徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル15 悪魔の寵児』(角川文庫)

2018年11月05日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『悪魔の寵児』(1958)は、正体不明の男が情死を暗示する奇妙な挨拶状を注文するところから始まり、やがてその挨拶状通りの情死体であるかのような姿で発見される差出人となっていた男女。女性の方は闇行為で財を成した実業家風間欣吾の妻美紀子で、発見後に事態を隠蔽するために夫によって死体が自宅に運ばれますが、翌朝までになぜか跡形もなく消えてしまいます。男性の方は無名の画家石川宏といい、まだ息があり、モヒ系の薬を注射されていたために意識不明で入院。新聞記者の水上三太は風間欣吾の愛人の一人城妙子の経営するバー「カステロ」の常連で、彼女と店員の石川早苗の様子がおかしいことに気づき、彼女らの後をつけて、この情死現場に居合わせますが、風間欣吾と協定を結び、この隠蔽に目をつぶる代わりに今後の情報を別に依頼する私立探偵金田一耕助と同等に受けることになり、その後起こる陰惨で、人間蔑視、人間侮辱を極めたエログロい連続殺人に関わって行くことになります。2人目の犠牲者である風間欣吾の愛人の一人保阪君代は、風間欣吾の蝋人形と結合した状態で衆目の下にさらされることになりますが、それ以降は蝋人形ではなく別々に殺害された男女の結合死体が2件、犯人と目される「雨男」に協力していた風間欣吾の元妻が毒殺、そして犯人の一人が金田一耕助のかけた罠にはまって捕まり、自殺して事件終了となります。犯人自身も含めて死者8名、未然に防げた殺人1件。なんと言うか凄まじいですね。動機は復讐で、むしろ普通過ぎるくらいですが、死体を使って男女の絡みを作り上げて衆目の下にさらすというのがなんともグロテスクです。

また、こうして次々と愛人を殺されても、犯人との自分の関係が分かっても大して動じず、生き残った愛人の一人と結婚する風間欣吾の神経の図太さにも呆れずにはいられないというか、どろどろしたざらつく読後感を残す作品でした。


この作品には「南京じとみ」という言葉が登場するのですが、そうれがいったいどういう蔀なのかちょっとググっても分からなかったのが残念です。

また、「弊履のごとく捨てられた」という表現が2度ほど使われています。私は「弊履」という言葉自体これまで知りませんでしたが、通常は「弊履を棄つるが如し」という成句で使われるようですね。横溝氏の使用法はその変化形ということでしょうか。

古い作品を読むと、推理小説といえど色々と勉強になります。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル5 犬神家の一族』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル10 幽霊男』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル11 首』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル12 悪魔の手毬唄』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル13 三つ首塔』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル14 七つの仮面』(角川文庫)