『三つ首塔』(1955)は、少女時代に両親をなくし、伯父宅に引き取られた宮本音禰に突然アメリカにいる遠縁の佐竹玄蔵から100億円もの遺産を相続する話が舞い込む所から始まる連続殺人事件の話です。語り手は宮本音禰本人。音禰の遺産相続の条件は、高頭俊作なる人物と結婚することで、この結婚が成立しない場合は、佐竹玄蔵の兄弟の血を引く子孫(音禰のほか7人の女性)の間で等分に分けて相続されることになっています。
音禰の伯父上杉誠也の還暦の祝いの席で、先ずダンサーとして舞台で踊っていた佐竹一族に属する笠原操が毒殺され、また別室で上杉の依頼した秘密探偵岩下三五郎に連れられてきた、音禰と結婚することになっている高頭俊作が殺され、また、この男が本当に高頭俊作であるのか確認を取ろうと岩下三五郎を探すと、その彼もまた殺されていたという、のっけから三重殺人が起こります。またこの日音禰は殺された高頭俊作のいとこだという高頭五郎(その他数多くの偽名あり)と運命的な出会いをし、なんと純潔まで奪われてしまいます。このことを隠すために、彼女は警察の調べにうその証言をしてしまいます。また、後日高頭五郎に連れ回されて、他の佐竹一族の様子を見に行きますが、皆揃いも揃っていかがわしい場所でいかがわしい仕事をしており、バックに男がいることが判明しますが、そのうちの一人が殺されている現場の隣の部屋に居合わせてしまい、うっかり指紋を残してしまったためにあらぬ疑いをかけられて高頭五郎と逃避行する羽目に陥ってしまいます。
こうして彼女が以下に他の佐竹一族およびその背後にいる男たちに干渉され、殺人現場に居合わせてしまったが巻き込まれた立場で語られるので、推理小説というよりはサスペンスの色合いの方が濃厚です。その彼女と高頭五郎が解き明かす謎は、相続に決定的な役割を果たすらしい「三つ首塔」です。明らかにされていく過去の因縁はなかなか興味深いです。
殺人犯を追うのは金田一耕助と等々力警部のコンビで、最終的に金田一耕助が音禰たちの窮地を救うことになります。死者10人。これまで読んだ横溝作品の中では最多ですね。それでも音禰たちにとってはハッピーエンドなので、読後感は悪くありません。