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安倍政権が進めるウーマノミクス政策のもと、いつの間にか日本の女性達はすっかり国家の大事な「働き手」とみなされ、(望むと望まないとにかかわらず)日本経済再生を担う旗手として政治家から経済界、そして世の多くの男性達から大きな期待を担わされるようになっているようです。
しかし、当事者である女性のライフコースを見る限り、第一子を出産した女性の約6割が現実として無職となり、少なくとも一定期間は「専業主婦」として子育てに励んでいるという現実があります。そして、最終子が中学生になるころ、一度は専業主婦を選んだ(選ばざるを得なかった)女性達の多くが、何らかの理由で再び社会に出て「仕事」を持ちたいと考えることになります。
最近の統計を見る限り、子供を持つ「共働き世帯」はこうして「片働き世帯」を上回っていることになっていますが、実際のところ就業している女性の約65%が非正規の職に就いており、そのうちの多くがいわゆる「パート主婦」として年収100万円程度の収入に甘んじているというデータもあります。
男性中間層の落ち込みが進む現実社会は、子育ての強いプレッシャーの中、「専業主婦」の道を選んだ母親たちに対し(嫌も応もなく)厳しい環境の下での就労を強いるようになっています。
相模女子大学客員教授で作家の白河桃子(しらかわ・ももこ)氏は、近著『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書)において、こうした現代の「専業主婦」という存在が抱える「危うさ」や「リスク」について興味深い論評を行っています。
白河氏は、現代の専業主婦(とそれを目指す女性)は、「結婚前」と「結婚後」に、2種類の異なったリスクを背負うことになるとこの著書において指摘しています。
まず、結婚前の問題として、専業主婦を目指すと「結婚が遅くなる」可能性が高い。そればかりでなく「永久に結婚できなくなる」危険性もあると白河氏はこの論評で述べています。
氏は、専業主婦を目指す女性たちには、「養ってくれる人」を求めるあまり自ずと相手に要求する条件が厳しくなり、その結果として最終的に結婚できなくなる可能性が高まるという実態があるとしています。
しかも女性たちは、「働きたい」「働きたくない」にかかわらず「出産したら辞めるかもしれない」という不安を常に抱えている。そのため、年収も高くやりがいのある仕事についている女性ほどこれと引き換えにできるような結婚相手を探すことになり、結局そんな水準を満たすパートナーに出会うことが難しくなっているということです。
こうした中、(専業主婦になっても)安心なパートナーを求めて「婚活」をいくら続けても、そこには当然限界があると白河氏は考えています。
氏が指摘しているのは、「養ってほしい」女性の数に対して、「養える」もしくは「養う気がある」男性の数が圧倒的に少ないという単純な現実です。つまり、いくら女子力を磨いたとしても「結婚できない確率が高い」こと、これが専業主婦を目指すことの第一のリスクだと白河氏は説明しています。
さて、白河氏は、二つ目のリスクは「結婚後」にやって来るとしています。
専業主婦にとっての結婚後のリスクは、さらに大きく二つに分けられる。そしてそのひとつが「離婚」のリスクだと白河氏は言います。
北欧やフランスなどでは、離婚すればまた新しい人とカップルになり子供を生んでいる。こうした社会では社会保障制度ががっちりシングルマザーを下支えしているので、女性たちは離婚のリスクを気にせずに子供を持ち、育てることができるということです。
しかし、3組に1組が離婚する日本では、子供を持つ母親の8割が現実として養育費を受け取っていない。つまり、一旦仕事を辞めてしまってからの離婚となると、子供を抱えて生計を立てられるだけの仕事を得るのは、日本の女性にとって非常に困難な道のりになるという指摘です。
次に白河氏が指摘する専業主婦のもうひとつのリスクが、夫の会社の倒産や給与カット、リストラや病気、そして夫の死亡(による貧困化)です。最後にして最大のリスクは、夫の死後に訪れると白河氏は述べています。
現在、65歳以上の単身で暮らす女性の実に二人に一人が(世帯所得の中央値の半分以下で暮らす)相対的貧困の状態にあると言われています。この世代の女性達の多くは専業主婦として人生の大半を過ごしてきた人達のはずです。
こうした女性達が貧困状態にあるということは、養ってくれるはずの夫が、「妻が死んだ後の分までは稼いでくれていなかった」ことを意味しているというのが白河氏の認識です。
白河氏は、(結婚できない)未婚女性やシングルマザー、単身の65歳以上の女性たちが貧困に陥り易いのは、「女性はやがて専業主婦になるもの」といったライフコースをモデルとした日本の社会の在り方や社会保障の在り方に原因があると考えています。
こうしたモデルは、現在の日本ではほとんど通用しなくなっている。今、地域から20代、30代の女性が大都市圏に流出することが「地方消滅」の最大の原因として社会問題化していますが、女性を「嫁に来させる」努力をするだけでは地方創成の問題は解決しないだろうと白河氏はこの論評で述べています。
なぜなら、現代の女性は「仕事→結婚」ではなく「不安定な仕事→安定した仕事」を求めて地元を出ていくから。未婚化、晩婚化、少子化の原因は、つまるところ家族の生活が女性労働に依存するという従来のモデルに基づいた女性の不安定な雇用にあるというのが、こうした問題に対する白河氏の基本的な見解です。
現在の日本では、人口構成の超少子高齢化や人口減少が大きくクローズアップされています。そうした中、専業主婦が減り、当たり前のこととして働く女性が増えることで、社会の中に様々な変化が起こることを信じているとする白河氏の論評を、大変示唆に富む視点として、私も興味深く読んだところです。
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