MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯289 地方創生の具体策

2015年01月23日 | 社会・経済


 昨年の暮れも押し迫った12月27日、衆議院総選挙での圧勝を果たした第3次安倍内閣が進める「地方創生」政策の今後5年間(2015~2019)の道筋を示す「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定されました。

 その少し前、12月2日に公布された「まち・ひと・しごと創生法」では、全国の47都道府県と1800に及ぶ市町村はこの「総合戦略」に倣い、平成27年度中を目途として地方版の総合戦略を各々定めていく(市町村については努力義務)こととされています。

 2060年に1億人程度の人口を維持することや2050年代に実質経済成長率を1.5~2.0%程度に保つことを目標に掲げた(先に定められた)「長期ビジョン」を達成するため、この「総合戦略」には、2020年までに国と地方自治体が連携して取り組む「基本目標」として、次の四つが示されています。

 その一つ目は、「地方における安定した雇用を創出する」ことです。今後5年間で30万人の若者の雇用を創出するとともに、若者の正規雇用の促進(92.2%→93.4%)、女性の就業率の引き上げ(70.8%→73.0%)を図るとしています。

 二つ目は、「地方への新しいひとの流れをつくる」というものです。2020年までの5年間に、地方圏から東京圏への転入を6万人減らし、併せて東京圏から地方圏への転出を4万人増やして拮抗させようという取り組みです。

 三つ目が、「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」です。出産後の女性の継続就業率を高める(38%→55%)ほか、結婚希望者の婚姻実績を引き合上げる(68%→80%)ことなどを挙げています。

 そして最後のひとつに、「好循環を支えるまちの活性化」が掲げられています。時代に合った地域を作ることにより安心な暮らしを守るとともに地域と地域を連携するとされています。

 さて、こうした基本目標を達成するため、安倍晋三首相を本部長とする政府の「まち・ひと・しごと創生本部」では、地方自治体に対し「情報支援」、「財政支援」、「人的支援」の三つの支援を行うとしています。そして、その中でも特に関係者から注目されているのが、他でもない地方自治体への「財政支援」と言えるでしょう。

 一部に、いわゆる「バラ撒き」に繋がるのではないかとする懸念の声も上がっていた地方への交付金については、平成26年度の補正予算において(消費税増税に伴う)経済対策の交付金と抱合せる形で既に動き出しています。

 年度末を2か月後に控えたこの時期になぜ「26年度補正」なの?という疑問については、4月の統一地方選挙を睨んだものではないかといった疑念も多数耳にするところですが、どうやら28年度当初予算への影響を極力排除しようとした財務省の意向に配慮されたものだというのが本当のところかもしれません。

 いずれにしても、「地域住民生活等緊急支援のための交付金」という長い戒名の交付金4200億円が、年度内にも全国の地方自治体に配分されることが決定されています。

 交付金の内訳をみると、4200億円のうちの1700億円は「地方創生先行型」と呼ばれ、各自治体が地方版総合戦略を策定する費用や、地方創生のために先行して行う(地域雇用拡大などの)事業に充てられるということです。また、残りの2500億円については、「地域消費喚起・生活支援型」として、商工会議所が発行する「プレミアム商品券」などの形で地域住民の消費拡大に使われることとされています。

 さて、こうした「実務」としての施策が(多少生々しく)動き出す中、先日、「2040年には全国の自治体のおよそ半数に及ぶ896の自治体が人口減少によりる消滅する可能性ある」とする報告書により地方創生に関する議論を引っ張ってきた「日本創成会議」の座長である元総務大臣の増田寛也(ますだ・ひろや)氏に、この交付金の使い道に関するお話を伺う機会がありました。

 増田氏によれば、子供が増える地域社会の条件を端的に整理すると、
(1) 子供を産み育てる年齢層の住民が多い社会
言い換えれば若い世代(特に女性)が出て行かない、または出て行っても戻ってくる社会であり、
(2) 家庭当たりの子供が多い社会
つまり、将来の不安なく子供を産み育てられる環境を備えた社会であり、
(3) 未婚、晩婚が少ない社会
出会いやつながり、ゆとりがある社会であるという
3つに収斂されるということです。

 そして、こうした条件を満たす社会を少しずつでも実現させて行こうとするのであれば、今回の交付金の使い道を考えるにあたって各地方自治体の首長が採るべき手法は基本的にただひとつだというのが増田氏の考えです。

 日本では、概ね95%の子供が20~39歳の母親から生まれています。こうした事実を踏まえれば、(「おじさん」や「おじいさん」の意見ではなく)20~30歳台の女性の声をなるだけたくさん聞いて、彼女らが今何を求めているかを探り、これを実現していくことに尽きると増田氏は指摘されています。

 どのような対策をとったとしても、今後何十年かの期間、日本の人口が急激に減っていくというのは避けることができない現実だとすれば、そうした状況の中で「地域」が生き延びていくために一体何ができるのか。

 自治体レベルで施すべき対策は、実は国レベルのものとは性格が少し異なっているのではないかと増田氏は話されています。そしてそこにあるのは、地域において人口減少をどれだけ食い止められるかは、「若い女性を奪い合う」自治体間の競争にどれだけ勝ち抜けるかに掛っているという厳しい現実です。

 そうであるとすれば、一刻も早く若い女性を迎え入れるための環境を整えることが、(ある意味)勝負の分かれ目になるとする氏の見解を、問題の本質を突いた鋭い意見として、私も大変興味深く伺ったところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿