世界経済フォーラムが3月発表した、世界各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)。この指数は、経済、教育、政治、健康の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示すものとなっています。
注目の今年の日本の総合スコアは「0.656」で、対象となった156カ国中120位(前回は153カ国中121位)と引き続き下位(それもかなり下位)に甘んじる結果となりました。
日本の順位を分野ごとに見てみると、経済の分野が117位、教育の分野が92位、健康の分野では65位でしたが、政治の分野では147位と、特に経済と政治の分野で他の先進国に大きく引き離されていることがわかります。
ちなみに、トップのアイスランド以下、上位には北欧の国が並び、アメリカの30位、ドイツの11位とは比較にならず、中国の107位、韓国の102位と比べてもダントツで低いことがわかります。
全体の順位が低いことも問題ですが、特に気になるのは日本の順位が毎年落ちつづけているところ。個別のスコア自体はほぼ横ばいの状況ですが、他国がスコアを伸ばしている中で日本の男女間格差は一向に改善されず、結果として(相対的に)順位が下がっている状況です。
もちろん、男女間のジェンダーギャップは社会や経済の仕組みや長年の文化などが大きく関係し、一朝一夕に改められるものではないでしょう。しかし、だからと言って、女性たちの声や世の中の動きにまかせていれば「自然と変わっていく」というものでもありません。
今から6年前の2016年、安倍晋三内閣は当時の成長戦略の柱の一つに「女性が輝く日本」を掲げ、「女性活躍推進法」を施行しました。同法は、働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現することを目的に、①採用や昇進についての平等、②仕事と家庭が両立できる環境づくり、③仕事と家庭の両立について意思決定できることを基本原則として定めています。
しかし、具体的な取り組みという意味ではインパクトに欠け、その結果として現在の「120位」というポジションがあるのかもしれません。
こうした状況を踏まえ、4月16日の朝日新聞のオピニオンコーナー「耕論」に、名古屋市立大学准教授で社会学者の菊池夏野氏が『差別温存「男並み」を要求』と題する(厳しい)論考を寄稿しています。
今年もジェンダーギャップ指数での日本の低い順位が話題になっているが、私にはそこに驚きはない。それは、そもそも日本は「ジェンダー平等とは何か」という認識自体に問題を抱えているからだと、菊池氏はこの論考に記しています。
氏によれば、1985年に制定された男女雇用機会均等法は男女平等の金字塔のように扱われてきたが、表面上の平等を装いながらその後も差別は脈々と続いており、その典型が「総合職は男性、一般職は女性」というコース別雇用の存在だということです。
そして、不平等な賃金格差を抱えたまま働かされる仕組みは今も温存されている。平等が実現しない中で99年の男女共同参画社会基本法では、「女性も社会に参画することが男女平等」という価値観が作り出されたというのが氏の認識です。
その流れの集大成としてできたのが、2015年の女性活躍推進法というもの。そこで政府は、「平等」を「参画」や「活躍」にすり替えた。さらに、政府が旗を振る陰で見えなくしてしまったのが、差別の構造と、女性が背負っている家事や育児などの無償労働だと氏は指摘しています。
「男並み」の仕事と家事や育児の両方を負担できる女性であることが「活躍」であり、それがジェンダー平等の実現につながる…そうした流れの中で、女性同士は「頼れる夫や親がいるか」「家事を外注するお金があるか」といった自己責任での競争を強いられることになったということです。
その結果、一部のエリート女性にスポットが当足る一方で、待遇の悪い仕事を充てがわれる非正規雇用などの女性たちの状況は見えにくくなってしまった。コロナ下での女性の解雇やDV、自殺の急増が浮き彫りになったというのが氏の指摘するところです。
「女性活躍」の動きは、こうした女性たちを救うことができるのか。実際、仕事に注力している人は夫や子供がいないことに自責の念を抱き、専業主婦は働けないことを後ろめたく感じている現状もあると氏はしています。
女性全体の状況を考えるのであれば、女性の政治家や管理職を追い求める今のやり方ではなく、法律や経済活動の構造に「差別が現存している」と認識することからやり直す必要があるのではないというのがこの論考における氏の見解です。
それでは、どこから手を付けるべきか。まずは、男女雇用機会均等法が残した雇用の差別や、低賃金の非正規職員の在り方などを変えることが重要だと菊池氏は考えています。
確かに、「女性活躍」とひとくくりに言っても、実際には、ほとんどの女性が置かれた環境でさまざまに頑張り、活躍しているのではないかと思います。しかしそうした頑張りが正当に評価されていない現実に、もっと目を向ける必要があるのでしょう。
パートタイマーや派遣などの形態で業務に従事する非正規雇用者の多くが女性であることを考えれば、こうした雇用制度の在り方を正面から見つめなおし、必要な改善を加えていくこともその一つかもしれません。
日本のジェンダーギャップの状況を(世界と比較して)漠然と云々するだけではなにもかわらない。そうした視点から「私には国ごとの指数ランキングがオリンピックの順位のように報じられること自体が、一部の女性の「成功」を「ジェンダー平等の達成」と思い込まされる社会の一側面のように映る」とこの論考を結ぶ菊池氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。
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