美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

小浜逸郎氏 「団塊衰弱」 (イザ!ブログ 2012・12・16 掲載)

2013年12月05日 15時59分26秒 | 小浜逸郎
(テンテケテン、テケテンテン)

えー近頃はなんでございますな。世の中もだいぶ騒がしくなってまいりまして、年の瀬も押し迫っているというのに、投票をして国会議員を決めなきゃなんない。たくさんの方たちが入り乱れて立候補されているようで、だれにしていいのか迷います。皆様それぞれしっかりしたお考えをお持ちと存じますが、なんにせよ、住みやすい日本にしていただきたいもんでございます。

八つぁん へい、ご隠居さん、おさむうございやす。

ご隠居さん おう、八か、まあ上がれ。どしたい。

八 いやね、瓦版やってる美津公から妙なものを預かってきやしたんすけどね。

隠 妙なもの。どれどれ見せなさい。

八 へい、この写真でやす。したんところに「かんなおと」と書いてある。


かんなおと

隠 ああ、こりゃよく知られた政治家だ。総理大臣もやった。最近はめっきり落ち目だがな。これがどうかしたかい。

八 政治家? あっしはまた大工かと思いやした。

隠 なんでまた。

八 毎日、「鉋(かんな)の音」を響かせてるんじゃねえかって。

隠 バカを言いなさい。だいいち大工が背広着て街中に突っ立つか。

八 それなんすよ。この人は何してるんすか。

隠 これはな、選挙があるんで演説をしてるんだ。

八 なある。んで、この足元の「原発ゼロ」ってのはなんすか。

隠 そんなことも知らんのか。相変わらずだな。去年北のほうで大地震があったろう。こっちもずいぶん揺れたな。

八 へえ。あんときゃ、かかぁが風呂屋から素っ裸で飛び出しやがって、あとでしきりと恥ずかしがってやした。あら、あたし、なんてこと しちゃったのかしら、町の男衆みんなに見られちゃったんじゃないかしらン、世間体が悪いったらありゃしない、ねえ、どうしようかしらン、ねえ、あんた、ちょいとまわって菓子折りに熨しつけてみなさんに謝ってきてくれない? ねえ、あんたってばン……

隠 いつまでやってんだ、バカ。おめえの女房のことなんぞどうでもいい。あんときにな、原子力発電所が壊れて放射能が飛び散ったんだ。だからこんな危ねえものはもうやめましょう、ゼロにしましょう、とこういうことを訴えてるわけさ。

八 放射能ってえと、あの「ピカドン」みてえなもんで。

隠 そうだ。だけどな、ピカドンときにゃあホントにたくさんの人が死んだが、まあ、今回の事故の放射能で死んだ人も病気ンなった人もまだ一人も報告されてねえ。

八 んじゃあ、なにもゼロにしなくったってよさそうなもんでやすね。きょうび、電気なかったらあっしなんぞ仕事ンならねえ。

隠 あたしもそう思うがな。なにしろ怖がってる人がたくさんいるんで、自分が当選したら原発をなくしますよ、原発以外で電気作りますよって、そういう人たちに約束してるのさ。しかしそんな簡単にゼロにできるわけはねえ。

八 んでも、このかっこう、なんか笑っちゃいやすね。「原発をゼロにした偉い人」の銅像みたいじゃねえすか。

隠 八、おめえもたまには味なこと言うな。この季節に桜が咲くかもしれねえ。たしかにもうそろそろ銅像にしてもいいころあいかな。

八 てえと?

隠 この菅直人ってのはな、わけえとき、仲間集めて若衆組作って、世直しに燃えてたんだ。とにかくお上にさからうことがいいんだみてえな考え方でな。その考え方でずーっと来てるのさ。だけどそういう連中ばっかし集めたって、世の中もちゃあしねえ。もうそういう考え方は古いんだ。

八 へ? お上にさからう人が総理大臣すかい。なんかヘンじゃねえすか。

隠 八、おめえ、今日は妙に冴えてるな。この季節に菖蒲が咲くかもしれねえ。そりゃあ、お上だっていつもあたしたちのこと考えてくれているわけじゃねえし、悪いことするのもたんといる。だからさからう気持ち持ってる人うまく集めりゃあ、前のお上を倒して総理大臣にだってなれるってもんさ。しかしまあ何だな、世直しなんて聞くと、あたしもなんだか懐かしいね。

八 ご隠居さんと、この菅直人って人は歳がおんなじくらいなんで?

隠 そうだ。

八 するってえと何ですかい。ひょっとしてご隠居さんもその「世直し」とやらに手をお出しなすった……

隠 八、おめえ、今日はヘンにするどいな。この季節に牡丹が咲くかもしれねえ。じつはな、こう見えてあたしもわけえころは血の気が多くてな。ちょいとわっしょいわっしょいやったこたあある。だがな、女房も持ち子どもも育てて、いろいろと世間に出てやってみるてえと、なんというか、世直し、世直しとただ言ってたって、そうは簡単にいかねえことがわかったのさ。そいでちっとは考え直すことにした。まあ「若気の至り」ってやつだな。

八 若気の至りとくりゃあ、まかしておくんなせえ。あっしなんざ、切った張ったやるわ、博打は打つわ、これ(小指を出して)にゃ、やたら手ぇ出すわ、もうたいへんなもんでごぜえやして。

隠 おめえの武勇伝を聞くのはこの次にするよ。あの頃、世直しに手出した連中のその後見てると、だいたい二つに分かれるんだな。けろりと忘れて偉くなって威張ってる手合い、わけえころのわっしょいわっしょいが忘れられなくて、なんかいいことしたみたいに頭ン中だけであっためてる手合い。あたしはどっちも違うと思うんだがね。

八 なんだか話が小難しくなってきやがったな。で、この菅直人さんはどっちなんで。

隠 両方だな。偉くなって威張っていながらわけえころの世直しをいいことと勘違いしてそのままやってやがる。こういう連中はあたしくらいの年代にゃあ、けっこう多いんだ。お恥ずかしい話さ。

八 ふーん。両方ねえ。あっしのまわりにはあんまりいやせんけどね。

隠 まあ、あんまりいなくなったてえのはいいことさ。いずれあたしも含めて団塊ももうすぐただのジジイで、墓場が見えてきてるからな。

八 「だんかい」? なんです、そりゃ? 

隠 あたしたちの年頃連中がでけえ固まりみてえにたくさんいるてえことよ。団塊は若いもんに迷惑かけねえうちに、ゆっくり隠居でもすりゃあいいのさ。

八 へえ。あっしゃあまた、こう一歩一歩踏んでいくあの……

隠 段階か。バカ、なんでそんな勘違いするんだ。

八 へえ、段階を踏んで墓場へ行くのが世のならいでごぜえやすから。

(トントトトン テレツンシャン)

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