ここ数年のコロナ禍の下、様々な形でその限界が顕在化したのが日本の地域医療体制と言えるでしょう。発熱外来の設置の遅れ、重症化に対応できる病床の確保、医療従事者の疲弊など、(「高額」とされる国民医療費や「過多」とされてきた病床数にもかかわらず)各地で機能不全が露見したのは記憶に新しいところです。
中でも、緊急時に対応できる医師の確保については、苦労した医療機関や自治体が多かったのは事実です。日本の医師不足の原因としてしばしば問題視されているのが、そもそも医師の数(絶対数)が不足しているという指摘です。
確かに、各国の「人口当たり医師数(2019年)」を見ると、OECD加盟国の人口1000人当たり医師数が平均3.6人であるのに対し、日本は2.5人とかなり少なめです。国によって医療制度は違うため比較は難しいですが、この数値を見る限り、厳しい状態と言えるかもしれません。
さらに、高度に専門化・分科化した現在の医療体制の下、診療科による偏在や地域による偏在も拡大し続けているとされ、訴訟リスクや労働環境の悪化などとも相まって現場の医師の負担の増大が指摘されている事態となっています。
折しも人口構成の高齢化の急激な進展により入院患者の増大が顕著になる中、病院内で少ない数の医師が入院患者の対応に追われる一方で、人口の減り始めた地方部に次々と診療所が新設されている現状があると、10月26日の日本経済新聞は伝えています。
新型コロナウイルス感染症への対応を巡り、多くの病院で医師や看護師が足りず、入院が必要な患者を受け入れきれなかった。それは一体なぜなのか?
実のところ、効率よく治療を行うためには、一定規模以上の大病院に人材を集める必要があると記事は説明しています。日本では小規模な病院が乱立し、医療従事者が薄く広く配置されている。こうした体制が、日本の医療の非効率化を招いているというのが記事の認識です。
この状況は、コロナ禍が一定の落ち着きを見せた現在も続いている。人口減によって既に各地で患者は減り始めており、医療資源の偏在は一層の医療費のムダを招きかねない。そしてこの問題を象徴するのが、「余るベッド」と「足りない医師」だということです。
急な病気やケガの入院患者を治療する「急性期病床」は2022年時点で全国に69.1万床。厚生労働省が16年度末時点で推計した25年の必要数は53.1万床だったので、2割強の15万床ほどが過剰になる恐れがあると記事はしています。病院は病床が減ると、手厚い診療報酬を得られなくなる。そのため経営の厳しい病院ほど、病床の削減に消極的にならざるを得ないということです。
一方、医師数に関しては、経済協力開発機構(OECD)のデータで見ると、日本のいびつさが浮かぶと記事は言います。2020年時点の人口1000人あたりの医師数は日本が2.6人で米国の2.6人、英国の3.0人、フランスの3.2人とほぼ同水準にある。しかし、これを(病院の)病床100床あたりに直すと、日本は20.5人で125.1人いる英国の6分の1、病院1施設あたりでは39.7人で、ドイツの3分の1しかいないということです。
日本は急性期医療の入院日数が欧米の2~3倍と長く、多くの病床に患者が長くとどまり、少数の医師が診療に追われるという構図にある。他の先進国並みにいる医師がこうして大病院で足りないのは、(ただでさえ)小さな病院の数が多いのに、その上多数の勤務医が独立し、診療所を開業しているためだというのが記事の指摘するところです。
実際、診療所は2022年に(全国で)10万5182カ所。2012年から10年間で5%も増えていると記事はしています。新規の開設数を見ると、12年と13年は5000カ所程度で、その後は7000カ所程度で推移。21年は1995年以降で最多の9500カ所まで増えたということです。
病院の勤務医が自由に独立開業することで、集約すべき人材が拡散していると記事は話しています。診療所にかかる患者は減少傾向にある。外来の患者数を示す受診延べ日数(歯科を除く)は22年度に11.9億日。コロナ禍での受診控えが響いた20年度の10.9億日からは増えたものの、19年度の12.2億日からは減り、人口減でさらに減少傾向が続く可能性が高いということです。
こうした状況の中、増加が続くのが国民医療費。2022年度は46兆円でと21年度から4%増え、コロナ禍で受診控えなどがあった20年度は前年度から3.1%減ったものの、その後はコロナ禍前を上回る伸びが続いていると記事は指摘しています。
2024年度に診療報酬改定に当たり、財務省は必要性の低い急性期病床を減らすため患者の重症度などをより反映した報酬体系にすべきと主張。医師の開業も抑制への「踏み込んだ対応が必要だ」と訴えるが、一方の当事者である(主に開業医の利害を代表する)日本医師会は依然慎重な立場だということです。
政府は2028年度にかけ、医療や介護といった社会保障費の伸びを抑え、少子化対策の拡充に向けた財源の一部を捻出する考えを示している。このまま進めば、医療提供体制のあり方は歳出改革の論点になる見通しで、切り込めなければ少子化対策にしわ寄せが及びかねないと結ばれた記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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