MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1850 何のために地球環境を守るのか

2021年05月14日 | 環境


 18世にイギリスで始まった産業革命以降、化石燃料をじゃぶじゃぶと使い、大量生産、大量消費の経済活動を続けてきた人類ですが、そういった長年の蓄積が今、地球温暖化や異常気象などの(地球環境レベルでの)様々な問題を引き起こしているとされています。
 今後も人類が豊かな繁栄を続けていくためには、これまでのような経済活動では成り立たない。そうした思いから、SDGsやカーボンニュートラル、GX(グリーン・トランスフォーメーション)などといった言葉が、(まるではやり言葉のように)時代のトレンドとなっています。

 「世界では今、2万種を超える、野生の動物や植物が、深刻な絶滅の危機にさらされていますが、そのことも、この失われゆく地球の自然環境の現状と大きく関係しているといえるでしょう。こうした環境の悪化の大きな原因となっているのが、人類による地球の「使いすぎ」です。」
 世界的なネットワークを持つ環境保全団体「WWF」(「World Wide Fund for Nature(世界自然保護基金)」 )JAPANのホームページには、温暖化により絶滅の恐れがあると言われるホッキョクグマの親子の写真とともにこう綴られています。

 また同ホームページは、海洋ごみの影響により、魚類、海鳥、アザラシなどの海洋哺乳動物、ウミガメを含む少なくとも約700種もの生物が傷つけられたり死んだりしていると指摘しています。
 このうち実に92%がプラスチックの影響で、例えば漁網などに絡まったり、ポリ袋を餌と間違えて摂取することによりウミガメの52%、海鳥の90%が体内にプラスティック片を摂取しているとし、傷ついた海鳥の写真などを掲載し保護活動に対する寄付を募っています。

 「僕たちの地球を守ろう」は(小さな子供からお年寄りまで)すでに時代の合言葉となっており、ESGに配慮しない投資は欧米を中心に既に見向きもされない状況も生まれつつあるようです。
 昭和の高度成長期に生まれすっかり資本主義に染まっている私などでさえ、エコカーに乗り換えたりプラごみの分別をしたりするたびに、少しはいいことをした、環境の役に立ったかな、などと思ってしまうところです。

 人々を(何となく)優しい気分にさせるそうしたムードの中、雑誌「週刊新潮」の5月6・13日号に、テレビなどでも活躍する若手社会学者の古市憲寿氏が「地球を守ろう」のウソ~環境保護は人間の居住可能地域を増やすため」と題する、(ちょっと気になる)一文を寄せています。

 先進国の間で環境問題への注目が集まっている。スウェーデンのグレタ・トゥーンベリは国際的な有名人になったし、日本でも2020年7月からレジ袋の有料化が義務づけられたと氏はこのコラムに記しています。
 もっとも、国内では、プラスチックゴミの総量におけるレジ袋の占める割合は1.7%に過ぎず、また海洋プラスチックゴミの排出が多いのはインドネシアなどの東南アジア諸国や中国だということはあまり知られていない。
 日本はリサイクルや焼却処理が適切に実施されている国の一つで、国際的な視野で考えるならば、(日本中の人々が日々イラッとしている)レジ袋有料化などではなく、東南アジアへの技術支援を進めたほうが、よっぽど意味があるというのが氏の認識です。

 環境に関する議論では、しばしば「地球を守ろう」とか「地球が危ない」といったフレーズが使用されることがある。地球を擬人化して意識を高めたいのかもしれないが、それ自体は嘘もいいところだと氏はしています。
 地球は人間ごときに守れるような代物ではない。そもそも現在の人類の技術では、地球を破壊することは不可能だ。世界中の核爆弾を使えば、都市の破壊や、人類を激減させることはできるだろうが、地球そのものは壊れないということです。

 結局のところ、環境保護は地球のためでもなんでもなく、人類のための活動だというのが、このコラムにおいて氏の指摘するところです。
 本質的には、気候変動や海面上昇によって居住困難地域が増えて困る、という話である。地球温暖化の危機を訴えるパンフレットなどでは、とってつけたようにホッキョクグマなど生物種の絶滅にも触れられているが、あくまでも本題は人類の生活の問題だと氏は言います。

 人類はいつまで生き延びられるのかと言えば、長期的視点に立てば、再び地球に氷河期が訪れるのは確実だし、これまで5回発生している生命の大量絶滅イベントも繰り返されるだろう。隕石衝突や火山噴火などによって、大半の生物種が絶滅する可能性も大いにあり得る。
 さらに太陽の膨張によって、約10億年後に地上は干上がり、この前後で地球生命は絶滅してしまう可能性が高い。そして最後は約120億年後に、地球は完全に太陽に飲み込まれてしまうということです。
 本当に地球を守りたいなら太陽の膨張を食い止める必要があるが、それよりも遥か前に人類は絶滅しているだろう。環境問題に熱を上げるのはいいが、それは「自分たちのため」というのを忘れずにいた方がいいと、古市氏はこのコラムをまとめています。

 さて、確かに「地球環境の変動」という人間の経済や社会の維持にかかわる現実的な問題を、ロマンティックな感情論で訴える語り口について、多少の違和感を感じているのは(もしかしたら)古市氏だけではないでしょう。地球環境問題はヒューマニズムで解決するようなものとは思えないし、そうした知性派を装った態度に、「かえってウソっぽい」と反感を抱くリアリストも多いかもしれません。

 しかしその一方で、温室効果ガスの排出削減の取り組みやエネルギー消費型の暮らし方の見直し、プラスチックごみの削減などが、長い目で見て子供や孫の世代が健康で豊かに暮らすために必要な投資であることは(おそらく)間違いないでしょう。また、こうした動きが社会の仕組みを刷新し、新しい価値が投資を呼び起こして今後の経済にプラスの影響を与えることも大いに期待できるところです。

 これから進めるべきイノベーションが、北極に暮らすシロクマの親子やかわいそうな南海のウミガメのためばかりでなく、私たち自身の利益につながることを皆がしっかり理解したうえで目前の地球環境問題に取り組んでいく必要があるのではないかと、コラムを読んで私も改めて感じたところです。

 

 


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