美津島明編集「直言の宴」

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「ローマ法王、決意のアフリカ初歴訪」報道をめぐって (美津島明)

2015年11月27日 13時53分06秒 | 政治
「ローマ法王、決意のアフリカ初歴訪」報道をめぐって (美津島明)



昨日、ローマ法王のアフリカ歴訪にまつわって日本のマスコミの悪口めいたことを口走ってしまいました。しかし、二六日二三時付の産経ニュースが、次のように、きちんと報道しているのを、先ほど目にしました。宮下日出男記者による、一字の無駄もない、必要にして十分な字数の模範的な記事内容であると感服しました。ごらんください。

ローマ法王、決意のアフリカ初歴訪「神の名で暴力は正当化されず」直接、平和を語りかける モスクも訪問

 【ベルリン=宮下日出男】ローマ法王フランシスコは26日、訪問先のケニアの首都ナイロビで「神の名を使って憎しみや暴力が正当化されてはならない」と述べ、欧州やアフリカで相次いでいる過激派によるテロなどを批判した。現法王のアフリカ訪問は即位後初めて。ケニアに続いてウガンダや中央アフリカを訪れる。いずれの国でもテロがしばしば発生しており治安面で懸念はあるが、自ら訪れて平和を訴える意向だ。

 法王は26日、イスラム教指導者らとの対話の際の演説で、「あまりにも多くの若者が不和や恐怖をまき散らすため、過激化している」と述べ、「(宗教指導者は)人々が平和に暮らす仲介者であることが重要だ」などと訴えた。

 パリ同時多発テロでは、過激化した若者のテロが改めて注目された。ケニアでも4月、ソマリアのイスラム過激派組織アッシャバーブが大学を襲撃し、148人が死亡した。同組織はケニアのソマリア国連平和維持活動への参加に反発しており、ケニアでは過激派に若者が影響を受けることも課題になっている。

 在位中の法王のアフリカ訪問は先々代のヨハネ・パウロ2世以来。世界のカトリック信者約12億人のうちアフリカは約2億人を占め、法王は信者らに直接、平和や貧困問題の克服などを訴えたい考えだ。

 一方、訪問先の国々は警備に全力を挙げている。ケニアは警官約1万人を動員し、法王の移動時には一部道路も封鎖した。同様にソマリアの平和維持活動に参加し、アッシャバーブの標的にされるウガンダも、警官1万人以上を投入して厳戒態勢を敷く方針だ。

治安面の不安がさらに強いのが中央アフリカだ。キリスト教徒主体の民兵組織とイスラム教徒の反政府勢力の衝突が続くが、法王は首都バンギの危険地域にあるモスク(イスラム教礼拝所)も訪れる予定。同国駐留中の仏軍は一時、法王庁に予定変更を促したともされる。

 ただ、法王の決意は固いようだ。往路の機中、治安の問題を問われた法王は「心配するのは蚊だけだ」と冗談をまじえて答えた
。』
http://www.sankei.com/world/news/151126/wor1511260049-n1.html

昨日アップした論考で、私は、法王には並々ならぬ決意があるにちがいない、という意味のことを申し上げましたが、この記事によれば、それはどうやら事実であるようです。「治安の問題を問われた法王は『心配するのは蚊だけだ』と冗談をまじえて答えた」とありますが、その発言が「冗談」として通じるほどに、歴訪先が危険であるということにもなるでしょう。また、その「冗談」は、かえって法王の並々ならぬ決意を際立たせる、迫力のある言葉である、とも感じられます。

また、ケニアでさえも相当に危ないのに、次の訪問先であるウガンダも同様の危なさであり、その次の訪問先である中央アフリカは、「治安面の不安がさらに強い」との由。キリスト教徒主体の民兵組織とイスラム教徒の反政府勢力の衝突が続くという。

そういう、きわめて危険な状況下で、法王は「神の名を使って憎しみや暴力が正当化されてはならない」と発言しているのです。心地よくて安楽な安全圏から「美しい言葉」を発しているのではないのです。カトリック信徒ではない私でさえも、深く心を動かされるのですから、ましてや、日々危険と隣り合わせの状況下で怯えながら暮らしているにちがいない現地のカトリック信徒がどれほどに、法王の姿と言葉によって勇気づけられ励まされることか、想像するに余りあります。

ここまで書いているうちに、私は次のようなことに思い当たりました。

記事にあるように、世界のカトリック信者約12億人のうちアフリカは約2億人を占めています。フランス大統領は、反ISIL包囲網を強化するために関係諸国を歴訪しているのですが、そのような包囲網が強化され、ISILへの空爆がすさまじくなればなるほどに、EUへのテロの危険性が高まるのみならず、報復の術(すべ)を持たないアフリカの2億のカトリック信者もまた、無防備なまま、イスラム原理主義のテロの危険にさらされることになります。

欧米諸国の指導者たちよ。君らの反ISIL包囲網によって、アフリカの2億の同胞が、無防備な状態でテロの脅威にさらされることになるのだ。そのことに、君たちは気づいているのか。それは、どうでもいいことなのか。アフリカの2億のカトリック信者は、君たちの同胞ではないとでもいうのか

ローマ法王フランシスコは、欧米社会の指導者たちや、カトリック信者や、さらには、キリスト教徒たちに、そうして結局は人類に、そう訴えかけているのではないでしょうか。この問いかけに、すらすらと返答できる者は、おそらくそれほど多くはないものと思われます。

イスラム原理主義のテロ問題がいかに深刻で解決困難なものなのかを、骨身にしみて徹底的に感じることが、当問題を考えるうえでの出発点である。そう、私は考えています。

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