MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2069 日本人はいつから結婚しなくなったのか

2022年01月20日 | 社会・経済


 50歳の時点で「未婚」の人の割合を一般に「生涯未婚率」と呼ぶようです。これは、「50歳まで未婚だったんだから、この先結婚することはないだろう」ということで、統計指標の一つとして用いられている数字。実際、2015年人口動態調査を見ても、生涯未婚率対象年齢を超える55歳以上で結婚(初婚)した男性の割合は、当該年齢の未婚人口の0.1%に過ぎないのだということです。

 さて、前回の国勢調査が行われた2020年現在の生涯未婚率(外国籍者を含む総数による)は、男性が25.7%、女性が16.4%で、(50歳以上の)男の4人に1人、女の6人に1人が未婚のままで暮らしていることが判ります。

 この生涯未婚率ですが、国勢調査がスタートした1920年から1980年代までは男女とも5%を超えることはなかったものが、1990年代以降に急激に上昇。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、20年後の2040年には男は約30%、女は約20%にまで上昇するとみられているようです。これは、現在25~34歳の(いわゆる結婚適齢期の)男性の実に3人に1人がこのまま結婚することなく一生を終える可能性が高いということ。世の男性たちは「まだまだ早い」などと安穏としている場合ではないことが伺われます。

 因みに、最も婚姻数が多かった1972年と直近の国勢調査2015年とを比較すると、年間の婚姻数自体もおおむね45万件程度減少していることが判ります。これまで、子育て支援ばかりに注力してきた政府の少子化対策ですが、日本の少子化の根源的な原因が婚姻数の減少にあることに、そろそろ気が付いて良いのではないかとも思います。日本の婚姻数の減少(未婚化)は、いつごろ、どのような形で始まったのか。まずはその辺のところから検討してみる必要があるのでしょう。

 この話題に関連し、昨年8月7日のYahoo newsに、マーケティングディレクターでコラムニストの荒川和久氏が「婚化の原因を「イマドキの若者の草食化」のせいにするおじさんへのブーメラン」と題する論考を掲載していたので、この機会に紹介しておきたいと思います。

 生涯未婚の男女が増えているという話が出るたびに、おじさん世代の面々は「イマドキの若者は草食化してしまってだらしがない」などといった声を上げるが、未婚化は基本的に若者の問題ではないと荒川氏はこの論考に綴っています。よくよく考えてみれば、確かに生涯未婚率は45~54歳の未婚率であって、若者の未婚率ではない。2015年の国勢調査で23.4%の生涯未婚率を叩き出した男とは、若者ではなく(当の)アラフィフのおじさんたちだというのが、この論考で荒川氏の指摘するところです。

 2015年でのアラフィフ世代とは、1985年に20歳を迎えた世代のこと。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで言われたバブルの時期に青春を謳歌した、いわゆる団塊ジュニアの世代だと氏はしています。服にしろ、クルマにしろ、当時の若者たちはクレジットやローンを使ってたくさんの消費をしていた。カフェバーという業態ができたのも、新宿や六本木のディスコが大盛況だったのもこの頃で、1980年代前半からスキーブームが起こり、冬季に苗場スキー場に行く道は大渋滞だったということです。

 テレビドラマではトレンディドラマが流行し、クリスマスには、ティファニーのオープンハートをプレゼントに赤プリで御宿泊。恋愛至上主義とも言われたこの時代に20代を謳歌したのが、今50代以上の人たち、つまり現在の大学生の若者の丁度親世代だったと氏は言います。しかし、そのイメージとは裏腹に、この頃の20代が2015年の生涯未婚率過去最高記録を打ち立てたというのが氏の認識です。

 国勢調査のデータを見ればその結果は明らかで、男女とも60年代生まれの人たちが、25歳以降すべての年代で未婚率を押し上げていることがわかる。2021年現在、50代半ばを過ぎたアラ還の初老世代のおじさん・おばさんこそが、今の日本のソロ社会化の扉を開けた張本人だということです。

 戦後生まれの物わかりの良い親たちの下で貧乏を知らずに育ち、バブルのさなかに青春を迎え、自由と消費、そして(結婚を前提としない)恋愛にも目覚めた初めての日本人がここに誕生したということでしょう。もっとも、「(自分としては)むしろ1980年代までほぼ全員が結婚していた皆婚時代の方が異常だったと考えている」と、荒川氏はこの論考の最後に記しています。未婚であることが「草食」であるとも「だらしがない」とも思わないが、仮におじさん連中のいう「イマドキの若者は草食化でだらしがない」という指摘を正とするなら、それはご自分たちの世代に向けた台詞ということになるというのが氏の見解です。

 未婚化は、戦後の消費社会と自由な文化の拡大の中で既に始まっていた。少なくとも生きていくうえで「結婚」という形態を必要としない社会がバブル経済の下の日本で30年前に生まれていたことは、紛れもない事実だったということでしょう。「天に唾する」という言葉がありますが、日本人が結婚の意味や伝統的な家庭の価値を見失っていったのは正にこの頃だったのだろうと、荒川氏の論考を読んで私も改めて感じたところです。



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