まさおレポート

付記2 ヤフーが実施したアンケート調査 2706

当時のYahooが実施したアンケート調査では、74%が価格の魅力で使いたいと答えている。しかし、評価できないと答えた26%の人の心配は以下のようなものだった。この心配を多くの人が持っていたしソフトバンク社内ですら、ほぼ同じ意見ではなかったか。

エピソード 心配

(心配1) 採算性が不透明であり,事業の継続性に疑問がある。

当時の他社は例えばアッカは50万加入を採算分岐点と考えていた。それが300万顧客獲得を前提に2280円の価格設定にしたので関係者が事業の継続性に疑問をもったのも当然だが、一般顧客までが採算性を心配した。 

孫正義氏が2280円の提供価格をはじき出したのは勿論十分な計算があってのことだった。モデムを例にとると、たとえば国産のモデムを数万単位で発注する場合には仮に1台5万円とすると100万台単位で台湾メーカーに発注すると半額になる可能性が出てくる。又価格弾力性がすざましく、これだけ廉価だと顧客がなだれを打って申し込む。NTTのコロケーション設備の利用効率が格段によくなり、1顧客当りのコスト負担が軽くなる。サポートセンターのコールセンター費用を有料として抑えることでもコスト負担を抑えられる。(実はこれは完全に誤算で見通しが甘かった。事業開始当初の混乱で有料どころかサポートセンターの拡充を余儀なくされる)

サポートセンターの大幅な拡充など予想外の出費にもかかわらず、より高速なメニューやIP電話機能も併せ持つようになり、顧客単価が2280円から上がることで3年後の黒字を達成することになる。一気に100万単位で顧客サービスの軌道に乗せないと固定費のみ増えて、いくら資金の豊富なソフトバンクといえども事業に赤信号がつき、東京めたりっくの二の舞になってしまう。この当時の孫正義氏ははた目にも死にもの狂いに見えた。

(心配2) 速度や品質についての裏付けと実績がない。

他社は国産の例えばNEC製モデムを使ったがソフトバンクBBは日本で実績のない台湾製を購入した。しかも100万台単位で。海外の廉価製品を調達するには日本で主流のADSL国際標準ANEX-B(NTTを始め他社が利用)は困難でANEX-Aを採用せざるを得ないことになるが、これも世間からは不安材料とみられた。しかもいきなり日本で稼働実績のない8Mbitモデムで開始したのでなおさらであったのだろう。

速度については局からの距離が離れると速度が落ちるためにコールセンターは説明に追われることになる。モデムが熱を持つなどの事象も発生して気の抜けない時期が続くことになる。幹部会議でもコール数は常に最大の関心事であり、この当時の孫正義氏の口癖はFAQの充実だった。さまざまな苦情や問い合わせに答えるのにもたもたしていると同一コール者がさらにコールを繰り返すために加速度的にそのコールは増える。いかなる問いにも想定問答集を作ってサイトに掲載して、コールセンターのコール数を減らそうと最大限の努力を払っていた。

(心配3) 計画通りの展開ができるとは思えない。

NTT局舎への設置工事(コロケーション工事)やNTTとの接続がスムースにいくとはそれまでの経験則でだれも考えなかった。顧客への設置工事やデリバリーなども100万単位の展開についていけるとは思えない。その他、スピードネットのギブアップの印象もあったのだろう。

(心配4) 公開されている情報が少なすぎる。

NTT局舎への具体的な展開計画、8Mbitモデムの性能、特に局からの距離でどの程度の速度が確保できるのか、いくらベストエフォートといっても不安があるといった心配を持たれていた。

特にNTT局舎からの距離と速度との関係は実績が無いので理論的推定値でしかないため、ソフトバンク側でも不安材料であった。しかし徐々に顧客が増え50万程度の実績データが集まり出すと後は新規顧客に対しても近辺の実績速度から確度の高い判断が可能になった。ネット上での速度の問い合わせに対しては住所を入力してもらう事でもっとも近い既存顧客の実績値を照会することができるようになった。それでも速度に不安がある場合は別のタイプのモデムを勧めるなどの対策を講じることになる。

エピソード ビジネスプラン

ソフトバンクはADSL事業の開始時点では非常に粗いビジネスプランしかなかったので、当初面食らったものだ。ビジネスプランを見せてくれと探し回ったら、やっと、一人の担当者がエクセルを開いて見せてくれたが、それも綿密に積み上げたものではなく、外資系通信会社某社レベルからみてはるかに見劣りのするものだったが、孫正義氏の頭の中には200万加入獲得すれば採算が取れるとの読みが大つかみにされていることは読み取れるプランで、初期段階で力を注ぐのは顧客獲得とネットワーク構築、円滑なサービス提供と割り切っている風だった。その数年後には経理の専門家による精密なビジネスプランが毎年経営会議で検討されるようになったが、何がビジネスの本質かを見極める鮮やかさが印象に残る。

上述の傾向はなにも外資系通信会社某社に限らない、筆者はNTTデータでもこれに近い経験をした。大阪に赴任したときのボスは仕事上のどんな些細な行動も金銭的価値に置き換えることを自らの経営方針とし、レポートすることを命じたので現場はレポート作成に追われ、本来あるべき売上額の向上など念頭になかったのではないか。時は金なりを社員に植え付けるための方針というのは理解できないことではないが事業の発展にはもっと他にやることがあるだろうと、この方針になんだかなあという思いがしたものだ。

孫正義氏もときにこれに近いことを行うことがあり、たとえば多変量解析という言葉に感動した孫正義氏はなにがなんでも多変量解析で営業の傾向をつかもうとした時があり、相場におけるアノマリーを求めるような癖に陥った時がある、又ある米国人経営者に傾倒して社員全員にその著者の本を配り感想文を書かせるなどしたこともあったが実際の営業に結びついたとは思えなかった、しかしそのうち自己流のパラソル営業が定着するとこの多変量解析なる言葉も米国人経営者の話もまもなく影を潜めた。いずれも最新の経営学やMBA風のものではなく営業に密着したものであるがそれを捨て去る転換も鮮やかである。

 

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