MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1288 日本は世界最大の債権国

2019年01月31日 | 社会・経済


 対外債権が債務を上回っている国を「債権国」と言い、逆に対外債務が超過している国を「債務国」と言うことは高校の教科書にも載っています。

 しかし、日本が1980年代に入ってから巨額の経常収支黒字を続け、1985年以降は「失われた」と呼ばれる20~30年を世界最大の債権大国として過ごしていることを知っている日本人は(もしかしたら)それほど多くないかもしれません。

 政府債務が1000兆円を超えGDP比で先進国中最悪の状況にあっても「安全資産としての円」の地位が揺らいでいないのには、こうした対外債権国としての盤石のステータスが評価されているからだと言われています。

 改めて説明するまでもなく、国単位での資産額は「債務と債権を相殺」した、特定の国から他の国々に対する「対外純資産額」で示されます。1月2日のニュースサイト「ガベージニュース」の配信記事が、世界の国々の対外純資産に関するIMFのデーターをまとめているので、この機会に少し整理しておきたいと思います。

 「対外資産」というと、その国の人が外国に持っている不動産などを思い浮かべがちですが、おおざっぱに行ってしまえば「海外に対して色々な形で貸し付けている資金」を指し、反対に「負債」は「海外から色々な形で借り受けている資金」を指すものです。

 改めて、2017年の対外純資産額(公的なものと民間のものを合算した額)を見てみると、世界最大の対外純負債保有国はアメリカ合衆国で7兆7千億ドル余りの債務を負っている状況です。

 次いでスペインの約1兆2千億ドル、オーストラリアの7600億ドル、ブラジルの6700億ドル、メキシコの5600億ドルと続いていますが、アメリカ合衆国の額が(あまりに)突出していて簡単には比較し難い状況とも言えるでしょう。

 一方、世界で最も対外純資産を有しているのは(先にも述べた通り)日本で、政府債務の3倍近い2兆9千億ドル余りとなっています。

 次いでドイツの2兆1千国ドル、中国の1兆8千億ドル、香港の1兆4千億ドルと続き、さらに5位ノルウェー、6位スイス、7位シンガポールが8000億円台で並ぶという構図です。

 さて、記事も指摘するように、ここに示されている「対外純資産」は公的なものと民間のものを合算したものでその内容も様々です。

 さらに、資産部分は即時換金できるものではなく資産と負債の間でこうしてプラスマイナスを整理することにあまり意味はないので、個々の国の官民の財政状態を知るための参考資料程度のものとして認識しておく必要はあるでしょう。

 こうしたこともあり、債務の状況だけをことさらに強調して不安を煽ったり、資産のみを提示して健全性を意図的にアピールしたりするのは健全なやり方とは言えません。

 例えば、単純に一人当たりの「対外債務」のみを比較すると飛びぬけて高いのはルクセンブルクですが、(記事によれば)これは同国が「巨額のお金を海外から借り入れ、それをより高利回りな金融商品に投資することで利ざやを稼ぐ」ことを生業としている「金融立国」としての性格を強く持っているからだということです。

 多債務国の上位にこうした(例えばアイルランドやシンガポール、香港などの)「(人口面で)小国」「資源や産業に乏しい国」が並んでいるのは、金融経済を国策として進めていることの表れだということでしょう。

 さらに(見方を変えれば)、統計上の海外資産が増えるのは企業が海外に移転(脱出)していることを意味している場合も多く、対外純資産の増加は(必ずしも)楽観視していてよいものではないという指摘もあります。

 例えば、日本の対外債務が増えるのは、外国の企業や投資家が日本に投資をしている状況にある事を意味しているので、決して悪い事ではない。一国の経済にとっては外国からの投資が増えることはプラスとなり、経済成長や雇用改善に直接寄与するということです。

 一方、海外資産が増えるだけでは、外国で生産することで外国の雇用が増えることはあっても、日本(企業や投資家)はお金を受け取って儲かるかもしれないが、一般国民にはあまり関係ないと記事は説明しています。

 日本の問題点はここにあり、日本の海外資産が急増したということはそれだけ日本企業が海外に移転し、日本の雇用が減った事を意味しているということです。

 経済のグローバル化が叫ばれて久しい昨今ですが、こうして状況を眺めていくと日本も「世界最大の債権国」として胸を張っていればよいという訳でもなさそうです。

 国内に投資先がないので(日銀の金融緩和政策により溢れ出した)余剰資金が次々と海外に流れていく。これにより日本の対外債権は増えるけれど、製造業を中心とした国内産業の空洞化はますます進んでいくことになるでしょう。

 産業構造の変化によって、日本が海外への投資によって稼ぐ国になること否定するものではありませんが、(社会の階層化が進む現状を鑑みれば)投資によって上がった利益が一般国民にきちんと振り向けられるよう、随時、政策を見直していく必要はあるように感じます。



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