001年に接続に係る紛争処理を行う機関として、電気通信紛争処理委員会が設置された。これは総務省内に設けられるいわゆる八条機関で、紛争処理委員会の委員は衆参両院の同意を必要とされ、独立性と権威が付与されることとなった。又、直属の事務局が設置され、従来の総務省各部局とは独立した組織となった。2011年6月12日この原稿を書きなおしている時点でも、NTTドコモがソフトバンクを相手どって紛争処理委員会に調停あるいは斡旋を申し出た。それなりに活用されているようだ。
この委員会ができるまでは、各種の相互接続に関する交渉が成立せずに問題がこじれると、総務省電気通信事業部の業務課やデータ通信課が担当してお互いの意見聴収を行い問題を裁いていた。問題が大きく即答できないときは当該問題をテーマにしたさまざまなレベルの研究会を立ち上げるなどして対応するが、時には当事者の企業が決定を急ぐ場合があり、こうしたケースには裁定申請が提出され、接続命令が出されるか、協議に応じると言った形で問題を解決してきた。しかし、電気通信事業法で明快に白黒が判断できる場合は良いが、たいていの場合は裁判と同じで明快に判断しかねるケースも出始めており、又、公平性、公正性の観点から総務省とは独立した機関で外部委員による裁定が好ましいとの判断になったようだ。国際的にも白黒の明快な争いではなくどちらの言い分も7それなりにある場合には白黒をつけるより、こうした斡旋的な和解の方法を求める方が解決の早道であるとの流れがあり、それにならったと考えている。
私が紛争処理委員会への申し立ての一方の会社(ソフトバンク)の事務方責任者として出席したのは2002年の以下のケースだった。何回かの事情説明的な場を経てのちに本番の紛争処理委員会裁定の場が設けられる。進行形式は全く裁判を擬制しており、委員長が裁判長で、委員が裁判官、紛争当事者はそれぞれ弁護士を擁していた。紛争当事者である2社つまりソフトバンクとNTT西がプレゼン風の趣旨説明を行うが、訴えた方はその接続の必要性や交渉経過、そしてその反対理由が無効であることを中心に述べ、一方の方はどうして接続が困難であるかの理由説明を行う。委員から質疑がある。それを何回か繰り返して斡旋案がでた。NTT西からは数名の弁護士が質疑の矢面に立って財産権の侵害の観点から真向から激しくソフトバンク側の主張に反論した。その勢いが余って総務省の在り方にまで批判を加えるもので、総務省も自らに対する批判にはやや感情的になって反論する場面も見られた。それは外国の裁判ものの映画を見ているようで、弁護を委託したNTT西でさえ、やや鼻白むような印象を受けた。内心、これでは紛争処理委員会事務局のみならず紛争委員である大学の先生方にもあまり良い印象を与えない、NTT西は日本になじまない弁護士を雇ったものだと思ったが、後で調べてみるといずれも米国事務所で働いた経験をもつ弁護士で、なるほど米国の裁判はこのようなものかと思った。この結果、次のような斡旋案がでた。
<NTTの局舎スペース等の利用に関するあっせん>
概要;ADSL事業者が、NTT東日本の12のビルにおいて、相互接続点の設置のためのコロケーションスペース、電源等の利用が不可との回答をNTT東日本から受けたことから、それらの利用ができるようあっせんを申請(平成14年2月1日申請)
あっせん手続の結果;あっせん対象の12のビルについて、平成14年2月中にADSL事業者による自前工事着工ができるよう双方協力を行うことで、両者が合意するように。
これで、申請側の意見が一応通った結果となったが、一方、次のような改善案も出た。
総務大臣への勧告;(本件の背景として、ソフトバンクが、既にNTT局舎のスペース等を大量に予約していた状況があったことから)コロケーションについて、現状では接続事業者からの利用請求の先後のみが優先度として考慮されていることを改め、請求の先後に加え、利用の緊急性も優先度として考慮されるように、第一種指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業者において措置が講じられるよう総務省において配意すること。
つまり、使いもしないのに申し込みだけしているとの非難もあり、実際の利用状況を考慮する詳細なルール(一定期間サービスを開始しない場合は使用権を返却する)をNTT側が作成し、それを各電気通信事業者が以降遵守することとなった。
その後の状況として紛争処理委員会は次のように評価している。「NTT東西の接続約款が変更され、コロケーションルールが整備された。ひいては、このことがブロードバンドサービスの競争促進や普及の一助となった。」