お正月と言えば、お年玉と福袋であります。
ワタシの倅たちには生活費の補填としてお年玉を用意します。何歳になってもお金を貰って怒ったり困る人間はいないので、彼らもワタシからお小遣いを貰えるせいもあるので、一応お正月にはこちらに戻ってきます。
もう一つ、福袋ですが、以前は新年のゴルフでゴルフ場のショップに積まれているのを一つ(大体一万円)買うことにしていました。アンダーウェア、靴下から防寒ゴルフウエア上下等が入っていて、なかなかお得であったのです。今年はゴルフの予定が無いままお正月が過ぎていきました。そこで、ヤフオクで福袋=「中古書道具をまとめて大量に」を見つけたので、14千円で落札しました。
書道具全般が網羅されている一方、写真にはすべて掲載しきれない大量の品々で、なおかつお宝と思しき高級品が見当たりませんでした。また、ちょっと気になる古本「古文書時代鑑」定価3万円というものが含まれていたので、書道の勉強の参考になるのでは、と考えました。こうしたものは、さほど興味を持つ人は少ないので妥当な落札額と言えます。福袋というより何が入ってるか分からない闇鍋と言った方がいいかもしれません。
書道具は、「文房4宝」と言う言葉があります。筆・硯・紙・墨の4つそれぞれが重要でいい書を書くためにはこれらが揃わなければならないとされていました。古い時代の書家さんに言わせると、現代の書道は大いに衰微しており、その元凶が、「墨汁(墨液)」にある、と憤慨している文章を見かけました。
それまでは、固形墨をゆっくり丁寧に磨り、それを受け止める銘硯あって初めて書墨の本来の魅力が発揮されるというのです。今の墨汁は「黒インキ」だと酷評していました。書道自体が衰微し書道人口は減り、明治大正時代のような歴史に名を残すような書家が目立たなくなりました。パフォーマンスやルックス優先の「書道家」がもてはやされているのです。また、PCやスマホの浸透によって、日本人が字を書く機会が加速度的に失われているのです。
それはそれとして、「福袋」(段ボール2箱)が昨日届きました。お宝というより書道のガラクタと言ってもいいのでしょうが。予想以上の重さとボリュームでした。4宝で言えば、書道筆絵筆20数本。小さめの硯4、(仮名書用)料紙巻紙2、半紙1000枚×2、未使用の墨汁2箱、など揃っております。これに文鎮6個、印泥未使用2個、筆巻3本、印材(一部未刻)70本などなど、そしてなぜか木彫り用彫刻刀十数本もありました。
これがその一部であります(笑)
所有者はばればれ、篆刻の印にも多数その名前が刻まれておりました。
ワタシは以前から、こうした書道関連の中古品を落札するたびに、前の持ち主の事やその人生や考え方を想像することにしています。それが書道具に対するリスペクトであり、これから大事に活用するためのステップとなります。
すべて点検して判明したのは以下の通りです。
「筆は2,3千円の安物がほとんどで、しかも墨溜まりで筆の根元が固まっている。用具を入れる箱や硯が墨で固まり汚れが多い。半紙などは、ヤケの状態から2,30年前のもので、ほとんど書いた形跡が無く減っていない。集印帖の表紙と数ページ分の印の字も下手である。篆刻印を彫刻刀で彫った形跡があり刻字が汚い。古文書時代鑑はオークションで落札されたと思われる付箋が付き、中を調べたり読んだ様子はない。」汚くてびっくりでありました。
というような状態から推測するに
①所有者はおそらくまだ若く、存命であろう。
②書道の腕前は残念ながらかなり下手の部類。
③筆や硯など、ほとんどは安い普及品で、扱いがぞんざいで汚い。
④性格は飽きっぽくアバウトである。全般に探求心が見えない。
⑤篆刻印は、彫りかけて止めているものが多く、一応彫れているのも初心者レベル。
つまり、ワタシの推理ではこの元持ち主は、まだ若い頃、何かのきっかけで書道を始めたが、たいした練習もしないで筆もちゃんと洗わず、筆が割れるので嫌になりしまいに放置、そのうち思い出してまたちょっと書き、それから篆刻をやってみようと心変わりをしたのです。いくつか彫ってみたものの、まともな道具を使わず、篆刻の「いろは」を学ばないままやってるのでこれもうまくいかず、自分には向いていないと投げ出してしまって、次には水墨画をかじったようです。
つまり、元の所有者は、この出品物を見る限りでは、いろいろ思い付きで始めるがさほど研究心が無く飽きっぽい性格、加えて辛抱強くもないので、どれも長続きせずものにならないまま何年も放置していた。いい加減邪魔になって来たので、まとめて処分するのにヤフオクを利用したのではないかと思います。何か他の趣味を見つけたのかもしれませんし、断捨離したのかも。
品物は、一般に流通する廉価品なので、個々の価値や値段は低く、印材は別にして概ね500円から3千円程度の代物であります。しかし、それが100点以上あるので、購入価格だけで言えば件の古文書時代鑑を除いても、少なくとも4,5万円はしたと思います。しかし、彼に救いがあるとしたらまとめてゴミに出さなかったことでしょう。ワタシのような物好きがいて、それぞれを検分し、メンテナンスしたうえで再利用できるのです。
さらに驚いたのが「彫刻刀」12本でした。これはどう見ても木彫り用、今まで見たことが無いしっかりした作りで、柄に「菊勇」と印字されておりました。刃先もいかにも鋭く切れそうな凄みがありました。ネットで検索すると浅草橋の「森平」という刃物の老舗の製品で、一本大体3千円以上もする専門家用の彫刻刀であったのです。15本組ではなんと48,860円!マジか?。これで石を刻していたのか?
半紙は、書道の練習では一日数十枚消費しますし、千枚ある書初め用の紙と印泥は篆刻印の試し捺しに使えるのです。書筆には一本だけ唐筆(中国製)が含まれていましたが、これが毛量の少ない小ぶりの羊毛(山羊)長鋒筆で、毛質が非常にいいものでした。試し書きして合格!とても書きやすく、羊毛筆独特の趣が出せました。半紙などの小さな作品作りに威力を発揮しそうです。状態のいい他の筆は、きちんと洗って知り合いの中高生などに無料でプレゼントいたします。
70本の印材は、摸刻用に惜しげもなく使えます。ともかく、驚くようなこだわりの銘品は、予想通り一つもありませんでしたが、実用に使える書道具は活用いたします。いずれ、そうしたものがそのうちデッドストックとなる懸念は残ります。その時はまたヤフオクに出せばよろしい。無駄にはしませんよ。持ち主に感謝であります。
さて問題は「彫刻刀」。これを生かすとしたら木彫りをやってる知人に差し上げるか、ヤフオクで高く売るか、さもなくば自分で木彫りに挑戦するか、であります。これは悩ましい・・・・