まさおレポート

付記1MDF工事の顛末 5135

NTT東西は作業の平準化を図るために工事量の平準化を繰り返し主張していた。一方、ADSL事業者側は、顧客獲得は波があるのが一般的で、平準化など現実にはできない。申し込みが有る度、NTT東西にそのまま申し込みをする。NTT側の言い分も理があり、いつも双方の議論がすれ違い、交渉は一向に進展しないままに時は流れた。根底にはNTT側のモチベ-ションに対する不信感があることは言うまでもない。孫正義はこのNTT感覚がまったく理解できない。企業である以上は大口顧客のためにある程度のリスクを持つべきだと主張するのだ。

又、MDF工事一回線あたり7000円の工事費用も孫正義は気に入らない。給与水準の高いNTT東西の管理者全員のコストを売り上げ比例やスタッフ数比例で費用配分すると時間当たり7000円と高いものになる。この点を指摘しても事実だから変えられないという返事が返ってくる。MDF工事に高給幹部の判断作業を必要とする割合は低いのだが費用配分のマジックで結果的に高いものになる。孫正義のイライラはつのる。

ソフトバンクは2003年の聴聞会で、NTTが契約している工事会社をソフトバンクが直接委託契約することで間接費用を回避できると新たな提案をした。

同じ工事会社を使ってソフトバンクが仮に効率的なオペレーションを行ったとするとNTTのメンツは丸つぶれになる。だからファミリー企業の工事会社がそんなオペレーションを採用することを絶対に許さないし、工事会社もNTTの空気を読んでそんなオペレーションは決してしない。この戦術は実現不可能なことはあらかじめ見えていた。

ソフトバンクではADSLサービス開業当時からMDF工事の自前化TつまりNTTに配線工事を依頼するのではなく、ソフトバンク自体が行うことは重要であった。

当時NTTに工事を依頼してから4日から6日程度がかかっていたが、韓国では一日で出来るという話を聞き及び、即日工事を目標としていた。

それと工事費(一件当たり4000円以上かかっていた。300万件の工事に120億円かかることになる)の削減のためだ。

ここで工事とはジャンパ-線の配線工事を指している。


ADSL事業者がNTT局舎内に設置する

DSLAM

Digital Subscriber Line Access Multiplexer…デジタル加入者線 (DSL)で使われるネットワ-ク機器。電話局側にあり、複数の加入者線を多重化して、高速なインターネット・バックボーンに接続する。集合モデムとも呼ばれる

MDF

main distribute flame…市内から上がってくる銅線を交換機に接続するための配線板

を接続する工事(ジャンパ-工事)が必要となる。

これをMDF工事と呼んでいた。


2002年2月12日 ソフトバンクBBがあっせん申請を行う。

吉岡委員、瀬崎特別委員、東海特別委員及び土佐特別委員が指名される。

その後 両当事者より意見の聴取 があり霞ヶ関の合同庁舎内の一室で紛争処理委員会斡旋委員を前にしてNTT西とソフトバンク双方が意見を述べた後、あっせん案の提示が行われた。

ソフトバンクBBがあっせん案を受諾したがNTT西日本があっせん案受諾を拒否したためあっせん打切りとなる。

何回かの事情説明的な場を経てのちに本番の紛争処理委員会裁定の場が設けられる。

進行形式は裁判を擬制している。委員長が裁判長で、委員が裁判官、紛争当事者はそれぞれ弁護士を擁していた。

紛争当事者である2社つまりソフトバンクとNTT西がプレゼン風の趣旨説明を行う。

ソフトバンクはその接続の必要性や交渉経過、そしてその反対理由が無効であることを中心に述べ、一方の方はどうして接続が困難であるかの理由説明を行う。

それに対して委員から質疑がある。NTT西は3名、ソフトバンクBBは牧野弁護士が陪席している。

2003年2月14日には「あっせん」の打ち切りを受けてソフトバンクBBは次のステップである仲裁の申請を行う。

NTT西日本は仲裁の申請を行わない旨を報告したために 仲裁不成立となる。このように仲裁は両者が申請しないと不成立となる。

2003年5月16日には あっせん、仲裁いずれも不首尾に終わった。

次のステップはソフトバンクの接続協議再開命令申立てになる。

総務省は 電気通信事業法第38条で定められている接続拒否事由として認められないと判断した。

協議再開命令の前に事前の調査としてNTT西日本から意見を聞く場を2003年6月18日に開催した。

紛争処理委員会の聴聞会は総務省の他に警察庁などの入っている霞ヶ関合同庁舎の一室で行われた。

窓側に総務省総合基盤局の関連部著の課長や紛争処理委員会の委員が並び、対峙する形でソフトバンクの孫さんと接続企画本部長のわたしなど数名が並ぶ。

右横にNTT西の伊東接続推進部長、元太担当部長、中神担当部長そして特筆すべきは3名の弁護士が随伴して着席していた。

左横には利害関係者としてイ-・アクセスの千元社長以下が、アッカは担当幹部が並んで着席する。ソフトバンク側の申し立て理由が孫さんから説明された。

孫さんはソフトバンクでは、工期短縮については2営業日を目標とし、ゆくゆくは当日工事を実現していく方向であり、3営業日よりも工期を短縮できると説明した。

工事業者についてはNTTと同じ会社へ発注するが、工事モデルを策定、業者と検証するなどガラス張りによる運営で効率化を進めていくことで、工事費用も2割削減を目標とした。

工事の発注系統が複数になることで混乱を招くというNTT西日本の意見に対しては、工事事業者も複数の注文を受けるということは普通のビジネスとして当然のことではないかと孫さんは反論した。

さらに局内工事が可能になった場合は、ユ-ザがNTTとソフトバンクどちらの工事かを選択できる方法をとると説明した。

ついでNTT西からは弁護士が弁論に立ち、かなり激しい口調でソフトバンクの申し立てを論難したのが印象的だった。映画の法廷闘争のようなスタイルで立ち向かったが、結果として戦術的に成功であったかどうかは疑問が残る。

その激しい論難口調は総務省のみならず紛争処理委員会の委員にも気持ちの上でかなりの不快感を与えた。はた目にも総務省役人の顔色が変わっていくのが伺えた。NTTが委託した弁護団の戦術がとった米国スタイルが総務省に与えたものは心情的な効果として最悪に近いのではなかったか。

NTTはやはりソフトバンクが2003年に公正取引委員会に提訴した「光ファイバ案件」でも同じく米国で修行してきた弁護士を使い、激しく公取側を論難したがソフトバンク側が「勝訴」している。

利害関係者であるイ-・アクセス社など各社は総じてソフトバンクの自前工事に反対の立場で、千本社長(当時)は自社の設備に対するソフトバンク工事のとばっちりのリスクを中心にMDF自前工事反対の意見を述べた。

NTT西日本はこの聴聞を受け、ソフトバンクが要望しているMDF自前工事について説明会を実施した。

NTT西日本は

「MDF内まで入り込むという接続形態は、ネットワ-ク間を結ぶという“接続の本質”に大きく反する。

MDF内で円滑な切り替え工事がなされない場合には、電話回線へも影響が発生する。MDF内で故障が起きた場合、原因となる事業者を特定することが困難なため保守責任が不明確になる。

MDF自前工事を許すという事は「NTT西日本とソフトバンクBBの2社間だけではなく、6,000万の電話ユ-ザや他事業者のサービスすべてに係わる問題」

と述べた。 

今回行なわれた聴聞でも、NTT西日本とソフトバンクだけではなく、NTT東日本や他DSL事業者などが参加した。DSL事業者も自身の可能性を心配したために反対意見を表明した。

「MDF内の工事が許可されれば他事業者がすべての回線にアクセスできるため、通信の秘密保持が困難になる。ユ-ザへ直接・間接的に迷惑がかかる」と。

NTT西日本は

「ソフトバンクBBはDSL以外の専用線などについては保守義務を負っていないと理解している。総務省では故障発生時の責任区分の切り分けが可能と思っているが、NTTとしては無理だと考えている。

仮に他事業者がMDF設備内の工事を行なったとしても、現用回線の切断といった工事はNTT側が行なう必要がある」

と語った。また

「ソフトバンクBBが掲げる「工期短縮」は、ADSL工事に慣れてきたこともあり現在は3営業日工事体制を実現している」

という。

NTT西日本 は

「年間の工事数はDSL以外も含めて約1,200万本、件数ベースで数百万件に上る。工事エリアが沖縄や離島含めた全国区であり、コスト削減から拠点も絞っている関係上、3営業日がギリギリのラインだ。

人数を増やせばコストがさらにかかる点で現実的ではない」

と説明する。

結局
8月28日に 総務大臣はNTT西日本に対して接続協議の再開を命令した。


総務省の協議再会命令の結果、再びNTT西との間でMDF自前工事の協議が始まった。孫さんはこの協議再開命令で光明を見出したと考え喜び勇んで風邪気味の体を押してNTT西の上野社長に合うために早朝のJALで大阪に飛んだ。

NTT西の本社に到着し大阪城の見える比較的小さな応接室で上野社長(当時)S取締役(当時)、M接続推進部長と面談した。

上野社長は

「協議再開に際してMDF自前工事は局所的ではなく全国ベースが前提だ。局所的な実施ではユニバーサルサービスとの関係で整合性がとれない」

と切り出した。

上野社長はさらに

「ユニバーサルサービスの責務がある当社は、費用のかかる離島も、費用効率の良い都市部も均一工事料金でサービスすることをNTT法で余儀なくさせられている。その前提の上に立った工事料金なので、経営効率の良いところだけつまり都市部だけをソフトバンクがサービスするというのは受け入れられない」

と説明した。

これは先制パンチとしてはかなり強烈で、ソフトバンクとしてもいきなり全国の局舎で一斉にMDF工事を始めることはハードルがかなり高くなるどころか現実問題として不可能である。

全国の各局舎でMDF自前工事を実施するにはそれなりの工事量が局ごとになければ採算割れするのは必至である。

上野社長は

「総務省紛争処理委員会の協議再開命令通りにやるが、全国ベースでやってほしい」

と実に痛い点をついてきた。

わけだ。孫さんは体調の悪いところをさらに一撃を受けて東京に帰らざるをえなかった。

孫さんのこのときの経験は後の地域アクセス会社分離論、光の道構想に向かうことになる。しかし光の道構想もソフトバンク案は研究会で却下されている。このMDF工事を含めた地域アクセスの交渉は実に挫折の連続なのだった。 

後年このMDF自前工事はいつの間にか改善されていたがもはや双方にとって関心事ではなくなってた。

自他事業者様設備の設置スペース内での工事の場合 特に条件はありません。

前工事実施可能な工事会社の基準 当社の通信用建物等において、接続申込者等が接続に必要な装置等を設置する場合における元請負工事会社の条件は下記のとおりとします。NTT

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