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アベノミクスの「第三の矢」、成長戦略の一環として進められている農政改革。政府は「攻めの農政」を標榜し、日本の農業の競争力を増大させ6次産業化や輸出の拡大による農業所得の倍増を目指すとしています。
TPP交渉が佳境を迎える中、とりわけ日本の農業の根幹をなす水田農業の生産構造の改革はいよいよ「待ったなし」、焦眉の急とされています。現政権の「成長戦略」においても、今後の10年間で全農地面積の8割を大規模経営体や農業生産法人などの担い手に集積することにより米の生産コストを4割削減するとしているほか、水田耕作を担う農業法人数を5万法人にするといった意欲的な目標も掲げられているところです。
そして、その水田農業改革の目玉のとして浮上しているのが、先ごろ政府の「農林水産業・地域の活力創造本部」で決定されたコメの生産調整の見直し、いわゆる「減反廃止」の政策です。12月10日に行われた首相記者会見においても、この政策転換について安倍総理は「農業を成長産業にするため、減反の廃止を決定した。」と胸を張ってコメントしていました。
生産者団体やいわゆる農業族と呼ばれるような農業関係勢力の冷静な反応に比べ、以降、メディア各社はこの政策変更を大きく取り上げ、農政の大転換、エポックメイキングな出来事として報道してきました。しかし、政府の平成26年度予算案とともに改革の方向性が具体的に明らかになるにつれ、今回の政策への評価は徐々に変貌を見せているようです。
12月24日の日本経済新聞(13面「農政改革の行方」)の紙面では、東京大学の本間正義教授が、今回の制度改革ではコメの生産調整は実質的に続いていくことになる、米価の下落に伴う農地の流動化や大規模水田農業への転換は起こり得ないだろうと厳しく指摘しています。
政府による新たな水田農業政策の主な内容は、①コメの生産調整の見直し、②飼料用米などへの支援の拡充、③農地を維持していくことに対する支払制度などの強化、④減反参加を前提とした経営所得安定対策の削減(半減→廃止)の4つを柱としたものです。
それぞれの具体的な内容と政策相互の関係を整理する中で、本間氏は「ふたを開けてみおれば大山鳴動し何とやら…」として、「コメの価格が維持され農地の集約も進まない恐れが出てきた」と警鐘を鳴らしています。
本間氏の指摘はシンプルです。政府の方針は主食米ではなくて飼料米などの非主食米生産への補助金を厚くすることで生産をシフトさせることにある。つまり主食米の価格は維持され実質的に主食米の生産調整は維持されるだろうというものです。
具体的な数字も示されています。主食米1kgの市場価格は250円、一方、飼料用米の市場価格は25円にしかなりません。今回の制度改正は、このキロ当たり25円の飼料米を生産する農家に対し、主食米を生産したのと同程度の収益が上がるよう様々な補助金、助成金、交付金を交付するもの。つまり市場では10分の1にしか評価されない飼料用米に対して、残り10分の9については税金を積み上げて生産農家を支えていこうという仕組みです。
本間氏はこうした実態を踏まえ、この制度は高い米価を押し付けられる消費者の負担に加え、大きな補助金支出を伴い納税者の負担増となる。さらには実質的な生産調整の継続が水田農業の構造改革を遅らせることにつながると懸念しています。
主食米の価格が高く維持され飼料用米が補助金で支えられれば、規模拡大や構造改革への誘因がそがれることは明らかである。コメの価格維持政策が続く限り小規模兼業農家は温存され、農地集積のため都道府県ごとに新たに設置される「農地集積バンク」に持ち込まれる農地も条件の悪い農地に限られることになるだろうというのが本間氏の指摘です。
さらに本間氏は、こうした飼料用米助成による主食米の価格維持政策は結局短命に終わるだろうと予測しています。
畜産農家にとって飼料用米は特段有利なわけではなく需要が限られていることがその理由です。家畜(養鶏)用の配合飼料工場は輸入飼料を前提に立地・稼働しており、飼料用米の需要は限られている。「飼料用米生産に飛びついた農家はいずれ梯子を外されるだろう。」というのが本間氏の悲観的な結論です。
結局はコメ生産への税金の投入が増えるばかりで投資効果の上がらない、いわゆる「焼け太り」の観も否めないこの制度改革について、一時の補助金で誘い多くの農家に「米価が高止まりする」といった誤った期待感を持たせたとしたら、政府と政治の罪は非常に重いと本間氏は厳しく批判しています。
また、今回のコメ政策の転換については、週刊「東洋経済」(2013/12/28号)においても同様の批判がなされています。誌面では「迷走を続けるコメ農政」と題し、この政策を、転作補助金を残したままでの減反廃止は生産量を抑制することにより主食米の価格を高止まりさせ農家(小規模農家も含めた既存のコメ生産農家)の所得を守ることを目的としたものだと問題視しています。
記事によれば、補助金のおかげでコメ作りを維持できている小規模な第2種兼業農家は今回の補助金増額を受けて非主食米への作付け転換を進める可能性が高いが、これでは一向に農地の移動や集中は起こらない。むしろ主食米の生産量が減り価格が維持されれば、競争原理が働かない従来の仕組みが温存されてしまうということです。
また、それを裏付けるかのように、全国の農協を束ねる全国農業協同組合中央会は、今回の政策が一般に「減反廃止」と位置付けられていることについて「誤解に基づく報道」として一考だにしていないというのが「東洋経済」誌の指摘です。
本来、日本のコメ生産を完全自由化することによって増産による価格低下や競争力の増強を果たし、一方でコストがかかる小規模農家から大規模経営体への生産集中を促し水田農業の構造転換を果たすことが今回の農政改革の眼目であったはず。あくまで激変緩和措置としての一時的な所得保障と、一定規模以上の農家に限った直接支払制度などを設けることによって、いわゆる「ソフトランディング」を図るのだといった明確な道筋を納税者に示すことが必要です。
「なんだかんだ言って結局変えようとしないのか。」「だから農林行政は信用できない。」日本の農業を取り巻く環境が一時しのぎ対策では既に対応できない状況にあることは多くの関係者も理解しているはず。本当に日本の農業を強くしようという心づもりがあるのかないのか。農業に関係しない一般の国民に理解できるようなきちんとした説明を、関係者にはお願いしたいと思うところです。
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