MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯262 日本のギャンブル市場

2014年12月03日 | 社会・経済


 11月15日のニュースサイトSankei Bizに、世界最大級のカジノ運営会社であるアメリカの「MGMリゾーツ・インターナショナル」が、国際見本市などを開催できる大規模な会議場や展示場を中核とした統合型リゾート施設(IR)を東京都内に整備する構想を明らかにしたという記事が掲載されていました。

 一部のIR施設におけるギャンブル行為を認める「IR法案(カジノ解禁法案)」が成立し日本でカジノが解禁さることになれば、日本企業とコンソーシアム(企業連合)を組み総額5000億円を超える資金を投資する考えだということです。

 同社は、既に大阪臨海部にIRを整備する構想を表明していますが、報道によれば、東京の施設は国際会議や見本市、研修、招待旅行などを意味する「MICE(マイス)」向けのものとして整備していく計画のとのことです。そしてそこには、大阪の施設は「リゾート色」、企業や金融機関が集積する東京は「ビジネス色」を濃くする形で並行して計画を進め、差別化を図っていくという思惑があるようです。

 先日もこのサイトで紹介したように、安倍政権ではアベノミクスの成長戦略の目玉のひとつとして、カジノを含む統合型リゾートの立地を促進することを明らかにしています。

 こうした政府の方針を受け、前述のIR法案は昨年12月に超党派の有志議連(「国際観光産業振興議員連盟」)により国会に提出され、継続審議の後、衆議院の解散に伴いいったん廃案となったものの、総選挙後の通常国会に再度提出される見込みと報道されています。

 果たしてカジノは日本経済の救世主となりうるのか。IR施設が実現すればその経済効果は年間で4兆円とも言われていますが、「ギャンブル」が社会に負の側面をもたらす可能性があることはここであえて指摘するまでもありません。

 経済の活性化という現在の日本における最優先課題の解決のためとはいえ、「賭博」という劇薬を「陽の当る場所」に出すべきか否か…。この古くて新しい問題に、日本の政治や社会は直面しているということになるのかもしれません。

 さて、11月10日の.『週刊プレイボーイ』誌では、経済評論家の橘玲(たちばな・あきら)氏が、こうした日本の社会とギャンブルとの関係について独自の視点から興味深い論評を行っているので、「備忘」のために内容をここに採録しておきたいと思います。

 「誰もが知っているように…」日本では既に様々な形でギャンブルが行なわれていると、橘氏はこの論評の冒頭で指摘しています。

 期待値が50%(賭け金の半分しか当選金に分配されない)しかない「宝くじ」や「サッカーくじ」は、最高額を7億円や10億円に引き上げ広く国民全体の射幸心を煽っている。実のところ、「ジャンボ宝くじ」で7億円が当たる確率は1000万分の1以下で、交通事故で死ぬ確率(3万人に1人)よりもはるかに低い。つまり、宝くじを買い続けるほとんどの人が大損する仕組みになっていると橘氏は指摘しています。

 さらに、氏は、宝くじほど「悪辣」ではないものの、賭け金の25%が問答無用で差し引かれる競馬や競輪、オートレースなどの公営ギャンブルも、法によって国家が(胴元となって)事業や利益、利権を独占し確実にボロ儲けできる仕組みになっている。このため、口の悪い経済学者からは「愚か者に課せられた税金」と呼ばれていると説明しています。

 さらに氏は、日本におけるもうひとつの代表的なギャンブルに、パチンコやパチスロがあると指摘しています。スロットマシンとほぼ同じゲームであるにもかかわらず、何故か(当局には)刑法で取り締まりの対象となる「賭博」とは見なされていない。

 なぜかと言えば、これは景品交換を店外で行なう脱法行為(三店方式)が容認されているからで、橘氏は、その代わりパチンコ業界は警察庁から多数の天下りを受け入れているとしています。もっともパチンコの期待値は98%程度とされており(←実際、出玉率などは警察当局によりかなり厳密に管理されているようです)、宝くじや公営ギャンブルに比べればはるかに“良心的”だという指摘もあります。

 日本で容認されている「賭博的」な行為について、橘氏はさらに続けます。氏によれば、あまり話題には上らないけれども、日本にはこれらに匹敵する(場合によってはこれを上回る)巨大なギャンブル(的な)市場があるということです。

 金融市場はもともとギャンブル的な要素を強く持っていますが、特に外国為替の上昇と下落に金品を張るFX(外貨証拠金取引)は、純粋なゼロサムゲームでコイン投げと同じだというのが橘氏の認識です。

 そのうえFXでは、賭け金に対して最大25倍ものレバレッジを賭けることができます。これは、1万円の賭け金に対して胴元が24万円をほぼ無利子で貸してくれるのと同じことであり、他のギャンブルと比べれば法外に有利な取引だと橘氏は説明します。そして、それに気づいたギャンブラーがパチンコ、パチスロから続々とFXに乗り換え、ふつうの主婦が3年間で4億円を超える利益を上げて脱税で摘発されたりしているということです。

 これらのことを考えれば、日本は既に「ギャンブル大国」になっていると言えるのではないか…これがこの問題に対する橘氏の見解です。

 だとすれば、IR法でカジノが合法化するとギャンブル依存症が増えるという主張は合理性を欠くと氏は指摘しています。これだけ多くの「賭場」が身近にあるのだから、ギャンブル好きは既にどれかの賭け事にはまっていて、例えカジノが合法化されても潜在的な患者数はそれほど増えたりはしないのではないかというのが氏の考えです。

 橘氏の指摘を待つまでもなく、確かに日本の「ギャンブル市場」は、「投資」という枠組みの中で既に多くの人に開放されていると言えるかもしれません。

 そこに中途半端なカジノを作っても、競合するアジアの都市との間でどこまで勝負になるかはわかりません。アジアのレジャー市場において競争力を持ち、特に海外からの観光客を獲得してお金を落としていってもらうためには、やはり相当な工夫が必要ではないかと考えられます。

 こうしたことから、むしろここで問題とされるべきなのは「カジノを合法化させるか否か」ではなく、「カジノで地方創生」という安易な発想の方ではないかとする橘氏の指摘を、示唆に富んだ論点として興味深く読んだところです。



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