MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1869 サラリーマン「サバイバル時代」

2021年06月04日 | 社会・経済


 日立製作所や富士通、資生堂、最近ではNTTなど、日本の大手主要企業が相次いで「ジョブ型」といわれる雇用制度に移行すると発表し話題になっています。

 ジョブ型とは、勤務地やポスト 職務内容、そして報酬などをあらかじめ明確にして従業員を採用し、仕事の成果で評価する雇用形態のこと。一方、日本企業の多くはこれまで、新卒一括採用、年功序列、終身雇用で、勤務地やポストは会社が人事権の裁量で決められる「メンバーシップ型」と呼ばれる人事制度や雇用形態を採用してきたとされています。

 しかし、2018年に「働き方改革関連法」が成立し、残業規制や同一労働同一賃金などが実施され、そこにコロナショックが重なってリモートワークが中心の企業も増えるなど、現在、日本のサラリーマンの働き方は大きく変貌しつつあります。
 そうした中、企業にとって従業員それぞれの仕事の役割や分担が明確になっていなければ業務の進捗管理が難しく、従業員一人一人の評価や処遇も難しくなっているということでしょう。

 こうして、(世界的な環境の変化の中で)見直されつつある日本の雇用システムですが、それではなぜ日本では、(欧米とは異なる)新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった独自のシステムが定着してきたのか。
 5月3日の日経新聞の連載コラム「やさしい経済学」では、東京大学准教授の野原慎司氏が「日本型雇用システムの起源」と題する論考により、まずはその辺の歴史的な経緯を紹介しています。

 第二次大戦以前の日本は、工業化しつつもいまだ農業が大きな比率を占める社会だった。現在まで続く(終身雇用を前提とした)「日本型」と呼ばれる雇用システムは、実はこうした時期に既に形成されていたと氏はこの論考に記しています。

 日本では近代化の過程において、まず農村の伝統的な価値観が工場に持ち込まれ欧米とは異なる労働観が形成さていった。そして、戦間期には労働運動抑制の目的もあって企業への忠誠が自分の利益にもなるというイデオロギーが形成され、年功序列賃金などが制度化されたというのが氏の説明するところです。

 一方、西欧では企業を横断する労働組合が盛んで、それが企業間での労働条件平準化が進む要因となったと氏は言います。ところが日本では、雇用や労働条件は企業別に決定され企業横断的には決まらなかった。これは、企業別の組合になっているからだというのが氏の見解です。

 その起源は戦時中の「産業報国会」という企業別の全員加入組織にあったと氏はしています。戦後、幹部などの変更はあっても、こうした組合構造が持続された労働組合は、自主的組合精神のもとでの運営というより大勢順応による運営になりがちだったというのが氏の指摘するところです。

 戦後民主主義が戦前からの連続性を持って形成される中、一つの会社に定年まで所属することを重視する日本型雇用システムが維持された。企業は生涯を共にする家族であり、社員一丸となって会社の利益のために滅私奉公するといった意識はこうして受け継がれてきたということです。

 しかし、このシステム自体は、決して日本の伝統的なものではないと、野原氏はこの論考で指摘しています。
 (江戸時代も多分そうだったと思いますが)少なくとも明治時代の職人は、少しでも条件が悪いと頻繁に職場を変えていたという記録が残されている。そこには終身雇用という発想は乏しく、近代日本の資本主義を支えた急激な工業化が、現在の雇用形態を生み育んできたということです。

 さて、こうして1世紀以上にわたって受け継がれてきた日本型雇用システムも、コロナの前でいよいよ時代から引導を渡される時が近づいていると言えるかもしれません。

 「人生100年時代」を迎え、これまで一般的だった ①生まれてから高等教育を終えるまでに約20年、②社会に出て働く期間が40年、③リタイアした後の余生が20年、という3ステージの人生設計が崩れつつあります。
 公的年金の給付年齢が引き上げられ、既に70歳、80歳まで働く人生が普通になる中、サラリーマンが同じ企業で60年間ずっと働き続けるというのも現実的ではなくなってきています。

 長い人生、企業が責任を取ってくれない以上、自分の力で生き延びるほかはありません。将来を見据え伸びる企業を選んで歩く、プロサラリーマンによるサバイバルの時代が、もうそこまでやってきているということでしょう。


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