つい先ほど、近所のブックオフで三省堂の『故事・ことわざ・慣用句 辞典』を買ってきました。定価2400円が550円。安いですね。
実は私、言葉をあれこれと詮索するのがけっこう好きでして、この手の辞典を気ままにめくりながら、語源がどうの意味がこうのと考えるのが趣味みたいなものだったりするのですね。もっとも最近は、仕事にほとんどの時間を取られているので、そういう趣味に現を抜かすことがほとんどできていないのではありますが。
で、ひさびさにそういうことをしてみようかと思い立ったわけです(これを書いているそばで、中3の生徒がせっせと月例テストの問題を解いています)。
あいうえお順ではなくて適当にページをめくってみます。
「櫛風沐雨」。「しっぷうもくう」と読みます。みなさん、この言葉の意味をご存知ですか。私は知りませんでした。「雨や風にさらされて苦労を重ねること。風を櫛として髪をとき、雨で髪を洗う意」だそうです。出典は「荘子・天下」で、原文は「甚雨に沐し、疾風に櫛(くしけず)り、万国を立てたり。禹(う)は大聖なり」です。禹は、伝説上の名君である堯(ぎょう)・舜(しゅん)から帝位を禅譲されて夏王朝の始祖となった、これまた伝説上の人物です。とすれば「櫛風沐雨」は、国家建設にいそしむ公人の苦労を意味していることになります。もともとの意味を考えれば、私人の苦労を形容する言葉としては適していない、と言えそうです。
「借りる時の地蔵顔、済(な)す時の閻魔顔」。これは面白い。「金や物を借りる時にはにこにこと笑い顔をするが、返す時にはふきげんな顔をする。借りる時は貰ったような気持ちになり、返す時はただ取られるような気分になるのが人情の常である」とあります。人間通のことわざですね。思い当たる方がけっこういるのではないでしょうか。かくいう私もそのひとりです。人生いろいろありますから。で、基本的に私は、友人との間でのお金の貸し借りはしないことにしております。友情はお金で壊れやすいものだから。やむをえずお金を貸す側は、あまり「貸してやった」などと恩に着せたりせずに、お金を借りた側が返すときにはその腹の底に不機嫌な思いが渦を巻いている、つまり恩をあだで返されることを覚悟しておくほうがよろしい。その覚悟がないなら、友人にお金を貸すのはやめておけ、ということになるでしょう。
「顔に紅葉を散らす」。慣用句とありますが、昨今ではめったに耳にしない言葉になりました。『男はつらいよ』のフーテンの寅さんが、こういう言葉遣いをしていたような記憶がおぼろげながらあります。「女性が恥ずかしがって顔を赤らめ、かえって色気を感じさせる様子」だそうです。用例として「おめでただそうですねと言うと、彼女は顔に紅葉を散らして、『はい』と答えた」が挙げられています。こういう時代がかった表現は、気恥ずかしくてできませんよね。クールさが女性の魅力としてクローズアップされるようになってきたこととどうやら関連がありそうです。クール・ビューティって、大変な誉め言葉でしょう?
「尾大(びだい)掉(ふる)わず」。「上が弱小で下が強大な時は、制御することができないたとえ」とあります。原文は、「左伝・昭公十一年」にあり「末(すえ)大なれば必ず折れ、尾(お)大なれば掉わざるは、君の知る所なり〔木の枝が大きすぎると、その本がきっと折れるし獣の尾が大きすぎると、その尾を自由に振るい動かすことができないことは、主君もよくご存じのことです〕」と紹介されています。まるで、昨今の中国と北朝鮮の関係のようです。中国がコントロールするには、北の核兵器は肥大化しすぎたのかもしれません。
気ままなお話しにお付き合いいただきましてありがとうございます。生徒がテストを終えたようなので、これにて失礼いたします。