オレンジ色の夕陽
私はその頃、水の国と呼ばれる国の中心の街で妖精をしていました。
水の国の自然保護地区にはいくつも洞穴があり、その中には大きな透明の石がありました。 その石からは不思議な白い煙のようなものが溢れていて、まるでそこが源流であるかのように、煙は世界に向かってどんどん流れていました。
その石はときどき言葉を話しましたが、その声を聞くことができるのは、もう一部の妖精だけになっていました。
私は、声を聞くことのできる妖精のひとりだったので、仲間たちと一緒に石の声を聞き、他の妖精たちに伝える仕事をしていました。
ある日私が洞窟に行くと、石から恐ろしいほど大量の煙が溢れていました。
煙は、国の妖精たちの願いの大きさによって量が変化するのですが、このところその量が、石の許容量を越えていると感じた矢先の出来事でした。
石は泣いているようでした。
助けてと、悲鳴をあげているようでした。
このままでは石は許容量を越えて壊れてしまう、石がまっぷたつに割れて、命は失われてしまう。
私はそのことを石の声を聞く方法を忘れてしまったほかの妖精たちにも伝えました。
ですが、妖精たちは信じてはくれませんでした。
中には俺たちが欲張りだとでもいいたいのか?と責める妖精もいました。
信じてくれる妖精もいました。
しかしほとんどの妖精は、かつて自分たち妖精族が石の声を聞いていたことさえ忘れていて長い時間が経っていたこともあり、そもそも石の声が聞えることは嘘なのだと、私のことをなじったりもしました。
ある朝、とうとう石は、悲鳴をあげながらふたつに割れてしまいました。
最後の力を振り絞って、石は私にお礼を言いました。
そして、今度の月が満ちた翌日、昼までに東の山に登るように言いました。
できるかぎり多くの人たちにも伝えて、なぜならその日、山の上にいた人たちだけが助かるだろうと。
その日から、私は多くの人に石の最後のメッセージを伝えて歩きました。
どうやら、他の石からメッセージを聞いた妖精たちもいたようで、別の場所で同じ話を耳にするようになりました。
ですが、相変わらず私の周りの妖精たちは、私の話を真面目に聞いてはくれませんでした。
そしてとうとう運命の日がきてしまったのです。
私が愛していた妖精は、石の声を聞く時代は終わったと言っていました。
そして彼はある大きな研究をしていました。
妖精としての能力を使わず自分たちの手で何かを切り刻み、記録し。そこから新しいものを作り出そうというものでした。
妖精としての能力を使わず自分たちの手で何かを切り刻み、記録し。そこから新しいものを作り出そうというものでした。
とても怖い、作ってはいけない何かを。
当日も彼は、私の話しを笑って聞いていました。
いいから黙って家に帰りなさい。明日になればまた太陽が昇るからと、さわやかに笑って答えました。
私がどれほど頼んでも、一緒に山を登る気にはなれないようでした。
そしてタイムリミットが来ました。
同じように石の声を聞いた仲間の妖精のひとりが、恋人を置いていけないと泣いて嫌がる私の手を引き、強引に山に登りはじめました。
同じように石の声を聞いた仲間の妖精のひとりが、恋人を置いていけないと泣いて嫌がる私の手を引き、強引に山に登りはじめました。
そうして慣れない山道を、いつのまにか集まってきた仲間たちとともに、無言で登りました。
頂上につくと、私は悲しみでいっぱいで立つこともできず、その場で泣き崩れました。
その後妖精の街に降りかかる災難の音を聞かずに済む様、長いこと耳もふさいだままで。
どれくらい時間がたったでしょう。
ふと顔を上げると、妖精の街が見えました。
他の仲間たちも黙って街を見下ろしていました。
水の国と呼ばれるにふさわしい、透明な美しい高いビルの一部が、海のあちこちから突き出しているのが見えました。
街の喧騒は聞えませんでしたが、どのような状態になっているか想像がつき、胸が痛みました。
街の喧騒は聞えませんでしたが、どのような状態になっているか想像がつき、胸が痛みました。
ビルがたくさん沈んでいる向こうに、大きな海と、沈みゆく太陽が見えました。
空一面がオレンジ色の、それはそれは美しい夕陽でした。
世界が滅ぶ日でさえ、こんなにも夕陽は美しい。世界は相変わらず美しい。
私はこの夕陽のことを永遠に忘れない。
太陽を見るたびに今日の悲しみを思 い出す、そう胸に誓いながらいつまでも太陽を見ていました。
そしてきっと明日の朝も太陽は昇ることでしょう、強くそう思いながら。
** 目次 **