MIRO ITO発メディア=アート+メッセージ "The Medium is the message"

写真・映像作家、著述家、本物の日本遺産イニシアティブ+メディアアートリーグ代表。日本の1400年の精神文化を世界発信

野村万之丞さんのこと: 見えない本物を探る旅

2007-09-05 13:57:46 | Weblog
野村万之丞さんのこと: 見えない本物を探る旅

前回、癒しの日本文化の源について、ほんの少しばかり思いを巡らしましたが、海外で写真家・アーティストとして活動した後、立ち還ったのが日本文化です。
この3~4年間は、日本文化の中の祈りだったり、奉納だったり、聖なる世界を見えるかたちにしようと思い、日本の前衛から伝統を繋ぐ身体表現に絞って、日本で撮影してきました。

ドイツやNYに住んでいた私が、なぜ日本の伝統芸能に興味を持ち始めたかというと、そのきっかけは、911同時多発テロ事件です。テロ後のアメリカの大国の論理と世界の混沌の中で、日本文化から世界に対して「共栄共存」のメッセージを発信できないか,というのがその動機になります。

文化的な土壌が違う西洋に対してメッセージを発信しようとするとき、「癒しの哲学」である仏教への関心が深まり、すべての人間に共通する「身体」という土俵から、アートに凝縮された祈りや奉納のかたちを焙り出したい、と思うようになりました。

そのようなテーマを追いかけているとき、不世出の総合芸術家で狂言師の野村万之丞さんとの出会いがありました。
野村万之丞さんは、才能も思考も行動も、天才のみが持つ破格のスケールで、日本を代表するだけでなく、世界的な(そしておそらく歴史に残るような)人物でした。その万之丞さんは、中世の幻の芸能といわれた田楽の復興の後、仮面を通して世界を繋ぐプロジェクト「楽劇 真伎楽」を携えて、シルクロードを逆流する「マスクロード」を推進中に、3年前、44歳の若さで急逝されました。
その後万之丞さんの遺した作品のうち、私が撮影していた写真を、ご縁あって写真集や一周忌の回顧写真展をはじめいくつかの展覧会としてまとめたことが契機となって、日本文化にどっぷりと嵌まってしまった訳です。

野村万之丞さんとのご縁以来、御能や古武道、奈良の宗教行事ほか日本文化の深淵へと取材を進めてきましたが、それは万之丞さんが「見えないシン(神、真、心、信、親….)と呼んでいた「見えない本物」を探る旅となりました。

その一端をこの秋、NYにて「御能から舞踏まで(Men at Dance - from Noh to Butoh : Japanese Performing Arts, Past and Present) 」と題して、「The NY Public Library for Performing Arts」にて個展として発表します (10月15日から1月5日まで、40 Lincoln Center Plaza, NYC, NY 10023)。


さて空を見ていると、時折、野村万之丞さんのことを思い出します。
とくに台風の時は….

野村万之丞さん(本名:耕介さん)は、まさに台風のような人でした。
生前は「伝統芸能界の風雲児」などと呼ばれていたようですが、風雲児などという生温いものではなく、まさに行く先々で嵐を巻き起こす人でした。
嵐のように衝撃的なことを軽々とやってしまうだけでなく、本当に天のエネルギーと直結しているように、有名な「雨男」「雷男」「台風男」でした。天にそれだけ愛された人でした。

いつも大事な公演やお仕事のときには、大雨や雷、台風になったそうです。
案の定、3年前の葬儀のときも、最後の別れのとき、晴れていた空が急に泣き出し、大粒の雨が降ってきたことが思い出されます。最後の舞台となった六本木ヒルズでの公演も、降り続く雨の中でした。

私は雨や雪、霰さえが降っていても「晴れ」てしまう根っからの「晴れ女」なので、野村万之丞さんとは正反対ですが、行く先々で晴れてくれなかったら、写真家にはほとんど不向きだったかもしれません。

思えば、歴史とは、台風のような衝撃的な存在が時々現れて、見えない世界を暴き、次なる時代への橋渡しとなるムーブメントの種を植え付けて、それが一般の人々の心の中に深く実を結んでいくことで、連綿と作られてきたのだと思います。

万之丞さんの撒いた種である「楽劇 真伎楽」は、この秋、中国へ渡ります。
そして私の「見えない本物」を見つめる旅は、さらに続きます….


晩夏の雷雲を眺めながら…

伊藤美露
text and photo by miro ito, all rights reserved.
sky over kamiuma, 2007.8.20

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 『万歳楽ー大きくゆっくり遠くを見る 野村万之丞作品写真集』
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  野村万之丞さんのWebサイト http://www.tmdnet.jp

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癒しの日本文化、その源のかたち

2007-08-26 15:40:59 | Weblog
癒しの日本文化、その源のかたち

大学卒業後、ドイツへ移住し、その後アメリカへ移住した私にとって、好きな街を上げるとしたら….
ストックホルム、ブダペスト、ベルリン・ミッテ地区の博物館島、ヴェネチア、ニューヨーク・マンハッタン島でしょうか。
共通するのはすべて水のある街であること。
ドナウ河の両岸に東西に広がるブダペスト以外は、水に浮ぶ島の上に創られた街です。
島がそのまま都市となったモントリオールも、いつか住んでみたい場所です。

水辺ではないのですが、日本で一番好きな場所は、奈良です。
現在進めている海外向けの展覧会プロジェクト「祈りと懺悔の身体」の撮影・取材のため、奈良の宗教行事は欠かすことができませんが、奈良には癒しの場所が実にたくさんあります。

私にとっての癒しの場所は、例えば、東大寺~春日大社から若草山を見上げる散歩道。
西大寺から佐紀楯列(さきたてなみ)古墳群を巡る古墳の道。
般若寺や奈良豆比古(ならづひこ)神社のある奈良阪町の古い街並です。
そして柳生一族の史跡を辿る柳生街道、生駒山麓の宝山寺、明日香の古墳探訪、吉野の天河神社…等々。
この3年間、足しげく通ったのも、どれも素晴らしいパワースポットだからです。

京都では、嵯峨野の愛宕山にある愛宕念仏寺(おたぎねんぶつてら)を昨年訪れました。
私の敬愛する友人でヒーラーの原田真裕美さん (NY在住) のお勧めのヒーリングスポットです。
千二百羅漢と触れ合ったその足で、愛宕街道、嵯峨野の竹林を抜けて嵐山に向かう道は、何度でも訪れてみたい場所です。
京都は、残念ながらまだあまり探索できていませんが、これから御能や禅の取材がてら、いろいろ訪れてみたいと思っています。

私自身、ドイツ~アメリカを拠点に11年半~12年ほど海外で活動してきたこともあり、日本文化に「癒し」を求め、その出発点に「身体表現」を選びました。
NYから飛んできていた時期も含め、足掛け5年間がかりで、日本文化の源のかたちを取材してきましたが、そのパワー&ヒーリングの源は、実は、水、樹々、石や岩に宿る、カミそのものであることに気づくようになりました。

そう思うと、日本には実にたくさんのカミの姿形があり、カミの降りる聖地があり、聖なる滝があり、聖なる石、聖なる木や山があります。

日本文化を撮影しながら、いつしか日本文化を突き抜けて、さらにその奥底に流れる、自然のすべてに宿る見えないカミの姿を見つめていきたい、思う自分がいます。
もはや西でもなく東でもなく、いま日本文化を通して、限りなくロマン派に近づいていくのです。


今日も美し過ぎる雲を眺めて....

伊藤美露
text and photo by miro ito, all rights reserved.
sky over kamiuma, 07.08.23

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空、そして永遠の祈り

2007-08-20 19:33:05 | Weblog
空、そして永遠の祈り

8月15日の「終戦記念日」の空は、これまでに見た空の中でも最も美しい空のひとつでした。
東の上空に広がる竜巻雲が、地平線の彼方へと沈みゆく寸前の残り陽を浴びて赤く染まり、この世のものとは思えないほど怪しく、畏怖を感じさせるほどの美しい神秘の光を放っていました。

かつてNYで911を体験した時、その前日の東京の夕陽がいかに美しかったか、後になって知人から写真を見せてもらったことがありますが、その異様なまでに鮮やかな赤紫色の雲が、いまでも目に焼き付いています。
8月15日も、その翌朝に地震があったことで、「あれは地震雲だったかもしれない」と一瞬思ったほどです。神戸の震災の前にも「地震雲」が見えた、という話もあったそうです。

さて、空は実際、畏怖を感じさせる以上のものです。
私自身、911以降は、世界に祈りを捧げるプロジェクトとして、日本の伝統と前衛を繋ぐ「奉納の身体」「祈りの身体」という展覧会プロジェクト(※)をスタートさせましたが、空を見ていると、人智を超えた大いなる存在への祈りの原点に立ち戻れる気がします。

鈴木大拙禅匠の「禅は生命そのものであるから、生命の構造をなすものすべてを含んでいる。すなわち、禅は詩である、哲学である、道徳である。生命の活動のあるところ、どこにでも禅がある」(『禅』鈴木大拙著/工藤澄子訳、ちくま文庫より)のことばを思い出します。

以前のブログでも、禅は空(くう)を目指す、と記しましたが、空(そら)こそまさに禅そのものかもしれません。
そして空は詩であり、哲学であり、生命活動のあるところ、どこにでも空があり、空はどこまでも「永遠の祈り」なのです。

過去、現在、そして未来のすべての「終戦」に祈りを捧げて

伊藤美露
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Sky over kamiuma,2007.8.15


※「祈りの身体」をテーマにした個展(能から舞踏へ)は、'07年10月15日~'08年1月5日まで、NY公立パフォーミングアーツ図書館(NY Public Library for Performing Arts)で開催予定です。詳細はまたブログでも掲載します。

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光を見続けるー光を観る心

2007-08-11 01:05:18 | Weblog
光を見続けるー光を観る心

人生の嵐の只中にいる時、「葛藤」に捕われないことが、それを乗り切る第一の秘訣です。

人間には「耐えられない試練」はもともと与えられてはいない、と言われますが、辛い経験や悲しみ、苦しみそのものには、人生のよい面をすっぽりと覆い尽くす、圧倒的な闇の力があります。
当事者にとっては、これまでの生き方そのものを否定されるような、大きな災難として降り掛かってきます。
そんな時は、自分の価値観を再検証する時です。
自分を一旦真っ裸にしてみて、人生の目標なり、大切に思うものは何か等、基本的な問いかけを行うときです。

私自身、複数の異国で人生をやり直すほどの衝撃的な体験が何度もありましたが、その時に支えとなったのは、「光を見つけたい」という目標でした。
とはいっても、光は照らすに相応しい対象が現れるまで、見出すことができない、といわれます。
私は写真家として、美学家として、人間が見せる「光」を、作品として見出すことを思い立ちました。

ニューヨークに2000年を機に移住したのも、世界に「光」となる言葉を投げかけていたり、活動をしている人々と出会い、インタビュー集にまとめたい、という目標を抱いていました。
その目標は、NYを離れたいまでは、日本発の展覧会だったり、東西を結ぶ映像作品企画として、形を変えてはいますが、「光」を見つめ続けていると、自分自身がいつしか本当に光の恩恵を受けるようになるものです。少なくとも、大きな力に護られていることに気づく時がやってきます。

闇からの攻撃的な力を感じたら、極力、自分の好きな物、目標としているもの、大切にしてきた世界観など、もう一度胸にしっかりと抱きしめてください。
私自身、アーティストとして三つの国で生きてきた中で、ひとつ声高に言えることは、最後に救ってくれるのは、他でもない自分自身の心の力です。どんな状況にあっても、光を見続ける勇気です。

自分が信じているもの、愛する人々、魂を捧げてきた活動なり、価値を、嵐の中でこそ、心底大切に慈しんでください。

素敵な未来を願って....

伊藤美露
2007/8/11
sky over kamiuma, 07.08.07
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空から学ぶことー葛藤を手放す

2007-08-04 18:57:59 | Weblog
空から学ぶことー葛藤を手放す

空を観ることの素晴らしさは、視点が変わることです。
空は多くのことを教えてくれますが、葛藤に満ちた日常にあって、空から学べることは、まず悩みや落胆をいかに手放すか、ということかもしれません。

禅が説くがごとく、「葛藤という束縛」から解放されるためには、「自然や雲の精神そのものになること」「われわれ一人一人に本来備わっているすべての力を解き放つこと」(鈴木大拙)が理想ですが、そこまでジャンプできなくても、一度自分の視点を空の高みにまで、飛翔させることで、何かが変わるかもしれません。

空を見上げていると、全てが瞬時に移り変わるという無常観とともに、それでも空は空であり続ける、という普遍的な力にうたれる思いがします。
その普遍的な力に我が身を預け、すべてをあるがままに受け入れようと決意するなら、いま捕われている経験の別の側面が見えてくるかもしれません。

別の側面とは、苦しみを与えた相手の心の闇だったり、嫉妬や侮蔑などのネガティブな感情だったり…そこまで見え始めたら、相手が差別したり、苦しませる理由は何か、ということも思いつくかもしれません。
といっても、相手の頭の中までを変えることはできないのですが、少なくとも相手と同じレベルで対峙せず、相手も含んだ自分の経験そのものを、あたかも自分の身に起こったことではないことのように眺められるほどの、距離感と冷静さを持つ事が大切です。そうすれば、状況自体を容易に変えられないとしても、辛い状況自体には、もう振り回されなくなります。振り回されなくなることで、原因への洞察を勝ち得、心の中で次の段階を準備できます。

そして太陽が陰り、雨が降り、空が荒れ、嵐があっても、いつかまた日は昇り、太陽が照り出すのを待つのです。
台風シーズンの空の表情は、怒りや悲しみ、葛藤をいかに手放すか、人生という嵐の中で、教えてくれるように思います。

大切なのは、これは私自身の永年の経験ですが、嵐に振り回されず、嵐が過ぎ去るのを、次のステップを準備しながら、忍耐強く待つことです。
忍耐とは、魂の成長のために実に不可欠な階段といえるものですから。

台風の合間に撮った空を眺めながら

伊藤美露

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sky over kamiuma, 28/07/2007

七夕の夕陽、思いやりの川

2007-07-21 22:31:11 | Weblog
七夕の夕陽、思いやりの川

 二週間前になりますが、七夕の夕陽の空を撮りました。

 日が沈んだ後は、織女星(こと座のベガ)とひこ星(わし座のアルタイル)の年に一度の逢瀬。
 7月7日が晴れならば、氷のように冷たい星の川を渡るのに、月の船人を頼まなければなりません。
 雨ならば、鵲の群れが天に昇り、天の川の上に翼を広げて橋をつくり、牽牛のもとへと織女を渡す助けをしてくれるそうです。

 夕陽からは、私のこころへと詩が流れ出てきました。

 「空、風、水、火、土。
  大いなる恵みが生まれる前に、最初に言葉があった。
  光はいつも言葉にあった。
  そして言葉には、天へと飛び立つ翼があった」

 翼をもつ言葉、
 それは感謝のことばです。

 ここのところ、日本の台風や地震など災害が相次ぎ、胸が詰まる思いですが、空、風、水、火、土....の、大いなる恵みへの感謝を身近な行動に変え、「思いやりの川」を渡っていきたいものです。

 伊藤美露
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 photo : sky over kamiuma, 07.07.2007


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モノクロームの空:台風一過

2007-07-15 23:12:19 | Weblog
 モノクロームの空:台風一過

 台風4号が過ぎ去った東京の空は、まるでロマン派の絵画のように印象的な光を湛えていました。
 雨雲で墨色に染まった空の「上澄み」では、白い綿菓子のような雲が強風で南西へとどんどん流される中、ほんの束の間、太陽が顔を出すと、まるでそこだけが空に出来た裂け目か光の泉のように見え、光と闇の「追っかけこ」が見え隠れしていました。

 海からの強い風が年中吹き付けるオランダで、よく眼にした、鉛色の空の色です。
 光の巨匠レンブラントを生んだオランダでは、北海からの偏西風の影響をうけ、雲は休むことなく東に流れ、季節に拘わらず強風になることがよくあります。天気の移り変わりが激しく、雲と風と光が絶えずドラマティックな空の表情を見せてくれます。

 そんなロマン派的なモノクロームの空を撮ろうと、工夫を凝らしたことがかつて幾度かありました。
PL(偏光)フィルターはもとより、モノクロの場合は赤色フィルターを使ってコントラストを高める、またコントラストの高い低感度フィルムを使う、赤外線フィルムを使う…などなど。デジタル時代になっても、人為を越えた自然の美しさには、技術など及ばないことを、空を撮っていると改めて実感します。

 台風4号で被害を受けた方々への弔いの祈りを捧げながら、鉛色の空を見上げながら、自然が作りだす美と同時に、その猛威の放つ私たちへの警告に改めて命の引き締まる思いでした。

 台風一過の宵に綴る
 伊藤美露
 2007/7/15
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限りなく月に近づく おぼろ陽

2007-07-02 22:53:09 | Weblog
限りなく月に近づく おぼろ陽


梅雨時のおぼろ陽のたそがれは、憂いの表情のように見えました。


 おぼろ陽の太陽は、嘆きの表情。
 黄昏とは名ばかり。灰色の空に一点だけ、火が灯ったような陽の鏡。
 梅雨の雲の束の間のいたずらか、おぼろ陽の後は、月が醒めた輝きを放つ満月の夜となった。

 灰色に沈む太陽の沈黙。
 輝きを曇らせるのは何に対して?
 闇への? 人類の驕りの? それとも月への抵抗?
 雲がいくら押し寄せても、悲しみの雨は降らせない。
 祈りを捧げても、慈しみの雨ももう降らさない。
 すべてを洗い流すお浄めの力もない灰色の空は、太陽の落胆の表情だ。

 太陽はもはや光ではなく、月も闇ではない。
 梅雨の日暮れに、太陽はいつしかオレンジ色のムーンストーンとなった。
 古代インドで月の宿る石といわれ、愛と希望の象徴とされた石。
 嘆きの中で、それでも太陽は、ムーンストーンの姿を借りて、月に限りなく近づくのだ。


梅雨の最中に綴る
伊藤美露
text and photo by miro ito, all rights reserved.
photo : sky over kamiuma, 27.06.2007

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空、そして「空即是色、色即是空」

2007-06-23 22:43:11 | Weblog
空、そして「空即是色、色即是空」

夏至の翌日の夕暮れは、まさに「神の黄昏」という表現に相応しい厳かな風情でした。
このような瞬間に、人は誰しも詩人になり、写真家になるのだと思います。

この世ならぬ力の源へと、自然の中にある神の元へと回帰を目指したロマン派の詩人のように、
詩なり、絵画なり、芸術を通して、鈴木大拙師が説く如く「空や雲の精神」そのものになることができるのかもしれません。

そもそもこの世を超えた力とは、「自然に学ぶ」ように自然に親しみ、自然の懐に身を委ねていくことで、はじめて「光」として感じられるものだと思います。

そして禅が目指すのは、光と一体化し、いつしかそれさえも忘れ、あるがままに「空(無)」へと回帰していくこと。「空即是色、色即是空」とされる大乗仏教の根本のように、一切は空から出て、空に帰することを知覚すること。
宗教の目指す精神の世界の運動も、芸術も目指すものは同じ「空」です。

2007年、夏至の翌日
伊藤美露
2007/6/23
text and photo by miro ito, all rights reserved (sky over kamiuma, tokyo, 2007.6.23).

☆「ZEN」を世界に広めた鈴木大拙師については、多くの文献がありますので、読まれることをお勧めします。

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「夏至」というモニュメント

2007-06-22 18:29:31 | Weblog
夏至の空を撮る

夏至は、北半球では一年で昼が最も長く夜が短い日ですが、夏至の日には日の出・日没の方角が最も北寄りになります。

日本に住んでいると体験する機会はありませんが、夏至の醍醐味は「百夜」にあります。
「北緯66.6度」以北の北欧諸国から北ドイツの地域では、闇の帳が降りないため、太陽も時間もすべてが止まったような超現実的な感覚に襲われます。
地軸が地球の公転面の垂線に対して傾いているため、北極圏の夏至では、地球自体が廻っていても、太陽が水平線より「約23.4度」の高さの位置にずっと止まったままなのです。
これに対して、南極圏の夏至や、北極圏の冬至では「極夜(きょくや)」となります。

極夜の時期は、オーロラを最も美しく長時間見ることができるようですが、これはまだ体験したことがありません。いつかアラスカやカナダ、ノルウェーやスウェーデンで体験してみたいと思います。

今年の東京の夏至の日没前の空は、梅雨雲が太陽を取り囲み、神秘的な雰囲気を醸し出していました。
極夜でも白夜でもありませんが、夏至の太陽には「一年に一度」「最北の位置」というモニュメンタル性があります。

この「モニュメント性」というのも、写真の作画の上で大切にしたいテーマです。
(詳細は弊著『魅せる写真術』でも触れていますので、よろしければご覧ください。)

2007年夏至にて

伊藤美露
text and photo by miro ito, all rights reserved.
sky over kamiuma, "summer solstice".

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マグリットの雲と白い蛇の夢

2007-06-17 20:57:25 | Weblog
マグリットの雲と白い蛇の夢

ベルギーの画家ルネ・マグリットの雲といえば、空が鳩のかたちにくり抜かれ、その先にもまた別の空がある、幻想的な空の夢を思い浮かべます。「大家族」と題されたこの作品は,宇都宮県立美術館で観ることができます。

東京でも、マグリットの雲のように、ユーモラスな詩情を湛えた雲に出会えることがあります。
6月11日に見た雲は、まさ空想の中の空の姿そのものでした。
その柔らかに立ち上るシュークリームのような外観は、入道雲とか雷雲と呼ばれるように、実は、雲の中でも最も荒々しい雲とされます。雨、雹、雷ならまだしも、竜巻さえも起こします。

竜巻といえば、古代より龍の仕業をされていました。
竜といえば、青龍は中国では皇帝の印。
この龍が地に落ちて蛇となり、日本でも、白い蛇はお金の神様、良い情念の象徴として、関西圏、九州地方では、関東の「お稲荷さま」のような民間信仰の一つです。

白蛇は、龍神の使者として、もともと『無病息災』等のシンボルです。
一方、悪い情念や「怨念」を表すのは、黒や茶色の蛇とされます。
白い蛇の夢を見たら、金運だけでなく、龍の使いに守られていることを思い出してください。
私自身、子供の頃に白い蛇の夢を見た夢をはっきりと思い出すことができます。

マグリットの入道雲は、気性の荒い雲である一方、白い蛇の夢は幸運の兆しです。
その最高の姿がともに龍です。
ここまで空想を巡らせたとき、マグリットの雲と白い蛇が繋がり、私の中では、
思いの丈がいつか龍になって、空に昇る夢へと変わりました。

text and photo by miro ito, all rights reserved.
sky over kamiuma, 2007.6.11

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真珠のような太陽 : 空を観るこころ

2007-06-09 10:51:05 | Weblog
真珠のような太陽 : 空を観るこころ (by Miro Ito)

 「空の真珠」といえば、月を思い浮かべるかもしれません。
 光の強さや雲の動きによって、太陽も真珠のような神秘的な輝きを放つ「魅せる瞬間」に出会いました。
 その雲といえば、天使の翼のように見えたり、龍の舞う姿に見えたり、空はまさに天のこころ次第で気侭に移ろう、劇場さながらです。

 さて弊著『魅せる写真術』(MdNコーポレーション)のご紹介がてら、空の話の続きを__。

 写真家と呼ばれる人々は、日常世界の詩人でもあれば、多くの人の「眼」と「好奇心」を先取りして、世界のどこへでも飛んでいくイメージの旅人です。
 新奇な出来事、未知の驚きを伝えるメッセンジャーでもあります。

 長年ドイツ、日本、アメリカと三つの文化圏で写真家・アーティストとして創作活動をしてきましたが、弊著『魅せる写真術』では、私自身、写真の初心に立ち返り楽しみながら書くことができました。
 作例として使用した写真は、ほとんどが世界各地でのドキュメンタリーやプライベートショットで、本来、作品として発表することを前提としないで「写真の眼」の記録として、撮ったものばかりです。

 写真作品において、常に目に見えない「聖なる世界」を求めて、研ぎ澄まされた身体表現の世界を専ら追究してきましたが、この本を書きながら、最近はどちらかというと「あるがままのもの」に立ち顕われるものの「こころ」を見つめようとしている自分に気がつきました。

 「あるがままのもの」を支える大きな力に気づくこと_。それは禅の世界に通じていきますが、空を観ることは禅に限りなく近づいていきます。
 空を通して、天と天を観ている自分たちが溶け合い、人々のこころが繋がるのだと思います。

 伊藤美露
 http://www.miroito.com
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 photo: sky over kamiuma, 2007.6.7

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「魅せる写真術」の世界へようこそ

2007-06-02 10:35:53 | Weblog
「魅せる写真術」の世界へようこそ

 6月1日に上梓した弊著『魅せる写真術』(MdNコーポレーション)では、
 日常世界への写真を通した新しい接し方を、作画上の技法とともに解説してみました。

 「小さな草花に秘められたいのちの輝き。
 風と戯れ、光と遊ぶ空の詩情。
 写真を通して、世界へと新鮮なまなざしが開かれ、
 毎日が思わぬときめきで溢れてくる体験は、
 写真を撮る大きな喜びのひとつです。
 写真を撮ることで、自然の小さな造形の世界に
 目が向くようになる経験が、世界の中での自分の位置や目線、
 意識の持ち方を変える体験に繋がるかもしれません。」(同書「はじめに」より)

 デジタル時代だからこそ、最先端のデジタル機材を使う前に、
 「心の眼」をもう一度、素朴かつ透明に、世界の輝きに向けて開いていきたい_
 そんな願いをこめて、身近な日常世界を美しく撮る方法も、私なりの秘訣を本著の中で
 公開しています。
 少しでも多くの方々がお読みくださり、夏に向かうこの美しい季節に
 「魅せる写真術」の世界を共有していただけたら、本望です。
 
 2007年6月吉日
 伊藤美露

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』
 著:伊藤美露 定価:1,980円(+税)
 ISBN978-4-8443-5921-0
 発行:株式会社エムディエヌコーポレーション
 150-0001 東京都渋谷区神宮前6-27-8
  http://www.MdN.co.jp/

空を撮るー新刊『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』(弊著)から

2007-05-25 02:25:23 | Weblog
  空を撮る
  新刊『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』(弊著)から

  空を撮り始めて半年になります。
  3月から5月後半までブログを中断していましたが、いつの間にか、夕暮れ時の太陽を南の方角で撮れた冬が終わり、夏に向けて太陽は次第に、南東の方向に移行しつつあります。
  空を撮る秘訣について、今週出たばかりの新刊『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』(MdNコーポレーション刊)にて4ページで解説していますので、ご覧ください。

  「被写体として、最も素晴らしいものの一つでありながら、単独の被写体として観る機会の少ないものとして、空の写真があります。空は作為などまったく手の届かないスケールです。美しい光と雲を探し始めるなら、空は最も身近で、いつでもどこでも被写体になってくれます」(弊著より)

  都会の中でも、空を思いっきり仰げるスペースを見つけて、空を撮り始めてはいかがでしょうか。
  空を見つめることで、天に愛されていること、「大いなるもの」に抱かれた豊かな気持ちで日常を見つめ直すことができます。
  空は世界のどこにいても、見つめる人には「平等」な美しさを与えてくれます。
 空を撮る魅力は、まさ天の懐の深さと公平さとに気づくことです。

 伊藤美露
  2007/5/25
  photo by miro ito: sky over kamiuma, 2007.5.4.
  all rights reserved.

 『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』について、詳しくは
  http://www.miroito.com/nwsltr8.html
  をご覧ください。

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 著:伊藤美露 定価:1,980円(+税)
 ISBN978-4-8443-5921-0
 発行:株式会社エムディエヌコーポレーション
 150-0001 東京都渋谷区神宮前6-27-8
  http://www.MdN.co.jp/

空に愛されて

2007-03-05 21:47:28 | Weblog
空に愛されて

空を見てるいると、天空が目に見えぬ光の波動の太鼓のようになって、声にならぬ声を響かせてくれます。
それはどこか遠いところからの直感のようなメッセージです。

空を愛するように、全てを愛すること_。
空に抱かれるように、あるがままの宇宙の流れに身を任せること_。
そうすることで、現実とは別の「もうひとつの時間」に気づくようになります。

空に抱かれるには、いまのこの瞬間に、自分の心が開かれ、純粋な喜びが込められていなくてはなりません。
過去の心の痛みや落胆を手放し、未来への危惧を解き放つとき、
空の美しさ、永遠性、その輝き .... 空がいつもそこにあることに、はじめて眼が開かれます。

人生も心が開かれていなくては、過ぎ行く雲のごとき速さで流れて去っていきます。
その美しさを味合うためには、そこで歩みを止めて、心を開く必要があります。

写真を撮ることも、詩を綴ることも、世界の美しさを味合うために、まさに一瞬だけ、歩みを止めることな のかもしれません。
喜び、調和、安息、永遠、平和...それこそが芸術という「もうひとつ」の時間の本質です。

空から愛されていることを感じるとき、人生の時間の本質を感じます。
時間が本質に立ち戻るとき、そこにこそ生きる喜びがあります。


伊藤美露
2007/3/6
text and photo by miro ito, all rights reserved.