MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2489 水道料金の未来

2023年11月01日 | 社会・経済

 連日35度を超える猛暑日が続き、観測史上「最も暑い」と言われた今年の夏。台風による集中業以外は降雨量も少なく家庭での水需要の増加と相まって、地域によっては水道用水の取水制限なども検討されていたと聞きます。

 こうして一時的な「水不足」が問題となる一方で、電気、ガスなどの公共料金の値上げの連鎖の中で全国各地で実施されているのが、自治体による水道料金の値上げの動きといえるかもしれません。

 実際、水道料金を値上げしたり、値上げを予定したりしている水道事業体は少なくないと言われており、EY新日本有限責任監査法人と水の安全保障戦略機構事務局による調査(「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2021年版)」)では、国内給水事業者の約94%に当たる1162事業体が、2043年度までに値上げが必要になると推計されています。また、同推計によれば、その値上げ率は平均でも43%に及ぶとされ、30%以上の値上げが必要な事業者だけでも過半の648事業体に及ぶということです。

 エネルギー価格や設備工事費の上昇などにより運営コストが上昇していることは(頭では)理解できますが、だからこそどこの家庭でも生活費はなるべく抑えたいところ。この「失われた」と言われる20年以上の間「上がらないもの」と思い込んでいた公共料金が一気に動き出した現在の状況に、(ある種の)「戸惑い」を覚えるのは私だけではないでしょう。

 とはいえ、我々が毎日使用している公共水道は、水道法の規定によりそれぞれの自治体が運営している事業です。必要なコストを水道料金に乗せなければその経営は赤字となり、住民の暮らしを支える安全な水道水の安定供給もままならなくなってしまうことでしょう。

 消費者物価がこれまでにない高騰を見せる中、水道料金はこの先どこへ行くのか。8月13日の日本経済新聞に、地方財政エディターの杉本耕太郎氏が「水道料金、人口減で各地値上げ 「30年後に3倍」試算も」と題する論考を寄せているので、参考までにその一部を小欄に残しておきたいと思います。

 人口減に伴う料金収入の減少と老朽施設の改修費用増加によって、各地で水道料金の値上げ実施や検討が相次いでいる。現状の経営を続けた場合、30年後に利用者への販売単価が3倍になると試算した地域もあると、杉本氏はこの論考に記しています。

 例えば岡山市は、2024年度に水道料金を平均20.6%引き上げる方針を示した。市の試算では2031年度の料金収入が23年度比で5%減る一方、資材価格の上昇で投資額は当初想定より1割程度膨らむとされ、31年度までに生じる281億円の資金不足を値上げで補うということです。

 水道事業は市町村などが運営し、料金収入で経費をまかなう独立採算を原則としている。給水事業は施設にかかる固定費が多く給水人口が減れば赤字に陥りやすく、例えば給水人口30万人以上の場合は最終赤字の市町村などの割合は1%だが、1万人未満の人口規模の自治体では23%と経営は厳しさを増すと氏は説明しています。

 また、施設の老朽化も経営を圧迫しており、水道施設への全国の投資額は21年度で1.3兆円と10年前から3割も増加。相模原市など18市町に給水する神奈川県は今後30年間で改修に約1兆円の投資が必要とみているということです。

 そうした中、いったん料金を引き上げても、人口がさらに減る中で経営体質が変わらなければ一層の値上げが将来必要になるだろうと杉本氏はこの論考で指摘しています。

 各都道府県がまとめた「水道広域化推進プラン」によれば、(何も対策を取らず)赤字を料金収入で補っていった場合、例えば山梨県内の42年度の供給単価は22年度の1.5倍になると試算されている。自治体によって試算方法は異なるものの、地域によっては30年後に現在の3倍、50年後には7倍強に膨らむというシミュレーションもなされているということです。

 そうした状況に、抜本的な経営効率化を目指す動きも出ていると氏はしています。宮城県では2022年度、所有権を持ったまま上水道と下水道、工業用水道の計9事業の運営を民間に委託するコンセッションに乗り出した。浄水場の運転管理や薬品の調達、設備の修繕といった業務を20年間一括で委託し、20年で337億円の経費削減を見込んでいるということです。

 今のところ、上水道へのコンセッション導入は宮城県のみにとどまっている。導入ノウハウがまだ乏しいほか、生活に不可欠な水道の「民営化」への住民の抵抗感も克服しなければならない課題だと氏は指摘しています。そしてそうした中、各地で検討が進められている効率化策が、経営統合を含む事業の広域化だということです。

 香川県は2018年度に全国で初めて実質的に県内全域で水道事業を統合した。国は運営費の削減などが期待できるとし、都道府県に各地域での検討を働きかけるよう促していると氏はこの論考に記しています。

 ただし、県内での広域統合を目指した奈良県と広島県では、奈良市や広島市など中心都市が統合への参加を見送ったという経緯もある。人口が比較的多い中心都市では、市の単独経営に比べ料金が上がる懸念があるなど難しさが残るということでしょう。

 さて、ひとくちに「広域化」や「民間活力の導入」と言っても、全国一律に進められる状況に(いまだ)ないのは言うまでもありません。特に、生活の基本インフラを民間に任せることを不安視する住民の気持ちも理解できるし、任せた会社が撤退(あるいは倒産)するようなことでもあれば、状況は目も当てられないのは事実です。

 また、経営条件に恵まれた地域とそうでない(高コスト)の地域があるのはやむを得ないこと。経営の広域化(統合)によって、メリットを受ける地域の住民は良いのでしょうが、条件の悪い地域を受け入れることによって料金が上がる地域の方が多いのも想像に難くはありません。

 いずれにしても、人口が急激に減少していく中、日本のどこにいても蛇口をひねればそのまま飲める安全な水道水が供給されるという恵まれた環境を次の世代に引き継いでいくためには、我々はもう少しコストを負担していく必要があるのだろうなと、私も改めて考えさせられたところです。

 



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