まさおレポート

映画 「マッチポイント」と椿姫 アレン流の椿姫解釈

ウッディーアレンが初めてロンドンを舞台に撮ったサスペンスとキャッチにあるので惹かれて観た。元世界ランキングテニスプレーヤーのクリスがイギリスの上流階級にテニスのコーチを通じて入り込んでいく。大富豪の令嬢クロエと結婚しビジネスも義父の跡継ぎとして異常なスピードで出世していく。このあたりの描き方はあまりに上手く行き過ぎるのは監督アレンのジョークだろう。彼は珍しく全く出演しないのだが彼が映画の背後であの独特の表情で笑っているような気がする。

テニスプレーヤーがいきなり大会社の部長で車・秘書付き交際費は使い放題のポジションを得る。「おとぎ話だから聞いてね」ということだろう。順風満帆のクリスは義兄の婚約者ノラの愛欲にメロメロになり一方ノラはちょっとした浮気のつもりでクリスとつきあうが本気では全くない。婚約者ノラは劇画風のセクシー女でこれまたアレンのコミカルな演出を感じる。

クリスはノラにますますのめり込んでいきノラは妊娠する。するとおきまりの逆転現象がおきる。ノラがクリスに結婚を迫りクリスは家庭と仕事を失うことに躊躇する。金持ちの味を知った彼はいまさら庶民に戻れないと友人に告白する。せっぱ詰まったクリスは手の込んだ計画でノラ殺しを企て果たす。ロンドンのアパートにすむノラの向かいの婦人とちょっとした顔見知りになったことをいいことにその婦人の家に入り込み、強盗殺人に見せかけて猟銃で撃ち殺し、ノラに良い知らせがあると言って呼び戻し犯人が顔を見られたための出会い頭の殺人を装って殺す。

麻薬患者の強盗殺人事件として処理されそうになるが、ノラの日記から一転してクリスに疑いが掛かる。しかし別の犯人が捕まり彼は逮捕を逃れる。

題名のマッチポイントはテニスの最終勝負決定ポイントの事だが最初のシーンでネット上に掛かったボールがどちらにふれるかがつまり運が勝敗の分かれ道であることを映像で示す。最後になって殺人を犯したクリスが婦人の宝石類を川に投げ込むがその中のブレスレットだけが川縁の手すりにぶつかって跳ねる。スローモーションでそのブレスレットが川ではなく道路側にゆっくりと落ちる。

ブレスレットが道路側に落ちたために彼は逮捕を逃れ、順風満帆の生活にさらに男子の誕生というご褒美までつけて貰うことになる。ブレスレットが道路側に落ちたために何故クリスが助かるかは映画のお楽しみで。

クリスはオペラの愛好家で「椿姫」をロイヤルオペラ劇場のボックス席を買い占めている家族としょっちゅう観る。大富豪令嬢と知り合うのもこのボックス席だ。ベッドシーンまでオペラが流れている。アレンはオペラ椿姫からこの作品の着想を得たのではないかと考えてもおかしくない。そしてそれにふさわしい舞台にロンドンと大富豪を選んだのだろうか。ストーリーは異なる。せいぜいヴィオレッタがノラを、クリスがアルフレードを少し連想させるだけで結末も殺人事件と病死ではまるで異なる。アレン流の椿姫解釈かもしれないと想像しながら観終わった。

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