空飛ぶ自由人・2

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小説『ミカエルの鼓動』

2022年10月04日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

柚月裕子による初の医療小説。

北海道中央大学病院の循環器第二外科科長の西條泰己(さいじょう・やすみ)は、
「ミカエル」を用いたロボット支援下手術の第一人者と言われていた。
医療ロボット「ミカエル」には複数のアームがあり、
その先端にはメス等の医療器具や3D内視鏡カメラが取り付けられている。
医師が映像を見ながらアームを遠隔操作するので、
手術室とは別の部屋から手術を行える。
これにより医師自身の滅菌・消毒の工程を短縮できる。
一分一秒を争う医療現場では、
作業工程を短縮できるのは大きなメリットだ。
また、開胸をせず、患者の身体に開けた小さな穴から
ピンポイントで手術を行うので、
傷が小さく、術後の痛みも低減でき、
患者の身体の負担が軽減出来る。
医療体制が整っていない地域が多い北海道で、
医師がその場にいなくても遠隔操作で手術ができる環境が必要だと考えており、
そのため、「ミカエル」を用いた手術を推進し、
全国に広げていこうとしていた。

西條の勤める大学病院に、ドイツ帰りの真木一義が現れ、
西條の目の前で「ミカエル」を用いない手術を、
とてつもない速さで完遂する。
真木は、11年前に突然日本を離れ、ドイツへ渡った。
世界有数の心臓外科専門病院ミュンヘンハートメディカルセンターで、
従来の開胸手術において、圧倒的な技術力が認められ、
天才外科医と評された。
病院長の曽我部のオファーを受けて、北中大病院の循環器第一外科科長に就任。

天才心臓外科医の二人は、宿命的に闘う運命にあり、
難病の心臓病の少年・白石航(しらいし・わたる)の治療方針をめぐり、
「ミカエル」を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術かで対立する。

そんな時、不可解な動きを西條は察知する。
西條に対するマスコミの取材が病院長によってブロックされているのだ。
どうも病院長は「ミカエル」と距離を置こうとしているように見える。

一方、西條を師と慕い、
「ミカエル」で手術を行っていた若手医師が
広島総生大学病院から退職、自らの命を絶った。
「医療ミス」が噂されていた。

フリーライターの黒沢巧が西條に接触してくる。
黒沢は、「あの医療用ロボットは信用できない。
あれは人を救う天使じゃない。
堕天使ならぬ、偽天使だ」と断言する。

「ミカエル」をめぐり、何かが起きている。
どうやら、「ミカエル」に不具合があるようなのだ。

その懸念を胸に航の手術に望む西條は、
もしやの時のために、
助手に真木を指名する。
そして、手術の当日・・・

手術シーンの描写などを含めて、
医学的専門知識が問われるが、
作者が医師であるかのように詳細を極める。
よく取材し、咀嚼したものだと思う。

西條と真木の衝突が迫真的で、
達人執刀医同士の、
闊達な意見交換がめざましい。
貧困の中で、近親者の死に直面させられたという
二人の共通点が次第に明らかになってくる。

「ミカエル」のモデルは、
現用のロボット「ダヴィンチ」だろう。

大学病院内の確執や医療機器メーカーの背景など、
山崎豊子ばりの社会派小説を満喫した。

 



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