「つながる心にこそ、希望あり:能楽師 武田友志さんの活動に同行して」
東日本大震災から2ヶ月が過ぎた去る5月13日、観世流シテ方 能楽師の武田友志(ともゆき)さんの災害支援活動に同行し、宮城県石巻市勝雄地区の8カ所の避難所に、1000人分の食材を届けてまいりました。
友志さんいわく「我々のような小規模の支援は誰も行かないような小さな町に、と考え雄勝を選んだ」とのこと。実際、現地に足を運ぶと、避難所がどこにあるのかさえ分からない場合も多く、迷路のように入り組んだ山道を何度も曲がりながら、ようやく探し当て辿り着く感じでした。
友志さんは、震災直後、被災地の惨状と窮状をテレビで知り、まずは放射能の風評被害で支援物資が届かない福島県に「1箇所でも自分で持って行けば必ず届く、絶対に自分で行動しよう」と決め、単独でいわき市四倉を訪れました。
二度目の訪問の際、「もっと(被害の)酷い宮城や岩手に行ってあげてください」といわきの方からいわれ、宮城を訪れることに。これまで被災地を4回訪れ、雄勝へは2度目の訪問でした。
さて、件の雄勝地区では、地域のコミュニティセンターや老人憩いの家など、比較的規模の大きい避難所は物資も届いていましたが、個人宅が避難所になっている地域では、訪れる人もなく、本当に自分たちで届けない限りは、ほとんど何も届いていない状況でした。
私が感動を覚えたのは、縁もゆかりもない地域に出かけ、暖かな励ましを送り続ける友志さんの姿でした。その姿にこそ、人としてのあるべき姿があり、日本の未来があるように思われました。
極限状態におかれながら、被災された方々の秩序だった行動や礼儀正しさ、冷静な態度は世界的にも報道され、驚きの声で迎えられました。そうした日本人の美徳は、長い伝統や文化力によって育まれてきたものですが、友志さんのように、見ず知らぬ人々を応援したいという真心と受け取られる方々の感謝にこそ、その真意が認められるのではないでしょうか。
友志さんいわく「私達が伺った被災地の方は『誰か知り合いがいるの?』と聞かれます。そして何の縁もない私達や、その仲間が支援してくれているということに、心を打たれ喜び、涙を流す方もいらっしゃいます」。
そのような「思いやり」と「助け合い」という心が響き合う力こそ、被災地から世界に向けて希望の光を灯す、ひとつのメッセージになりうるのではないでしょうか。
私自身、9.11同時多発テロ事件をNYで体験した時、心のつながりの尊さを知りました。それは繁栄の頂点を目指して、NYの人々を競争へと駆り立てていた利己主義を溶かし、人間にとってより大切な「つながり」と「行い」の美徳に目覚めさせてくれました。
それ以来、私は微力ながら、日本の伝統文化から、写真や書籍・映像作品を通して、世界平和の基盤となる「連帯」の心を訴えたいと願い、創作活動を行っていますが、友志さんのような「行い」にこそ、人と人をつなぐ希望の光があるのだと思います。
8カ所の避難所を訪れた後、最後に同地区の船越小学校を訪問し、湯島食堂(国境なき料理団)のシェフ本道佳子さん、深澤大輝さん(深澤フーズ)、岡山からいらしたWaRa倶楽部の船越耕太さん三名による炊き出しを手伝いました。小学校32名、中学校31名のために、心のこもったランチが振る舞われ、子供たちが美味しそうに食べる様子を目にし、私自身、本当に心の暖まるひと時が過ごせました。
子供たちの愛らしく屈託のない明るさ、被災地の惨状の直中にあっても前向きな先生方の笑顔、そして友志さんや料理団の皆さんの心が一つに溶け合い、私は日本の未来を信じられる気持ちになりました。
ランチの後、後ろ髪を引かれる思いで被災地を後にしながら、次には、私自身の課題として「9.11」と「3.11」を繋ぐ活動をしようと誓いました。
思えば、バブル以降、いまほど日本が国際的に注目されたことはなかったのではないでしょうか。世界中の人々がさまざまな苦難に喘ぎながらも、自分たちの国情を顧みず、無条件に日本にエールを送り、また国家間のわだかまりや過去の経緯を乗り越え、支援し続けてくださる国々の善意は、国同士のつながりの大切さを、改めて思い起こさせてくれます。
国際社会が総出で日本を支援してくれることにこそ、復活を目指す日本が、新しい地球文明時代に、人として国として見本となれるよう、答えていかなくてならないのだと思います。
その答えの一つとして、人と人、人と社会、国と国、そして人と世界、人と生きとし生けるものすべての「いのち」との「つながり」を訴えていくことにあるのではないでしょうか。
その上にこそ、平和への第一歩があるのだと、改めて実感する次第です。
末筆ながら、このたびの震災により、ご家族や親類、ご友人をなくされた方々のために、改めて心よりご冥福をお祈り申し上げます。
伊藤みろ
メディアアートリーグ
2011年5月25日
写真:宮城県石巻市雄勝町
Photo and Text by Miro Ito, All Rights Reserved.
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[ フォトエッセイ]
書名: 心のすみか奈良 いのちの根源なるものとの出合い
古寺・古社・古儀に学ぶ「いかに生きるべきか」のメッセージ
著者: 伊藤みろ(写真・文)企画・編集: メディアアートリーグ
出版社: 武田ランダムハウスジャパン
定価: 2,000円(本体1,905円)ISBN: 978-4-270-00564-4
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[メディアアートリーグについて]
アートを通して世界へ平和を発信する目的のもと、日本に遺され守られている「人類遺産」としての世界的な文化を、海外に紹介する活動。伊藤みろが写真家・アーティスト・プロデューサーとして推進。作品は寺社をはじめ、世界の図書館や大学、財団などに寄贈。文化を写真や映像作品、書籍として伝承し、世界で共有する活動。
http://www.miroito.com
記事、写真の無断転載を禁じます。
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東日本大震災から2ヶ月が過ぎた去る5月13日、観世流シテ方 能楽師の武田友志(ともゆき)さんの災害支援活動に同行し、宮城県石巻市勝雄地区の8カ所の避難所に、1000人分の食材を届けてまいりました。
友志さんいわく「我々のような小規模の支援は誰も行かないような小さな町に、と考え雄勝を選んだ」とのこと。実際、現地に足を運ぶと、避難所がどこにあるのかさえ分からない場合も多く、迷路のように入り組んだ山道を何度も曲がりながら、ようやく探し当て辿り着く感じでした。
友志さんは、震災直後、被災地の惨状と窮状をテレビで知り、まずは放射能の風評被害で支援物資が届かない福島県に「1箇所でも自分で持って行けば必ず届く、絶対に自分で行動しよう」と決め、単独でいわき市四倉を訪れました。
二度目の訪問の際、「もっと(被害の)酷い宮城や岩手に行ってあげてください」といわきの方からいわれ、宮城を訪れることに。これまで被災地を4回訪れ、雄勝へは2度目の訪問でした。
さて、件の雄勝地区では、地域のコミュニティセンターや老人憩いの家など、比較的規模の大きい避難所は物資も届いていましたが、個人宅が避難所になっている地域では、訪れる人もなく、本当に自分たちで届けない限りは、ほとんど何も届いていない状況でした。
私が感動を覚えたのは、縁もゆかりもない地域に出かけ、暖かな励ましを送り続ける友志さんの姿でした。その姿にこそ、人としてのあるべき姿があり、日本の未来があるように思われました。
極限状態におかれながら、被災された方々の秩序だった行動や礼儀正しさ、冷静な態度は世界的にも報道され、驚きの声で迎えられました。そうした日本人の美徳は、長い伝統や文化力によって育まれてきたものですが、友志さんのように、見ず知らぬ人々を応援したいという真心と受け取られる方々の感謝にこそ、その真意が認められるのではないでしょうか。
友志さんいわく「私達が伺った被災地の方は『誰か知り合いがいるの?』と聞かれます。そして何の縁もない私達や、その仲間が支援してくれているということに、心を打たれ喜び、涙を流す方もいらっしゃいます」。
そのような「思いやり」と「助け合い」という心が響き合う力こそ、被災地から世界に向けて希望の光を灯す、ひとつのメッセージになりうるのではないでしょうか。
私自身、9.11同時多発テロ事件をNYで体験した時、心のつながりの尊さを知りました。それは繁栄の頂点を目指して、NYの人々を競争へと駆り立てていた利己主義を溶かし、人間にとってより大切な「つながり」と「行い」の美徳に目覚めさせてくれました。
それ以来、私は微力ながら、日本の伝統文化から、写真や書籍・映像作品を通して、世界平和の基盤となる「連帯」の心を訴えたいと願い、創作活動を行っていますが、友志さんのような「行い」にこそ、人と人をつなぐ希望の光があるのだと思います。
8カ所の避難所を訪れた後、最後に同地区の船越小学校を訪問し、湯島食堂(国境なき料理団)のシェフ本道佳子さん、深澤大輝さん(深澤フーズ)、岡山からいらしたWaRa倶楽部の船越耕太さん三名による炊き出しを手伝いました。小学校32名、中学校31名のために、心のこもったランチが振る舞われ、子供たちが美味しそうに食べる様子を目にし、私自身、本当に心の暖まるひと時が過ごせました。
子供たちの愛らしく屈託のない明るさ、被災地の惨状の直中にあっても前向きな先生方の笑顔、そして友志さんや料理団の皆さんの心が一つに溶け合い、私は日本の未来を信じられる気持ちになりました。
ランチの後、後ろ髪を引かれる思いで被災地を後にしながら、次には、私自身の課題として「9.11」と「3.11」を繋ぐ活動をしようと誓いました。
思えば、バブル以降、いまほど日本が国際的に注目されたことはなかったのではないでしょうか。世界中の人々がさまざまな苦難に喘ぎながらも、自分たちの国情を顧みず、無条件に日本にエールを送り、また国家間のわだかまりや過去の経緯を乗り越え、支援し続けてくださる国々の善意は、国同士のつながりの大切さを、改めて思い起こさせてくれます。
国際社会が総出で日本を支援してくれることにこそ、復活を目指す日本が、新しい地球文明時代に、人として国として見本となれるよう、答えていかなくてならないのだと思います。
その答えの一つとして、人と人、人と社会、国と国、そして人と世界、人と生きとし生けるものすべての「いのち」との「つながり」を訴えていくことにあるのではないでしょうか。
その上にこそ、平和への第一歩があるのだと、改めて実感する次第です。
末筆ながら、このたびの震災により、ご家族や親類、ご友人をなくされた方々のために、改めて心よりご冥福をお祈り申し上げます。
伊藤みろ
メディアアートリーグ
2011年5月25日
写真:宮城県石巻市雄勝町
Photo and Text by Miro Ito, All Rights Reserved.
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[ フォトエッセイ]
書名: 心のすみか奈良 いのちの根源なるものとの出合い
古寺・古社・古儀に学ぶ「いかに生きるべきか」のメッセージ
著者: 伊藤みろ(写真・文)企画・編集: メディアアートリーグ
出版社: 武田ランダムハウスジャパン
定価: 2,000円(本体1,905円)ISBN: 978-4-270-00564-4
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[メディアアートリーグについて]
アートを通して世界へ平和を発信する目的のもと、日本に遺され守られている「人類遺産」としての世界的な文化を、海外に紹介する活動。伊藤みろが写真家・アーティスト・プロデューサーとして推進。作品は寺社をはじめ、世界の図書館や大学、財団などに寄贈。文化を写真や映像作品、書籍として伝承し、世界で共有する活動。
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