〔編集者記〕4月15日のロイターによれば、大陸中国の2016年第1・四半期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比6.7%増で、前年第4・四半期の6.8%増から鈍化し、6.2%だった09年第1・四半期以来、7年ぶりの低水準となりました。当論考で指摘されている大陸中国経済の減速ぶりが、いっそう明らかになった形です。
この一、二年の中国経済の激しい減速については、すでにいろいろな数字や現象によって明らかになっています。それは田村秀男氏の指摘するとおり、不動産や設備への過剰投資による供給過多、金融バブルの崩壊、二千兆円を超える企業債務、輸入額の極端な落ち込みなどに現れています。ちなみに二〇一五年のGDP成長率の公式発表が6.9%とされていますが、これはデタラメで、実際にはマイナス成長だろうというのは、中国経済に関心のある人ならだれでも気づいていることです。
中国のGDP成長率公式発表がデタラメだというと、近年の中国が急速に発展しその経済規模が日本を抜いて世界第二位にまで達したと聞かされている読者はいぶかしく思われるかもしれません。まずは中国の経済統計はまったくあてにならないという話を少しだけしましょう。
これは、当の首相である李克強氏がそう発言していて、当てになるのは、鉄道貨物輸送量と電力使用量だと暴露しているのです。これらは生産と流通の実態を示しますから、ごまかしが効きません。もう一つごまかしが効かないのは、外国が相手である貿易額です。
さて評論家の石平氏がある会合で語ったところによれば、二〇一三年にはGDP成長率が7.5%、電力の成長率が7.7%と、それなりに釣り合っていたのですが、わずか二年後の二〇一五年には、鉄道0.5%、電力▲11.9%、貿易▲8%、輸入額はなんと▲14.2%だそうです。これでGDP成長率6.9%が達成できるわけがありません。
中国経済がこれほどひどくなったのには、その構造的要因が関係しています。GDPを構成するのは主として投資と消費ですが、中国の場合、投資の割合が七割と、他国に比べて異常に高く、その分消費の割合が低いのです(日本は消費約六割、アメリカは約八割)。これは、民間需要がついてこれないのに、国営企業がやたら設備や不動産や生産財や耐久消費財を作りまくって、結局は一般庶民がそれを消化しきれずに、過剰な在庫を抱えてしまうことを意味しています。
それでも何しろ巨大な人口を抱えていますから、成長期には需要はいくらでもあると考えられ、人件費が安いので商品価格も低く抑えられていました。需要が供給を上回っている(インフレギャップ)間は、それ作れやれ作れで実際に生産活動も盛んでしたが、ここに政府の市場経済に対する未熟な認識が災いしたのか、生産と消費のバランスについての大きな見込み違いが生じました。やたらと人民元を刷りまくり、際限なく財政出動をした結果、インフレが深刻化します。人件費は急速に上がり始め、商品価格も上昇、逆に貨幣価値が下がったので、資本は海外に逃避します。日本など外国資本がうまみを感じられなくなったため生産拠点を東南アジアなど外国に移し始めます。石平氏の語るところによれば、人件費は十年間で三倍に跳ね上がったそうです。
また中国はもともと都市と農村の貧富の差が激しい国で、農村から都市への移動の自由も許されていません。上位一割が所得の九割を握っており、沿岸部に八割の資本が集中しているとも言われています。こういうアンバランスな社会構造の国を、単に広大な国土と巨大な人口を抱えているからという理由で「魅力的な市場だ」と考えるのは間違いです。ミクロレベルでは、大成功を収める人や企業も当然出てくるでしょうが。
要するにこの数年間の中国は、高度成長、急激なインフレ、急激なデフレという景気の波を驚くほど短期間に経験したことになります。いま中国大陸のあちこちには「鬼城」と呼ばれる巨大なゴーストタウンがいくつも存在します。価格は下がっていますが、買い手がほとんどつきません。膨大な在庫は、ダンピングによって国内及び周辺の発展途上国向けに捌かれるほかはないでしょう。するとますます価格低下が起き、デフレの進行に歯止めがかからなくなります。原油価格がこれだけ下がるのも、中国の輸入の落ち込みが大きく影響していると言われています。
二〇一六年三月三日のNHK「クローズアップ現代」で、中国経済の減速を扱っていました。中共政府は、今年の全国人民代表大会(全人代)で、ゾンビ化した国営企業をつぶす、二百万人規模の中都市を百三十個作って企業を誘致し、農民を都市に移動させる、消費拡大のために農村にネット通販を導入する、資金力のある人に起業を勧めるなどの計画を発表したそうですが、どれも効果の見込めない切羽詰まった空想的な政策です。
ゾンビ企業の多くは石炭や鉄鋼、造船、建設資材など中国の基幹産業部門であり、これらをつぶすと大量の人々が路頭に迷います。その雇用問題をどう解決するのか。資源国オーストラリアとの貿易関係も悪化の一途をたどるでしょう。
また、賄賂の効く企業だけが生き残ることになり、独裁体制がますます強まるとともに、人民の不満と怨恨がいっそう高まるでしょう。一説に、年間暴動数十八万件と伝えられていますが、もっと増えるに違いありません。
二百万人都市百三十個の人口は二億六千万人、日本の人口の二倍です。財源はどうやって捻出するのか。独裁国家で資本規制が効くから、またまた大判振る舞いの財政出動で乗り切るつもりか。その後のインフレ→デフレのサイクルの繰り返しの解決策は?
農民が不足したら食料問題をどうやって解決するのか。教育水準や生活水準の低い農民にインターネットを使いこなして商品を購入するだけの力があるのか。不景気の時の起業の試みは韓国でも日本でも、大多数が失敗に終わっています。これらのことが何も考えられていません。
結局、こういうほら吹き的な政策をぶち上げて何とかなると考えるのは、大陸風の粗雑な国民性に由来するとしか思えません。
一般に中国の民衆は、自分と自分の親族しか信頼していず、愛国心などは持っていません。そんなものを持つにはあまりに文化風土が複雑すぎるのです。中国は昔から時の政権がハッタリをかましては失敗し、王朝交代(革命)を繰り返してきました。しかもその王朝は異民族の征服や異民族同士の混淆によって成り立っています。そう、中国とは、日本人が考えるようなまとまりのある「国家」ではなく、もともと一つの(恐ろしい)グローバル世界なのです。
万里の長城はいまでこそ、「偉大な」古代遺産として扱われていますが、北方民族の侵入を防ぐために築かれたというこの長大な遺跡は、何度も作りかえられています。実際にはいくらでも乗りこえが可能で、作られている脇からどんどん異族が侵入していたし、壁のこちら側と向う側での交易がおこなわれたこともあり、軍事的にはほとんど役に立たなかったという話を聞いたことがあります。それでも権力の誇示のために築城をやめない。そういう夜郎自大な大陸型国民性を今の中共もそのまま引き継いでいるのでしょう。中華「人民」共和国の支配者は、人民のことなど考えていないのです。
欧州諸国が中国市場に幻想を抱いてAIIB(アジアインフラ投資銀行)に我先にと参入したり、イギリスが習近平氏と原発建設計画の契約を交わしたりするのも、この国(地域)が時の権力によってかろうじてまとまりの体裁を保ってはいるが、じつはバラバラであるという実態の恐ろしさをよく知らないからです。大英帝国時代のイギリスは植民地経営上、多少はよく知っていたでしょうが。いまではそれを忘れてしまったのでしょう。
二〇一六年三月一日、米格付け会社の大手ムーディーズは、中国の信用格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました(産経新聞二〇一六年三月三日付)。同記事によると、一四年末時点での地方債務残高は約四二〇兆円であり、一六年一月末の外貨準備高はピーク時に比べて約20%減ったとのこと。資本流出の流れは止まっていません。中共当局は資本移動の規制や人民元安の抑制策でこれに対処しようとしていますが、これは、景気回復のための金融緩和や財政出動策と矛盾しています。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるわけですね。また先述の国有企業つぶしでは、少なくとも六百万人の退職者が出ると見られているそうです。欧州諸国も、こういう記事を見せつけられれば、少しは幻想から覚めるのではないでしょうか。
この一、二年の中国経済の激しい減速については、すでにいろいろな数字や現象によって明らかになっています。それは田村秀男氏の指摘するとおり、不動産や設備への過剰投資による供給過多、金融バブルの崩壊、二千兆円を超える企業債務、輸入額の極端な落ち込みなどに現れています。ちなみに二〇一五年のGDP成長率の公式発表が6.9%とされていますが、これはデタラメで、実際にはマイナス成長だろうというのは、中国経済に関心のある人ならだれでも気づいていることです。
中国のGDP成長率公式発表がデタラメだというと、近年の中国が急速に発展しその経済規模が日本を抜いて世界第二位にまで達したと聞かされている読者はいぶかしく思われるかもしれません。まずは中国の経済統計はまったくあてにならないという話を少しだけしましょう。
これは、当の首相である李克強氏がそう発言していて、当てになるのは、鉄道貨物輸送量と電力使用量だと暴露しているのです。これらは生産と流通の実態を示しますから、ごまかしが効きません。もう一つごまかしが効かないのは、外国が相手である貿易額です。
さて評論家の石平氏がある会合で語ったところによれば、二〇一三年にはGDP成長率が7.5%、電力の成長率が7.7%と、それなりに釣り合っていたのですが、わずか二年後の二〇一五年には、鉄道0.5%、電力▲11.9%、貿易▲8%、輸入額はなんと▲14.2%だそうです。これでGDP成長率6.9%が達成できるわけがありません。
中国経済がこれほどひどくなったのには、その構造的要因が関係しています。GDPを構成するのは主として投資と消費ですが、中国の場合、投資の割合が七割と、他国に比べて異常に高く、その分消費の割合が低いのです(日本は消費約六割、アメリカは約八割)。これは、民間需要がついてこれないのに、国営企業がやたら設備や不動産や生産財や耐久消費財を作りまくって、結局は一般庶民がそれを消化しきれずに、過剰な在庫を抱えてしまうことを意味しています。
それでも何しろ巨大な人口を抱えていますから、成長期には需要はいくらでもあると考えられ、人件費が安いので商品価格も低く抑えられていました。需要が供給を上回っている(インフレギャップ)間は、それ作れやれ作れで実際に生産活動も盛んでしたが、ここに政府の市場経済に対する未熟な認識が災いしたのか、生産と消費のバランスについての大きな見込み違いが生じました。やたらと人民元を刷りまくり、際限なく財政出動をした結果、インフレが深刻化します。人件費は急速に上がり始め、商品価格も上昇、逆に貨幣価値が下がったので、資本は海外に逃避します。日本など外国資本がうまみを感じられなくなったため生産拠点を東南アジアなど外国に移し始めます。石平氏の語るところによれば、人件費は十年間で三倍に跳ね上がったそうです。
また中国はもともと都市と農村の貧富の差が激しい国で、農村から都市への移動の自由も許されていません。上位一割が所得の九割を握っており、沿岸部に八割の資本が集中しているとも言われています。こういうアンバランスな社会構造の国を、単に広大な国土と巨大な人口を抱えているからという理由で「魅力的な市場だ」と考えるのは間違いです。ミクロレベルでは、大成功を収める人や企業も当然出てくるでしょうが。
要するにこの数年間の中国は、高度成長、急激なインフレ、急激なデフレという景気の波を驚くほど短期間に経験したことになります。いま中国大陸のあちこちには「鬼城」と呼ばれる巨大なゴーストタウンがいくつも存在します。価格は下がっていますが、買い手がほとんどつきません。膨大な在庫は、ダンピングによって国内及び周辺の発展途上国向けに捌かれるほかはないでしょう。するとますます価格低下が起き、デフレの進行に歯止めがかからなくなります。原油価格がこれだけ下がるのも、中国の輸入の落ち込みが大きく影響していると言われています。
二〇一六年三月三日のNHK「クローズアップ現代」で、中国経済の減速を扱っていました。中共政府は、今年の全国人民代表大会(全人代)で、ゾンビ化した国営企業をつぶす、二百万人規模の中都市を百三十個作って企業を誘致し、農民を都市に移動させる、消費拡大のために農村にネット通販を導入する、資金力のある人に起業を勧めるなどの計画を発表したそうですが、どれも効果の見込めない切羽詰まった空想的な政策です。
ゾンビ企業の多くは石炭や鉄鋼、造船、建設資材など中国の基幹産業部門であり、これらをつぶすと大量の人々が路頭に迷います。その雇用問題をどう解決するのか。資源国オーストラリアとの貿易関係も悪化の一途をたどるでしょう。
また、賄賂の効く企業だけが生き残ることになり、独裁体制がますます強まるとともに、人民の不満と怨恨がいっそう高まるでしょう。一説に、年間暴動数十八万件と伝えられていますが、もっと増えるに違いありません。
二百万人都市百三十個の人口は二億六千万人、日本の人口の二倍です。財源はどうやって捻出するのか。独裁国家で資本規制が効くから、またまた大判振る舞いの財政出動で乗り切るつもりか。その後のインフレ→デフレのサイクルの繰り返しの解決策は?
農民が不足したら食料問題をどうやって解決するのか。教育水準や生活水準の低い農民にインターネットを使いこなして商品を購入するだけの力があるのか。不景気の時の起業の試みは韓国でも日本でも、大多数が失敗に終わっています。これらのことが何も考えられていません。
結局、こういうほら吹き的な政策をぶち上げて何とかなると考えるのは、大陸風の粗雑な国民性に由来するとしか思えません。
一般に中国の民衆は、自分と自分の親族しか信頼していず、愛国心などは持っていません。そんなものを持つにはあまりに文化風土が複雑すぎるのです。中国は昔から時の政権がハッタリをかましては失敗し、王朝交代(革命)を繰り返してきました。しかもその王朝は異民族の征服や異民族同士の混淆によって成り立っています。そう、中国とは、日本人が考えるようなまとまりのある「国家」ではなく、もともと一つの(恐ろしい)グローバル世界なのです。
万里の長城はいまでこそ、「偉大な」古代遺産として扱われていますが、北方民族の侵入を防ぐために築かれたというこの長大な遺跡は、何度も作りかえられています。実際にはいくらでも乗りこえが可能で、作られている脇からどんどん異族が侵入していたし、壁のこちら側と向う側での交易がおこなわれたこともあり、軍事的にはほとんど役に立たなかったという話を聞いたことがあります。それでも権力の誇示のために築城をやめない。そういう夜郎自大な大陸型国民性を今の中共もそのまま引き継いでいるのでしょう。中華「人民」共和国の支配者は、人民のことなど考えていないのです。
欧州諸国が中国市場に幻想を抱いてAIIB(アジアインフラ投資銀行)に我先にと参入したり、イギリスが習近平氏と原発建設計画の契約を交わしたりするのも、この国(地域)が時の権力によってかろうじてまとまりの体裁を保ってはいるが、じつはバラバラであるという実態の恐ろしさをよく知らないからです。大英帝国時代のイギリスは植民地経営上、多少はよく知っていたでしょうが。いまではそれを忘れてしまったのでしょう。
二〇一六年三月一日、米格付け会社の大手ムーディーズは、中国の信用格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました(産経新聞二〇一六年三月三日付)。同記事によると、一四年末時点での地方債務残高は約四二〇兆円であり、一六年一月末の外貨準備高はピーク時に比べて約20%減ったとのこと。資本流出の流れは止まっていません。中共当局は資本移動の規制や人民元安の抑制策でこれに対処しようとしていますが、これは、景気回復のための金融緩和や財政出動策と矛盾しています。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるわけですね。また先述の国有企業つぶしでは、少なくとも六百万人の退職者が出ると見られているそうです。欧州諸国も、こういう記事を見せつけられれば、少しは幻想から覚めるのではないでしょうか。
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