1月24日の日本経済新聞に掲載されていた特集記事「都道府県ランキング(時間編 女性の仕事)」によれば、女性の仕事時間(→家庭外で報酬を得て行う業務に費やす時間)が最も長い都道府県は「福井県」だったそうです。
これは、2021年に全国の10歳以上の男女19万人を対象に実施された「社会生活基本調査」によるものとのことなので、信ぴょう性は(それなりに)高そうです。同調査によれば、全国の女性の平日1日の仕事時間は平均183分(3.1時間)と2016年の前回調査よりも6分増えており、福井県は221分と最長。因みに2位は東京都の218分、3位は同じく北陸の富山県で215分とされています。
実は今回、全体の6位に石川県がランクインしており、記事はその理由として「北陸3県」の女性の労働力率が(他の地域と比較して)優位に高いことを挙げています。
「豊かさランキング」などで常に上位を占めているこれらの県では他の地域に比べて三世代同居が多く、家事や育児の手が潤沢なために夫婦の共働きが広がっているということです。
奈良や滋賀、埼玉などの大都市圏(の特にベッドタウン)では子育て中の核家族の割合が多く、仕事と家庭を両立しにくいと記事は指摘しています。その点、北陸三県などの地方部における三世代同居、大家族での暮らしは女性が働きやすい環境すぁり、女性の労働力率の向上につながっているというのが記事の見解です。
さて、この記事だけを読んでいると、雪深い北陸は女性にとってとても暮らしやすい場所で、子育て期の女性が集まる人気の地域のようにも思えますが、実際はどうなのか。
総務省の「住民基本台帳移動報告」で2010年から2019年の10年間の人口の動きを見ると、47都道府県のうちの37都道府県で、男女ともに転出が転入を上回る「転出超過」(純減)となっており、女性が純減した地域だけでいえばこれが38都道府県にのぼります。
なお、この38都道府県のうち35都道府県で、女性の純減数が男性の純減数を上回っており、全体では女性のほうが男性の1.3倍、転出超過となっているのが現状です。
一方、女性の転入が超過しているのは、東京を筆頭に埼玉、神奈川などの大都市エリアが中心で、特に地方部からは結婚前の「若い女性」の流出が目立つようです。
さて、そこで問題の北陸三県の状況ですが、(男女の転出超過数を比較すると)福井県は1.3(→男性の1.3倍女性が多い)と都道府県平均を何とかキープしたものの、同じ北陸の石川県では女性の転出超過が男性の実に4.6倍、富山県では3.9倍もあり、女性の転出超過がとりわけ深刻な地域であることが判ります。
この結果から推測されるのは、残念ながらこれらの地域には、男性に比べて女性のほうが地元にいづらい何かがある、ということ。男性にとっては暮らしやすいかもしれないけれど、女性の間には「早く地元を離れたい」という思いが強い地域と言えるかもしれません。
女性の生活に関し、様々な(ある意味矛盾した)データが混在する北陸地方には一体何があるというのか。2月6日の総合サイト「ABEMA TIMES」に株式会社NEWYOUTH代表取締役で福井県出身の若新雄純(わかしん ゆうじゅん)氏が、『福井が幸せってホント? 幸福度5年連続1位の背景に“嫁の忍耐”』と題する興味深い論考を寄せているので、参考までにその一部を残しておきたいと思います。
岸田首相が掲げた「次元の異なる少子化対策」において、「子育て世代の声に耳を傾ける」最初の地として選んだのが福井県。実は福井県は日本有数の“幸福度が高い県”で、「都道府県幸福度ランキング」でも、5回連続で総合1位を獲得していると氏はしています。
もちろん「子育て支援」も充実していて、分野別の状況を見ても「教育」と「仕事」で全国1位。“三世代同居”や近い場所に親が住んでいることも多く、働く女性の割合や共働き率も軒並み高い数値となっているということです。
さて、その実態はどうなのか。福井は「福」にかけてずっと「幸福推し」を進めているが、5年ほど前から、福井の子育ての手厚い支援は“嫁いできた女性の犠牲”で成り立っているのではないかという議論が生まれ始めていると、若新氏はこの論考に記しています。
福井の「幸福度」の指標にもなっている「持ち家率が高い」「子どもを預ける両親が近くにいる」という話だが、これは(一部の市街地を除き)「男性が代々継いでいる家に女性が嫁いでくる」というかたちを多く残していることに他ならない。
最近では、三世代が同じ敷地内に2つの家を建てて暮らす家庭も増えていて、子どもたちにしてみれば、学校が終わった後も祖父母の家に帰れば面倒を見てもらえる状況があって、(子育て期間中だからといって)女性が専業主婦などをしていると、周囲から『医者の嫁か』みたいな嫌味を言われる風土があるということです。
福井県は元々、家内手工業のような会社や個人商店も多くある地域。女性の中には嫁ぎ先の店に立ったり工場で事務員をする人も多く、家と職場が一体になっている環境の中で子育てに関しても姑のお世話になってしまうことで、嫁側は全然頭が上がらないケースも散見されると氏は言います。
もっとも、姑側にしても同じことをしてきた(してもらってきた)から、近くに住んで孫の面倒や嫁を共働きに送り出してやるのは当然のことと考えている。さらに、共働きを続けてきたことで世帯収入も増加しているので、「嫁を迎える以上は家くらい用意しなきゃいけない」という考えも根強いということです。
結果、夫の実家が結婚前に家を用意してあげるということも多く、嫁にしてみれば家計には余裕ができるものの、夫の土地と家に“嫁”としてコミットしないといけないというしがらみがより一層強くなると氏は話しています。
件の「幸福度ランキング」の質問には、「女性として、嫁として幸せですか?」みたいな項目は(もちろん)入っていない。一方、調査にあるような「子どもを祖父母に預けておける」「世帯収入も多い」「家も広い」などといった項目で、福井の状況はそれぞれ手厚く見えるだろうが、実際は“嫁”の立場から抜け出せなくなった女性の我慢が福井の幸福を支えてきた(のではないか)というのが、この論考で氏の推測するところです。
これまでは子どもたちが健やかに育つ環境を大切にしようという(代々続く)空気感を守ってきた福井のお嫁さんたち。しかし、インターネットの発展もあって様々な価値観に触れるようになり、彼女ら自身の考え方も変わってきたと氏は言います。
「祖父母が子どもを育ててくれる」「土地が余っている」「女性が働ける文化がある」ことなどは福井の良いところなのは分かっている。ただ、嫁姑の問題はテクノロジーでは解決できないし、それに耐えろというのはナンセンスだというのが氏の見解です。
さて、家事に育児に仕事にと、嫁ぎ先の家族の一員としてその立場を全うしてきた母親世代の苦労を見てきた(北陸地方の)若い女性たちが、いつかは故郷を離れようと思う気持ちも(確かに)分からないではありません。
女性が正規職員として仕事を持ち続けられる環境は(もちろん)大切でしょうが、それが当事者である女性の我慢によるものだとしたらいかがなものか。岸田首相には是非、福井の幸福を忍耐によって支えてきた女性たちの話を聞いていただきたいとこの論考を結ぶ若新氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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