走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

国公立病院再編成- 集約化の一例

2019年11月11日 | 仕事

シリーズ10日目

長くなってきたのでおさらいを

1日目: 序章。消えた町医者
2日目: 看護度と介護度。急性期病院とは?
3日目: 高額化する医療機器。適正使用
4日目: 広がる地域格差を縮める策
5日目: 安全な在宅医療の充実
6日目: マルチプレヤーの総合診療科 (プライマリー)
7日目: 健康への指揮者としてのプライマリー
8日目: 自由アクセスの弊害
9日目: 封建社会制度で成り立っている日本の医療

プライマリーケアについてもう少し。専門家は専門的な狭く深い知識に対してプライマリーは多岐にわたる広い知識の持ち主。鉱物発掘に例えるなら、専門家は山を掘り起し鉱物へたどり着く技術と知識を持っていて、プライマリーはだだっ広い荒野に立ち表面をスキャンして地下に眠る鉱山のだいたいの場所を見つける役目。同時に指揮者(専門家をまとめて治療のハーモニーを作る)であり、交通整理(どの専門家が必要なのか判断する)であり、門番(専門家に不必要な患者が押し寄せないように守る)であるのだ。このような役割のため諸外国ではプライマリーはなくてはならない重要な医療のプレイヤーとして位置付けられている。

昔、町医者が往診カバン一つでやってきたようにプライマリーは病院のような高額な医療機器を常に必要としません。問診と所見、そこから診断へと至ってシンプルです。しかし問診と所見から行き着いた診断の仮説を証明するためと病状のモニターをする為に必要時はシンプルな診断機器へのアクセスは必要です。だから諸外国では血液検査や心電図、レントゲン、超音波と言った安価な診断技術は外部委託になっています。各地域から大量に検体を集める事で機械の減価償却を図ります。検体を集める場所はさほどコストがかかりません。事務所のような場所に検体を回収する人が配置されるだけです。採血専門の場所と想像してもらったらわかりやすい?その検体を運ぶ輸送者はもちろん医療者である必要がありません。ちなみにラボテクニシャンと呼ばれる検体採取者は採血や心電図を取る事が出来ますが看護師ではありません。それを専門にする職業です。このような職業があるおかげで採血は看護師の業務では無いのです(採血や心電図をとるのに幅広い疾患の知識は無用で、考える作業も少ない、よって看護師でなくてもできる作業。重症患者は異なりますからね)。

具体的な例をあげると、私が働くグレーターバンクバーを含むエリアの人口は2億8千万人(名古屋の人口が2億3千万人)が36000 キロ平米(九州地方の総面積が37000キロ平米)に住んでいます。そこにある検体を採取できる場所は何百箇所(正確な数が見つけられなかったのですが私の住む農地が沢山ある田舎でも半径10km以内に3つはある)もある一方で、検体を集めて検査をする場所は一箇所だけ。大学院の授業の時に見学に行ったのですが、病院のそれよりずっと巨大でちょっとした化学工場的な場所でした。もちろん病院は入院患者用の独自の血液検査部門があります。しかし日本のように病院数は多くないので、血液検査などシンプルな検査にかかる経営費用はかなり削ぎ落とされている、と言うわけです。機能の集約化、入院とそれ以外を切り離して経営する事で節約できるものがあります。そしてプライマリーと市民にとって、わざわざ病院へ行かなくても良いアクセス重視となります。もちろん在宅患者への出前採血や心電図のサービスもあります。慢性期の施設にも行ってくれるし重宝しています。病院よりずっと低コストなのでアクセス度が上がると言うわけです。

日本とは比べものにならない超過疎地では、残念ながらこうはいきません。外部委託会社は採算が合わないので進出しません。公的機関の病院が全てを担う事になります。入院患者もそれ以外も病院でシンプルな検査さえも行う事になります。

心電図の結果は電子化されていて、とった後直ぐにラボと契約している心臓内科医に送られ解読され指示を出したプライマリーへ戻ってきます。便利でしょ?

病院に全てを頼らなくても成り立つ医療の形って色々あるんですよ。

続く






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