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師走も暮が近づき、朝晩の通勤時の寒さもじんと身に沁みる季節になりました。そんな時分になると毎年思い出すのがこの落語。
天秤棒を担いで巷を売り歩くぼて振りの魚屋「勝五郎」は無類の大酒呑み。酒を飲んでは仕事もせず、失敗が過ぎてうだつが上がらずに今日も長屋で貧乏暮らしを続けています。
師走のある明け方、勝五郎はしっかり者の女房に尻を叩かれ金杉橋の長屋からようやく魚河岸にでかけます。増上寺の鐘の音を聞きながら、用意してもらった飯台や天秤棒を担いで早朝の街道をタッタ、タッタと浜に向ったのですが、時間を間違え早く着きすぎてしまいました。
「まあいいか…」と江戸前は芝浜の海岸に腰かけて、海の水で「おお、冷てぇなぁ」と顔を洗い、煙管を取出し一服つけたところで足元の海中にゆらゆら揺れる皮の財布を見つけます。
三代目桂三木助の十八番として名高いご存知「芝浜」は、まるで映画のワンシーンのように聞く者の目に浮かぶ早朝の海岸の描写が人気の、この時期定番の演目です。
芝浜と言えば、今でいうところの港区は三田の辺り。田町駅の少し北、バブルのころにジュリアナ東京があったあたりでしょうか。今では信じられませんが、戦後の一時期まで芝の海岸は山手線のすぐ下にあり、鉄橋の橋脚を波が洗っていたということです
芝浜は、江戸時代は享保年間の出来事に題材をとった結構古いお話だそうですが、現代でも十分ありそうなこのシチュエーションに、聴衆はどんどんと引き込まれていきます。
財布の中には目を剥くほどの大金(五十と四両)が…。飛んで長屋に戻った活五郎。女房をつかまえて、「酒だ、酒だ、酒持ってこい…」。御近所を呼んでどんちゃん騒ぎの大宴会を始めます。
さんざん飲んで酔い潰れ、翌日の早朝、目覚めた活五郎に女房はあきれ顔で言います。「昨日はさんざん大酒食らったと思ったら、なんだいお前さん。いつまでも寝てないで、早く河岸に仕入れに行っとくれよ。夕んべ呑む時そういう約束をしたじゃないかい。」
「何言ってんだい、べらぼうめ。こっちにゃあの財布が…、あれ?財布はどこだ。」
「あんた何馬鹿なこと言ってんだい。酔って夢でも見てたんだね。あんたもおめでたい人だねぇ、そんなこと言ってる暇あったら早く河岸に行っておくれよ。」
人情話として知られる芝浜は、演じる噺家によってまるで違った物語のように聞こえます。さて、この後、勝五郎の人生は一体どうなったのか…。
さて、3年後の大晦日。女房が活五郎の前に泣きながら酒を差し出して言います。「お前さん、堪忍ね。もう大丈夫だから飲んどくれ。」
「そうかい、悪いな。3年ぶりかぁ。おっとっと、こりゃいい香りだ。」
ぐい呑みを口元まで運んだ勝五郎は、ふと我に返ってこう言います。
「よそう…。また夢になるといけねえ。」
今年たくさんの良いことがあった皆さんも、ふと目が覚めたら「全部夢だった…」というようなことがないように。一年一年を大切にお過ごしいただきたいと思います。2014年も素敵な年でありますように。
それでは、お後がよろしいようで…。
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