インドネシア、バリ島の森の聖獣バロンは、バリの人々から最も敬われている空想の動物で、災いや病いを祓う大いなる力があるとされる。森から抜け出て、村の外れや通り、家々の門前を練り歩き、凶事の原因となる魔を追い払う。
チャロナラン劇は聖獣バロンと魔女ランダの戦いを中心に演じられるが両者は寺院の闇の奥へと消えていき戦いの決着のつかない点が劇の特徴となる。
聖獣バロンの取り巻きがばりの剣クリスで魔女ランダを襲うが逆に魔女ランダが魔法をかけて取り巻きが自らの胸を突き刺すようにしむける。ところが今度は聖獣バロンが魔法を掛け返して取り巻きの胸を硬くしクリスが通らないようにする。こんな具合に決着がつかないのだ。
善悪が合わさってこの世があるというヒンドゥの教義を見事に反映している。なにかを思い出さないだろうか、そう、村上春樹の1Q84で登場する尊師が説くところのこの世は善悪から成り立つという話を。
バリのアニミズムから発しヒンドゥの影響を受けたバロンは、祭りにバリの村々を練り歩くことで古くから人々を守ってきた神秘の力を持つ偉大な聖獣でありバロン文様となって威力を発揮し続けている。