東洋経済ONLINEの特集「新時代の働く幸せ設計術」(2021.5.24)では、データサイエンティストとして多彩に活躍されている慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏にインタビューを行い、「多様な幸せに寄り添うことがビジネスの核に」と題する記事にまとめています。
宮田氏といえば、銀髪にレザージャケットのシャープな姿がトレードマーク。NHKをはじめとする様々なメディアに登場し、現代社会が抱える様々な問題についてデータに基づく的確な指摘を行っています。
今回のお題は、コロナ禍をきっかけに普及したテレワークによって、これからのビジネスや価値観はどのように変わっていくかというもの。テレワークによる働き方の変化は単にビジネスマンの時間の使い方を変えるばかりでなく、ビジネスそのものの考え方に大きな変革をもたらすだろうというのが氏の指摘するところです。
宮田氏はインタビューに答え、テレワークで変わったのは働く場所だけではないと話しています。働く仲間や顧客一人ひとりの多様な価値観や豊かさに寄り添うことが、ビジネスの核になりつつある。これこそが氏の考えるテレワークの本質だということです。
例えば学校教育であれば、オンライン学習や教育アプリが普及したことで(児童生徒一人一人の)習熟度に合わせた学習指導をしやすくなったと氏は言います。
でも、だからといって教師が不要になるわけではなく、児童・生徒一人ひとりに向き合い寄り添って、本当の豊かさを手に入れるために何をどう学べばいいのか一緒に考えて支えいくのが教師の仕事となっていく。そうやって一人ひとりの多様な幸せに寄り添うこと、それこそが教育の本質であることがようやく明らかになってきたというのが氏の見解です。
長年、社会の豊かさの指標としてGDPが使われてきたけれど、近年では経済的な財だけでは本当の豊かさは測れないということが明らかになってきていると氏は話しています。特にここ数年、共有することで価値が高まる「データ」が、経済を大きく動かす力を持つようになり、それに伴って豊かさの意味も変化し始めたということです。
さらにコロナ禍によって、経済合理性のほかに健康や命、人権、自由といった多様な軸に関心が集まり、結果「well-being(よく生きる=幸福感・満足度)」という概念に注目が集まるようになったと氏はしています。
もとよりwell-beingは「一人で完結する」ようなものではない。新しい豊かさは、人と人、人と社会がつながる中で増していくものだというのが氏の認識です。
(より良く生きるためには)コミュニティをつくって誰かと共感しあったり、同じ目標や未来に向かって努力したりすることが必ず必要になってくる。ちなみにこれはwell-beingの上位概念として、「Better CO-Being」と呼ばれていると氏は説明しています。
しかし、テレワークばかりが望ましい働き方ではないのもまた事実で、もちろん、従来のように仲間とオフィスに集まって働くことに価値を感じる人がいてもいい。「こうすればwell-beingが高まる」と答えを1つに決めると、それが呪いになってしまうと氏は改めて指摘しています。
大切なのは、働き方を1つのパターンに押し込めないで、それぞれのあり方を認めあえる組織をつくること。それが多様な幸せ、多様な豊かさにつながるということです。
宮田氏はこのインタビューの中で、どんなビジネスでも大切なのは、多様性を尊重しながら、働く人がお互いに共鳴しあい、さらに社会とつながれるような環境をつくることだと話しています。それがBetter CO-Being時代に求められているマネジメントであり一人ひとりの多様な豊かさをわかり合い、寄り添うことが重要だということです。
さて、働き方は働き手の意識を変え、ビジネスのあり方自体をも変えていくことでしょう。集団主義の根性論や「場の空気」の支配から離れ、コミュニケーションももっと丁寧な論理的なものにシフトしていくはずです。
そして、そういう働き方を続けていれば、これまでマス(塊として)見えていた消費者や市場から、一人一人の個性的なニーズが見えてくる。テレワークによって人と人とが(ネットを介して)個別につながることで、ビジネス自体にも大きなイノベーションが生まれてくるのではないでしょうか。
かつては、働く人が人生すべてを会社に捧げることを前提にして組織を回していけた時代があったが、今はさまざまな生き方、働き方を前提にしたマネジメントが求められていると、宮田氏はこのインタビューの最後に話しています。
ジェンダーや国籍はもちろんのこと、新人もベテランも、パラレルキャリアを築いている人と人とが繋がる中で、ビジネスもそれぞれの多様性を認めながら、全体を導いていく方向にシフトしていくだろうと考える氏の視点を、私も(ひとつのイメージとして)大変興味深く受け止めたところです。
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