MIRO ITO発メディア=アート+メッセージ "The Medium is the message"

写真・映像作家、著述家、本物の日本遺産イニシアティブ+メディアアートリーグ代表。日本の1400年の精神文化を世界発信

MIRO ITO発 メディア=アート+メッセージ No.20:写真集『隠し身のしるし Signs of the Intangible (by MIRO ITO)』発刊のご案内

2023-05-28 09:50:29 | 隠し身のしるし
発刊に寄せて

日本文化において、心と体は一つのものであり、神性・仏性さえも宿す独自の心体景観が培われてきました。東洋の伝統では、身体は、大宇宙の縮図としての小宇宙であり、修行の「場」として捉えられてきました。

見えないカミの語源が「隠身(カミ)」の一つとされる一方で、禅においては身心一如(道元『正法眼蔵』「辧道話」1231年)の修練において解脱が目指され、そこに武道の真髄も見出されてきました。

さらに即身成仏(生身の肉体のまま悟りに至る密教の奥義)に見られる「悟りの道」としての、身体のあり様があります。

こうした伝統を「隠し身のしるし」(1)と名付け、1400年前に遡って探求する写真集『隠し身のしるし Signs of the Intangible』がこの度、発刊となりました。
同写真集は、同名の世界巡回写真展の図録を兼ね、未発表の作品や新作を加えて、撮影のテーマについて作者自らが解き明かす芸術論を、エッセイとして書き下ろしています。


東大寺伎楽面 酔胡從 重要文化財・8世紀(Photo by Miro Ito)
 

東大寺伎楽・春日大社舞楽面

副題「日本の1400年の心体景観」のとおり、合計106点(うち21点はエッセイ文中での解説用)の写真作品は、年代順に、1400年以上もの昔、シルクロードを経て、日本に伝来した伎楽・舞楽の古面から始まります。

東大寺と春日大社からのご許可を得て、752年の東大寺大仏開眼供養会で実際に使用された東大寺伎楽面(重要文化財・8世紀)9面に加え、東大寺舞楽・陵王面(重要文化財・13世紀)と春日大社舞楽面6面(重要文化財・12世紀〜16世紀)を、写真作品として収録いたしました。

これらの写真作品は、2010年のCanon EXPOおよび平城遷都1300年記念事業で開催した写真展・映像上映「祈りと奉納のシルクロード 東大寺伎楽面・春日大社舞楽面」で発表し、奉納させていただいた作品が大半を占めています。


能「敦盛」シテ方観世流能楽師 武田文志(Photo by Miro Ito)


能から舞踏へ

古代の仮面芸能の流れを受け継ぎながら、奈良時代以降の神仏習合の伝統において仏教法楽・社頭奉納として発展し、中世に演劇として大成した能楽の写真作品も収録しています。

能楽の写真につきましては、2007/2008年のニューヨーク公共舞台芸術図書館での個展「Men at Dance — from Noh to Butoh(能から舞踏へ)」での発表のため、能楽師の方々をスタジオで撮りおろす機会をいただきました。

協力演者は、奈良を本拠地とする金春穂高・シテ方金春流能楽師、また東京在住の武田志房(ゆきふさ)・武田友志(ともゆき)・武田文志(ふみゆき)シテ方観世流能楽師の方々です。

同展覧会は、能楽が演劇として大成した14-15世紀から現代まで、約600年の隔たりがある能と前衛舞踏とを対比させたもので、二つの舞の対極的な形の中に、共通項としての「霊性」をあぶり出す試みとなりました。

展覧会終了後は、舞台芸術専門図書館としては世界一の規模を誇るニューヨーク公共舞台芸術図書館に、全作品55点を寄贈しました。その中には、2006年のヴェネチア・ビエンナーレ(ダンス部門)の公式イメージとなった、室伏鴻とのコラボレーション「Quick Silver(水銀)」も含まれています。「Quick Silver」は同展が参加したNY Butoh Festivalの公式ポスターにもなりました。


 Quick Silver (Dancer: Ko Murobushi/Photo by Miro Ito)

舞踏家・室伏鴻とは、上記の写真展のためのコラボレーション以外にも、何回かの撮影セッションを行いましたが、今回、未発表の作品も掲載しています。さらに写真集の発刊に際し、能の「花」と舞踏の「華」についてのエッセイも、新たに書き下ろしました。


SAL VANILLA:ミクストメディアパフォーミングアーツ・カンパニー

デジタル空間での近未来の身体宇宙をテーマに、舞踏カンパニーSAL VANILLAとのコラボレーション作品も、収録しています。


inter/action by Sal Vanilla (Photo by Miro Ito)

SAL VANILLA(サルヴァニラ)のカンパニー名は、スペイン語の「白い部屋」に由来しています。蹄ギガとKiK_7によって1994年に創設され、映像・サウント・建築・インタラクティブメディアなどのさまざまな分野のアーティストたちとのコラボレーションを展開。身体と空間が相互作用的に作り上げる先駆的な演目を、2005年の解散までに、国内外で合計16作品発表しました。

代表作の一つである「inter/action」(2003年の六本木アリーナ杮落とし公演)を含む、舞踏家を仏像や群像肖像画に見立てた、未発表の作品シリーズを掲載しています。
 

時間の劇場 軍艦島

2015年に世界遺産に登録された長崎市の軍艦島(正式名:端島)の写真作品「時間の劇場」も、同書で発表しています。


Time Theatre (Dancer: KiK_7/Photo by Miro Ito)

舞踏家・滑川五郎、KiK_7、山口タマラ三者による「近松祭in長門」での公演の後、軍艦島には1994年に訪れ、無人島となった20年後の弔いの舞を三人の舞踏家に託しました。

舞踏家の身体は、時の行者と化し、記憶の幻影を宿す白昼夢となりました。折からの梅雨時の厚い雲間から偶さか差し込む太陽光のように、隠身のしるしが見え隠れしていました。

人生の中で神懸かりのような体験があったとしたならば、軍艦島での撮影セッションは、間違いなくその一つで、まさに奇跡のような時間をフィルムに焼き付けることができました。

これらの作品群は、1997年フランクフルト日本文化週間での個展「身体という華(A Flower Named Body)」において、発表しました。
 

身体芸術における 東西文化の出合い

かつてドイツで写真アーティストとしてデビューをした私にとって、身体芸術における"東西の出合い"は長年のテーマとなっています。最初は空手有段者のイタリア女性とのセッションで「日本的身体言語(Japanese Body Language)」をテーマにミュンヘンで個展を開きましたが、その後、多くの前衛舞踏家との出会いがありました。

2002年には、狂言師・総合芸術家の五世野村万之丞との邂逅をきっかけに、古典芸能との出合いがありました。その後、2005年より東大寺のお水取り(修二会)や春日大社・興福寺の薪御能をはじめとする、奈良の無形遺産を撮影しています。

そうした延長線の上に、奈良の国宝・重要文化財の仏像を撮影させていただいている私にとって、「隠し身のしるし」を探る旅が続く一方で、常にギリシャ・ローマ的な「神の似姿である人体」の造形美の追求が、もう一つのテーマでした。
バレエダンサー春双との出会いにより、そうした造形美の追求と同時に、「東西の出合い」というテーマが再浮上しました。春双は、キューバおよびチェコ国立バレエ団にキャラクターダンサーとして所属していた経歴を有しながら、居合道の有段者でもあることから、居合とバレエの融合したフォトセッションを、東京の世田谷山観音寺やトロントのオンタリオ湖畔で行いました。


 A Lone Samurai (Dancer: Shunso/Photo by Miro Ito)


献花に代えて

世界的な舞踏家であった室伏鴻(2015年逝去、享年68歳)と滑川五郎(2012年逝去、享年61歳)は、すでに還らぬ人となっています。舞踏の歴史に残る、かけがえのない撮影コラボレーションをご一緒いただいたお二人への献花として、本書を代えさせていただきたく存じます。


Time Theatre (Dancers: Goro Namerikawa, KiK_7, Tamara Yamaguchi/Photo by Miro Ito)
 

メディアアートリーグの初書籍

本書は、メディアアートリーグ(発行)と本物の日本遺産イニシアティブ(編集)が発刊する初の書籍となりました。

序文は長年の友人である森山明子 神戸芸術工科大学副学長(元武蔵野美術大学教授)が寄せてくださいました。エッセイは日本語と英語で書き下ろし、英語の編集・翻訳と校正は、Andreas Boettcher(トロント在住)が担当しています。齋藤知恵子による装丁は、私の著書では6冊目となりました。

初版は、オンデマンド印刷を採用しています。本書の売り上げは、財団活動を目指す「メディアアートリーグ」および「本物の日本遺産イニシアティブ」の文化事業に充てさせていただきたく、皆様からのご支援をお待ち申し上げます。

最後に、本書の謝辞において記載させていただいた多くの協力者や支援者の皆さまをはじめ、お名前を記していない方々もおられます。同書が完成に至るまでにさまざまな形でご支援くださった多くの皆さまに、心からの感謝を捧げます。(文中敬称略)
 
令和5年5月吉日
MIRO ITO (伊藤みろ)
メディアアートリーグ&本物の日本遺産イニシアティブ
©Photographs & Text by Miro Ito/All Rights Reserved.

註−1「隠し身」とは、見えないカミを表す「隠身(かくリみ)」を「現し身」と対比させた森山明子氏の造語。

※写真集は「本物の日本遺産イニシアティブ」のサイトからお求めいただけます。



伊藤みろ発:メディア=アート+メッセージ No.9 「隠し身のしるし」展:日本の1400年の奉納の歴史を探る、聖なるものへの旅

2018-11-05 07:46:25 | 隠し身のしるし
「隠し身のしるし」展、トロントからシカゴへ

「隠し身のしるし(Signs of the Intangible)」展が在シカゴ日本国総領事館広報文化センター(Consulate-General of Japanese in Chicago JIC Hall)で始まりました(11月28日まで)。

この展覧会は、私が10年前に行ったNY公立舞台芸術図書館(リンカーンセンター)での展覧会「Men at Dance – from Noh to Butoh」(能から舞踏へ)を継承しつつ、現在世界巡回中の「光と希望のみち」展の続編として、東大寺の天平彫刻の最高傑作や伎楽面、春日大社の舞楽面の写真作品を加えさせていただき、「日本の1400年の舞と武の心体景観」を焙り出す展覧会として、再構成したものです。

日本とカナダの修好90周年を記念事業として、本年5月にトロント日系文化会館においてキックオフとなり、シカゴへ巡回することになりました。11月13日(月)には、アーティストトーク&ショートムービーの上映会を実施いたします。大変光栄なことに、伊藤直樹総領事にも、ご挨拶をいただきます。

また伎楽をバレエとして復興させた「伎楽バレエ」(踊り手:春双)も、シカゴでは二度目の発表になりますが、トロント、リオ、そして11月8日のメキシコに続き、披露させていただく予定です(芸術監督:伊藤みろ)。

シカゴへお立ち寄りの際には、ぜひ足をお運びくださいませ。(※詳細は、ブログテキストの最後に記載させていただいておりますので、ご参照ください。)

美術の起源を探る旅

さて、この15年間、日本の1400年の芸能史を紐解く思いで、奈良を中心に、有形無形の世界遺産・国宝・重要文化財を撮影・取材させていただきながら、「祈りと奉納の系譜」を、探求してまいりました。

もとより美術の起源には、象徴表現がその大元にあります。原始時代においては、自然の力への崇拝として、狩猟や子孫繁栄への願いのしるしとして、洞窟や岩壁に形象が描かれてきました。宇宙にみなぎる不可視の力を見える形で視覚化させるために、イメージの創造という、文化の根幹である象徴表現が生まれ、祈りの儀式が起こり、神話が語られ、原始宗教が始まりました。

聖なるものを目指すイメージの創造は、記号や文字を生み出し、文明を萌芽させました。そして古代のイメージの創造における頂点ともいえる、エジプトやギリシャの神話の世界においては、現世と神々の世界の交流のために、崇高なる美の世界が追求されました。神の観念の擬人化が行われ、人体像や半人半獣像が作られ、現実と聖なる世界は、奉納や儀式という「場」で結びついてきたのです。

こうした古代ギリシャの奉納像の伝統は、アレクサンダー大王の東方遠征に伴い、西アジアや中央アジアへと伝えられ、仏像の起源となりました。さらに伎楽や舞楽などの仮面芸能も、ギリシャが発祥とされています。

この度の展覧会は、2020年の東京オリンピック開催に合わせて、日本の1400年の有形・無形文化遺産の伝統の豊かさとシルクロードとのつながりを訴え、東西・南北の世界の心の連帯を訴求していくためのものです。

こうした趣旨のもと、仏像などの奉納像から伎楽面や舞楽面などの仮面、そして能や古武道、果ては舞踏、現代舞踊まで、私が25年以上、撮影しているテーマに他ならず、同展「隠し身のしるし」の根幹にあるテーマです。

トロントに次ぐ、シカゴ展では、名門私立大であるノースウェスタン大学でも、「隠し身のしるし」のテーマについて、11月16日に特別講義を行う予定です。

また2019年には、リオデジャネイロ国立歴史博物館へも、開催の提案中ですが、世界を東西南北へと縦断する、巡回を予定しています。

お力添えをいただいたご関係の皆様に、主催・共催者を代表して、厚く御礼申し上げます。

2018年11月吉日
伊藤みろ メディアアートリーグ代表
www.mediaartleague.org


____________________________________________________
Exhibition: Signs of the Intangible
開催場所:在シカゴ日本国総領事館広報文化センター
Consulate-General of Japanese in Chicago JIC Hall / 737 N. Michigan Ave. Suite 1000, Chicago, IL 60611
http://www.chicago.us.emb-japan.go.jp

開催期間:2018年11月1日から11月28日

開催時間:午前9:00から午後5:00(月・火・木・金)
午前9:00から午後6:00(水)/土・日・祝日は休み
____________________________________________________
Artist Talk & Short Film Screening by Miro Ito
イベント日時:2018年11月13日(午後6:00)
パフォーマンス:Gigaku Ballet by Shunso
(Music by Sukeyasu Shiba / Artistic Direction by Miro Ito)
____________________________________________________

共催:メディアアートリーグ、一般財団法人 日本カメラ財団
助成:一般社団法人 東京倶楽部
後援:公益社団法人 日本ユネスコ協会連盟、奈良県ビジターズビューロー

写真&映像作品、文章:伊藤みろ(メディアアートリーグ)
英語編集:Andreas Boettcher (Media Art League, Toronto)

撮影協力(敬称略):東大寺、春日大社、奈良国立博物館
金春穂高(金春流シテ方能楽師)、武田志房・友志・文志(観世流シテ方能楽師)、
室伏鴻(舞踏家)、滑川五郎(舞踏家)、Sal Vanilla(舞踏ユニット)、春双(舞踊家)

音楽協力:芝祐靖

その他協力:キャノンマーケティングジャパン、イイノメディアプロ(機材協力)、Canon USA(プリント協賛)、佐河太心(掛け軸装丁)、新井工作所(額協賛)ほか