孫正義氏はすでに一般的な投資判断を突き抜けているという気がする。投資家向けには当然ながら説得性のある論旨で話をするが彼の心情としては以下に引用する岡潔の「でたらめ」に近い気がする。引用の「でたらめ」をユニコーン投資、ファクト(事実)をヤフー、アリババと考えてみるとわかりやすい。
「ユニコーン投資」を十ほど並べてみると、その中には一つくらいポシビリティがある。このポシビリティをまた十ほど並べると、そこに一つくらいアリババが見つかる。
天才数学者でさえこのようなアプローチをとるのだから、この世にいまだ到来していないシンギュラリティーを招来しようという天才事業家孫正義氏もこのような思いを心情内にためているとしてもそうおかしなことではない。
若い日の孫正義氏は発明カードを毎日一題考えていたというがものになるのはそのなかのいくばくか(翻訳機など)であっただろう。現在は毎日一題考えるかわりに実際に投資を行っているという行動モデルであり、なんら変わっていない。
二つ目は、私は数学の研究でポシビリティ(可能性)というものを手がかりにする。このポシビリティよりももっと漠然としたもの、つまりポシビリティのポシビリティというものがある。一口に言うと「でたらめ」である。これを毎日一つずつ考える。この「でたらめ」を十ほど並べてみると、その中には一つくらいポシビリティがある。このポシビリティをまた十ほど並べると、そこに一つくらいファクト(事実)が見つかる。百の「でたらめ」を並べてやっと一つ事実が見つかる。
こんなことを繰返しているうちに、何年かして一つの研究がまとまるわけだが、一年三百六十五日、毎日「でたらめ」を考えるともなく考えている。これがまた、健康法に合っているのじゃないかと思うのである。引用:数学する人生 pp.183-184
いくら目利きの練度を高めても打つ手打つ手がアリババになっているなどはあり得ないのだ、天才が百の「でたらめ」を並べてやっと一つファクト(事実)が見つかるということがこの世の本質なのであり、孫正義は依然として稀な天才投資家であり目利きなのだ。