MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2463 水道施設とコンセッション方式

2023年09月09日 | 社会・経済

 本日は、公共政策への民間活力導入に関する、少し硬いお話です。

 公共施設の管理運営に当たり、民間企業に施設の運営権ごと委ねて「経営」させるのが、最近しばしば耳にするようになった「コンセッション」(公共施設等運営権)方式という手法。2011年のPFI(民間資金を活用した社会資本整備)法改正を機に、国内事業で同方式の導入が可能となり、以降、空港や上下水道、道路、公営水力発電、工業用水道など、様々なインフラ分野にコンセッションの導入が検討されるようになっています。

 実際、国内のインフラ管理に関しては、(国、自治体を合わせ)既に約12兆円がコンセッション方式で事業化されているとされ、例えば東京都千代田区に本社を置くゼネコンの前田建設工業では、神奈川県三浦市の下水道事業や大阪市工業用水道、愛知県有料道路の計3事業で他者とJVを組み、代表企業としてその運営に取り組んでいるということです。

 さらに政府が今年の6月に決定した「PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版)」において「ウォーターPPP」の推進を強く打ち出されていることから、今後以降は特に水道、下水道、工業用水道の分野で官民連携事業が大きく進む可能性が指摘されています。

 「ウォーターPPP」とは、水道、下水道、工業用水道において、コンセッション事業へ段階的に移行するための「管理・更新一体マネジメント方式」と呼ばれる新しい官民連携方式とのこと。①10年以上の長期契約、②性能発注(手法は受注者に任せる)、③維持管理と更新の一体マネジメント、④プロフィットシェア(企業努力により得られた利益は官民でシェアする)…を原則とし、10年経過後はコンセッション方式に移行することを前提とした契約だということです。

 水道、下水道、工業用水道は、同アクションプランにおいて「重点分野」に位置付けられており、2022~31年度の10年間で水道100件、下水道100件、工業用水道25件の計225件の具体化を狙うという野心的なターゲットが設定されています。

 政府は、新規事業に望む自治体に対する補助金・交付金などによる支援を(この)ウォーターPPPの導入の成否によって判断するといった動きも見せており、全国のほとんどの自治体の上下水道事業が(いわゆる)民営化される日も近いのかもしれません。

 一方、水道事業への民間企業への事業委託については、「本当に任せられるのか」「料金が上がるのではないか」「外国企業に乗っ取られるのではないか」など、与野党問わず多くの反対の声が上がっているのも事実です。実際、水道事業へのPPPの導入が進んだ欧米などでも、収支計画の狂いによる企業の撤退や管理のずさんさなどから行政による直営に戻している施設も多いと聞きます。

 政府がなぜこれほどまでに民間活力の導入を急ぐのかはよくわかりませんが、細かく話を聞くと、どうやらこの動きは官邸主導で(強引に)進められており、所管する高生労働省や国土交通省、自治体を指導する総務省などはあまり乗る気でないとの声も聴こえてきます。

 経済産業省出身の官邸官僚や海外の巨大資本などが絡んだ何やら「きな臭い」においも感じないではありませんが、今後しばらくはこの日本の国内で「上下水道民営化」の嵐が吹くのはおそらく避けられないことでしょう。

 さて、国内の水道管の総延長は地球1周分の長さの18倍強に相当する約73万キロメートル。そしてその約2割は帳簿上の法定耐用年数である40年を超え、管路や浄水施設の耐震化率も4割にとどまるとされています。

 その背景にあるのは、上水道の運営主体となっている市町村の財政難と人材難。全国約1300の上水道事業のうち、ほぼ半分は給水人口が3万人未満と規模が極めて小さく、人口減と節水で水需要が年々減る中、給水原価が供給単価を上回る原価割れの事業者も約4割を占めるということです。

 自治体が水道施設の維持・管理・更新をしていく余裕を失いつつあるこうした状況を踏まえれば、民間の持つ資金や技術力を活用して広域的な維持管理を行ったり、官民連携による事業の効率化を進めたりすることは、問題解決に向けた一つの方法であることは間違いないでしょう。

 しかしその一方で、料金の値上げをせずにサービスの維持や改善を図れるような「魔法の杖」は存在しないというのもまた事実。民間の力に頼れば状況は大きく改善できるというのは、いささか楽観的に過ぎる判断だとも思えます。

 人々が暮らしていくのに最も欠かせない「水」の問題。官や民の力を結集して、地域の中でもう少し大きく、もう少し真剣に議論を重ねていく必要があるのではないかと、昨今の動きから改めて感じているところです。

 



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