が男らしいのだ。建物の雰囲気や御神木のフォルムががっちりしている。
神様に違いがあるなんて考えたこともなかったので、神社によって全く違うご利益があると言うことも初めて知った。
「有紀子は主婦で終わる人じゃないよ」
ここに植樹した直後に総理大臣になった麻生さんが植えた木を写真に撮っていると、鞠子が言った。
「なにそれ、どういう意味? 」
「有紀子は男性性が強くて、家庭にいるより仕事してる方がより能力が発揮できるの」
「何を根拠にそんなこというの? 」
24歳で結婚して3人の子どもを産んだ。
長男が一歳の時から今の職場で働き出してもうすぐ15年。
正社員ではないけれど、フルタイムで働いていて、それなりにお給料も良いし、仕事も楽しい。でもそれだけだ。
独立しようとか、キャリアウーマンみたいにバリバリ仕事してなんて考えたこともない。
「生まれた瞬間の星空が、その人の運命を教えてくれるの。
その人が仕事に向いているのか、家庭に向いているのかも、生まれたときの星が空にどんな配置だったのかを見ればわかるの」
「わかってたまるか」
「なにそれ」
鞠子はフフっと笑う。
「何を根拠にそんなこというの? 」
24歳で結婚して3人の子どもを産んだ。
長男が一歳の時から今の職場で働き出してもうすぐ15年。
正社員ではないけれど、フルタイムで働いていて、それなりにお給料も良いし、仕事も楽しい。でもそれだけだ。
独立しようとか、キャリアウーマンみたいにバリバリ仕事してなんて考えたこともない。
「生まれた瞬間の星空が、その人の運命を教えてくれるの。
その人が仕事に向いているのか、家庭に向いているのかも、生まれたときの星が空にどんな配置だったのかを見ればわかるの」
「わかってたまるか」
「なにそれ」
鞠子はフフっと笑う。
「星が私たちを支配するんじゃなくて、自分がどんな能力があって、どの道に進んだら成功できるのかを、星を見ることで知ることができる。いわば生まれる時に空に刻んだ自分の人生の地図みたいなものがホロスコープなの」
「ふーん、そういえば趣味で占いの勉強してるんだよね」
「ふーん、そういえば趣味で占いの勉強してるんだよね」
有紀子もまた主婦で母親でフルタイムで仕事をしているのに趣味が幅広くしかも結構深いのだ。よくそんなに時間があるなと感心する。
「実はね、許可も取らずに悪いなと思うけど、昨日有紀子のホロスコープ、簡単にだけど見てみたの」
「なにを勝手に」
「なにを勝手に」
頭にくるわけじゃないけど、恥ずかしくなって文句を言った。
「ごめん。でも誕生日がわかれば簡易的なものはわかっちゃうのね、それで仕事運がすごくよかったこと、教えようと思って」
「なんか怖いね。知らない人に私の人生の地図が勝手に見られることもあるってことでしょ」
「そうだね。利用しようと思ったらできるのかもしれないね。
だからこそまずは自分がどういう性質なのか知っておくのも大事かもしれないよね」
「うん、難しい事はいいよ。私がなんだって」
「ごめん。でも誕生日がわかれば簡易的なものはわかっちゃうのね、それで仕事運がすごくよかったこと、教えようと思って」
「なんか怖いね。知らない人に私の人生の地図が勝手に見られることもあるってことでしょ」
「そうだね。利用しようと思ったらできるのかもしれないね。
だからこそまずは自分がどういう性質なのか知っておくのも大事かもしれないよね」
「うん、難しい事はいいよ。私がなんだって」
鞠子の説明は時々難解で、脳みそが疲れてくるため話を切った。
「フフ。女子ってみんな占い好きだもんね」
「いや、あんなこと言われたら気になるでしょ」
「フフ。女子ってみんな占い好きだもんね」
「いや、あんなこと言われたら気になるでしょ」
上空にトンビが飛んできて、見てと楽しそうに指さした後で鞠子は言った。
「有紀子はね、人を動かす能力が高くて、組織でリーダーが向いているの。
本気で起業したら、それなりにちゃんとしたもの作れる星が入っていたよ」
「有紀子はね、人を動かす能力が高くて、組織でリーダーが向いているの。
本気で起業したら、それなりにちゃんとしたもの作れる星が入っていたよ」
「なにそれ」
「フフ。でもね、ホロスコープを見るまでもなく、昔からそうだなぁって思ってた。学園祭とかでも、代表でもないのにいつの間にかプランとか出して、リーダーって誰も決めてないのに、結局有紀子がいろんな人を割り振りしててきぱき仕事進めてたし」
「そうだっけ? 」
「そうだよ。私は周りの人のことがよく見えないから、適材適所に人を動かすの上手いなーって尊敬していたんだよ」
「初めて聞いた」
「初めて言った」
「フフ。でもね、ホロスコープを見るまでもなく、昔からそうだなぁって思ってた。学園祭とかでも、代表でもないのにいつの間にかプランとか出して、リーダーって誰も決めてないのに、結局有紀子がいろんな人を割り振りしててきぱき仕事進めてたし」
「そうだっけ? 」
「そうだよ。私は周りの人のことがよく見えないから、適材適所に人を動かすの上手いなーって尊敬していたんだよ」
「初めて聞いた」
「初めて言った」
「そんなこと急に言われても、何か会社を起こそうなんて考えたこともないし、普通の主婦とか、普通の主婦じゃないとか、その普通っていうのもよくわからないし」
「そうだね、私も普通はよくわからない」
「いやあんたは普通じゃないでしょ」
「ほらそれがわからない。だって、私のこと普通だと思ってるよ。
普通って言葉はね、あなたは普通より変わってる、変わってないみたいな感じで、こうあるべきはみ出さない人物像みたいなのと比較して生まれる感覚かなと思うの」
「そんな大袈裟なもの? 」
話が思ったより広がって少し焦る。そこまで考えていないのに、鞠子はいつもなんでもどんどん深堀していくのだ。
「あえて定義してみると、かな。私はただ、自分がどうしたいかとか、どんな能力があるかとか、自分の方を見て動いていけばいいのになって思う」
「いや、普通の主婦って言ったのそっちだからね」
「いや、普通の主婦って言ったのそっちだからね」
「え? たぶん私言っていないよ、普通って言葉でくくるの嫌いだから。
主婦の立場だけじゃなく、個人事業主になる星があるよって言っただけ。言い方悪くて誤解させていたらごめん」
「いや、どっちでもいいよ」と言うと鞠子はフフっと肩をすくめて笑った。
鞠子のことを普通じゃないと言ったけど、それは悪口じゃなくて褒め言葉だ。
鞠子は学生の頃から自分を持っていた。
鞠子のことを普通じゃないと言ったけど、それは悪口じゃなくて褒め言葉だ。
鞠子は学生の頃から自分を持っていた。
まわりの人がこっちに行こうと言ったら、私はそっちに行きたくなくても、行きたかった顔をしてみんなの後をついていく。でも鞠子は違う。私はあっち行くねと颯爽と笑顔でそう告げて、一人でみんなと違う方にスタスタと歩き出す。本当はそっちに行きたかったのと今更いえなくて、私は鞠子を見送るしかできなかった。
私だって鞠子のこと尊敬していたのだ。
「何か特別なことをしようと思わなくていいの。たとえば刺繍が好きで一生懸命作品を作っていたら、それ欲しいと誰かに言われて、作ってプレゼントしているうちに仕事になる、そんな感じで進んでいけばいいと思う」
「そんなにうまくいくもの? 」
「好きなことをしていれば、潜在意識の王道のような場所に行くことができて、たくさんの援助のエネルギーを受け取りやすくなるの」
「え? なんて? 」
私だって鞠子のこと尊敬していたのだ。
「何か特別なことをしようと思わなくていいの。たとえば刺繍が好きで一生懸命作品を作っていたら、それ欲しいと誰かに言われて、作ってプレゼントしているうちに仕事になる、そんな感じで進んでいけばいいと思う」
「そんなにうまくいくもの? 」
「好きなことをしていれば、潜在意識の王道のような場所に行くことができて、たくさんの援助のエネルギーを受け取りやすくなるの」
「え? なんて? 」
鞠子の話の意味がよくわからなくて聞き返すと、またフフっと笑われた。
「とにかく好きなことを一生懸命しているうちに道が開けるように世界はできていて、有紀子はその道が早く開く星を持っているってこと、知っていても損はないでしょ」
「知っていても損はない。まあ、確かにね」
「ちなみに好きなことって何? 」
「好きなこと? 」
そんなことを考えたことがなかった。朝起きて家事をして仕事に行って夜は家事を終えたらテレビを見て家族とどうってことない会話をして、たまに友達とランチ行ったり、今日みたいにパワースポット巡りをしたり。
生きていて毎日楽しいこともあるし、楽しくないこともあるし。
でも、あなたは自分の好きなことをしているのかと聞かれれば、何が好きなのか思い浮かばない。
「実は多いのよ。自分のことなのに、自分が何が好きで何をしたいのかわからないって人が」
「ふーん。でも私は本当にやりたいことなんてないよ。今の生活で満足しているし」
「じゃあ、今の仕事をやめろと言われたら、魂がもぎ取られたみたいに悲しくなる? 」
「それは・・・」
そんなことはない。新しい仕事を探すのがめんどくさいから変わりたくないけど、仕事でそこまでならないな。
「じゃあ、今の仕事をやめろと言われたら、魂がもぎ取られたみたいに悲しくなる? 」
「それは・・・」
そんなことはない。新しい仕事を探すのがめんどくさいから変わりたくないけど、仕事でそこまでならないな。
「強いてあげるとするなら、子どものことかな」
「そりゃあそうだよね。お母さんだもの」
よかった、私にも好きなものがあったとホッとしたのもつかの間。
「でもそれは、お母さんとしての本能であって、有紀子の好きなことだと思う? 」
私の好きなこと? いや、好きでやっていることだけど…
「子どもが独立したらどうするの? 好きなことだから、一人暮らしている子どものことを毎日気にして一生過ごすの? 」
やだやだ、なんだか鞠子の言葉がすごく嫌だ。心をかき乱されそうで聞きたくない。
「そんなこと言うなって顔している」とまたフフっと笑う。
「ごめんね。追い詰める気持ちとかないから。ただね、時間できたときでいいからさ、自分は本当は何が好きなんだろうとか、この人生でやってみたいことって何だろうとか、そんなこと考えてみてよ。
もちろん子育ても大事だし、大変な仕事だよ。でも、それは母親としての有紀子であって、一部だからさ。もっと大きなくくりで考えてみて」
鞠子にそう言われたけど、それ以上何かを考えるのは嫌だった。足元から何かが崩れてしまいそうで怖かったのだ。
私は鞠子から解放されたくて、もう一度お社に向かう。
硝子越しに見える祭壇は清浄でドンとしていて、私のことをありのまますべて受け入れてくれそうな気がした。
硝子越しに見える祭壇は清浄でドンとしていて、私のことをありのまますべて受け入れてくれそうな気がした。
ありのまま。
何故だろう、自分を偽っているような感覚があった。
私は私に嘘をついて生きている。そんなはずないのに。
「人はみんな自分の心をちゃんと理解していないのに、自分のことだから知っていると錯覚しているの。私もそうだし、みんなそうなの。
大事なのは、自分のことさえすべてわからないんだって知っているのか、全部知っていると錯覚したままでいるのかの違いかな」
私の心の揺らぎに気づいたのか、偶然なのか、鞠子がそう付け加えた。
「自分の心の底に、今まで気づかなかった領域があって、そこに置き去りにされている何かを見つけたとき、見える景色がまた違ってくるかもしれないじゃない。もちろん一生見なくてもいいのかもしれない。
ただ、有紀子は、その領域にあるものを見つけ出して行動に移したとき、早くに実現できる星があるんだって」
「知っていて損はない、でしょ」
鞠子はフフっと笑い、
「この神社の社務所に時々ウサギがいるのよ、いるかどうか見に行こう」と下にある社務所に向かって階段を下り始めた。
確かに知っていて損はない。
今まで考えたことはなかったけど、気づかなかった何かが私の中にあるのなら、探してみてもいいのかな、と思った。
お社に背を向けると、背中に熱い炎のようなものを感じて振り返る。当然だけど何もない。
私の心の揺らぎに気づいたのか、偶然なのか、鞠子がそう付け加えた。
「自分の心の底に、今まで気づかなかった領域があって、そこに置き去りにされている何かを見つけたとき、見える景色がまた違ってくるかもしれないじゃない。もちろん一生見なくてもいいのかもしれない。
ただ、有紀子は、その領域にあるものを見つけ出して行動に移したとき、早くに実現できる星があるんだって」
「知っていて損はない、でしょ」
鞠子はフフっと笑い、
「この神社の社務所に時々ウサギがいるのよ、いるかどうか見に行こう」と下にある社務所に向かって階段を下り始めた。
確かに知っていて損はない。
今まで考えたことはなかったけど、気づかなかった何かが私の中にあるのなら、探してみてもいいのかな、と思った。
お社に背を向けると、背中に熱い炎のようなものを感じて振り返る。当然だけど何もない。
でもそれは神様からのエールな気がして、やっぱり神社って何かあるのかもしれないと初めて思った。