[書籍紹介]
副題に「イヤミス傑作選」とある。
「イヤミス」とは、
読後「嫌な気分」になる小説(主にミステリー)のことをいう。
湊かなえに代表される。
本書は、その「イヤミス」ばかりを集めた
7人の作家によるアンソロジー。
前作に「あなたの不幸は蜜の味」(2019)があり、
好評につき、第2弾。2022年刊。
こういう小説を読みたがる人がいるんだね。
2冊で重なる作家は、
辻村深月、乃南アサ、宮部みゆき。
辻村深月「パッとしない子」は、
ある小学校教師が、
13年後、
人気アイドルになった昔の教え子から
強烈な復讐をされる話。
「そんな受け止め方をされるのか」
という、悪意の恐ろしさ。
宇佐美まこと「福の神」は、
義母の友人で家に出入りするようになった女性が、
主人公一家の願望を叶える福の神に思えて来る話。
その願望が、いずれも人を貶める内容なのが恐ろしい。
篠田節子「コミュニティ」は、
都落ちした一家が、
郊外の古い団地のコミュニティに絡み取られていく話。
篠田節子らしい、不気味さが満ちあふれる作品。
王谷晶「北口の女」は、
大麻取締法違反で凋落した女性演歌歌手の付き人が、
地方都市のアルバイト先の弁当屋の常連の女性の
歌の才能に気づき、
その結果、師匠である演歌歌手に見捨てられる話。
降田天「ひとりでいいのに」は、
双子の姉妹の間の憎しみ合いの話。
交通事故に遇って片方が記憶喪失に陥ったことから、
一方が片方になりすますが、
オーダーメイド専門靴店の主人に見破られる。
しかし、その「なりすまし」には、
更に複雑な事情がからんでいた。
双子の双方からの視点が変わった時の驚愕。
乃南アサ「口封じ」は、
人間的にひねくれた資質を持つ介護人が、
育児にケチをつけられ、離婚の原因となった
老婦人に復讐する話。
7篇中、最も後味が悪い。
宮部みゆき「裏切らないで」は、
ある自殺か他殺か不明な事件の捜査を通じて、
東京という魔窟の本質を明らかにしようとする話。
いずれも、
人間の心の中の深い闇、
特に、嫉妬の念などの深層をえぐる。
どの作品も、心がざわつき、読後「イヤな感じ」に包まれる、
まさに「イヤミス」。
全編女性作家によるもの、
という点が特色。
やはり女性の方が底意地が悪い?
中で、映像化したらいいと思ったのは、
「パッとしない子」と「ひとりでいいのに」。
特に、後者は、
腕のいい脚本家と監督にかかれば、
観客を驚かす、
今までにない映像作品になるだろう。
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