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統一地方選挙の後半戦、町村長と町村議会議員の選挙が4月21日に告示されました。
今回の選挙戦では、全国122の町村長選挙において199人の立候補が確認されているとのことですが、この数字はこれまでで最も立候補者数が最も少なかった前回の201人を下回っているようです。さらに、373の町村議会の議員選挙では合計4269人の定員に対し立候補者は4800人程度と、史上例を見ないほどの「低調」な選挙戦とされています。
19日に告示された市長選に関して言えば、前回を12上回る27市で既に無投票当選が決まっており、市議選においても無投票当選者は246人と、前回の116人から倍増しているということです。
人口減少により2040年までに全国1800市区町村の半分の存続が難しくなるとの予測が出される中、各自治体には(地域の再生に向け)将来の死活を賭けた真剣な議論が求められているはずなのですが、現実の選挙戦を見る限り、そのような危機感や議論の盛り上がりは今ひとつ感じられません。
こうした状況を受け、4月21日のNewsweek紙(日本版)では、作家で翻訳家の冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)氏が、日本の地方議会の低調さの原因に関して興味深い視点を提供しています。
メディアでは、今回の統一地方選が盛り上がりに欠ける一因として、東京都や大阪府の知事選が「統一」のサイクルから外れたことなどの様々な要素が指摘されています。しかし、その根本には、地方自治における「対立軸」が機能していないという問題があるのではないかと、冷泉氏は分析しています。
氏は、現在、日本の地方政治は数々の深刻な「選択」に迫られていると指摘しています。また、その「選択」を民主的なプロセス、つまり有権者の責任で(決定)できるかが、今後の地方の活性化にとって大きな意味を持つだろうと述べています。
それでは現在、地域で暮らす住民が(将来に向けて)想定できる「選択肢」、あるいは「対立軸」には一体どのようなものがあるのか。氏はこの論評において、各地の自治体が直面している危機に向け、住民が選ばなければならない(選んでいくことができる)いくつかの具体的な対立軸を提供しています。
そのひとつめは、「大きな政府」、つまり自治体に福祉や教育、公共事業など充実したサービスを望むのか、あるいは行政の介入を限定し、サービスはそこそこでも歳入つまり税金を限定するのかという対立軸です。多くの地方自治体が財政危機に直面する中、「大きな政府」か「小さな政府」かという選択肢は、地方自治の根幹に関わる選択だと冷泉氏は述べています。
次に、地方の「自立」を志向するのか、中央への依存を続けるのかという対立軸です。独自の財源を確保し権限を多く獲得して多少きびしくても独自の自治体経営を目指すのか、それとも国の補助金や交付金により(少なくとも)横並びの行財政環境を目指すのかという選択です。
三つ目には、地域の核となる都市として独自性を保ち消滅自治体の人口や行政サービスの統合の受け皿となるのか、あるいは(経営が苦しくなったら)もっと大きな都市に合流する方向を選択するのかという対立軸が挙げられています。
さらに四つ目として、地域文化として「他の地方からの流入に寛容」な地域を目指すのか、それとも地域の特性を重視し、他の地方からの(人口と文化の)流入には一定程度「排他的」でも仕方がないとするのかという選択もあると冷泉氏は考えています。
五つ目の対立軸は、年齢層として中高年をターゲットとした行政をするのか、それとも、子育て層を中心とした自治体作りをするのかという問題です。高齢者に手厚い行政を行うのか、子育てがしやすい環境整備を優先するのかの優先順位を選ぶ必要もあるだろうということです。
そして六つ目の対立軸は、その地方がどんな産業を中核としていくのかという「まちづくり」の方向性です。工場を誘致するのか農業の強化に注力するのか。自然を守るのか開発を優先するのか、あるいは都市からの通勤圏として宅地化を進めるのかといった選択だということです。
さて、冷泉氏の論評には、この他にもいくつかの対立軸が示されているのですが、いずれにしても日本の地方行政は明らかな岐路に立っており、今後さらに選択を迫られる状況が増えてくるだろうと氏はここで指摘しています。
これからは、選挙という「意志決定のインフラ」を使って、大きな問題の決定に住民の参加を促すことがこれまで以上に重要になってくる。そのような中、昨今の地方選挙の低調さは地域行政の意思決定システムの不調を意味しており、地域生活の改善や変革の大きな障害になるだろうということです。
地域に暮らす人々が、一体どのような地域を自ら目指していこうとするのか。
地方政治がそれぞれ「明確なビジョン」や「対立軸」を示し、住民がこれを選択することが地方自治の再生を促す原動力となることは論を待ちません。そして何より、身近な行政への住民の参加を促すためには、「選択することに意味のある」複数の「実行可能な対立軸」を設定することが必要なことは明らかです。
地方政治が複数の対立軸を住民に提示できるかどうかが、地方自治が今後機能できるか否かの分岐点になるだろうとするこの論評における冷泉氏の指摘を、どうやら私たちはこれから先、さらに重く受け止めていく必要がありそうです。
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