MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯447 論理的矛盾なんてへっちゃら

2015年12月11日 | 日記・エッセイ・コラム


 引き続き、「原理主義」と「現実主義」の二つの潮流について考えます。

 ある意味歴史的に培われてきたとも言うべき、日本人の発想の源となっているこの二つの大きく異なる考え方に関し、奈良県知事の荒井正吾氏は、時事通信社の公共機関向け総合サイトiJAMPへの寄稿(「このくにのかたちを考える」2011.7.14)において次のように語っています。

 日本では、例えば儒教の教えなどのモラル(となる建前)を大事にするのか、それとも現実的利得(である本音)が大切なのか、そうした答えがいつも曖昧だと、論評の冒頭で荒井氏は指摘しています。

 このため、政治に対する世論も、身近な損・得による傾向がどうしても強くなる。そして損か得かの評価は人により状況により変わるため、政治家への評価も定まることがないと氏は述べています。政治家の評価も芸能人並みに「人気度」に負うことが多く、政治家の頭の中にある「基軸」を見つけることが難しいということです。

 荒井氏はその原因を、日本人が心の中にいつも異なる二つ以上の考え方を併存させているところにあると考えています。

 われわれ日本人は、矛盾する考え方を心の中に、または社会的に併存させることに意外なほど無頓着だと荒井氏は指摘しています。誰かが論理的に共存し得ない考え方を一緒に主張したりしても、そのことにもさほど違和感を抱かない。相反する価値観が同居していても、そこに所謂「トレードオフ」の考え方がないのが日本人の特徴だというのが、この問題に対する氏の基本的な認識です。

 こうしたわが国の状況は、論理的であることを理非の判断の前提条件とする(だいたいの国でそうですが)近代の考え方からすれば、相当奇妙に見えるはずだと荒井氏はしています。しかし、こうした考え方(感性)は、わが国で、初めて国家の形ができた奈良時代からそうで、その後ずっと変わっていないというのが氏の見解です。

 基本的に、原理主義より状況主義、聖重視より俗重視、国際主義より国内主義などを国家原理の基本的特徴としてきたわが国ですが、その中でも時の政権によって重心は移動してきたと荒井氏はしています。ところがどの政治思想に国家の重心を置くべきかについて世論が闘うことはなく、民衆はあくまで政治家の「好き嫌い」で政権を判断しがちであったということです。

 さて、荒井氏は、現代の国際社会で最も大事な理念は、「自由主義」「民主主義」「人道主義」の三つに集約されているとしています。これらの基本原理は全て我が国固有のものではなく、三つのすべてが輸入された考え方と言えます。

 これらの基本原理が育った国々では、思想的格闘、政治的闘争、そして戦争まで起巣する中でこれらの思想を確立してきたと荒井氏はしています。一方、氏によれば、我が国ではその長い歴史の中で、何らかの政治原理のために政治闘争が行われることはこれまでほとんどなかったということです。

 これら現代社会に通底する三つの大事な基本理念を、私達現代の日本人は心底から信じているのか?…このような疑問に対し荒井氏は、「大事な考え方」だとは思っているとしても、これらの理念を墨守し、理念に歯向かう敵とは徹底的に闘うといった気迫を日本人から感じることはできないとしています。

 改めて説明するまでもなく、この三つの基本理念は、今日のグローバル化社会の中心に位置する存在であり、その存在に異を唱えチャレンジする国は(一部の独裁的国家などを除いて)ないでしょう。しかし、それらの理念を、それぞれの国家主権の行使の中でどう適用するか、つまり、普遍的、国際的原理をどう国内化、地域化するかということは、現代社会で最も大きな課題の一つになっていると荒井氏は述べています。

 氏は、日本人は漢字、仏教、法に基づく国家の仕組みなどの国家や社会、文化の基盤を海外から輸入し、グローバリズムとローカリズムの相克という現代の課題を、平城京の昔から、独自の流儀で「こなして」きたとしています。

そうした歴史を鑑みれば、現代グローバル化社会の基本理念(である3つの原理を)を政治、経済、社会にどのように適用するかについては、わが国独自の知恵と流儀があってもいいのではないかと氏は考えています。

 「本音」と「建前」、「原理主義」と「現実主義」が葛藤なく併存する日本人の精神構造は、歴史を紐解けば、確かに毒にも薬にもなり得るものなのかもしれません。

 「理想」と「現実」の間で引き裂かれることなく生きていける日本人の特徴をこの際所与のものとして認識したうえで、現代社会で最も大事な基本理念を読み解き、わが国独自の基軸を柔軟に確立して現代社会の課題解決に貢献することが可能ではないかとする石川氏の主張を、この機会に改めて興味深く読んだところです。



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