植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

いしがかたい 印材色々

2021年07月08日 | 篆刻
 ワタシは、若い頃諸国を旅いたしました。といっても、ほとんどが外国でも、飛行機で数時間で到着する近場であります。台湾、香港からサイパン、シンガポール、タイ、ベトナムなど、東南アジアではほとんどの国を旅行しましたが、中国、ミャンマー、フィリピンには一度も行きませんでした。理由は行きたくないから(笑)であります。

 衛生的でないこと、治安が悪いこと、旅行者が安全に過ごせそうもないところは避けてきました。とりわけ中国は、都市部の大気が汚染されている、トイレが不衛生で、食べ物も何が入っているか安心できません。汚らしいイメージなんです。不誠実、道徳心も乏しく日本人からぼったくる、なにより公安が目を光らせる監視社会であることが致命的です。誘われたことはありますが、ワタシは中国だけは絶対行きません。意志が固いのです。

 旅行に行った人の話や紀行文などから推察するに、観光地は圧倒的に古寺が多く、土産物屋には書道関連の店がたくさんあり、土産用に筆、書画、硯、墨などが置かれ、総じて質が悪い(偽物・粗悪品)わりには高価なんです。ヤフオクで集めた印材にもそれらしいものが多数紛れております。特に「鶏血石・田黄石・芙蓉石」などの超高級な印材は、人工的に練物として作られたり、安物の表面にフィルムを張って「本物」として公然と高値で販売されているのです。

 聞くと篆刻・印章の店も多く、観光者はその場で何分も待つことなく印を彫って貰えるそうです。下書きも無しでいきなりごりごり彫って、ハイできた、みたいなノリのようです。彼らはただの町のはんこ屋さんで、手馴れてるので逆さ文字をあっという間に機械的に彫ることが出来るのでしょうね。

 そもそも、篆刻が一つの芸術や技巧としてのジャンルに認められるようになってたかだか500年ほどだそうです。紀元前から中国では書画や公文書に印を押すという文化がありましたが、それまで職人さん職工さんが制作して、官庁や文人・書画家に納品するということだったようです。現在残されている名筆・歴史的文書のほとんどが石碑・石板に刻まれたもので、腕のいい石工が、書かれた書を転写、石に刻んだものであります。
 それが印を作ることを数千年もの間、名も無き石工や印職人が漢字文化を支え、貴重な歴史的文書や芸術的書の保存に貢献してきたのですね。
 
 一般の人に印を彫ることを容易にしたのは「印材」であります。中国の田舎や山岳地帯で独特の柔らかい均質の石が採石されるようになりました。寿山石、青田石などです。特殊な道具(石鑿など)と金槌みたいなもので時間をかけて彫っていたものを、簡単な刃物で刻むことが出来るようになったのです。書道や山水画を描く人たちは、落款印としていくつもの印を必要とします。安上がりということもあって 多くの文人が、手軽に自身の芸術的センスで印を自作するようになったのは想像に難くありません。

 そして、ワタシが知っている数少ない中国の篆刻家「呉昌碩」先生などが活躍し、篆刻というジャンルが確立していったのです。それがあって呉先生の「臨石鼓文」という書籍を以前買い求めました。この法帖をだいぶ練習して、篆書の基礎になる書体を学びました。
 
 印として使われる素材は石だけでなく、水牛や象牙、ガラス、竹、木などもあります。しかし、それらは「印鑑用」と見做しております。彫りやすさや入手しやすさからすると「石材」に優るものはありません。ワタシの手元に無数にある印材の中でも、そうした骨材・メノウなどは硬くて印刀などの歯が立ちません。これらは、印鑑用高速回転の精密ドリルで彫るしかありません。
 
 また、印材として流通してる石は、ほとんどが中国で産出されるものですが、種類から材質からもう千差万別ピンキリであります。指で傷つくくらい柔らかい「凍石」とか粉を固めたようなもろもろした石質などの柔らかな石から、刃先が入らないホントの石や宝石用のものまで硬さもまちまち、中に細い金属質の層(ヒビ)があったり砂が混じっているものも散見します。ある程度の硬さは、細密な極細線を彫るのにいいし、耐久性もあるのでこれを頑張って征服する価値はありますが、印刀が表面を滑っていくようなものは「無理」、処分いたします。

 石の産地や種類はともかく、半透明で灰白色、見た目に層や色の変化の少ないすべすべしている石に彫りやすいものが多いですね。全体が均質であること、柔らかさが適度にあって粘りがあり、崩れにくい強度もあると言うのが理想です。柔らかければいいというものでもなく、彫っている傍から周囲が崩れていくのでは印には向きませんからこれもポイ。

 例えば、広東緑石は、深い緑色の透明感があるきれいな石ですが、彫るとガリガリジャリジャリして、細工が難しい素材です。青田石は彫りやすく安い普及品で、昔は重宝されていたようですが、だんだん良質なものは掘りつくされ、砂が混じって刃先が引っかかってしまうような固いものが多いようです。おそらく一昔前には、採掘しても打ち捨てられたようなものまで売られてるのでしょう。

 今主流の普及品は切石「寿山石」の安物であります。茶色が主流でほとんどが滲んだような赤っぽい模様入りです。練習用・初心者用にはこれで十分なのですが、これも硬さや彫りやすさは均質でなく当たり外れが大きいのです。

 篆刻の最初の作業が印面磨きで、出来る限りひずみや凸凹が無い鏡面に近ようにサンドペーパーをかけます。大体この時に、硬いかどうか砂粒などの不純物の有無の見当はつきますが、実際は印刀を当ててみないとわかりません。

 結論から言えば、印材は最近のものは外れが多く品質が悪いのです。すでに彫られているものを再利用するなど古い印材を選びます。彫りはじめたら、多少硬くてもよほどのことが無い限り彫り進めます。どのみち練習なので、彫りにくくても我慢、石の質によって線が変わってくるのを「経験値」として積んでいけばいいのです。
 


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