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一昨年の民主党から自民党への政権交代からおおよそ2年。安倍政権の経済政策であるアベノミクスの成果と方針の是非を問う衆議院議員選挙が12月2日に公示され、14日には投開票を迎えようとしています。
一方、与・野党総じて、昨今の円安や株高による経済成長の恩恵が地方にまで行き届いていない状況を指摘する中、今回の総選挙のもう一つの争点として、政府・与党が進める「地方創生」政策に対する評価を挙げる声も多いようです。
今年の5月、元総務大臣の増田寛也氏が代表を務める民間の有識者会議である日本創生会議が「地方消滅」を唱え、「人口減少社会」、そして「消滅可能性自治体」の議論が大きくクローズアップされることとなりました。
25年後の2040年には、20~39歳の出産適齢期の女性の数が49.8%の市区町村で5割以上減少し、全国約1800市町村の約半数に当たる896市町村で人口が1万人未満となって消滅するおそれがあるという同会議の予測は、名指しで消滅可能性を告げられた自治体を中心に大きなインパクトを与えました。
こうした自治体の動揺を受け、安倍政権は「地方の創生」に国を挙げて取り組むとし、先の臨時国会において「まち・ひと・しごと創生法案」と「改正地域再生法案」を成立させました。さらに、安倍首相を本部長とする「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、地域における就業機会を創出し人口の減少に歯止めをかけるための総合的な戦略を策定することとしています。
このような政府による「地方創生」の動きに対し、地方自治体の長としてこの問題の当事者の一人でもある埼玉県知事の上田清司氏は、12月3日の自身のブログにおいて日本の「構造的な変化」という視点から地方の人口減少に関する論評を行っています。
現在、地方創生の論点は、①「子育て支援等を充実することにより出生率の上昇を図る」とするものと、②「東京をはじめとする三大都市圏への一極集中を是正し地方に人口を移動させよう」というものの、大きく二つに集約されている。しかし、現時点におけるこうした議論にはやや「表面的に過ぎる」という印象があると、上田氏はこの論評で指摘しています。
国は、昭和37年に策定した「第一次全国総合開発計画」に始まり、地方への工場の移転・新設を促す「工業再配置促進法」、あるいは「日本列島改造論」などに見られるように、常に人口や産業の地方への分散を目指してきたと上田氏は説明します。
しかし、現実にはそれは実現してこなかった。まず、それが何故なのかを考えなくてはならないというのが上田氏の基本的な問題意識です。
そしてその原因は、東京も地方も産業構造の変化という大きなトレンドの中に組み込まれているところにあると上田氏は見ています。
第一次産業の代表である農業の近代化によって地方の農村に余剰人口が生まれ、それが都市に流入してきた。一方、安価で広い土地がある地方に立地していた製造業は、経済のグローバル化の中で、生産拠点の海外移転を余儀なくされるに至った。こうしたことから現在では、農業や製造業に代わり医療や福祉を含むサービス産業が我が国の雇用の受け皿の中心となっているというのが上田氏の認識です。
このようなサービス産業は対面型で人口比例的に立地されるため、当然人口の多い都市ほど多くのサービス業が生まれ、また(サービスの対象となる)顧客の増加によって拡大もしていくと上田氏は説明します。
上田氏によれば、少なくとも地方圏ではこの20年で220万人もの就業者が減少しているが、逆に三大都市圏では86万人増加している。一方、製造業に限ってみれば、この間に都市圏も地方圏もともに200万人を超える就業者が減少しているということです。
こうした事実は、三大都市圏では製造業の就業者の減少を上回る雇用がサービス産業で生まれているのに対し、地方圏では製造業の縮小に代わる雇用が生まれていないということを示すものだと上田氏は考えています。
このような視点からの議論がこれまであまり行われてこなかったことが、都市と地方との格差が広がった要因の一つではないか。地方創生に関しては、まず「産業構造」の面から考えなければならないことは明らかだというのが、この問題に対する上田氏の見解です。
安心して結婚し、子供を育てるためには、その基盤となる一定の所得が必要だと上田氏は考えています。その点、現在の日本の産業の主流となっているサービス産業における所得は、都市圏においても、また地方圏においても低い状況にあると上田氏は言います。
その理由について上田氏は、日本ではサービス産業の生産性が諸外国と比べて圧倒的に低いところにあると見ています。
生産性が低い中での高所得はあり得ない。そういう意味で、都市圏であろうと地方圏であろうと、(これから益々その影響が増大する)サービス産業の生産性を上げるための枠組みをつくることができるかどうかが地方創生の「カギ」になるのではないかと、上田氏はこの論評を結んでいます。
で、あるとしたら、サービス産業の生産性を上げていくため、我々はこれから何をしたらよいのでしょうか。
まず、中長期的な観点からは、時代に合った戦略的なビジョンを持ち産業政策の再構築を進めることが求められるでしょう。また、喫緊の課題としては、不要な規制を緩和して無駄をなくすとともに、自由な競争による利益構造の効率化を図る必要もあると考えられます。
さらに、社会システムやインフラの効率化、働き方の見直しなど、ソフト的な視点から可能な政策はまだまだたくさんあるのではないでしょうか。
「地方創生」はそれぞれの地方における努力や政府による交付金のバラマキだけでは期待される効果を上げることができないのではないかという、この論評における上田氏の懸念を、私たちはもっと重く受け止める必要があるのかもしれません。
なかなか遠くまで飛んでいない観のある「第三の矢」、アベノミクスの成長戦略ですが、安倍政権の当初の思惑どおり、規制緩和を含む成長戦略を「思い切って」(異次元に)進めることが、結果として「地域創生」の背中を押すことにつながっていくのではないかと、この論評から改めて感じた次第です。
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