MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2507 診療報酬をどうすべきか?

2023年12月04日 | 医療

 弁護士、公認会計士など一般に「ゴールドライセンス」と呼ばれるような資格の中でも、現在、最も人気があるのが「医師免許」と言えるでしょう。婚活中の友人などの話でも、ドクターと聞けばどんな親たちも目を細めるまさに「敵なし」の職業と聞きます。

 とはいえ、そんな彼らの医大卒業後のキャリアパスはあまり知られていません。医学部には開業医の子弟が多いという話はよく聞きますが、いずれ親の後を継ぐにしても、研修医や勤務医でキャリアを積んだり、一旦は大学病院で専門を極めたりといった道もあるのでしょう。

 厚生労働省の調査によると、病院勤務医の平均年収は約1500万円であるのに対し、開業医の平均年収はおよそ2500万円ほど(平成21年度「医療経済実態調査」)。近年、勤務医の労働環境の過酷さがよく指摘されていますが、(はた目にも)ゆったりしているように見える街場の診療所のお医者さんの方が病院勤務医の1.7倍も稼ぐと聞けば、その矛盾に(何やらきな臭い)政治の臭いを感じないわけではありません。

 もちろん、サラリーマンと経営者では、初期投資の回収やリスクマネジメントの必要性など、責任の度合いが違うのは言うまでもありません。なので、「開業医になれば楽に稼げる」というわけでもないのでしょうが、それでも一般の経営者に比べれば、様々な点、特に公定価格に守られ高報酬が期待できるという意味で「恵まれている」と感じる向きも多いでしょう。

 折しも、来年度(2024年度)の国の当初予算編成で目玉となっているのが2年に一度の診療報酬改定とのこと。そこでは、市井の診療所の経営状態などへの評価における(財務省と日本医師会の認識の)大きな乖離などの話も聞こえてきます。

 果たして開業医は儲かっているのか、それとも諸物価高騰の中で厳しい状況に追い込まれているのか。12月1日の日本経済新聞の経済コラム『大機小機』に、「診療報酬改定は実態把握から」と題する一文が掲載されていたので、参考までに小欄に一部を残しておきたいと思います。

 医療の値段は市場で決まるのではなく、われわれが支払う保険料や税金を基に決められる(いわば)「公定価格」のようなもの。医療行為や薬の価格は公定の報酬単価として決められており、例えて言うなら全容は、分厚い「電話帳」のようなものだと筆者はコラムに綴っています。

 改定は、「引き上げ」を主張する医師会と、「引き下げ」を主張する財務省の綱引きとして報道されがちだが、日本の経済社会に大きな影響を与えることなのだから、(「かけひき」のような形で)議論を矮小化してはならない。公定価格の変更は、医療を提供する病院・診療所(開業医)の経営実態、それを支払う国民を取り巻く経済環境を考え、決めなければならないというのが筆者の指摘するところです。

 ひと口に医療機関といっても、病院と診療所では実態が大きく異なる。病院では医師の過労死が問題になり、数多くいる看護師の処遇も不十分とされる。コロナ禍の下、奮闘する看護師のボーナスカットをした病院で大量退職問題が発生したこともあったと筆者は言います。その一方で、開業医が経営する診療所における院長の平均年俸は、実に約3000万円に達するという推計がある。これは世の中の常識からするとかなり高い水準だというのが筆者の認識です。

 財務省が全国の財務局を通して実施した調査では、2022年度の診療所の経常利益率は8.8%で、全産業ないしサービス産業の平均3.1~3.4%を大きく上回っているとのこと。2019年度から22年度にかけての消費者物価の上昇率3%(年平均1%)に対し、診療所の診療報酬は14%(年平均4.3%)程度上昇したとするデータもあるようです。

 直近では光熱費高騰の影響が指摘されるが、医療機関の経費に占める光熱費は約2%にすぎない。こうした実情を踏まえ、財政制度等審議会の建議は、診療所の報酬単価を5.5%程度引き下げるよう求めたと筆者は話しています。

 これが実現されれば、現役世代の保険料負担は年2400億円ほども軽減される(年収500万円の場合、5000円相当の軽減)。政府はインフレに苦しむ国民の負担を少しでも下げようとしているのだから、平仄(ひょうそく)が合うというのが筆者の見解です。

 確かに、開業医の年収が勤務医を大幅に上回るのは(医師でなくとも)誰もが知るところです。こうした状況から、自己資金を貯めて待遇の悪い勤務医を「卒業」し、開業を目指す若い医師は多い。また、そうした医師の背中を押す「開業コンサルタント」なる仕事も盛況だという話も耳にします。

 「医は算術」といったネガティブな言葉がありますが、一方で日本の医療は、医療従事者の「献身」だけで守れるものではないのは事実でしょう。そこで必要なのは、どこにどのようなお金を使うかという話。

 ある意味開業医の利益集団ともいえる医師会の主張は主張として、まずは病院経営への資源投入が「待ったなし」の状況にあることは誰もが認めるところ。国民の負担と病院の実情を考えれば、今回診療所の報酬の単価引き下げは(総合的な観点から見て)十分に合理的だろうと話すコラムの指摘を、私も興味深く読んだところです。



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