[映画紹介]
ラムとは、小羊のこと。
アイスランドの田舎。
人里離れた場所で、
羊飼いの夫婦イングヴァルとマリアが二人きりの生活を営んでいる。
羊を宿舎に追い込み、
藁を与え、乳を絞り・・・
の日々。
子供はいない。
(あとで、アダという娘を小さくして亡くしたことが分かる)
映画は、夫婦の日常を会話少なく淡々と描写する。
ある日、二人が羊の出産に立ち会うと、
生まれて来たものを見て、
ただならぬ表情を浮かべる。
二人は、
その存在を亡くなった娘の名と同じアダと名付けて育てることにする。
ベビーベッドに寝かせて見守る、
まるで親子三人であるかのような生活は、
二人に幸せをもたらす。
途中、離れて暮らしていた弟ペートゥルが一緒に生活するようになる。
弟は元ミュージシャンで気の荒い性格。
どうも弟とマリアは、かつて肉体関係があったようだ。
前半は、アダの姿はあまり写さないのだが、
後半、アダが歩む姿で全身を現すと、
ああ、この話は、スリラーでもミステリーでもなく、
寓話なのだな、と分かる。
こうして、アイスランドの大自然の中、
夫婦と弟の3人と、
アダ、飼い犬、飼い猫の生活が描かれるが、
いつも画面には、「何かが起こりそう」という予感があふれる。
そして、物語は破滅的な終局を迎えるのだが、
いかなる寓意がこめられているのか、
私には分からなかった。
ただ、宗教的暗喩は随所に見られる。
都会から隔絶した二人の生活は、アダムとエバのようだ。
兄と弟は旧約聖書創世記のカインとアベルか?
そもそも「神の仔羊」とは、キリストのことだし、
妻の名前はマリアだ。
そして、最後に現れる存在は?
弟と見ることも出来るし、
その憎悪の化身と取ることができるし、
自然を支配する大いなる存在にも思える。
背景に北欧神話があるのかもしれない。
台詞と説明を排除した演出は、
常に緊迫感が満ちている。
何より荒涼としたアイスランドの自然が画面を引き締める。
妻役はノオミ・ラパス。
この人は画面に映るだけで、
破滅を予感させる。
夫役のヒルミル・スナイル・グドゥナソン、
弟役のビョルン・フリーヌル・ハラルドソンもなかなかいい。
カンヌ国際映画祭のある視点部門で、
「Prize of Originality」を受賞した。
監督・脚本はヴァルディマル・ヨハンソン。
アイスランド、スウェーデン、ポーランドの合作。
小松左京の小説に「くだんのはは」という傑作がある。
靖国神社のある「九段の母」かと思ったら、
(戦前の日本の軍国歌謡。
「岸壁の母」の二葉百合子によってカバーされた)
実は、「件(くだん)の母」なのだった。
「件」。
この映画は、それに通じる。
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