詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

備忘録

2022年12月03日 | 
シベリウスについて調べる
シリアスに調べる
樅の木について調べる
樅の木の枝ぶり
わたしの生きる力
わたしにも何か書けることがあるか調べる
わたしの感情に、大人しい起伏に、
つながる水脈(みお)があるかどうか
『樅の木』という風景の奥行で

『樅の木』という字面は
雪をかぶっているように見える
父を失って母がどれほど寂しいのか
わたしには見えていないと思った
『寂しい』という字面がかすれて見えた
実家の時計は次々に止まった
父が入院中にもわざわざ家から持って来させ
身に付けていた腕時計
母の腕時計や目覚まし時計まで
健やかさ朗らかさが少しずつ古びて
埃をかぶっていく
わたしはわたしであるだけでは

腕時計をつけたお父さん
の頼もしかった腕
かっこよかった腕
腕を失った腕時計
暗さと雪の白さが領分を守りながら
ひとつになっているとき
踏み固めていく足取りの光と影は
音の波間の無音の層に踊っている
言葉がなければ
分かる、と思える

帰り道、太陽が曇り空を
ちぎれそうな繊維のように広げている
懐かしい心地
不思議と呼び起こされる
あるぬくもりがわたしにとって
どのような役割を果たしていたか
鮮やかに広がっている
 
本に挟まれてたわみ始めた化粧箱を救うため
相方である本を
慌てて積まれた山から探し出した
あるぬくもりのこもる文章が大事なのだけど
書名が銀の箔押しになっていて
木の実の型押しまでしてある箱のほうも
手触りを不意に思い出してしまうほど
その質感
しっかりとわたしのどこかに植え付けられていた

起伏の乏しい土地においても
雪や光や風の中から
ぎゅっと糖度は集められて透明になる
何度も引き直したような手の相にも
恵みをもたらす
変わらないように思える物の中で
そっと変化していく
その足音を聞き逃さず
引き立たせること
語らせること

経験のグラデーションの中で
生と死において誰もがまなざしを持っている
風が吹いていること
重力を忘れた方向の中に感じている
わたしに価値があるかどうかではなく
わたしがわたしの中にある物
わたしの中に響いているもの
軽視せず大切にすることができるのか
ある日の風景のような
その「物」とは何なのか
「物」ではないもの
ほんとうにもう思い出せなくなってしまいそうな

書き留めようと指が開くとき
未来が郷愁の色を帯びていた頃が
まだ少し生きている
浸透圧がいつも働いていて
にじみやかすれにもとても親しかった
美しいと感じられる力
まだ残っているだろうか
風雪や忘却に耐えて樅の木が立っている


 

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