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小説『出版禁止』

2023年11月20日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

著者・長江俊和は、
編集プロダクションに勤める知人から
掲載禁止になったルポルタージュを読みたくないか」
と持ちかけられる。
応ずると、プリントアウトされた原稿が送られて来た。

ルポの筆者は若橋呉成(わかはしくれなり)というノンフィクションライター。
「カミユの刺客」という原稿が
雑誌で予告までされながら、
何故掲載禁止となったのか。
謎を含んで長江は読み始める。

「カミユの刺客」に書かれていたのは、
7年前起こった心中事件
気鋭のドキュメンタリー作家・熊切敏が
山梨県の貸別荘で、
不倫相手の秘書・新藤七緒と
睡眠薬を飲んで亡くなったのだ。
だが、七緒は生き残ってしまった。
熊切の妻が有名女優だったこともあり、
当時世間を騒がせた事件だが、
事件性がないとして、警察の捜査は終わってしまった。
熊切の自筆の遺書があり、
心中の一部始終が撮影されたビデオが残されていたからだ。
だが、若橋は、
上からの圧力が働いて、捜査が打ち切られたのではないか、との疑念を抱く。

若橋は事件の真相を解明するために取材を進め、
生き残った七緒との接触に成功する。
実名を明かさない、顔も出さないという条件付きで、
インタビューが始まる。

インタビューで明らかになったのは、
心中の動機で、
熊切は、究極の愛の行き着くところとして、
死を共にする、
という道を選んだのだという。
まさに、「心中」の本質だ。

しかし、若橋の疑念は晴れない。
何者かの手によって心中を装って謀殺されたのではないか、と。
一番可能性があるのは、ある政治家だ。
熊切の作品「日出ずる国の遺言」で、
政治の腐敗を暴き、
特に、神湯堯(かみゆたかし)という大物政治家を徹底的に糾弾し、
神湯の写真を靴で踏みにじるという描写まであった。
その神湯から刺客として放たれたのが七緒であり、
熊切を巧妙に誘導して心中に持ち込んだのではないか、
との疑いを七緒に対して抱く。
題名の「カミユの刺客」とは、
そういう意味で、
「異邦人」を書いた
フランスの作家アルベール・カミュとは、
何の関係もない。

若橋は、その疑念を七緒にぶつける。
七緒は、疑いを晴らすために、
処分されたと思われていた
事件を記録したビデオを見せる。
そこには、遺書を書く熊切の姿も、
睡眠薬を先に飲んだ七緒の姿も
自分で睡眠薬を飲む熊切の姿も記録されていた。
若橋は、誤った疑惑をぶつけた自分を恥じ、
七緒に謝罪する。

ここで原稿は一端中断し、
後は、草稿の形で残されていた。

若橋は、いつの間にか七緒に惹かれ、
関係を結び、一緒に暮らすようになる。
そして、最後には、
七緒と共に、あの貸別荘に行き、
心中する。
心中に至るまでの間も、七緒へのインタビューは続き、
パソコンの中に残されていた。
ビデオも撮られていた。

以上が若橋が書いた原稿、
出版禁止になった内容の全てであるが、
その後に長江は、
事件の真相に触れるのだった。
それは、二度目の心中を記録したビデオを見ることで
解明されるのだが、
その内容は、ここでは明らかにできないので、
興味のある方は、読んでみてください。
相当びっくりする、
衝撃的事実です。
もはや、ホラーの領域だ。

書き下ろし264ページと、比較的短い小説だが、
一気に読ませる力があり、
一日で読了した。

途中、神湯が熊切を殺す指令を出すはずがない、
という確信を述べる人物がいて、
その理由や、
七緒が熊切の秘書となる経過などが明かされ、
意外性もある。

同じ著者の作品に、
シリーズで「放送禁止」「掲載禁止」があり、
読んでみようと思う。

 



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