今日は朝から底冷えのする一日となった。滞在中のウィークリーマンションから外に出るとすぐに呉本通りだが、そこから灰が峰を望むと雪が所々かぶっている。しかし車での蒲刈へのドライブは暖かくて快適だ。いつものようにプラシド・ドミンゴのオペラ「アイーダ」を聴きながら気分が高揚していき1時間で県営のレストランについた。小雨がふりだしていっそう寒くなってきたようだ。
ボリュームたっぷりの海の幸定食を食べて一休みした後に蘭島閣美術館に徒歩で向かう。ここには伊東深水や小倉遊亀、横山大観など有名な日本画家の絵が割合多く収集されている。なかでも伊東深水の美人画が特に気に入る。横山大観の富士山と海を描いたものがあったが私にはあまり感銘を受けなかった。整いすぎておもしろみにかける。
二階に上がると杉山寧の文藝春秋・表紙画原画が多数収集されていた。どこか記憶にある絵が多く楽しいが、やはり小品で奥行きにかけるように感じた。中川一政や熊谷守一のカキツバタを描いた小品があった。これは晩年に近い作品で、カナクギ文字でクマガイモリカズとひっかくようにサインが認められた。これはたいそう気に入った。力が抜けており、楽しんで描いているのが伝わってくる。
さらにすぐ近くの三之瀬御本陣へ車で向かう。白壁の美しい建物で、一方が海に面している。江戸時代に盛んであった朝鮮通信使の接待用宿泊所だ。朝鮮半島からの大世帯の使節団を接待するのは時の幕府にとって非常に大切なことで、ご馳走役の苦労は大変なものであったことが中の展示で忍ばれる。三汁十五菜でもてなすのは今の国賓晩餐会なみの豪勢さだ。
井沢元彦氏の「逆説の日本史」にも「柳川一件」として詳しく記されていたが、朝鮮通信使を復活した徳川幕府は貿易による国富の増大を目指していた。従って粗相があっては一大事であり、この海路の休憩地点である下蒲刈の地で日本最大規模の接待を繰り広げたのだ。
この本陣の二階に上がると茶室があり、このなかに入ると瀬戸内海が間近に望める。伊勢湾の二見浦のような趣に富んだ島もすぐ近くに見え、厳寒ながら誠に気分のよい眺めが楽しめる。朝鮮通信使もこの部屋に通されて心が穏やかになったのでは無かろうかと当時の様子を空想してみた。
ある時期から木綿帆船が使われ出しそのスピードのためこの蒲刈による必要が無くなったという。そのためこの島の賑わいも廃れた。国際外交の一舞台となり脚光をあびたこの島も、帆船の発達でその役割を上大崎島に取って代わられ、ふたたび寒村となっていく。歴史の流れを感じさせてくれる小旅行でありました。
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