わが初夢 (美津島明)
夜中の二時ごろ、妻が「いい初夢をみたいものだ」という。それはそうだと思いながら床についた。
すると初夢に、太宰治が出てきた。これからそのことを話してみようとは思うが、あくまでも夢なので、ほんとうらしさ以外は、すべてフィクションである。
太宰治は、新潮社の正社員になろうとして役員面接を受けている。家計が不如意のようで、必死である。生きんがために、正社員の座にかじりつこうとしているのである。役員は浮かない表情だ。どうも、太宰治が正社員として勤まりそうにないと思っているようなのである。ノートに「営業を理解しているか疑問」という意味の文言が書きつけられている。「企画力」に三角マークがついている。
そういう、自分に不利な空気を察し、太宰治の顔には脂汗がにじんでいる。心のなかで、「やはり俺は物を書くしかないのか」と思いはじめている。私は、夢のなかで、どうやら太宰治の夢を見ているという自覚があり、それなりに自分と太宰とを区別しているのだが、他方では太宰治の意識のなかに潜り込んでもいる。
ここで場面が変わり、私自身がサラリーマンになり、社内のプレゼンテーションに失敗し、しょぼくれている。そうして、同期の某氏が得意げにプレゼンしているのを心寂しくうかない気分で眺めている。どうやら、若いころのサラリーマン時代の一コマがモチーフになっているようだ。自分は、なぜここにいるのだろうか、という拭い難い違和感を抱きながらおのずと目が覚めた。
自分は組織に向いていないという思いが、夢の底に流れているのは明らかだ。それにしても、初夢に太宰治が登場したことそれ自体は、悪い気がしない。この歳になってもなお、「物を書くこと」をめぐって尋常ならざる思いが心中にざわついている自分を自覚しているからだ。その意味でいい初夢を見た、ということにしておこう。
夜中の二時ごろ、妻が「いい初夢をみたいものだ」という。それはそうだと思いながら床についた。
すると初夢に、太宰治が出てきた。これからそのことを話してみようとは思うが、あくまでも夢なので、ほんとうらしさ以外は、すべてフィクションである。
太宰治は、新潮社の正社員になろうとして役員面接を受けている。家計が不如意のようで、必死である。生きんがために、正社員の座にかじりつこうとしているのである。役員は浮かない表情だ。どうも、太宰治が正社員として勤まりそうにないと思っているようなのである。ノートに「営業を理解しているか疑問」という意味の文言が書きつけられている。「企画力」に三角マークがついている。
そういう、自分に不利な空気を察し、太宰治の顔には脂汗がにじんでいる。心のなかで、「やはり俺は物を書くしかないのか」と思いはじめている。私は、夢のなかで、どうやら太宰治の夢を見ているという自覚があり、それなりに自分と太宰とを区別しているのだが、他方では太宰治の意識のなかに潜り込んでもいる。
ここで場面が変わり、私自身がサラリーマンになり、社内のプレゼンテーションに失敗し、しょぼくれている。そうして、同期の某氏が得意げにプレゼンしているのを心寂しくうかない気分で眺めている。どうやら、若いころのサラリーマン時代の一コマがモチーフになっているようだ。自分は、なぜここにいるのだろうか、という拭い難い違和感を抱きながらおのずと目が覚めた。
自分は組織に向いていないという思いが、夢の底に流れているのは明らかだ。それにしても、初夢に太宰治が登場したことそれ自体は、悪い気がしない。この歳になってもなお、「物を書くこと」をめぐって尋常ならざる思いが心中にざわついている自分を自覚しているからだ。その意味でいい初夢を見た、ということにしておこう。
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